ブランド創始者であるムッシュ イヴ・サンローランに共鳴し、リスペクトを惜しまない彼が、グローバル メイクアップ アーティストというこの栄えある使命にどう向き合おうとしているのか? 訪れるのは今回で2回目だという東京でインタビューを行った。
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――イヴ・サンローラン氏が成し遂げてきたことのなかで一番あなたに刺さっているものは?
「ムッシュ イヴ・サンローランに対して、クリエイションはもちろん、そのビジョンや女性に対する思いなどをずっと敬愛してきました。
イヴ・サンローラン氏の偉業のなかで私にとって最も鮮烈なのは 1971年のコレクション、“ スキャンダル・コレクション”。グリーンのファーコートのビジュアルが有名なコレクションがあるのですが、これは当時大きな物議を醸しました。ファッションとしてひどいとか、本当にこんなのありえないとかなりマスコミから叩かれたのですが、 こういったスキャンダルがあったからこそ、女性たちに対してドレスアップをするということがどういうことなのか、 そして世界に対して自分自身がどうありたいと思うのか、 自分をどうやって表現していくのか?を問いかける大きなきっかけになった、革命的なものだったと思っております。メイクアップの『YSLビューティ』にも、こうした常に革命的な存在として社会に一石を投じるような姿勢が共通しているのではないかと思います」
――サンローラン氏とあなた自身に共通項があるとしたら?
「ムッシュ イヴ・サンローランは偉業を成した方なのでとても自分との共通項など簡単には言えません。が、しいて言うならば、色彩への愛。またデザインや細部へのこだわり、シルエット、グラフィック、形。こうしたものへの愛は私も負けないくらい持っているつもりです 。 私は若輩ですが、あえて共通項といえばそういったところじゃないでしょうか」
――サム・ヴィッサーらしいスタイルとは?
「自分のスタイルを言葉にするなら、グラマラス、 大胆さ。強さを出すこと、人々が強さと自信をもてるようなメイクが好きなのです。何か違う、 何かが新しい、 そして自分の中にスイッチが入る……。メイクをしてさしあげた方が鏡の中の自分を見て、自信をみなぎらせて、少なくともその日一日は自信に満ちた人生を歩める、 そういうメイクが私は大好きです」
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――インスピレーション源は?
「映画が大好きで、どの時代のものも見ます。 過去100年、120年ほど、最初の映画の初期の頃からのものが大好きで、 あとは音楽も本当に大きなインスピレーションソースになっています。
インスピレーションに関しては、どの時代のものがといったことではないと思っています。現代を生きていて今いるところから受けるインスピレーションもありますが、 過去から学ぶことは多いものです。 過去のことを理解すること、歴史を振り返ること。今の改めて過去を理解してそれをインスピレーションに落とし込んでいるといったところもあるかもしれません。
また今回の来日では、日本の自然、文化、色彩、伝統、そして街を行く人たちのメイクアップに大いにインスパイアされています 」
――2回目の来日。日本はどんな印象?
「世界の中で本当に大好きな、最も好きな場所の一つかもしれないという思いです。美しくてエレガントな方が多いなと思っています。 これまで知り合った方々みんなそうですし、またそれぞれのユニークなスタイルを持つ人が東京には多いです。 服の着こなし、メイク、ネイル、すべてみんな自己表現として使っていて、 例えばニューヨークもちょっとクレイジーで自己表現、自分らしさをどんどん発揮している街といわれますが、東京も全く違う角度から本当にみなさん自己表現をしているなと感じ、敬意を表さずにはいられません。 日本には伝統的な文化、歴史もあります。一方でそれだけにとらわれず新しいアイディアややり方を進めている点では、世界中のほかのどことも比較にならないのではないかと思います」
PROFILE:ロサンゼルス生まれ。幼少期からメイクアップに魅せられ、学生時代から数々の有名な撮影現場でアシスタントを務める。Inez and Vinoodh, Carlijn Jacobs, Harley Weir, Bryce Anderson, Hugo Comte, Charlotte Wales, Ethan James Green, Guido Paulo, Sharna Osborne and Nadia Lee Cohenなど著名なクリエイターたちとコラボレーションしてきた経験を持ち、『The Face』『i-D』『VOGUE』『Pop』『W Magazine』『Re-Edition』など、数々のハイファッション誌でその才能を発揮。2025年、「YSL ビューティ」グローバル メイクアップ アーティストに就任。