人気声優、洲崎綾さんの投稿波紋…出産や育児で働けないのに「生活費折半」は経済的DVか
洲崎綾さんの公式Xより

2025年10月10日 11時02分

「妊娠中仕事もほとんどできなかったのに生活費も出産費用も折半、産後出前の寿司を一回とってくれただけ。マジで終わってる!」

人気声優・洲崎綾さんが夫である放送作家、伊福部崇さんについて、Xで怒りをぶちまけ、注目を集めています。

実は、「妻が働けない産休育休中に夫が生活費の折半を要求してきた」「育休で働けないのに夫が生活費を出してくれない」といった、夫婦間の負担の偏りに関する悩みは、少なくありません。

洲崎さんの「告発」に対し、ネット上では「いくらなんでも出産費用折半は経済的DV」「死ぬ思いして自分の子供産んでくれた女に金まで出させるとかどういうこと?」といった批判が相次いでいます。

仕事が思うようにできず、収入が減る妊娠中や育児休暇中に、夫が一方的に生活費の折半を求めたり、十分な生活費を渡さないことは、「経済的DV」に当たる可能性や、離婚事由にあたる可能性はないのでしょうか。寺林智栄弁護士に聞きました。

●「扶養義務」に反する可能性

──妊娠や出産で妻が働けない時期に、夫が「生活費も出産費も折半」と求めるのは、法的に許される行為なのでしょうか。

妊娠や出産で働けない妻に対して「生活費は折半」と迫ることは、民法752条の扶助義務に反する可能性が高いといえます。

一時的に収入のバランスが崩れても、夫婦は相互に支え合う義務を負うため、収入のある側がその分を補うことが求められます。

このような行為が繰り返され、妻が生活に困窮したり精神的に追い詰められた場合には、経済的DVや離婚事由(民法770条1項5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」)に該当する可能性もあります。

●経済的DVは「相手を意図的に困窮させる」こと

──妻の収入がなかったり、減っているとわかっていながら、夫が生活費を渡さない、出産費用を負担しないといった行為は「経済的DV」にあたりますか。

経済的DVとは、「生活費を渡さない」「家計を一方的に支配する」「働けない事情がある配偶者を経済的に依存させ、意図的に困窮させる」といった行為を通じて、相手を経済的に支配・制圧する行為を指します。

内閣府や自治体のDV防止基本方針でも、「経済的暴力」は明確にDVの一類型として位置づけられています。

先ほども述べたように、夫婦には、民法752条で定められた「互いに扶助し合う義務」があります。したがって、妻の収入が一時的に途絶えている(妊娠・出産・育児など)ことを承知しながら、「故意に生活費を渡さない」「出産費用を一切負担しない」「経済的に孤立させる」といった行為は、この扶助義務に明らかに反します。

これが継続的におこなわれ、妻の生活や健康を脅かすような場合には、経済的DVとして、DV防止法の保護命令の対象になりうると考えられます。

●「悪意の遺棄」として離婚原因にも

──このような経済的な扱いが続いた場合、「悪意の遺棄」として離婚原因になる可能性もありますか。

民法770条1項2号の「悪意の遺棄」とは、正当な理由なく、同居・協力・扶助といった夫婦の義務を一方的に放棄する行為をいいます。

たとえば、次のようなケースが典型です。

(1)理由もなく家を出て生活を共にしない(同居義務違反)
(2)配偶者を生活費を渡さず放置する(扶助義務違反)
(3)病気や出産などで助けが必要な配偶者を故意に無視する(協力義務違反)

つまり、経済的に妻を放置したり、生活維持の責任を果たさないことも「悪意の遺棄」となる可能性があります。

経済的DVが長期化した場合、「同居・扶助義務の放棄」と評価され、経済的DVと同時に「悪意の遺棄」として離婚原因になる可能性があります。

●洲崎さんと伊福部さんが「謝罪」

洲崎さんと伊福部さん夫婦は10月9日、連名でXに声明を発表しました。投稿により「誤解や憶測を生んでしまった」として謝罪したうえで「出産・育児という大きな環境の変化の中で、心身ともに余裕を失っておりました」と述べています。

一方で、「伊福部も夫として精神的に妻の事を支えきれず、大きな負担をかけてしまっていた事もあり、深く反省し、お詫びいたします」としています。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

Write A Comment