
2025年版fashioformsの参加者の障害当事者とデザイナーたち PHOTO:ASAMI MINAMI
11月22日に茨城県つくば市で、ファッションディレクターの山口壮大がプロデュースした映像作品「ファッション・フォームズ(Fashion Forms.)」が上映された。同作品は毎年1回、障がいを持つ当事者5人に対して5組のファッションブランドや企業が「その人のための1着」を作り、その過程を記録したドキュメンタリー作品だ。3作品目となる今作では「シナ スイエン(SINA SUIEN)」の有本ゆみこデザイナー、ニットアーティストの蓮沼千紘(an/eddy)、「ボディーソング(BODYSONG.)」、スタイリストの髙山エリ、数多くのデザイナーブランドの縫製を手掛ける縫製工場のサンエース(岐阜県)、山口ディレクターの5組のデザイナー&企業が参加した。このプロジェクトは、山口ディレクターとともに、つくば市在住で障がいのある子どもを持つ五十嵐純子さんが発起人として名を連ね、共同プロデュースを行っている。同作品を車椅子のファッションジャーナリスト徳永啓太が取材し、前編と後編に分けてリポートする。
「シナ スイエン」有本ゆみこデザイナー × 田口明里(あかり)さん
左からデザイナーの有本ゆみこ、田口明星(あかり)さんとご両親の2人 PHOTO:ASAMI MINAMI
PHOTO:ASAMI MINAMI
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「シナ スイエン」という名の世界を作っているアーティストの有本ゆみこ氏は、生まれつき自身で動くことが困難で介助が必要とする田口明里(あかり)さんに、シナスイエンで発表している洋服の中から明里さんが好む色合いやデザインを選んでもらった。明里さんは身体が曲がってしまうほど緊張の力が強いため、着せやすい素材の中から富士山が刺繍してあったトップスを気に入り、それにあった全身のスタイリングを考案。可愛らしいレースやピンクを選びつつも着せやすさを考慮した。そして身体を支えるベルトが黒しかなく、せっかく可愛い洋服に合わないという問題に母・万里さんの監修のもと、普段身に付けている装具やベルトまでシナスイエンの世界観を崩さない色合いで有本氏が手がけた。ファッションと装具という交わることが難しいけれど明里さんにとっては欠かせないものを可愛く仕上げた。
ニットアーティスト蓮沼千紘 × 久家わかなさん

久家わかなさん
PHOTO:ASAMI MINAMI
「アンエディ(an/eddy)」というファッションブランドを運営するニットアーティストの蓮沼千紘さん。彼女は、生まれつき運動と言語に遅れのある久家わかなさんが、冬になると愛用している車椅子用ポンチョを、わかなさんの好きな色で編み直すことを提案した。蓮沼氏はニットでできたポンチョを提供するだけでなく、わかなさんと母・幸江さんに編み方を教えて、一緒に作る作業を行なったことでアーティストと着る当事者と同じ作業と時間を過ごした世界で唯一無二のニットポンチョが仕上がった。
「ボディソング」× 坂入大翔くん&凱斗くん

坂入大翔くん&凱斗くんと母のなつきさん PHOTO:ASAMI MINAMI
即興性をキーワードに現代アーティストとコラボを行なっているストリートブランドの「ボディソング(BODYSONG.)」は先天性の難病により、付き添いの介助を必要とする兄・坂入大翔(ひろと)くんと弟・凱斗(かいと)くんに、1着で多様な用途に機能するTシャツをデザインした。大翔くんと凱斗くんは胃ろうのため口からではなく、胃に直接栄養を入れる必要があるため、Tシャツに胃ろう用に穴が空いていることと、常にスタイが必要である必要があった。「旅行に行く時に荷物を軽くしたい」という母・なつきさんの要望からタンクトップから長袖までスナップで長さを調整できるデザインを考案。胃ろう用の穴の上から現代アーティストA2Z(エーツーゼット)のキャラクターがプリントしてある生地を被せることで少年が好むような洋服の雰囲気に仕上げた。
髙山エリ × 中村文美さん

中村文美(ともみ)さん
PHOTO:ASAMI MINAMI
雑誌やCMなど様々な媒体を通じて人間を表現するスタイリスト髙山エリ氏は、24時間介助のサポートを必要としながらも、自立のために一人暮らしを始め、日常で電動車椅子は欠かせない中村文美(ともみ)さんと一緒に洋服のリユースショップに行き、文美さんが似合うスタイルを提案した。普段はヘルパーの手を借りながら服の脱ぎ着をしているため「自分が着たい服」よりもペルパーが「着せやすい服」を優先的に考えてきたという。髙山氏は文美さんと向き合い、対話をし、互いを知ることから始めていく中で、「自分の好きを育てたい」という文美さんの要望に応えた。まずはいつもは選ばないけれど文美さんに似合うスカートを見つけて、それに合わせてトップスには何に合わせるかを決めていった。他人の目が気になっていた文美さん。今まで他人から不快だと思われないことを基準に服を選んでいたが、自分が好きな服を着ることの喜びを髙山氏が提案するスタイリングから体感した。
サンエース × 山口輝馬さん

山口輝馬さん(手前)とサンエースの浅野宏匡・常務
PHOTO:ASAMI MINAMI
岐阜を拠点とし、国内のコレクションブランドの中でも難易度の高い縫製を手掛けるサンエースの浅野宏匡・常務取締役は、日常で人工呼吸器と胃ろうを必要とし、寝たきりのまま車椅子で生活を送っている山口輝馬さんにあった防寒着を見つけることができない状況であることに対して、車椅子に配慮しつつも輝馬さんの身体を覆うようなブランケットを製作。今回JERNANO(ジェイナノ)ジャパンの協力によりカーボンナノチューブシートを使った電熱シートも使用。放熱性を考慮した設計にして、薄くても耐熱性を担保できるブランケットに仕上がった。色は輝馬さんの好きな赤を選び、布団を着るような感覚で上下が分かれていて、サイドにスナップがついており、寝たきり輝馬さんでも自身の身体を覆うことが可能な防寒着になった。
(後編に続く)
