【令和のマストバイヴィンテージ】今買っておくべき名品は? vol.68 P-44 ダックハンターカモ編 - Moe Zine

ダックハンターカモの誕生秘話

 今回ピックアップしたのは、第二次世界大戦末期の1944年頃にアメリカ海兵隊(USMC=United States Marine Corps)で着用されていたP-44(P1944)です。当連載のvol.42でヘリンボーンツイル生地を用いたP-44を取り上げましたが、今回のアイテムはダックハンターカモと呼ばれる迷彩柄の生地を採用しています。大まかな仕様はヘリンボーンツイル生地のものと変わりません。食料やマップ、弾丸などを入れるために胸の左右に設けられた大きなカーゴポケットが目を引きます。P-44はユーティリティユニフォームとして、戦闘時だけでなく作業のときなど様々なシーンで着用されていました。

P-44 ダックハンターカモ

Image by: FASHIONSNAP

 ダックハンターカモの起源は1942年に遡るのですが、実はその開発にダグラス・マッカーサー(Douglas MacArthur)が関係しているんです。戦後、連合軍最高司令官として日本に進駐し、実質的な支配者としてその後の日本の復興や民主化に大きな影響を与えることになるマッカーサーは、太平洋戦争のときは陸軍大将として南西太平洋地域司令官を務めていました。第二次世界大戦は欧州と太平洋のふたつの戦線があり、海兵隊が投入されたのは主に太平洋戦線。つまり、当時日本軍が戦っていたのは海兵隊が中心でした。日本軍が占領した太平洋の島に対し、海兵隊が潜水艦からの奇襲上陸攻撃をかけるときに、目立たないようにカーキ色の生地を黒色で染めて擬似的なカモフラージュ柄にカスタムしたシャツを着用するようなりました。カモフラージュ柄の重要性を認識した海兵隊本部は、陸軍で既に採用されていたM1942 ジャングルワンピースという、ダックハンターカモが施されたオールインワン(つなぎ)に目を付け、マッカーサーにリクエストして海兵隊に導入したんです。

 その後、海兵隊は独自にP-42(P1942)というダックハンターカモのユーティリティコートを製造。その後1944年に作られたのが、P-44でした。M1942をはじめとする一連のアイテムに用いられていた迷彩柄は、斑点状の模様と配色がカエルの皮膚を連想させることから、当初フロッグスキンと呼ばれていましたが、後にそのフロッグスキンを用いたウェアが民間市場でも販売され、それがカモ狩りに最適だったことからダックハンター(duck hunter=カモ狩り)とも呼ばれるようになったと言われています。

個性を感じられるボタンに注目

 ダックハンターカモを用いたP-44の最大の特徴が、表と裏で迷彩柄の配色が違うことです。グリーンが基調の表面は「ジャングルサイド」と呼ばれ、森林や草原、畑などで主に着用されていました。そして、ブラウンが基調の裏面は「ビーチサイド」と呼ばれ、海岸や砂地、岩地などで着用されていたんです。

P-44 ダックハンターカモ

Image by: FASHIONSNAP

 ヘリンボーンツイルのP-44の両胸にあるカーゴポケットには、厚みのあるドーナツボタンが用いられていますが、ダックハンターカモのカーゴポケットには薄いドットボタンが用いられています。また、ヘリンボーンツイルの左胸に設けられているフラップ付きポケットは、ダックハンターカモには付いていません。これらは、裏返しにして着たときに邪魔にならないように配慮されたディテールだと思われます。ちなみに、このP-44にはトラウザーズ(パンツ)もあるのですが、そちらもリバーシブルで着用可能な仕様になっています。

P-44 ダックハンターカモ

Image by: FASHIONSNAP

P-44 ダックハンターカモ

Image by: FASHIONSNAP

 アメリカのミリタリーウェアは、軍やアイテムによって用いられているボタンが違います。僕は、このP-44をはじめとするアメリカ海兵隊のアイテムでよく見られるドーナツボタンが特に好きなんです。金属のボタンを黒のラッカーで塗装しているのですが、黒がかなり残っていたり、全体的に薄くなっていたり、所々剥げていたりと、個体によって表情が様々。僕にはそれが、デニム生地の色落ちのように、経年変化から生まれるヴィンテージならではの個性だと感じられるんです。

P-44 ダックハンターカモ

Image by: FASHIONSNAP

P-44 ダックハンターカモ

Image by: FASHIONSNAP

 状態やサイズにもよりますが、P-44ダックハンターカモの相場は安くても10万円代後半、一般的な状態のものならば20万円台〜という印象です。ヴィンテージミリタリーの王道とも言える人気アイテムですが、現時点で製造されてから約80年が経っているので、今後はますます希少性が高まるでしょう。もし絶対に手に入れておきたいのではあれば、早めのチェックがオススメです。

編集:山田耕史 語り:十倍直昭

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