Member:布 大樹(Vo) 等力 桂(Gt) 関 拓也(Ba)齊藤 誠也(Dr)
-面白いですね。作風とはまた別の、作品の受容におけるJ-POP性。
等力:これは僕1人だけの考え方かもしれないですけど、『アイランド』は”名盤消費”されているという感覚があるんですよね。最近ヤマハ音楽教室でフルートを習ってるんですけど、30秒くらいの名曲のフレーズを練習するんですよ。そうするとメロディの美しさはその中で充分に感じられて、アルバム1枚を名盤か名盤じゃないかで判定することが逆に消費的に思えてきたんです。『アイランド』はその象徴的な作品になっていて、インターネット上で発表される年間ベスト・アルバムのリストや、”#私を構成する42枚”に入ってる。
もちろんリスナーにはどんなふうに聴いてもらっても構わないんですけど、僕は、アルバムを聴くのだけが正しい作品の受容の仕方であって、シングルで聴くのは消費的だという考え方に反抗して、そういう考え方をひっくり返したかったんです。メンバーには共有してなかったけど。
布:いいと思う。
等力:だから、『アイランド』には1枚を通しての起伏があるけど、『Think of You』はカッコいい瞬間がポンポンポンと続いていくアルバムなんですよね。もちろんアルバムとしての流れも悪くはないし高い完成度になっていると思いますが、僕としてはどこかに引っ掛かる瞬間があればそれでいいと思っていた。『アイランド』にあった名盤感を求めてる人からすると肩透かしかもしれないですけど。
布:実際、『アイランド』は”J-POP名盤感”を意識して作ったわけだしね。
等力:意図した通りにはなったんだけど、それを受けて”アルバム聴きだって消費なんだな”と思っちゃって。
-今作には『アイランド』の「見つめていたい」のようなインタールードもないですしね。
等力:そうそう。
齊藤:今作は、それぞれの楽曲を際立たせるような並びになっているっていう。
等力:そうかも。全曲が並列に並んでいるようなイメージがありますね。まぁ俺も”#私を構成する42枚”とか全然やるしそれはそれで面白いんですけど、あんまりアルバムっていうものを神格化しなくてもいいかなと。TikTokで数秒間聴いた曲に感動するのもそれはそれでいいじゃん、カッケーじゃんって。どの瞬間をどう感動したってええやろみたいな。
-すごくいいアルバムが同じ年にリリースされたというだけで、ジャンルやシーンも無視して年間ベストという枠組みの中で比較されるのも、理不尽ではありますよね。
等力:それは本当にそうだと思います。雑ですよね。
-ライヴへの意識に関しては、どのように作品に落とし込まれたのでしょうか?
齊藤:今回はアルバム全体を通して肝になっているリズムがシンコペーションで。シンコペーションや四つ打ちはお客さんを乗らせる機能が強い奏法なので、ライヴで身体を動かしやすい楽曲が多くなった印象です。
等力:韓国や香港といったアジアでのライヴの記憶が鮮烈に残っているんですよね。単刀直入に言うと、すごく盛り上がったんです。特に四つ打ちの「歌姫とそこにあれ」と「キメラ」(共に『アイランド』収録曲)は大爆発というか。リズミカルなアプローチがこんなにもウケるんだなって驚きましたし、その瞬間にブラック・メタルがどうとかどうでも良くなってしまって。あれはどうでも良くなるよね。
布&関&齊藤:(※頷く)
等力:ブラック・メタルのブの字もなくなっていくみたいな。そうして、四つ打ち以外に盛り上がる手法はないかと考えるようになったんだと思います。
齊藤:そのタイミングで僕がシンコペーションの機能についての文章を書いて、メンバーに投げたことをきっかけに、「コバルトの降る街で」の制作が始まって。LUNA SEAのJ(Ba)さん原曲の楽曲「ROSIER」、「TRUE BLUE」、「TONIGHT」とかをリファレンスにしつつ、シンコペーション+ブラストビートみたいなことにもチャレンジして、ライヴでやってみたら反応が良かったから、もっとやってみようと。あと、「ツェッペリン」は縦ノリの曲を作ろうっていうコンセプトから始まりました。
等力:早い段階で完成した「コバルトの降る街で」、「ツェッペリン」、「別れ霜」の3曲でシンコペーション、縦ノリ、四つ打ちっていうパーツが揃ってて、そこでアルバムのヴィジョンが見えてきた感覚がありました。
-『アイランド』では四つ打ち、『Think of You』ではシンコペーションと、いずれもリズムで作品の方向性が切り開れているのがとても興味深いですね。やはりライヴでの乗りやすさがリズムに依拠しているからなのでしょうか。
東力:それはあると思います。
齊藤:『アイランド』での四つ打ち導入は”奇抜なことをやってやろう精神”でもあったので、今回は新しいリズムを取り入れる動機が変わりましたね。あと、「マジックアワー」のリズムにも紆余曲折あったんですけど。
等力:僕が最初にメロコアみたいな曲にしようとしたんですけど、さすがに明日の叙景じゃないなって(笑)。そこで齊藤が今のリズムを持ってきて仕上がりました。
布:”まだやってないリズム・パターンあるよね”とか”まだやってないBPMあるよね”から曲作りが始まることは多いです。全曲同じにならないようにしたい、新しいことをやりたいっていうのは沸々と考えてる。
等力:そこら辺の意志は布さんが強いと思う、いい意味で。今作と前作で印象が被る曲は1つもないはず。
布:「別れ霜」が「歌姫とそこにあれ」枠だって言われたりするぐらい。
等力:同じものの使い回しはしてないと思います。
-そういえば、2024年6月に開催された明日の叙景キュレーションの対バン企画”明日の叙景 presents『Dialogue vol.1』”に出演したEarthists.も、コロナ禍以降にアイコニックなブレイクダウンを導入するようになる等、作編曲に変化が生まれたように思います。
等力:たしかに、Earthists.と僕等の状況って被るんですよね。彼等も海外でのライヴの反響が音楽性に表れているバンドだと思いますし、『アイランド』の直前にリリースされた彼等のアルバム(『Have a Good Cult』)も結構聴いてて。サウンドやアートワークで”こう来るか!”みたいなところは、密かに意識してます。
-今作での関さんのベース・プレイに関しては、「天使」のソロをはじめとして、メロディの役割を担う場面が印象的でした。
関:「天使」はデモの段階であからさまに何もない部分があって、これはたぶんソロをやれってことなんだろうなって(笑)。これまで基本的には、等力が作ったデモをもとに、みんなで各パートのアレンジを考えるっていう手法でやってきて、”これ以上イジる必要あるのかな?”って思うことも多かったんですけど、今回はその段階で選択肢が浮かぶような隙間が空けられているように感じました。
等力:へぇ。
齊藤:今回はドラムよりベースのアレンジが先に始められたっていうのもあります。
等力:たしかに。『アイランド』のときはギター→ヴォーカル→ドラムで余ったスペースにベースを入れるみたいな印象があったんですけど、「天使」は関がアイディアを持ってきたベースのフレーズから作り始めたんです。その過程の変化が新しいアプローチになったのかもしれませんね。
関:「天使」、「ツェッペリン」のソロは、前々から導入したいと思っていたフレットレス・ベースで弾きました。
布:フレットレスだとベース・ラインはどう変わるの?
関:グリッドに当てはめるイメージではなくて、自由な、ジャジーなニュアンスはフレットレスのほうが出しやすい。別にジャズを通っているわけではないですけど、自分が思い描いているジャズのムードを盛り込めるかな。
-布さんのヴォーカル・アプローチに関してはいかがでしょう? 楽器陣のシンコペーションに合わせて食うか、あるいは一歩引くかという判断が、楽曲全体の温度感に影響を及ぼしているようにも感じます。
布:正直、ヴォーカル・ラインは等力がゴリゴリ直してるんですよ。僕はヴァイブスで決めてしまう部分が多いので、それを等力が音楽理論やリズム論で調整してくれる。
等力:そこまで固まった思想があるわけではないですが、その場その場でのシンコペーションするかしないかという取捨選択は、”こっちのほうが自然じゃない?”とか話し合いますね。
布:僕が大まかに作ったものを等力がカチッと直して、それをもう一度僕が崩すみたいな感じ。
等力:全部合わせたくなる僕に対して、布さんが”いや、ここはルーズでいいでしょう”、”ここはヘンテコに聴こえてもいいでしょ”みたいなやりとりがあります。
布:リズム以外の面では、シャウトはメロディが分かりづらいとはいえ声音でエモーショナルさを表現できるので、情けなさやプッシュ感の強弱は常に意識します。
等力:激情っぽく叫ぶか、ブラック・メタルっぽく叫ぶかみたいな、シャウトの種類に関することはよく話します。印象的だったのが、「ツェッペリン」で布さんが、AMON AMARTHみたいな、ゆっくりめのメロデスっぽいくぐもったシャウトをしていて。最初は違和感があったけど聴いてるうちにハマったので、新しい感覚に気付けたのが面白かったです。
布:あえて一辺倒なシャウトをしている面もありますけど、高低だけでも調整するのは重要ですね。
-それは詞のテンションとも関わってくるところですか?
布:そうですね。曲に詞を付ける段階で、音と言葉のテンションを一致させる部分と、あえて外していく部分があるんですけど、シャウトのテンションは言葉にマッチしやすいです。顕著なのは「ステラ」。サウンドは明るいけど歌詞は切実な内容だから、あまり強さを押し出さずに、泣いているようなシャウトを意識しました。