服作りに無制限でこだわれる! アパレルデザイナーから転身のLYRAに聞くバーチャルファッションの魅力 - WWDJAPAN - Moe Zine

「レーヨン」ディレクター兼デザイナーで、バーチャルファッションデザイナーのLYRA。インタビューはVRChatで実施した

リアルからバーチャルへ。アパレル業界での経験を持ちながら、独学で3Dモデリングを習得。ブランド「レーヨン(LAYON)」を立ち上げたLYRA(リラ)は、バーチャルならではの制約のない表現と、現場感覚に裏打ちされた緻密な服作りで注目を集めている。「リアルでも着たい」と思わせるような“今っぽさ”と“気分”をシルエットや質感、ディテールに落とし込み、アバターのファッションにもこだわりたい層から強い支持を得ている。アパレルのデザイナーからバーチャルファッションデザイナーに転身したLYRAに、その経緯とモノ作りの魅力について聞いた。

WWD:もともとはリアルのアパレル業界で働いていたと聞きました。

LYRA:はい。大学でプロデュースデザインと服飾のモノ作りを学び、卒業後は大阪のアパレルメーカーで5年間、ウィメンズブランドの企画・デザイン・生産管理を担当していました。ODM案件もあれば、自社ブランドの立ち上げに関わったこともあります。布帛もカットソーもニットもオールアイテムを手掛けました。27歳くらいでキャリアアップを考えるようになり、直営で店舗を運営するようなブランドで働けたらいいなと転職活動を始めました。

WWD:そこからどうバーチャルの世界へ?

LYRA:何社か面接も受け、企画職やブランドのディレクター職の内定ももらったのですが、自分としてはまだ現場の第一線にいたいと思いつつ、これまでの延長の先が見える感じではないことがやりたいと考えるようになりました。これまでの経験を生かしながらも何か新しいことに挑戦したいという思いがわき上がってきて、就職活動自体を一旦保留して、ファッションに関わらないよう分野でも興味がわいた本を片っ端から読み漁ってみたんです。ちょうどWeb3が盛り上がっていた時期で、「ディセントラランド」というメタバースプラットフォームで、デジタルファッションの売買が経済圏として成り立っているという話を読んで、「デジタルファッションってビジネスになるんだ」と初めて知りました。今までアパレルでやってきたことも生かせそうだし、ちょっと新しい世界というか、また違った分野でいろいろできる世界がまだあるんだと思いました。

リアルに近いスタイルが注目の的に

WWD:本から入るというのは珍しいパターンですね。デジタルファッションはどのように作り始めましたか?

LYRA:最初は「VRoid」という3Dキャラクターメイキングソフトを使ってアバターの服を作って、22年12月に「レーヨン」として売り始めました。3Dモデル自体のベースがあるので、モデリングの知識がなくても、デジタルのイラストさえ描ければ形にできる感じで、比較的入りやすかったです。私自身、モノは作りたいけれど、アバターで何かがしたいわけではなかったのですが、クラスターという日本発のプラットフォームで、音楽イベントのような人が多くいるようなところへ自作の衣装を着て行ったら、「可愛いね」ってすごく声をかけてもらえたり、私の服を複数人がおそろいや色違いで着てイベントに参加しているのを見たりして。こういうつながり方があるんだ、面白いと思いました。

WWD:ちょっと変わったデザインのものを作っていたんですか?

LYRA:いえ、今と同じくリアルファッションに近いものを作っていたのですが、メタバースの中ではゲームやアニメっぽいものが多かったので、逆に新鮮にとらえられました。この時すでに退社していましたが、まだ道を探している最中で、「副業としてはいいかも」くらいの気持ちでした。

WWD:そこからソーシャルVRプラットフォームのVRChatへ?

LYRA:はい、半年ほどクラスターで過ごして、しっかり生活できるくらいアバター衣装が売れる状態になり、23年春にVRChat向けにモデリングからがっつり作り始めました。6月に3Dモデルの1作目を発売してしばらくして、バーチャルファッションショー「ボヤージュ」を主宰するゆいぴさんに「ボヤージュに出ませんか?」と声をかけてもらい、驚きつつ、「しばらくやれるところまでやってみよう」と今に至ります。就職せず、まさかの個人事業主です。

WWD:夢のある話ですね。モデリングは独学ですか?すごく大変ではなかったですか?

LYRA:もう根性というか。アパレルの仕様書を作って、工場さんとやり取りしてという作り方も好きでしたし、サンプルとして上がってくる楽しさもありましたが、根っこがめちゃくちゃモノ作りが好きで。服以外にも、絵を描いたり工作を作ったりが好きだったので、全く分からない状態から始めましたが、「とにかく理想の服が作りたい!」と1カ月ぐらい、ひたすらパソコンの前に張り付いて、いろいろ調べまくって、1作目を作りました。自分で言うのも何ですが、割といいクオリテイーのものができたと思っています。

独学で3Dモデルを制作 理想をとことん追求

 

1作目のエアリーパフトップとレイヤードパンツのセット(1800円〜)。一瞬で着替えて見せてもらえるのは、バーチャルならでは

もちろん360度どこから見ても良いように作られている

カラーバリエーションもある

シガレットケースのネックレスやシューズもセットに含まれる

WWD:その1作目について教えてください。

LYRA:透け感のあるトップスとレイヤードパンツのセットです。少し韓国っぽさがある感じですが、当時3Dモデルにはこういうデザインのものがなかったので新鮮に感じてもえらえたのだろうと思います。

WWD:確かに1作目にして完成されていますね。トップスの透け感も軽やかさも素敵ですし、ウエストのドローストリングのひもがめちゃくちゃ可愛いです。こういうの、リアルアパレルでもなかなかできないですよね。パンツも動きに合わせて、すごくいい陰影が出ています。

LYRA:リアルだったら考えなければならないコストを度外視できるので、リアルだったらできないディテールを詰め込んでいます。影の出方も全部こちらで設定しています。どうやったら質感が出るのか、マテリアルを研究しまくりました。

WWD:3Dモデル制作には時間と労力がかかりますが、1日何時間くらいかけていましたか?

LYRA:1日10時間とか12時間とか……。でも、苦ではなかったんです。とにかく「完成が見たい!」という気持ちしかなかったので。気づいたらご飯を食べるのも忘れていた、というくらい没頭していました。

WWD:やはりリアルの服に対する理解度が高いので、テクスチャーや布の動きなど、こだわりが詰まっています。

LYRA:元々アパレルをやっていたこともあり、こういう部分にはこういうおち感の生地を使うよね、と無意識に分かっていることが多いので、服への解像度も、求める基準もすごく高かったように思います。お客さま(ユーザー)からは、納得感が違うと言ってもらえることが多いです。

リアルもバーチャルも作りたいものは本質的には一緒

WWD:ブランド名の「レーヨン」の由来とブランドコンセプトは?

LYRA:もし自分のブランドを持つならと、昔から勝手に妄想していて、「LAYON」という名前はだいぶ前から頭の中にありました。フランス語で光線とかビームという意味があり、豊かな闇の中に射す一筋の光のような、月明かりくらいの華やかさがあるデザインが、ブランドコンセプトです。特別目立つわけではないけれど、同じ空間にいると目が引きつけられるような魅力があるみたいな。勢いでバーチャルファッションを始めましたが、作りたいと考えるファッションは、自分が着たいものが起点。リアルもバーチャルも本質的には一緒です。でも、最近はVRChatで過ごす人たちが、どんなものがあったらうれしいかを意識することが増えてきています。

すでに数千着を販売したベストセラーのトラックジャケットのセットアップ(1800円〜)。昨年、YouTuberスタンミがVRChatで遊ぶ配信を始めたことがきっかけで、一気に男性アバターやリアルに近いファッションを嗜好する新規ユーザーが増えたという

ウィメンズのセット内容はジャケット、ビスチェ、スカート、ネックレス2種、ソックス2種、靴

メンズはジャケット、プルオーバー、パンツ、ネックレス、靴がセットになっている

WWD:バーチャルファッションならではの面白さはどこにありますか?

LYRA:生地の用尺もコストの制限も、在庫も気にせず、無制限に自分作りたいものが作れるというところです。始めてもうすぐ2年ですが、飽きずにずっと続けられているのは、好きなだけ作りこめるからだと思います。そして、販売後すぐにその服をアバターに着せて、ワールドで写真を撮ってXに投稿してくれる方がたくさんいて。皆さんがどういうワールドで、どんな時間を過ごしているのかを見ながら、こういう服があるといいんだろうな、といった企画につながったりします。

WWD:逆に難しさはありますか?

LYRA:着るのがアバターなので、リアルの人間と体のバランスが違うんですよね。体はすごく華奢だけれど、頭は大きめみたいな。リアルファッションをそっくりそのままモデリングしてアバターに着せても、なんか違うなということがすごく多いです。バランス感を調節して作ることが肝で、そこが難しいと感じています。また、1点作るのに何日もかかるので、ブランドとしての色が出せる型数にするまでに数カ月かかってしまい、立ち位置を確立するまでにさらに時間がかかるのは、バーチャルの特徴かもしれません。

バーチャルならではの表現にも挑戦

「レーヨン タイトル」のドレス。香水瓶をイメージ。構築的で硬質でありながら、軽やかなのは、バーチャルだからこそ。肌や髪色、足元のキラキラはアバターを改変 することで実現 PHOTO : TATAMI

ドレスは、ガラスや鉱物、金属を組み合わせたようなテクスチャーになっている PHOTO : TATAMI

アクセサリーやジュエリーも細部まで作り込まれている PHOTO : TATAMI

WWD:今後の計画や目標は?

LYRA:「レーヨン タイトル」という別ラインも充実させていきます。こちらは、ガラスの素材でできたような服など、バーチャルでしか作れないような服を作っています。まだ1型のみしか作っていませんが、26年に新作を発表予定です。「レーヨン」の方も、リアルクローズではありつつ、ギミックを搭載してバーチャルならではの表現ができるようにしていきたいと考えています。

WWD:やりたいことが盛りだくさんですね。

LYRA:もう尽きないです。むしろ体があと何体か欲しいぐらいの勢いで。マーベラスデザイナーなど、さまざまなソフトも駆使し、カットできるところはなるべくカットすることを意識して、作品の型数を増やしていくことに今全力を注いでいます。事業として継続していくために法人化も予定しています。これまでアバターの衣装というと戦闘服やメイドっぽいものなどアニメやゲームのキャラクターのイメージが強かったと思いますが、バーチャルでもリアルファッションと同じぐらいの感度を求める人が増えてきています。バーチャルはむしろ、自分でアバターを選んでそれに合わせて着せたり、改変したりできるし、服に合わせてアバターを選ぶこともできます。作る方も、それを買って楽しむ方も、チャレンジが無限にできる環境を作りやすい。それがバーチャルファッションの魅力だと思います。

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