AIによるデジタルクローンがファッションのPRに使われ始めている、専門家が語るデジタルクローンの利点と問題点とは? - GIGAZINE - Moe Zine


AIが作り出した架空の人物「デジタルクローン」は現実の人間と見分けがつかないほど精巧なこともあり、政治的な目的で使われたり、企業のマーケティング戦略に使われたりするケースが増加しつつあります。ファッションのPRにデジタルクローンを使うことの利点と問題点について、経営戦略の専門家であるルアナ・カルカーノ氏が解説しています。

Digital clones of real models are revolutionizing fashion advertising
https://theconversation.com/digital-clones-of-real-models-are-revolutionizing-fashion-advertising-254244


AIが作り出した架空の人物である「デジタルクローン」が活躍する場のひとつに、ファッション業界が挙げられます。ファッションのトレンドにはアイテムやブランドを拡散するインフルエンサーの働きが重要視されており、世界のインフルエンサー市場規模は2025年には320億ドル(約4兆円)以上に成長すると推定されています。通常はインフルエンサーと契約するには時間とコストがかかりますが、ブランド専用に作られたデジタルクローンをインフルエンサーとして宣伝を行うことで、コストを削減しつつキャンペーンを展開しやすくすることができます。

たとえば、ファストファッション小売業者のH&Mは2025年3月末頃に、ソーシャルメディアの投稿やマーケティングキャンペーンなどの目的でモデルのデジタルクローンを作成する計画を発表しました。H&Mは完全に架空の人物ではなく実在のモデルから作成されたデジタルクローンをマーケティングに活用しており、元になった人物はデジタルクローンの権利も保持しており使用料を受け取る契約になっています。H&Mの最高クリエイティブ責任者であるヨルゲン・アンダーソン氏は、「私たちは、個人のスタイルへのこだわりを貫きながら、新しいクリエイティブな方法で私たちのファッションを披露する方法を模索し、新しいテクノロジーの利点を取り入れることに興味を持っています」と語りました。

CGで作られた「バーチャルスーパーモデル」がSNSで話題になって本物のモデルのように活躍し始めている – GIGAZINE


H&Mは、宣伝用写真撮影のコストを抑えることができるほか、カタログ開発の迅速化といった利点を強調しています。一方で、モデルやメイクアップアーティスト、写真家といった人たちの仕事を奪う形になるため、業界全体で倫理的な懸念を含む議論を巻き起こしました。

カルカーノ氏は、デジタルクローンの主な懸念事項として、同意と補償を挙げています。H&Mはモデルと契約してデジタルクローンを作成していますが、デジタルクローンを使用する企業や個人の中には、元になった人物たちの肖像を無断でトレーニングデータとして使用し、デジタルクローンを作成している場合もあります。

また、多様性も重要な問題です。AIはパラメーターを調整することであらゆる人種、年齢、体形の人物を作り出すことができますが、AIはあくまでトレーニングされたデータを元にしていることから、重大な偏見が含まれてしまうことがあります。


デジタルクローンは、宣伝に多くの資金を費やしにくいファストファッションブランドにとって、多様な体型やスタイルの好みをより的確に表現するための強力なツールとなります。デジタルクローンでブランドの価値を向上させつつ、倫理的な問題点を解消するためには、透明性が不可欠だとカルカーノ氏は指摘。具体的な方策としてカルカーノ氏は「明確なガイドラインと許可がなければ、ブランドはプライバシーを侵害し、肖像権を悪用し、法的措置に直面するリスクがあります。ブランドは倫理的なフレームワークを実装して、誠実性、包括性、法的説明責任を維持しながらAIで創造性を高める必要があります」と枠組みを作ることの重要性を語りました。

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