音楽ライター、金子厚武の連載コラム「up coming artist」。注目の若手アーティストを紹介し、その音楽性やルーツを紐解きながら、いまの音楽シーンも見つめていく。第8回目にフォーカスするのは、年明けからSpotify「RADAR: Early Noise 2026」やテレビ番組『EIGHT-JAM』の「プロが選ぶマイベスト10」に選ばれたバンド、名誉伝説だ。
名誉伝説は2023年から活動をスタート、2025年からはVo.こたに・Gt.けっさくの2人組バンドとして活躍。その音楽は「キャッチーでフックに富んだメロディー」、そして「ノスタルジックだけど新鮮」(金子)。2026年4月に開催予定の初のワンマンライブは即日ソールドアウトとなったそうで、このほど大阪での追加公演が発表されていた。
そして、そのユニークな歌詞の数々からは、現代的で切実な「愛」を慈しむ心が垣間見えると、金子は語る。「名誉伝説のこれからのキャリアは、この時代における『愛のゆくえ』を映し出すものになるかもしれない」……。米デロイトのモータウンや90年代ポップ、そして現代のポップスを歌う音楽家らとの「共振」も考えながら、名誉伝説を紐解いていく。
音楽は好きだけど、最近、新しいアーティストに出会えていない……情報の濁流のなかで、瞬間風速的ではない、いまと過去のムーブメントを知りたい……そんな人に、ぜひ読んでほしい連載です。
本稿で紹介したアーティストの楽曲をプレイリストにまとめました。ぜひ!
「ノスタルジックだけど新鮮」。ユニークな歌詞に光るセンス
Spotifyは1月8日、「RADAR: Early Noise 2026」を発表した。その年の躍進が期待される、注目の国内アーティストを10組、選んだものだ。昨年このコラムで紹介したkurayamisakaとRol3ertに加え、年末の特別編で触れたハク。やluvも選出されていたが、今月はその10組のなかから、この連載ではまだ紹介していなかった名誉伝説をピックアップしたい。

名誉伝説(めいよでんせつ)
2023年5月、1stシングル『ラヴィング』をリリースして活動開始。2024年3月、PEOPLE 1×Tele対バンのフロントアクトを皮切りに数々のフェスに出演。2025年、Vo.こたに・Gt.けっさく以外のメンバーが脱退、2人組バンドとしての新章が幕を開けた。『共犯者』を皮切りに3か月連続リリースを敢行し、YouTube登録者数は1万人から10万人へ、Spotify月間リスナーも常時20万人を突破した。
ギタリストで作詞作曲も手がけるけっさくが、SNSで弾き語りをアップしていたボーカルのこたにに声をかけたことをきっかけに、当初は5人組のバンドとしてスタート。2023年5月、1stシングル『ラヴィング』をリリースして本格的に活動を始め、2024年3月に行われたPEOPLE 1とTeleの対バンのフロントアクトを務めたことを皮切りに、数々のフェスに出演。2025年5月に初期の集大成となる1st EP『5gの平和』を発表した。
まず耳を惹かれるのがキャッチーでフックに富んだメロディーの素晴らしさ。曲によってはモータウン(※)の影響が感じられ、懐かしさもあるのだが、それをインディロックなアレンジで消化し、スラップを用いたファンキーなベースラインも特徴。こたにの歌声はほどよく力の抜けた親密さのなかに、たしかな温もりがあって、けっさくのソングライティングの魅力をより引き出している。
特に印象的だったのは“feat. あなた”。この曲のアレンジはKANの“愛は勝つ”やMr. Childrenの“シーソーゲーム〜勇敢な恋の歌〜”といった90年代J-POP、さらにはその背景にあるビリー・ジョエルであり、やはりモータウンも連想させるもので、「ノスタルジックだけど新鮮」というのはポップスにおいてとても重要だ。
※モータウン……1959年に米デトロイトで設立された伝説的なレコードレーベル。スティーヴィー・ワンダー、マイケル・ジャクソン、ダイアナ・ロスらを輩出した。
「名誉伝説」という名前から多くの音楽ファンが「離婚伝説」を連想したと思うが、モータウンを代表するアーティストの一人であるマーヴィン・ゲイのアルバム『Here, My Dear』の邦題からその名をとった離婚伝説の“萌”を初めて聴いたときに、80年代のソウルやR&B、ファンクに影響を受けた90年代のJ-POPを連想したことにも近い感慨があった。
もう一つ特徴的なのが、歌詞のユニークさ。“feat. あなた”はどんな場面においても思い出してしまう「あなた」の残像を「feat. あなた」というワードで表現しているのが面白いし、さまざまなプロポーズの言葉を並べた“プロポーズ文句”や、「私と貴方」の関係性をルビを振ることで表現する“ルビを振れ”からは、大喜利的な言葉のセンスが感じられ、こういった引っ掛かりのある歌詞の作り方はボカロ的とも言えるだろう。
そして、“プロポーズ文句”の<・「これからの愛を作ろうよ」>や、“ルビを振れ”の<私と書いて最愛と読め>のように、楽曲の背景にあるのは「愛」を慈しむ気持ち。その感覚はモータウンの時代から変わらないし、<勇敢な戦士みたいに愛したいな>も<必ず最後に愛は勝つ>も、名誉伝説の楽曲とリンクがあるように思う。
<君となら諦めたいよ>。諦観や挫折でつながる現代的な「愛」を見る
2025年5月にこたにとけっさく以外のメンバーが脱退し、6月にリリースした“共犯者”からは2人組としての活動がスタート。こたにの歌とけっさくのソングライティングという軸はそのままに、アレンジの幅をさらに広げていて、ディスコファンクな“BABY POWDER”にはMrs. GREEN APPLEやずっと真夜中でいいのに。にも関わるベースの二家本亮介、ニューウェイブな“remember”にはRADWIMPSやTeleをサポートするドラムの森瑞稀が参加するなど、より洗練されたプロダクションの楽曲が増えている印象だ。
一方、<何千何万何億の眼 人は皆 誰もが持っている 自分の見える世界が全てだと思わないように>と歌う“ブルーモーション”や、<1人目が「似合わない」って 言うと周りも「似合わない」って 居場所なんてどこにもない>と歌う“remember”のように、SNSのなかでの混沌が現実にも作用しているような近年の状況ともリンクして、歌詞はよりシリアスな色合いを強めている。
なかでも特に印象的なのが<君となら諦めたいよ><君となら挫折したいよ>と歌う“possum”。「君となら信じられる」「君となら乗り越えられる」ではなく、むしろ諦観や挫折でこそつながれるという感覚は、非常に切実な、現代的な「愛」の描き方だと思う。
1月21日にリリースされた最新曲“DIY”にしても、レゲエやラテンの要素を含んだアレンジで音楽的に新たな領域へと踏み込みつつ、<止まらないinflation 低SPECで完敗 So誰も彼も君も 泣く泣くDIY>と、格差の広がる社会について、直接的に言及している。再びマーヴィン・ゲイの名前を出せば、名作『What’s Going On』の邦題が「愛のゆくえ」だったように、名誉伝説のこれからのキャリアは、この時代における「愛のゆくえ」を映し出すものになるかもしれない。
現代のポップスのピープルツリーも……Trooper Salute、エルスウェア紀行ら
12月のコラムではChevonやAoooを例に出して、ボカロ / 歌い手のカルチャーから影響を受けつつ、活動形態にバンドを選んだ若手に注目した。現在は2人組になったものの、もともとバンドとしてスタートして、アレンジはいまもバンド感のある名誉伝説も、そういった流れとリンクする部分があると言える。
けっさくが匿名性の高いスタイルで活動しているのも、やはりネット以降の感覚だ。ただ、こたにのボーカルはパートごとに歌唱法や音域を大きく変え、ときにがなるように歌う、現代の歌い手とはタイプが異なるもの。こたにはソロでも楽曲をリリースしていて、12月に出た最新曲の“渦”ではアレンジにクラムボンのミトを迎え、マンドリンの響きが印象的だったように、ソロはよりオーガニックでフォーキーな感触がある。
そう考えると、一番近いのはヨルシカかもしれないが、名誉伝説の隣に並ぶべき「バンド」は、『EIGHT-JAM』の「プロが選ぶマイベスト10」で名誉伝説の“ルビを振れ”を3位に挙げた川谷絵音が、10位に挙げていた名古屋発の5人組・Trooper Saluteが適していると感じる。
Trooper Saluteもアイドル歌謡やグループサウンズのようなノスタルジックなポップスをインディロック的なアレンジで鳴らしていて、ボーカルのムサシの歌唱は12月にリリースしたEP『Trooper Salute 2』でコラボをしている吉澤嘉代子にも似た雰囲気を持つ。僕はこたにの声を聴いて、さとうもかやにしなを連想したりもしたのだが、シティポップのブーム含め、2010年代以降に活動してきたシンガーソングライターからも影響を受けつつ、バンドスタイルでの新たなポップスを提示しているのが名誉伝説やTrooper Saluteだと言えそうだ。
なお、ソングライティングの面でTrooper Saluteのルーツになっているのは相対性理論だと思われるが、初期の相対性理論のソングライティングに大きく貢献し、近年ではanoの“ちゅ、多様性。”のヒットでも知られる真部脩一は、昨年Widescreen Baroqueという2人組のユニットをスタート。Teleのサポートも務めるキーボードの奥野大樹やベースの森夏彦らが参加している。
こちらも一昨年の『EIGHT-JAM』で川谷が紹介し、「魔改造シティポップ」とも呼ばれる独自のポップスを鳴らす2人組音楽ユニット・エルスウェア紀行は、吉澤嘉代子の作品にも参加するsugarbeansらがサポート。名誉伝説を起点に、現代のポップスを生み出す音楽家たちのピープルツリーが見えてくるのも面白い。
イベント情報

『名誉伝説 初ワンマンショー『ディア・ライフ』-追加公演-』
日程:2026年6月14日(日)
応募受付期間:〜2026年2月8(日)
会場:大阪梅田シャングリラ
料金:スタンディング 5,000円
プロフィール
名誉伝説
(めいよでんせつ)
2023年5月、1stシングル『ラヴィング』をリリースして活動開始。2024年3月、PEOPLE 1×Tele対バンのフロントアクトを皮切りに数々のフェスに出演。2025年、Vo.こたに・Gt.けっさく以外のメンバーが脱退、2人組バンドとしての新章が幕を開けた。『共犯者』を皮切りに3か月連続リリースを敢行し、YouTube登録者数は1万人から10万人へ、Spotify月間リスナーも常時20万人を突破した。
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