アイドル全盛期の郷ひろみが魅せる高い演技力×脂の乗った国民的俳優の森繫久彌の怪演 「見逃すと後悔してしまう」2人の化学反応によるきらめき
今年で70歳という大台に突入する年齢でありながら、いつまでも若々しく精力的に音楽活動に勤しんでいるビッグスター、郷ひろみ。
1971年にデビュー後、西城秀樹、野口五郎とともに「新御三家」と呼ばれてトップアイドルとして人気を博し、リリースした楽曲は「男の子女の子」「お嫁サンバ」「2億4千万の瞳‐エキゾチック・ジャパン‐」「言えないよ」「GOLDFINGER’99」などヒット曲だけでも枚挙にいとまがない。それゆえ、若い世代は”アーティスト”というイメージが強いだろうが、実は俳優としての実力も兼ね備えており、数えきれないほどのドラマや映画に出演している。そんな郷の演技力の高さが堪能できる作品が、映画「夢一族 ザ・らいばる」(1979年)だ。
言い争いながらも距離を近づけるマコト(郷ひろみ)と治平(森繫久彌)
(C)東映
同作品は、郷と森繁久彌の豪華共演でおくるヒューマン・コメディで、銀行に預金したまま連絡の途絶えている、いわゆる”睡眠口座”に目をつけ、すでに死んでしまった預金者の息子になりすまして大金をせしめようとする風来坊・マコト(郷)と、預金者の父である老いぼれ詐欺師・雨傘治平(森繫)の二人の数奇な出会いと友情を描く。
当時、郷はアイドルとして全盛期を迎えている時期でありながら、風来坊という粗野で荒々しいマコト役を熱演。西城や野口とは一線を画したかわいらしさが漂う印象の郷において、全くベクトルの違うキャラクターなのだが、”風来坊”をリアルに体現している。時代背景的にもストリップ小屋に出入りし、ストリップ嬢との交流が描かれていたり、現在でいう”成り済まし詐欺”を目論むため、郷の気品あるきれいなルックスや声のトーン、柔和な雰囲気などは、役の邪魔になりそうなものなのだが、それらがうまくマッチした彼にしか演じられないマコトを表現。
(C)東映
一方で、森繫の怪演も見どころ。始めはマコトの後を追ってくる正体の分からない謎の老人として登場し、後半に”老いぼれの詐欺師”という素性が判明する役なのだが、飄々とつかみどころのない人物像に加えて、マコトを意識している理由などが絡み合い、森繁ならではの不思議なキャラクターを創出。スケベで下品でありながらも、どこか愛嬌があって憎めない人物として、コメディーという枠の中で縦横無尽に駆け回っている。
(C)東映
そして、この2人の演技の化学反応がすごい。力で押し切る剛腕ピッチャーと七色の変化球で打者を切り切り舞いにする変化球ピッチャーによる投手戦のような、ヒリヒリ感があってどうしても目が離せない、本能が「この瞬間を見逃すと後悔する」と警告音を鳴らすくらいのきらめきがある。24歳の郷と66歳の森繫という、全盛期のトップアイドルと脂が乗り切った国民的俳優の圧倒的な存在感のケミストリーは必見だ。
ビッグスターの知られざる高い演技力と成熟した国民的俳優の怪演が織り成す、”見逃すと後悔してしまう”きらめきを堪能してほしい。
文=原田健
放送情報【スカパー!】
夢一族 ザ・らいばる
放送日時:2025年6月13日(金)13:00〜ほか
放送チャンネル:東映チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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