記事のポイント
アルタビューティが13のKビューティブランドを導入し、メイクアップとスキンケアの両面で展開を拡大した。
TikTokやSNSがKビューティの普及を後押しし、新技術や新概念の教育も浸透し始めている。
メディキューブやVTなどが革新的成分やデバイスを武器に、米国市場で存在感とブランド認知を高めている。
2025年を通して、Kビューティ(韓国コスメ)は再び米国美容小売市場の棚を席巻しつつある。
現在「第2波」を迎えているKビューティは、今から10年前に米国でブームを巻き起こし、シートマスクやカタツムリ粘液といったアイテムをアメリカの消費者に紹介してきた。これらはこの10年のあいだに、スキンケアマニアの間で日常語のように浸透している。
Advertisement
ロイター(Reuters)の報道によれば、2024年には韓国が世界第3位のビューティ製品輸出国となった。
「SNSやTikTokがKビューティを盛り上げてきたのは、ほかの多くのビューティトレンドと同様だ」と語るのは、アルタビューティのマーチャンダイジング担当ヴァイスプレジデント、ケイトリン・ラインハート氏だ。
アルタが13ブランド導入で勝負をかける
ロムアンドのジューシーラスティングティント
アルタビューティは7月11日、メイクアップおよびスキンケアカテゴリーにおいて、Kビューティ13ブランドを同社のECサイトに導入すると発表した。これらのブランドは、今夏中に順次店頭展開される予定だ。
コスメ関連では、アルタにとって初導入となる以下の5ブランドがラインナップされている。プリンポット型チークで知られるフィー(Fwee)、TikTokでバズを起こしたクッションファンデが人気のティルティル(TirTir)、カジャ(Kaja)、アンリシア(Unleashia)、ロムアンド(Rom&nd)。
米国のほかの小売業者の多くは、Kビューティをスキンケア分野に限定して展開してきたのに対し、アルタはメイクアップ分野も含む点で差別化を図っている。「韓国のコスメが面白いのは、処方、テクスチャー、パッケージのすべてにおいて非常に優れていることだ」とラインハート氏は述べる。
同氏によれば、Kビューティは、ほかのビューティトレンドのようにメイク工程を増やすものではなく、異なる製品でまったく新しいルックを生み出すスタイルだという。たとえば、ロムアンドのティントで「ぼかしリップ」が簡単に完成する。「当社のビューティファン(ゲスト)は、新しいトレンドや処方、塗り方を試すのが大好きなのだ」と同氏は付け加えた。
「米国メイクとは異なる」 韓国コスメの特徴とは
「韓国製品でアメリカ風メイクを100%再現するのは不可能だ。カバー力も発色もまったく違う」と語るのは、アルタとともに13ブランド中8ブランドの導入を支援した小売ディストリビューター、ランディング・インターナショナル(Landing International)のCEO、サラ・チャン・パク氏だ。
「今我々が見ているのは、韓国風メイクのよりソフトな雰囲気への関心の高まりであり、それはK-POPや韓国ドラマの人気によるものかもしれません」と同氏は分析する。
Kビューティが米国市場に本格参入してから10年が経過し、今また新たな技術革新が米国の消費者に届けられようとしている。さらに、TikTokによってKビューティ特有の概念の教育も容易になった。
その一例がPDRN(ポリデオキシリボヌクレオチド)だ。これは通常サケの精子から抽出されるDNA由来の成分で、再生促進と抗炎症作用で知られている。また「ボトル入りマイクロニードル」とも呼ばれるスピキュール(spicules)といった革新的な浸透技術を活用した製品も登場している。
スキンケアカテゴリーも拡充 メディキューブを全店舗で流通へ
メディキューブ
アルタビューティはさらに、以下の8ブランドをスキンケアカテゴリーで展開する。VTコスメティクス(VT Cosmetics)、アイムフロム(I’m From)、サムバイミー(Some By Mi)、ミクスン(Mixsoon)、ソンブンエディター(Sungboon Editor)、ネオゼン(Neogen)、チェイシンラビッツ(Chasin Rabbits)、メディキューブ(Medicube)。これらの多くはすでにSNS上でカルト的な人気を誇るブランドだ。
たとえばメディキューブは、2023年7月にヘイリー・ビーバーがTikTokで同ブランドのスキンケアデバイス「ブースター・プロ(Booster Pro)」を使用したことで注目を浴びた。ブルームバーグ(Bloomberg)の最新報道によれば、メディキューブの親会社APRの創業者(36歳)は現在、億万長者となっている。メディキューブの評価額は40億ドル(約6400億円)に達している。
「D2C中心のブランドから、誰もが知る定番ブランドへと進化するメディキューブにとって、アルタはその成長を橋渡しする完璧なパートナーだ」と語るのは、メディキューブのメディアリレーションズ担当シニアアソシエイト、ジョー・チョ氏だ。
メディキューブは、米国内すべてのアルタ店舗(1469店)での流通開始を予定しており、8月中旬に店頭エンドキャップでスタートする。チョ氏は「特にデバイスなど、購入前に手に取って確かめたい消費者にとって、実店舗での体験はブランド理解とロイヤルユーザーの獲得に重要だ」と述べている。
なお同ブランドの「ブースター・プロ」は、オフライン展開がないにもかかわらず2024年に150万台を販売し、2025年第1四半期だけでさらに50万台を売り上げている。これは13秒に1台のペースに相当するという。
「米国は急速に当社の主要市場のひとつとなりつつある。売上は韓国をはじめとする主要地域に急速に追いついている」とチョ氏は述べ、「今後は、バイラルしたKビューティブランドから、信頼される臨床スキンケアブランドへと進化するフェーズだ」と語った。
同氏によれば、今後もインフルエンサーを活用し、アルタでの取り扱いを支援するサンプリング施策やマーケティングキャンペーンを継続する予定だ。
VTコスメティクスも攻勢 独自技術とビーガン戦略
VTコスメティクスのリードルショットシリーズ
VTコスメティクスも、PDRNやスピキュール技術といった韓国発の新技術を活用し、米国市場で既に存在感を高めている。とくにスピキュールを用いた「リードルショットセラム」は、コラーゲンやレチノールなどの成分浸透を高めるマイクロニードルとして機能する。
「当社のスピキュールは、ツボカビ類由来の海綿にツボクサ、ヒアルロン酸、グリーンプロポリスを含浸させて自社製造している。わずかなチクチク感はあるが、安全性と効果は皮膚科学的に証明され、韓国国内で複数のコスメアワードを受賞している」と語るのは、VTコスメティクスのグローバルマーケティング担当アシスタントマネージャー、オ・ソヨン氏だ。
同氏はさらに、「Kビューティは、革新性、肌にやさしい成分、手頃な価格という点で依然として強い魅力を持つカテゴリーだ」と述べる。
VTコスメティクスは現在、Ulta.comで9製品を販売しており、価格帯はトラベルパックが10ドル(約1600円)、モイスチャライザーが35ドル(約5600円)となっている。同社のPDRNはサケ由来ではなく、韓国・智異山産の高麗人参から得られたビーガン成分であり、「サケ由来のPDRNと比較して5.5倍の吸収力を持ち、敏感肌にもやさしい」とオ氏は説明する。
VTもメディキューブ同様、インフルエンサー施策を通じて米国消費者への成分教育を行っていく方針で、今秋にはニューヨークでポップアップイベントの開催を予定している。
バイラル拡散はこうしたブランドの得意分野だが、ランディング社のチャン・パク氏は「我々の役割は、人々とこれらのブランドとのつながりをつくることだ」と語っている。
体験と発信を重視するアルタの360度戦略
アルタビューティは、こうしたKビューティの本格展開を支えるため、360度型のマーケティング戦略を導入している。InstagramやTikTokで、シリーズ形式のコンテンツを発信し、各ブランドとのコラボ投稿も配信。さらに「Ulta Beauty Collective」向けにはブランド主導のマスタークラスを開催し、彼らが自身のSNSで情報を発信できるよう支援する。
長文のエディトリアル記事はUltaの「Discover」ページや、Ulta.comのKビューティ特設ページで掲載される。また、専用メールや会員誌(4500万以上のリワード会員に配布)でのフルページ広告、検索広告やアフィリエイト広告にも投資する。
さらに、スキンスクエアード(SKINSQUARED)という別のディストリビューターと連携し、VTコスメティクス、ティルティル、フィーといった新ブランドをフィーチャーしたKビューティのポップアップイベントを各地で実施予定だ。
セフォラ、ターゲットも参入 米小売市場でのブーム
2025年初頭から米国小売市場でのKビューティ展開は着実に広がっている。アルタは2月にもアヌア(Anua)、エチュード(ETUDE)、イズエンツリー(Isntree)、ラウンドラボ(Round Lab)などSNSで人気のブランドを導入し、すでに提供していたビリーフ(Belif)、コスアールエックス(CosRx)、マニョ(Manyo)などとあわせてラインナップを強化してきた。
同じ2月にはセフォラ(Sephora)がアモーレパシフィック(Amorepacific)傘下のエストラ(Aestura)を導入し、5月にはハンユル(Hanyul)が棚に並んだ。またGlossyが昨年12月に報じたビューティ・オブ・ジョソン(Beauty of Joseon)が7月に店頭販売される予定であり、さらにトリデン(Torriden)がセフォラでローンチされることも判明した。
ターゲット(Target)もまた、メディヒール(Mediheal)、ラウンドラボ、スキン1004(Skin 1004)、マニョ、トリデン、ビューティ・オブ・ジョソンなどの人気ブランドを導入しており、Glossyの独占情報として、ナンバーズイン(Numbuzin)が7月末に同社のECに登場、8月には店頭販売も始まる予定だ。
[原文:Glossy Pop Newsletter — Exclusive: Ulta doubles down on K-beauty with 13 new brands]
Sara Spruch-Feiner(翻訳・編集:戸田美子)