“ディオール バックステージ”とメイクアップの「現在」。ピーター・フィリップスの思いとは?” | ELLE [エル デジタル] - Moe Zine

―今回の“ディオール バックステージ”における一番の「バックステージらしさ」は何?

「もともと2018年に“ディオール バックステージ”が登場したときは、実際のランウェイバックステージで使っているベーシックな色を提案していて、何も考えなくてもこの色を使えばいい、というようなラインナップでした。ところが今は、使う方たちのメイクがものすごく進化していて、10代前半の人もSNSでメイクアップについて発信している。もはやお人形で遊ぶのではなくメイクアイテムで遊ぶという世代です。ですから、そういう人たちにも『遊んでいただけるような』アイテムを提供したいと考えました。もちろんテクスチャーにはこだわりはありますが、色はあまり強くしないで重ねづけできるように、私たちが教えるのではなくて、使いながら自分で覚えていく、そのプロセスも楽しめるようなものを提案しています。

 トレンドについてよく誤解されるのですが、私たちがトレンドを設定しているわけではなくて、使っている人たちのあいだからトレンドが作り出されているんですよね。そのためにも使いやすくて面白くて重ねづけもできて、といったプロダクトを打ち出していくことが重要なんです」

dior

PARFUM CHRISTIAN DIOR

―実際のショーのバックステージでメイクアップアーティストとして仕事をする魅力とは?

「私の仕事にはさまざまな側面があります。まずコンセプト作り。コンセプトから始まりそれをプロダクトにして、ファッションショーでは、自分がコンセプトから作ったプロダクトを使用して裏方としてメイクする。そしてフォトグラファーと撮影して、ジャーナリストたちとも仕事をする。ひとつひとつも楽しいですが、その一連が仕事として魅力的です。

もちろん私は『ディオール』の仕事をしているわけですから、商品としての打ち出しにきちんと気を遣わなければならない。難しいですが、その範囲内でクリエイティブなことをやっていくのが魅力でもあります。同じプロダクトを使って10通りもの異なるビューティストーリーを作ることも。すごくチャレンジングですよね。でも、そういう制約があるからこそクリエイティビティがさらに爆発することが実はあるんです」

dior PARFUM CHRISTIAN DIORバックステージ ロージー グロウ 全6色 各¥6,380 バックステージ ロージー グロウ スティック 全6色 各¥7,040 ディオール アディクト リップ グロウ バター 各¥5,060  バックステージ グロウ マキシマイザー パレット 全4色 各¥6,930/以上パルファン・クリスチャン・ディオール

―2025SSから引き続き、テーマは“グロウ”です。あなたの考える“グロウ”とは?

「先ほども言ったように私たちはトレンドを作っているわけではありません。20年ほど前までは、ファッション界がランウェイや雑誌を通してシーズンごとにトレンドを発信していました。メイクアップなら「今季はブルーのアイシャドウがトレンド」など、そうしたトレンドに従えばよかった時代。SNSが入ってきてすべてが変わりました。ビューティの民主主義化というんでしょうか。情報も物もいっぱいあって自分で選べる。トップモデルや女優のマネをするだけではなく、誰もが自分や友人が自ら発信したり教え合ったりして、コミュニティができ、そこからトレンドが生まれる。そこでパラダイムシフトが起きました。私たちの役割は、トレンドが生まれるようなインスピレーションを彼らに与えられるような製品を出すことに変わったのです。

で、グロウですが、グロウって意外と難しいコンセプトで“glow=ツヤツヤ”と“greasy=テカテカ”との間に線を引くのは難しい。テクスチャーをより繊細にすることで自分らしいグロウを見つけられるようなアイテムを提供しています。みなさんがいろいろアイテムを使って、内からの光、自分らしいグロウの塩梅を見つけられればと。もちろんマットもいずれはカムバックすると思いますよ、今までと違うマットが。今は1つのトレンドが入ってきたら古いものは終わる、ということはなくて、ずっと残って並立していく。ですから自分をどのように演出するかは自由、そういう時代だと思います。

—SNSも発信されていて常に前向き。クリエイティブにもそうしたご自身のキャラクターが出ているのでしょうか?

「インフルエンサーほどのアップデートはしていませんが、私自身をわかっていただくためにプラットフォームは使っています。確かに楽観的かもしれないですね。モデルさんと会う時もプラスの部分しか見ません。メイクアップではその人のアラを隠すのではなく、持っているいいところをより強調するようにしています。メイクアップアーティストにはポジティブなマインドセットが必要なのかもしれません。今回のシェード展開にも(そうしたマインドセットと)共通するところがあります。とても使いやすくて遊べるものです」

—SNSで若い世代の一般人が発信しているメイクを見て「気づき」を得ることはありますか?

「けっこうあります。本当に上手な人いますよね。まず自分で自分にメイクしながら見せるの、あれは私にはできませんよ(笑)。ほかの人に対してはメイクできるんですが。別人になるくらいのクリエイティブなフルメイクを自身でやっているところを見せるってすごいです。

あと、K-POPアーティストたちから情報を得たりもするんですが、例えばセッティングスプレー。私はメイクの最後にだけ仕上げとしてセッティングスプレーを使うのですが、彼らはメイクのプロセスごとにセッティングスプレーを吹きかける。何か1つつけたらシュッと吹きつけて、スプレーのレイヤーを4層も5層も重ねていくんです。そうするとステージでどんなに汗をかいても崩れない。みなさん、いろいろ楽しそうにメイクの実験をしていて、本当に勉強になりますよ」

PROFILE:ベルギー、アントワープ生まれのメイクアップアーティスト。ディオール メイクアップ クリエイティブ&イメージ ディレクター。フェミニンでありながらユニークなビジョンを併せもつ彼には、世界のトップフォトグラファーやデザイナーからのオファーが後をたたない。

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