ALSで体を動かせない声優が「どうしても夜中に寝返りを打ちたい」。克服するための「すごい工夫」(津久井 教生) | FRaU

ALSで体を動かせない声優が「どうしても夜中に寝返りを打ちたい」。克服するための「すごい工夫」(津久井 教生) | FRaU

“ALS(筋萎縮性側索硬化症)と言う難病は   
この記事に書かれている通りに   
ジワジワジワジワと動かなくなります   
そして回復する事は無いのです   
だからこそそのときにできる事を工夫していきます♪   
それで前に進んでいくのです♪(^O^)”

2026年5月31日に声優の津久井教生さんがXにしたポストだ。津久井教生さんが自身の体に異変を感じたのは、2019年3月のこと。検査入院の末、2019年9月に感覚はあるままに体が動かなくなっていく難病「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」だと告知をされた。

2020年4月より2022年12月まで、最初は手でタイプして、手が動かなくなったら口に割り箸をくわえて打ち込んで連載をしていた。2022年12月には呼吸困難となり、気管切開を決断。その後は視線入力で原稿を寄せた。60万字におよぶ膨大な原稿を加筆修正し、さらに「声の出し方」や「あとがき」などを視線入力で書き下ろしてまとめたのが『ALSと笑顔で生きる。 声を失った声優の「工夫ファクトリー」』だ。

「ALSになるとはどういうことなのか」「介護される人の本音は」「気管切開や胃ろうをした人の感想」といったことは、なかなか当事者の生の声を聞くことができない。本書はそういう生の声に加え、声優養成所で長く教えてきた津久井さんが「声の出し方」のノウハウも詰め込んだ、実用エッセイでもあるのだ。

津久井さんの5月のX投稿は、「工夫」のひとつ、「サイン色紙を書く」に至るまでを伝えた記事を受けてのものだ。確かにALSは少しずつ体が動かなくなることで、できなくなることが増えていく。津久井さんはいまサインをすることができなくなっているので、地元の書店さまにサイン色紙を作りたいとなったときに、過去のサインをビジュアル化して写真とオリジナルの千社札をはり、色紙を作成したのだ。

誰でも年を重ねたりするとできなくなることは増えてくる。それで何かを諦めるより、工夫をすることで別の道が見えるということを、津久井さんは体現しているのだ。

そこで本書『ALSと笑顔で生きる。』より、津久井さんが寝返りのことで悩んだ時の「工夫」について抜粋でご紹介する。

昔は睡眠時間が短かった

昔は睡眠時間が5時間くらいでした。夜中の一時すぎに寝て、朝6時すぎには起きる感じです。さらに忙しくなると、睡眠時間を削って3時間くらいにするのはざらでした。少し自分を痛めつけることで悦に入っていた部分もあります。「こんなに忙しい」「こんなに頑張っている」「寝不足になっている自分がカッコいい」というような感じです。

津久井さんが「絵空事計画」と題して朗読劇を一緒にやってきたメンバー 写真提供/津久井教生

周りのALS患者の方の中にも、私と同じようにバイタリティーが溢れすぎてあまり寝ていなかったという方もいらっしゃいました。もちろんALS罹患との関連性はわかりません。いずれにせよ健康的でいられるはずもなく、私は30代半ばで大きく体を壊して「敗血症・多臓器不全」と診断されて危篤状態になりました。

このときは体重が47キロを切り、さすがに死を意識しました。そこから立ち直った後、50歳くらいまでは「なるべく睡眠時間を取って、体の修復ができるようにする」と心がけるようになったのです。これは医師からのアドバイスでもあり、生活改善が大切であると、このときに感じたのも事実です。

寝返りってすごい

ALSに罹患してから、私はベッドにいる時間が長くなってきました。そうなってから眠れない要因として悩まされたのは「寝返りが打てない」ということでした。寝返りできないことが睡眠の妨げになってしまうのです。きっともともとの寝相タイプにもよるのでしょうが、それまで比較的寝相が良く、寝返りは多くなかったタイプの私でも「あぁっ、寝返り打ちたいな」と感じて目が覚めるくらいです。

ALSの告知を受けたのは2019年だが、声はそのままで「奇跡」と言われ、2022年10月までニャンちゅうの声を演じ続けた 写真提供/津久井教生

画像ギャラリーを見る(全9枚)

人間は実は、寝ている間に自然と寝返りを打っており、それをしないと体が異変を感じて脳に連絡してしまい、それで起きてしまうようです。そのことを、2021年に入って感じるようになりました。ALSに罹患した初期のころは、ストレス性の眠りの浅さで目が覚めることもありました。そのときは、ストレッチと呼吸トレーニングを眠くなるまで、ゆったりとした気持ちで実践することによって、また眠りに戻ることができていました。

しかし、「寝返りが打てない」ことは自分では対策のしようがないのです。誰かの力を借りて寝返りを打たせてもらう以外に方法はありません。初めてこの状態になったときは、一時間半くらい「寝返りを打ちたい感覚」と闘っていました。さらに、ひとつの部分に体重がかかるとそこが反応して痛みや痺れが出てしまうことにも悩まされました。私の場合は動かないでいると右足の踵に頻繁に痛みが出るようになりました。