【インタビュー】最新K-POP事情とJ-POP、見えてきた明るい未来と抱える問題とは?
音楽ラジオ番組interfm「TOKYO MUSIC RADAR」は、日本のみならず世界に向けて活動するアーティストを応援し、様々な音楽関係者を招き最新の音楽トレンドを紹介するミュージックプログラムだ。
今回登場するのは、ラジオDJ/テレビVJ/MCであり書籍「K-POPバックステージパス」も出版している韓国エンターテイメントのオーソリティ、古家正亨だ。K-POPも大好きという「TOKYO MUSIC RADAR」のパーソナリティを務めるNagie Laneのmikakoと古家正亨との、止まらないK-POP談義をお届けしよう。
mikako、古家正亨
──(mikako)日本に韓流ブームがやってくる2003年よりも前から韓国のエンターテイメントに注目していた古家さんですが、そもそも韓国の音楽に興味を持ったのはいつだったんですか?
古家正亨:よく「ブームが来る前から注目していましたよね」とか言われるんですけど、注目していたわけではなくて、ただ好きだったっていうだけなんです。そもそものきっかけは、1990年代の末に留学していたカナダで、韓国人によく間違われたことがきっかけで。それを機に韓国人の友達が増えたんです。その友達から韓国の、当時流行していた1枚のCDを貸してくれたんです。それにハートをぶち抜かれて。
──(mikako)ちなみに誰のCDですか?
古家正亨:Toyというアーティスト。ユ・ヒヨルというSSWのプロジェクトのセカンドアルバムで、1枚のアルバムにいろんなジャンルの楽曲が収められていたんですね。その頃は、まだ日本に韓国の大衆音楽の情報って全然伝わってなかったんですが、「こんなに素敵な音楽があるんだ」って驚かされたんです。1990年代後半って、まだJ-POP全盛期ですから、みんなアジアの音楽にはそれほど関心がなかった頃ですよね。
──(mikako)今ではK-POPをしっかり広めるK-POP評論家という立場になりましたが。
古家正亨:K-POP評論家っていう肩書きには、本当困っているんです。皆さんが勝手に言うんですけど、正直イヤなんです。だって評論なんかしませんから(笑)。
──(mikako)確かに。どう呼べばいいんでしょう。
古家正亨:基本はラジオが自分のホームだと思っているんですけど、最近はやっぱりK-POPや韓流イベントのMCさんっていうイメージの方が圧倒的に強いですよね。韓国ではなぜか「韓流MC」って言われています。でも「韓流スター」って韓国の人でしょ?日本人なのに「韓流MC」って、ちょっと違和感があるんですよ(笑)。そこでなんですが、職業「古家さん」っていうキーワードがSNSでちょっとだけバズった時があったんですけど、ご存じですか?以前、出版社の方から「職業“古家さん”って何ぞや、というところで本を書くの、いかがですか」ってアプローチをいただいて、まさに本執筆のきっかけになったんです。だから、職業「古家さん」が一番肩書きとして正しいのかなぁと(笑)。
古家正亨
──(mikako)そんな職業「古家さん」の古家さんに、韓国のエンターテイメント事情をお聞きしたいのですが、韓国でも日本の音楽って流行っているんですか?
古家正亨:すごい流行っていますね。
──(mikako)ここ最近、日本のアーティストが韓国でもよくライブをされたりしていますよね。
古家正亨:コロナ明けぐらいから急速に増えました。背景は色々あると思いますが、一番大きいのは、やっぱり日韓関係の改善、これにつきますね。
──(mikako)2025年も日韓国交正常化60周年ですが。
古家正亨:そうですよね。なぜ日韓関係の改善が文化の流行とつながるかというと、韓国って、なんていうのか「空気が支配する」国なんですよ。
──(mikako)空気が支配?
古家正亨:なんとなくそういう空気、雰囲気が漂うと「みんなこうしなきゃいけないんじゃないか」っていう空気がうまれて、例えば反日的な動きがあった時代っていうのは、国民全体が「日本旅行に行きたいよね」とか「日本の食べ物おいしいよね」とか言えない空気があったんです。けど、日韓関係が良好だと、それを表向きに言える空気が生まれる。そうすると雰囲気もガラッと変わって、今のK-POPアイドルの子たちが、平気でSNSで日本語の歌を歌ってくれたり、日本の食べ物や流行、チャレンジ動画の話とか発言したりするようになる。空気が淀んでいた時は、例えば寿司は「초밥(チョバップ)」って韓国語で言わなきゃいけないとか、「焼肉」というキーワードは使わない…などなど、日本を連想する言葉をなるべくグローバル向けや韓国国内向けコンテンツでは使わない、いや使えない雰囲気があったんですが、今はもう寿司は「スシ」、焼肉は「ヤキニク」って言っていますよね。こういう空気が生まれるのは、政治的な関係性が良くならなければ無理なんです。
──そうなんですね。
古家正亨:6月に大統領選挙がありますが、その結果次第でまた大きく変わろうとしている韓国ですけど、ここ数年は日韓関係においてはすごくいい年が続いたんですね。もちろん韓国国内ではいろんな意見はありますけど、少なくとも日本においては良かった。K-POPアイドルの子たちが積極的に「日本の音楽好き」っていう言える空気が作られたのは、韓国におけるJ-POP人気に大きく貢献していると思います。K-POPアイドルの発信力ってすごいですから。
──(mikako)ですよね。ひとりの少女が持つ経済効果って絶大で。
古家正亨:ジェニー(BLACKPINK)とか、もはやミュージシャンという枠を超えて、流行を生み出す人になっていますよね。最近だとStraykidsが「ルビィちゃん何が好き?」でおなじみの、『ラブライブ!』の「愛♡スクリ~ム!」を流行らせて、それが日本からではなく、K-POPスターからグローバルな人気に火がついている。世界に及ぼす影響力で言えば、K-POPアイドルは世界で今一番ホットな存在なんじゃないかなって思います。そんな彼らが「J-POP良いよね」と言い、TikTokでダンスチャレンジ動画を発信する。残念ながら、日本発信でJ-POP人気に火が付いたのではないんです。つまりJ-POPそのものの力は確かにあるんだけれど、我々にはそれを認めて、それを発信する力がなかった。韓国を介して世界に広まっているっていうところは正直に認めて、反省しなきゃいけないとこかなと僕は思います。
──(mikako)日本でのK-POPへの理解も、TWICEの存在によって大きく変わった気がします。日本人メンバーも入られて、あの時から私の周りの日本の友達もK-POPを好きという人が増えて。
古家正亨:TWICEがすごいなと思うのは、日本人メンバーであっても韓国人メンバーと同じような人気を韓国で得たところで、そこがTWICE前後で大きく変わったところだと思います。TWICEの前にも数多くの日本人の先輩アーティストがK-POPシーンで活躍していたわけですけど、韓国人メンバーのような人気を得ることは難しかった。それには理由があって、結局K-POPアイドルにおける外国人メンバーというのは、当初現地化のプロセスの1つとして、プロモート要員の役割を果たしていたんです。
──(mikako)日本で売り出していくため?
古家正亨:日本人メンバーだけじゃなく、中国人メンバーもいたし、タイ人のメンバーもいたし…海外での活動を視野に入れて、その国の言葉だったり文化を、そのメンバーを介して広めていく役割を担っていたわけです。でもTWICE以降は「日本人だから」ではなく、外国人であってもその人の価値を認めるようになっていくんですよね。その変化はすごく大きくて、最近の韓国で活躍している日本人メンバーは、日本人だから選ばれたのではなく「あくまでいいと思ったメンバーが日本人だった」というだけです。そういう時代になりつつあるのかなって思いますね。
──(mikako)TWICEも「SIXTEEN」というオーディション番組から生まれたわけで、日本人だから選ばれたということではないですもんね。
TWICE
古家正亨:だから最近は外国人メンバーがいて当たり前の時代になっています。その人が必要だからグループに入れる、デビューさせるっていう流れですね。
──(mikako)時代は変わっているんですね。
古家正亨:すごく変わっていると思います。その一方で、韓国国内だけに限って見るとK-POPアイドルの時代も少しずつ変わりつつある。あまりにも供給過多になりすぎて、ちょっと食傷気味になりつつあって。そうなってくると、次の流行っていうのがいろいろ出てくるわけです。特にここ最近は、ロック的なものがキテますね。
──(mikako)バンド系?
古家正亨:バンドです。今までもバンドの時代は来る来ると言われていたし、今までもバンドがいなかったわけではないですけど、インディーズの領域で活動していた人が多くて、その殻を打ち破ろうと努力していたのがFTISLANDでありCNBLUEなわけですよね。でも、韓国本国ではどうしても“アイドルバンド”というくくりで見られる傾向が強い。そんな中で、ここ最近のブレイクスルーとして1番大きな存在なのがDAY6ですね。
──(mikako)「HAPPY」が流行に乗っていますね。
古家正亨:あとQWER。なんか日本のガールズバンドみたいでしょ?
──(mikako)そうですね。すごく思いました。
古家正亨:それ、意識しているんですよ。
──(mikako)衣装だったり見せ方にも感じますけど、ボーカルのシヨンは元々MNB48のメンバーでしたし。
古家正亨:そうなんです。彼女の日本でのアイドル経験が実に活きた活動ができていますよね。このように、少しずつ音楽の流行も変わりつつあって、ひとつのジャンルに偏らない、アイドルであってもEDMやHIP HOPだけじゃない、ロックだったりアメリカの80’sポップスだったりシティポップだったり…そういった流れの中で、J-ROCKが評価されているという流れもあります。
──(mikako)Mrs. GREEN APPLEも韓国でライブして大ヒットされていますし。
古家正亨:藤井風さんもライブやっているでしょ?今度あいみょんさんも。どんどん行きますよ。
──(mikako)アイドルじゃない日本のアーティストも受け入れやすくなってきているんですね。
古家正亨:むしろ、アイドル文化に関しては、韓国の音楽ファンや関係者は日本よりも勝っているという自負はあると思います。そして、結局アイドル好きな子たちっていうのは韓国では中高生が中心で、オーバー20代は、もちろんアイドル好きもいますが、ソロ歌手やいわゆるシンガーソングライター系、パフォーマンスよりも音楽そのものに活動を根差したアーティストへの関心が圧倒的に高い。でも、今、その層のアーティストの韓国での活動も、メディアでの露出が少なく活動が難しくなっているため、そういったアーティストのファンやK-POPアイドルを介して流行的に食いついたファン…この2つの層がJ-POPに食いついて、それがブームのようになっていると思います。
──(mikako)私も韓国で売れたい(笑)。日本の音楽産業が韓国に学ぶべきことってありますか?
古家正亨:僕は正直、それはないと思っています。「日本の音楽業界はこれを学ぶべき」とか「業界はこうしなきゃいけない」ってよく言われる方が多いんですけど、逆に僕は、日本の音楽ってノウハウとか技術とか、韓国の音楽界よりも何倍も経験値を持っていると思うんです。歴史も長いですし。ただ、それを国際的な感覚で広める能力がないだけ。
──(mikako)韓国は海外を視野に入れてますよね。
古家正亨:日本って自国の市場に安住しすぎちゃって、1億2000万人もいれば、国内需要だけで十分賄えて、外に出る必要なんてないわけです。世界の音楽市場規模で2位の日本が、リスクを冒して勝負する必要なんてないんです。一方、韓国の場合は背景にあるものとして、人口が5000万人しかいないとか、20年前の音楽市場規模が世界20位以下だったり、しかもかつては海賊盤問題や違法ダウンロード問題もあり、音楽業界が食えない時代が長く続きました。そこで韓国の音楽業界は、食うために早い段階から世界へ出ることを前提に、相当試行錯誤してきました。今の成功の陰には、途方もない失敗も多くあります。そういったものが1つ1つ積み重ねって、10年、20年経って、ようやく今があるという感じ。あとはやっぱり語学力と発信力の違いですね。
──それは実感します。
古家正亨:K-POPアイドルのステージとか見ていても、みんな日本語ペラペラじゃないですか。「外に出なければいけない」っていう危機感だったり、韓国国内における受験戦争や競争社会の中で生き残る術として、外国語を学ばざるを得ないという環境が、その前提にあったというのも大きいと思います。今の日本の若い人たちは、少し昭和世代とは考え方が変わってきているのかもしれませんが、それでも韓国の若者たちのハングリー精神とリスクを冒してでも成功への貪欲さという点では、日本人は負けていると思います。ただ、今は本当に恵まれていると思いますよ。SNSの時代になって、言葉がわからなくても勝手に翻訳してくれたり、AIもある。言葉の障壁はどんどんなくなっていると思うんです。ですから、そういった壁がない分、あとはいかに「自信を持って、自分で発信したい」っていう気持ちを持てるか。せっかくいいコンテンツがここ日本にはいくらでもあるわけですから。
──(mikako)発信力がまだちょっと弱い人たちがまずすべきことって何だと思いますか?
古家正亨:どの業界にも言えることですが、僕は有能なプロデューサーが少ないことが致命的じゃないかと思っています。K-POPのスゴさは、K-POPを音楽ジャンルの枠組みの中で留めておかず、様々なカルチャーと融合させて、K-POPというカルチャーを作り出したことだと思うんです。その背景には、アーティストの発掘から曲作り、果てはそのアーティストのビジュアルイメージを含めた色までを、トータルで管理・制作できるプロデューサーがたくさんいるっていうことだと思っています。特に、女性がとても多い。この人をどういう風に売っていきたいのか、その発信の仕方までトータルで考えて、それをもって世界に打って出る。日本でもSKY-HIさんやXGを手掛けたサイモンさんのような存在は、それに近い方だと思いますが、ああいった人がどんどん出てこないと、日本のエンタメ界は今後キツいと思いますよ。せっかくいいコンテンツがあっても、そこで負けちゃいます。
──(mikako)そこのノウハウがまだ足りない?
古家正亨:ノウハウというより、誰かに何かに気を遣いすぎなんですよね。若い才能ある人たちが、自由に何でもできる、失敗したって良いっていう空気、環境を、大人たちがしっかり作ってあげれば、すぐに有能な人は輩出されると思いますけどね。
──(mikako)そういう人を育てていくのが大事なんですね。
古家正亨:そのためには、やっぱり国際的な感覚を身につけないといけないし、積極的に海外からいろんなノウハウを吸収しなきゃいけないとも思うし、なんだったら海外のプロデューサーと協業してもいいんです。だってQWERみたいなアーティストって、本来、日本がやるべきだったと思いますもの。あとはバーチャルアイドルグループのPLAVEとか、本来日本が得意としていた分野にもK-POP界は攻勢をかけていますよね。これからはバーチャルアイドルの分野でも日韓がライバルになりますね。
──(mikako)今注目している韓国のアーティストっていたりしますか?
古家正亨:そのトレンドを読むのはすごく難しいんですよ。優秀なアーティストはたくさんいるんですけど、例えば、かつて宇多田ヒカルさんが日本で約800万枚アルバムを売った時のような、そんな国民的歌手が今後出てくるかっていうと、もう無理だと思うんです。レジャーもメディアもすべてが多様化しているので、一元的に大衆をコントロールして流行を作り出すのは、今の時代では無理でしょう。局所的なヒットが生まれても大衆ヒットを生み出すって、難しい時代になったと思います。韓国も同じような状況なんです。売れているけど、正直よくわからない…みたいな。BTSとかSEVENTEEN、Stray Kidsみたいなアーティストがこれから出てくるかっていうと、なかなか難しいのではないでしょうか。
──(mikako)5月には韓流文化コンテンツが体験できるフェス<KCON JAPAN 2025>が日本で開催されるなど、日韓の音楽シーンは関係が深まっていますけど、韓国のアーティストにとって日本が重要なマーケットであるのは今後も変わらないのでしょうか。
古家正亨:変わらないと思います。最近は欧米や中国のマーケットも大きくなりましたが、海外の売り上げに占める日本の割合はいまだに圧倒的に大きいですし、それよりも、日本のファンって、そう簡単に離れないでしょ?
──(mikako)それは、日本の国民性みたいなもの?
古家正亨:だと思います。そんな簡単に推しをコロコロ変えないじゃないですか。その国民性という点でいうと、韓国のアーティストと仕事していると如実に感じる違いがあって、韓国でライブに行くという行為は「音楽を聴きに行く」んじゃなくて、「そのアーティストたちと時間を共有する」ために行っている感じがするんです。だからバラードだって大きな声で歌手と一緒に歌うし、とにかくみんなノリが良いし。日本人って、ライブに行く理由は、音楽を聴きに行く人が圧倒的に多いじゃないですか。
──(mikako)そうですね。
古家正亨:だから、韓国のアーティストが日本でライブをやると、最初は「皆さん、本当に楽しんでいますか?」って質問するのが定番化しています。
──(mikako)確かにライブ映像を観ても「皆さん楽しんでますか」「大丈夫ですか」みたいなMCをよく見ます。
古家正亨:そのカルチャーショックがやっぱり大きいみたいです。でも、徐々に私たちも盛り上がっていくでしょう?ライブの鑑賞スタイルに、緩急があると言えばいいんでしょうか(笑)。逆に言うと、世界の人から見ると、それが日本のオーディエンスのマナーに見えるんですよね。「日本の観客は世界一最高でした」っていうアーティストもいるわけで、「ノる時は立ち上がってノってくれる。静かに聴いて欲しい時は集中して聴いてくれる。これができる人々って世界中探しても、そうなかなかいないです」って言われると、私たちのライブの楽しみ方って間違っていなかったんだって僕は思います。
──なるほどそうですね。
古家正亨:だけど、最近はご存じの通り、若い子たちには、K-POPネイティブと言われる「初めて行くライブがK-POP」って人が多いんですよ。
──(mikako)私もそう(笑)。1番最初に見観に行ったのが東京ドームのSMTOWNでした。
古家正亨:「あのノリがライブなんだ」って思っちゃうと、全てのアーティストに対して合いの手しなきゃいけないのかなと思っちゃったり、スマホで映像を撮って当たり前みたいな。だから、日本人ならではのルールというか、鑑賞マナーというのは、個人的には、これからもあっていいんじゃないかなって思いますけどね。
──(mikako)ライブマナーはちょくちょく話題に出ますよね。国民性だけじゃなくて、ライブのジャンルによっても聴き方とか楽しみ方も変わってくるから、難しいですね。
古家正亨:ライブの撮影OKって結構あるじゃないですか。SNSで広まった方がより多くの人に届きますから。でも映像や写真OKとなると盛り上がらないんですよ。映像を撮っている時に自分の声とか周りの声が入ったらイヤなんで、みんな無口になるんです。手拍子もない、声も出ないというあの空間って僕は異常だと思っていて、それってライブで必要なの?って思うんですね。
──(mikako)確かにそうですね。
古家正亨:そのあたりは、観客ひとりひとりが自覚すべきかなって思います。教えることでもないし、自分が音楽とどう接するのかという聴く側のマナーみたいなものなので、我々のようなメディアがしっかり提起していく必要があるのかなとも思います。写真を撮ってもらうためのライブじゃないから。
──(mikako)日本と韓国を同時に見てきた立場から、今後の音楽シーンはどの様になっていくと思いますか?
古家正亨:もう、「K」とか「J」っていらないよねって思います。K-POPのヒット曲って欧米の作家さんが書いている曲も多かったりもしますから「じゃあK-POPのアイデンティティってどこにあるの」ってなりますよね。韓国人メンバーじゃない外国人メンバーもいるし。
──(mikako)欧米のアーティストとコラボされた楽曲もありますし。
古家正亨:そうなると、残っているのってノウハウだけなんで「ノウハウだけでK-POPって言っていいの?」って思いますよね。僕はもう「アーティストの時代」になっていると思っていて、その「アーティスト自身がジャンル」ですから、例えばBTSやBLACKPINKというジャンルは、もうK-POPという枠の中にはないわけです。だからKとかJとかって要らなくて、アーティストひとりひとりが、自分が1ジャンルを担っていくという気持ちをどうモチベーションとして維持できるかだと思うんですね。
──なるほど。
古家正亨:何語で歌うの?とか、自分がどういう発信をしていきたいのかっていうところが、より強く責任が求められる時代になってくるのかなって思います。ジャンル分けって、実はジャンルに守られているっていうところがあるから。ジャンルがなくなる分、世界には広がるんだけど、その分課せられる使命は増えると思いますね。
──(mikako)自分自身がアイデンティティですからね。
古家正亨:かつてのK-POPにおける英語の歌詞っていうのは、若干お遊び的だったんですよ。英語の部分もそんなに多くはなかったですし、ノリだけでほとんど意味がなかったり、言葉遊び的に使われていたことが多かったんだけど、最近は「欧米人が聞いても意味がわかる英語にしなきゃいけない」って言う時代になりました。
──(mikako)変わってきているんですね。
古家正亨:以前、韓国を代表する作詞家のキム・イナさんに話を聞いた時、例えばIVEの曲ひとつ取ってみても英語の歌詞がもう昔と全然違っていて、完全に英語ネイティブの欧米人が理解して意味が分かる英語詞にしなきゃいけないって。「ここ数年の歌詞の書き方で一番の変化ですね」っておっしゃっていたのが印象的でした。その話を聞いたときに、まさにK-POPのKを外す時代になってきているのかなって思ったんですよね。それはJ-POPにも言えることで、何語で歌ってもいいんだけれど、どういう風に誰に向けて届けていきたいのかっていうところをより意識していく時代なんですよ。
──(mikako)確かに最初にK-POPを聴いていた時はこんなに英語は入ってなかった。私はK-POPの曲の歌詞を書き起こして韓国語の勉強を始めたんですけど、全部ハングルでしたもんね。
古家正亨:NewJeansの曲とか聴いていると、英語・韓国語・日本語が普通に入ってくる。その言語じゃないと伝えられないニュアンスはそれでいいし、もうぐっちゃぐちゃになっていいんじゃないかなって思いますね。
──(mikako)私も曲作りしてますけど、結構ごちゃ混ぜにしたりしています。それでいいんだよなと思って。
古家正亨:僕ね、実は「作って欲しい曲」があるんですよ。
──(mikako)え?なんですか?お願いします。
古家正亨:世の中に「国際恋愛の曲」ってそうないんですよね。国際カップルの歌です。例えば韓国人と日本人の恋愛だとすると、最初は拙い言葉でやり取りしたりするじゃないですか。お互いそれぞれの言葉が分からないから、時には英語を挟んでコミュニケーションを取りながら愛を育んでいく…そういう過程が国際恋愛にはあるんです。そんな様々な言語が意味のある形でミックスされる詞を誰か書いてくれないかなぁって、昔から思っているんですよ。それを歌詞にした歌って今まであまり聴いたことないんで。それが歌詞になったら新鮮な歌になると思います。
──(mikako)主人公が2人いて、それぞれの言語で歌詞が入ってくるんですね。面白い。早速チャレンジしてみます。私、せっかく各国の言葉が喋れるんだから。バラードがいいですかね。
古家正亨:いや、逆に思いっきりポップでいいんじゃないですか?
──(mikako)ありがとうございます。宿題にします(笑)。
古家正亨:僕はこれからも、メディアを通じて引き続きいろんな韓国のエンターテイメントの魅力を伝えていきたいと思いますが、自分ができる年齢的な限界もありますから、これからは、これまで蓄積してきた経験を活かして、社会に対してどういう風に貢献できるかっていうところを色々と考えています。MCもやりますけど、できることって他にもあるんじゃないのかなって思っているので、ちょっと期待してください。ありがとうございました。