掲載日
2025年9月19日
ロンドン・ファッション・ウィークは、女神——それも大勢——を携えて幕を開けた。新進メゾンであるディ・ペッツァ(Di Petsa)、ケブリア(Keburia)、ファッション・イースト(Fashion East)による一連のショーが、颯爽たる神々やアフターアワーの偶像をモチーフに、巧みに変奏してみせた。
ディ・ペッツァ:アロペシア・アフロディーテ
ディ・ペッツァの最新ショーでは、女神たちが文字通り何十柱も——アフロディーテの複数バージョンに、男女混合のショーゆえ、ときにポセイドンまで——登場した。
コレクションを見るディ・ペッツァ – 2026年春夏 – ウィメンズ – 英国 – ロンドン – ©Launchmetrics/spotlight
向かうのはパルナッソス山ではなくナイトクラブ。半透明で、ほとんど布地のないカットアウトドレスに身を包み、髪はワックスで固めてカールさせている。デザイナー、ディミトラ・ペッツァによる明快なステートメントだ。
キリル文字のシンボル入りマイクロビキニにお揃いの布製ウィングを付けた翼の女神から、「Fragments of Aphrodite」と読み取れる大胆にスラッシュを入れたロングTシャツにビキニを合わせた妖艶な女神まで。泥が飛び散った白のトップには「Angel of Athens」と記され、挑発的なカクテルルックに。
果てしなく長い手足をもつキャストは、アロペシアのように斑状に白い粉や土をまぶされていた。フィナーレでは、二人の乙女がサモトラケの翼の女神の泥をそっと洗い流した。
コレクションを見るディ・ペッツァ – 2026年春夏 – ウィメンズ – 英国 – ロンドン – ©Launchmetrics/spotlight
セント・パンクラス近郊のネオクラシカルな邸宅の地下で行われたこのショーでは、砂塵の小丘や、崩れたペディメントや円柱——古代地中海の遺跡、あるいは崩れ落ちた神殿を思わせるセット——の周りをキャストが行進した。
とはいえ、ムードは敗北とは程遠かった。むしろ挑戦的で、モデルたちはボディコンの装いで空間を巡り、何ヤードものシフォンの断片を胴に巧みに巻き付けていた。
すべてを物語っていたのが、ヒーリング・ファラオによるドラマティックなシンセの一撃『Tefnut Is the Goddess of Precipitation』。
ケブリア、アナに別れを告げる
ジョージア出身の独学のデザイナー、ジョージ・ケブリアは、ミラノで開催された2017年のVogue Talentsショーケースで世界6人のデザイナーの一人に選ばれた人物だ。この日、同賞の立ち上げに関わったアナ・ウィンターに「別れ」を告げた。編集界の女神が治世の終わりに差しかかっている、と受け取る向きもあるだろう。
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「Bye Anna」と赤いレタリングを施した黒のTシャツに、ふわりとしたファイユの花びら型ミニ、黒のパテントレザーに赤いレースアップのドミナトリックス・ブーツを合わせて。
ジェイソンとアルゴナウタイが金羊毛を求めた地として知られるジョージア出身のケブリアは、古代ギリシャの女神たちをナイトクラブ仕様に仕立ててショーに配した。
ヴィクトリア・エンバンクメントの地下にあるポケットサイズの劇場で上演されたこのショーでは、知恵の女神メデアが、ダブルブレストのジャケットに中世の廷臣風ショートパンツを合わせて闊歩した。
松明や蛇とともに描かれることの多いヘカテのさまざまなバージョンは、ドラムメジャレット風のトップスやスカートに登場。国旗の聖ジョージ十字に着想を得たものも。
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一方、妖術師キルケーは、シルバーのメタリックなマイクロ胸当てにお揃いのブーツ、ターコイズのミニ・バブルスカートで燻るような色香を放つ。さらに、フロッギング(飾り編み)を施したデニムのカットアウェイ・コルセットにマイクロショーツ、メタルチェーン、悪魔的なドミナトリックス・ブーツという、さらに熱を帯びたルックも。
デザイナーはよりクラシックな提案も見せた——ラルフ・ローレンのショーに登場しそうな提督風ブレザーから、サンローランにふさわしい白のパンツスーツまで。だがここで肝要だったのは、下品すれすれのユーモアと、アフターアワーの女戦士たち。ロンドンでしかお目にかかれない類いのショーだ。
ファッション・イースト:ヤツェク・グレバ、メイヒュー、ヌバ
この業界で最重要のスカウトショーであるFashion Eastは、今シーズン25周年を迎え、ヤツェク・グレバ、メイヒュー、ヌバの3人のデザイナーを披露した。
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バートランド・ラッセルはかつて「人は思索においてのみ神である」と述べたが、ファッションやスポーツにおいても神になり得る。とりわけヤツェク・グレバでは、オーガンザとハイテクなアクティブスポーツ素材の組み合わせが、思いがけない活力をもたらしていた。
長年ダンサーとして活動し、現在はデザイナーの顔を持つグレバは、トラックパンツやレギンスに花柄トップを合わせ、肩や腰から三角形のシフォンを垂らして絶え間ない動きを示唆。男女混成のキャストを、ゆったりとしたアエルテックスのトップスやフェンシング用コルセット、透明のジャーキンで包み込んだ。
1912年のニジンスキーの写真から着想を得て、身を屈め、太ももに布を巻き付ける佇まいも引用。表彰式後のアスリート向けカクテル・パーティーで、金メダルに沸くオリンピアンたちを思い描いてほしい。
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バッキンガム宮殿から数百ヤードのザ・モールにあるICAのアートスペースで行われたこの三本立ては、メイヒューで幕を開けた。
マッドラーキング・ムードで、ペンキが飛び散ったファブリックや、くしゃっとした素材が目立つ。総じて、デザイナーのルイス・メイヒューによるスーパークールなストリート・シックだが、特段革命的というわけではない。
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この三部作の掉尾を飾ったのはヌバ。フロックコートやレディングコートを、きわめて巧みなミニマリズムで解釈した。主に寄付された素材で仕立てたというデザイナー、キャメロン・ウィリアムズは、確かなテーラリングの腕と胆力の持ち主。今後が楽しみな名前だ。
女神は登場しなかったが、サルトリアルなグルーヴは十分にあった。