※日経エンタテインメント! 2025年8月号の記事を再構成
“アジア版グラミー賞”を日本から――音楽業界の主要5団体がタッグを組み、2025年5月に京都で初開催された日本最大級の国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」。授賞式のために来日した、世界の音楽シーンのキーパーソンが考える、MAJの意義、そして日本の音楽シーンの可能性とは?
MAJでは授賞式の生配信を担当し、国内の月間利用者が7370万人を超えたYouTube(24年10月公式発表)から、YouTube Music アジア太平洋地域 マネジングディレクターのポール・スミス氏に話を聞いた。
YouTube Music アジア太平洋地域 マネジングディレクターのポール・スミス氏
ポール・スミス
YouTube Music アジア太平洋地域 マネジングディレクター
エンタテインメントおよびテクノロジー業界で25年以上のキャリアを持ち、ノキア、ユニバーサルミュージックなどでリーダー職を経験、Spotifyではインターナショナル ライセンシングのグローバル責任者も務める。2022年にGoogleに入社し、同年から現職
――MUSIC AWARDS JAPAN(以下、MAJ)がスタートした意義をどういう風にとらえていますか?
私は20年以上日本と関わってきたのですが、ようやくこのようなアワードが実現したという感じです。重要なのは、日本の音楽業界のみなさんが統一した形でプロモーションに取り組み、アーティスト、そして日本の文化を、国境を越えて発信する素晴らしい機会をつくられたことですよね。日本の音楽シーンがグローバルでの大きなチャンスをつかんでいく時期が来たと期待していますし、MAJが世界に認知されるように、我々も協力させていただきたいと思います。
――授賞式の様子はYouTubeにて、全世界に生配信されました。
我々のプラットフォームは、何十億ものユーザーが世界中にいます。唯一のライブストリーミングパートナーとして、グローバルのオーディエンスにアワードを届けられることを光栄に思っています。世界中のオーディエンスが日本発信の様々な音楽を発見し、体験する素晴らしい機会を提供できるのはとてもエキサイティングです。
――MAJは「アジア版のグラミー賞」を目指し設立されましたが、今後に期待することはありますか。
まず、「この時期は日本でMAJが開催される」と世界の音楽業界に認識されることが重要だと思います。ただ、MAJがアジア版のグラミーとなる流れはすでにできていると思っています。というのも、日本だけではなく、国際的な音楽業界のエグゼクティブといわれる人たちが投票権を持って、MAJに関わっている。これは、国際的な音楽業界のサポートが得られることがもう見えているということ。将来に向けての成功を間違いないものとしていると言えるのではないでしょうか。
MAJが日本のアーティストとグローバルなアーティストのショーケースになり、お互いにカルチャーのエクスチェンジができれば更に素晴らしいですよね。YouTubeはパートナーとして、その一端となれるように、引き続き取り組んでいきたいです。
――日本の音楽シーンの特徴をどのようにとらえていますか。
日本の音楽シーンは、パイオニア精神や革新的イノベーションがあり、他の国とは違った独自のアイデンティティーを持っています。例えば、日本の音楽シーン発のイノベーションとして、私はVOCALOID(ボーカロイド)をとても評価しています。デジタルネーティブのアーティストたちが、このテクノロジーをうまく活用している。
そして、日本の音楽はストーリー性がありますよね。ビジュアルな体験としても様々なことを試みながら、新しい領域へと進んでいる。欧米にもダフト・パンクやマシュメロ、シーアといったマスクやウィッグを用いた匿名性のあるアーティストがいますが、彼らは実際にオーディエンスの前でパフォーマンスをする時には、物理的なプレゼンス(実体)があります。ですが、日本ではそれを1歩進めている。
例えば、イラストなどビジュアルのみで活動するアーティストがいたり、VTuberのようにアーティストそのものがデジタルというジャンルを確立したりしています。VTuberは東南アジアでも注目度が高いですし、南アジアやアメリカなどでも人気が出てきています。日本ほどの人気が海外であるとは、まだ言い切れないですが、今後は海外でも一般化していく可能性はあると思います。
藤井風はYouTubeでファンベースを獲得
藤井風は2025年の「MUSIC AWARDS JAPAN」において、最優秀アルバム賞、最優秀国内シンガーソングライター賞、最優秀クロスボーダー・コラボレーション楽曲賞の3冠を獲得 (c)MUSIC AWARDS JAPAN 2025
――YouTubeの活用がうまいと感じる日本のアーティストはいますか。
YouTubeのマルチフォーマットをうまく活用しているのは、藤井風さんですね。彼はMV(ミュージックビデオ)やライブパフォーマンスのクリップ、ショート動画はもちろん、素顔を見せるビハインド ザ シーンズや子どもの頃にピアノを演奏している動画なども積極的に投稿しています。アーティストについてより知りたいというファンにとっては貴重なものですし、結果、強いファンベースを確立することに一役買っていると思います。
ただし、YouTubeでの神髄は、やはりMVでのパワフルなストーリー性。MVは単なるプロモーションのツールではなく、ある意味1つの芸術作品だと思っています。画家にとってのキャンバスのようなものなんです。
YouTubeの体験は、「ビジュアルストーリーテリング」とも言えます。なぜ日本の音楽が世界の音楽ファンに受けているかというと、音楽としての魅力はもちろんのこと、ビジュアル面でのクリエイティブの影響も大きいのではないかなと思います。より自由に表現している新しい音楽形態として、日本の音楽に我々としてもとても注目しています。
――日本人アーティストが海外へ進出していくためには、どのようにYouTubeを活用すべきだと考えますか。
我々のコミットメントは、アーティストのみなさんのビジュアルストーリーテリングをお手伝いしていくこと。MVそのものか、時にはショート動画で表現したり、ライブ配信をしたりと、アーティストが持つアセットのなかで、1番影響力のあるコンテンツをうまく使っていただきたいです。
――YouTubeというプラットフォームとしては、ビジネス面において、今後の日本の音楽シーンにどのような期待を持っていますか。
今後のビジネスを考える上で、大きな期待を寄せています。日本における18歳以上の月間アクティブユーザー数は7370万人。世界では、毎月何十億人がログインしています。
YouTubeの有料ストリーミングサービスは、トライアルも含めると世界で1億2500万人を超えており、21年から23年にかけての3年間で、アーティスト、クリエイター、メディアに対して700億ドル相当のロイヤルティーを支払ってきました。日本人アーティストの作品の視聴は今後グローバルで増えると思いますし、YouTube Musicのグローバルな成長において、日本が果たす役割は大きいと位置付けています。
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