2023年12月、音楽ナタリーでは荒井由実やYellow Magic Orchestra(YMO)を世に送り出し、数々の伝説を日本の音楽史に刻んできた川添象郎と、アイドルやイベントのプロデューサーとして知られている大郷剛のインタビューを掲載した(参照:川添象郎&大郷剛インタビュー|YMO楽曲をアイドルがカバーするPrincessnext始動)。SoulJa「ここにいるよ」と、そのアンサーソングである青山テルマ「そばにいるね」をともにヒットさせるなど、過去にも接点を持つ2人がYMOの楽曲をカバーするアイドルユニットを始動させると聞き、プロジェクト発足の経緯を掘り下げた。

その後、川添は2024年9月8日にこの世を去ったが、その直前まで病室で打ち合わせを繰り返していたという大郷は「遺作となった音楽プロジェクトは責任持って進めて行きます」と宣言(参照:音楽プロデューサー・川添象郎が死去、荒井由実やYMOを世に送り出す)。ついにPrincessNextのデビューシングル「PrincessNext」が今年8月27日にソニー・ミュージックレーベルズよりCDリリースされることが決まった。メンバーは放課後プリンセスとしても活動しているAMI、YU、KARIN、シングル収録曲はYMOの楽曲に新たな歌詞やアレンジを加えた「コズミック・サーフィン」「NICE AGE」「シムーン」。本作の発売に向けてメンバー3人と大郷にインタビューし、現代の感性で再解釈されたYMO楽曲への思いを聞いた。


取材・文 / 秦野邦彦撮影 / 堅田ひとみ

PrincessNextメンバーはタイプが異なる3人

──約1年半前に特集記事を掲載したPrincessNextのデビューシングルが、いよいよ8月27日にリリースされます。

大郷剛 昨年9月に川添さんが亡くなられて「遺作となった音楽プロジェクトは責任持って進めて行きます」と誓ってからかなり時間がかかってしまいましたが、ようやく形にすることができました。今年6月7日に「祝賀会」という名の川添さんを偲ぶ会が開催されて、そこで業界関係者に伝えたのち、6月18日にソニーからプレスリリースが発表されました。急ピッチで動いた感じですね。

──川添さんの遺作であり、大郷さんにとっても念願のプロジェクトだとうかがっていたので、感慨深いです。

大郷 そもそもこの企画の発端は今から7、8年前にさかのぼります。ひさしぶりに川添さんの家に行って、僕がプロデュースする放課後プリンセスの音源を聴いてもらったときに「こういうのはYMOと相性がいいと思うよ。『Firecracker』に歌詞を付けてやったらどうだ」みたいなことを言っていただいたんです。そのときは単なる雑談で終わったんですが、時が経っても僕の中にその言葉がずっと残っていて、これはやらないと後悔すると思い、川添さんと再びタッグを組ませてもらいました。

PrincessNext

PrincessNext

──YMOとアイドルの関係だと、1980年代に細野晴臣さんは松田聖子「天国のキッス」、中森明菜「禁区」、坂本龍一さんは岡田有希子「くちびるNetwork」を作曲してヒットさせています。さらにさかのぼるとYMO最初期のライブではピンク・レディーの「ウォンテッド(指名手配)」がレパートリーの1つとなっており(ライブアルバム「ライヴ・アット・紀伊国屋ホール1978」に収録)、その後、坂本さんはピンク・レディーのヒット曲を徹底的に研究して「テクノポリス」を誕生させています。そうした文脈を踏まえて今回のPrincessNextのデビューシングルを聴くと、日本のポップミュージックの歴史と進化が感じられて、とても興味深かったです。

大郷 ありがとうございます。先入観なく聴いていただけたらうれしいです。

──では、PrincessNextの皆さん、自己紹介をお願いいたします。

YU はい! じゃあ、まずは私から。YUです。私は自分のことを極端で二面性がある人間だなと思っていまして。普段はわいわい盛り上げたい性格なんですけど、1人になると部屋に閉じこもって月を見ながら黄昏たり、部屋を暗くして音楽を聴いたりするのが大好きで。ファンの方には「どっちが本当のYUちゃんなの?」と戸惑われることもあるんですけど、どっちもありのままの私ですし、そこが自分のいいところだなと思っています。

YU

YU

KARIN KARINです。PrincessNextはおしゃれでカッコいい印象がある中、私は声質も見た目も全然雰囲気が違うので、最初はそこに合わせていくのが自分の課題かなと思っていました。でも「NICE AGE」でラップをやらせていただいたり、放課後プリンセスでのパフォーマンスと全然違うものに挑戦していて。見た目や声質とのギャップを見せられたらいいなと思ってこの活動に取り組んでいます。

大郷 僕から1つ補足させてもらうと、KARIN本人は「自分はPrincessNextとイメージが違う」という先入観を持っているかもしれませんが、僕も川添さんも全然そんなことは思っていなかったです。彼女のかわいらしい声はラップのいいアクセントになってるし、最初は苦手だったダンスも個人レッスンを受けてその成果が出ていると思います。

AMI 今やっているリリースイベントでも、KARINちゃんのよさが「NICE AGE」のラップパートに出てますね! そして改めまして、AMIです! 私はこの3人でPrincessNextとして新たに活動をスタートさせることが決まったとき、髪の毛をハイトーンに染めました。パッと目につくアイコン的な存在になれたらいいなという願望も込めて。グループでメンバーそれぞれにキャラクターがある中、自分の存在を確立したいと思ったんです。ライブのMCでしゃべるときに、話をまとめられるようになりたいという思いもあって、ほかの2人が伝えたいことも、自分自身が伝えたいたいこともしっかり言葉で届けたいと考えています。

YU KARINちゃんと私は思ってることをうまく伝えられないときがあるんですけど、AMIはそんな私たちの言いたいことをうまくまとめて話してくれるので、いつも助けられています。

KARIN いつも冷静なんです。本当にタイプが全然違う3人ですね!

AMI 放課後プリンセスと並行してPrincessNextとして約3年間一緒にレッスンやレコーディングをやってきたので、すでに関係性は深まっていたんですけど、PrincessNextの活動が本格的に始まったからこそお互いに見えてくるものがあって。これまで以上に2人の考えが汲み取れるようになったと感じます。

AMI

AMI

YMOをカバーすると聞いて「なんの冗談を言ってるんだろう?」

──メンバーの皆さんはYMOの楽曲をカバーすると最初に聞いたとき、どう思われましたか?

YU 私は「え、なんの冗談を言ってるんだろう?」と思ったくらい、自分たちとYMOが結び付かなすぎて(笑)。初めてデモ音源を聴いたときもまだ実感が湧かなかったですし、衣装を着てもまだ現実じゃない感じがありました。私の母が細野晴臣さんの音楽が好きで、昔から家でよく流れていたので、もちろんYMOの存在も知っていましたし、その楽曲を自分たちがカバーできることへの喜びはすごくありました。

KARIN 私がアイドルになる前から大郷さんと川添さんは「YMOとアイドルを掛け合わせたら面白いんじゃないか」という話をされていたわけで、そのプロジェクトに携わらせていただけたことへの感謝の気持ちでいっぱいです。音楽を届ける側の人間として、偉大なYMOの楽曲をカバーできることの光栄さを感じましたし、同時にこの企画を面白いと思って応援してくださっている方たちの期待も背負ってがんばらないといけないなと。

KARIN

KARIN

AMI たぶん、このプロジェクトの話を聞いたとき、メンバー全員驚きが最初に来たと思うんです。2年前に川添さんとキャンティ(※川添の両親である川添浩史・梶子夫妻が1960年に開店した日本初の本格的なイタリアンレストラン。各界の著名人、文化人が集う交流の場として親しまれてきた)で顔合わせをさせていただいたときに初めて実感が湧いたというか。そこからデビューまで時間がかかった分、がんばっていかなきゃいけないと思っています。

大郷 このプロジェクトを準備している中、2023年の1月に高橋幸宏さん、3月に坂本龍一さんが亡くなられました。晩年の川添さんと細野さんのメールのやりとりに「お互い元気で長生きしましょうね」みたいなことが書いてあったのを見て、なんとしてもやりとげないといけない、後世に残るものを作りたいという思いをさらに強くしました。川添さんは波乱万丈の人生を送られていましたけど、音楽に関してはものすごくピュアだったし、その考え方や作り方を伝授していただけて本当によかったなと思います。

──大郷さんとの関係においては、川添さんがフラメンコギター奏者だったことも大きいのではないでしょうか。

大郷 フラメンコギターをきっかけに川添さんという存在を知りましたからね。僕の親父がフラメンコギターをやっていて、親父の友達と川添さんはずっと昔から切磋琢磨してきた仲間だったんです。僕が芸能の仕事に就いてしばらくした頃、親父から「川添さんという人がいるから挨拶に行ってみたら」と言われて。経歴を見ると後藤象二郎のひ孫と書いてあるし、キャンティは敷居が高いレストランとして当然知ってたので、こんなすごい人がいるんだなと。川添さんとはパコ・デ・ルシアのコンサートをはじめフラメンコもよく観に行ったんです。あの頃スマホがあれば、川添さんがギターを弾いてセッションしている映像もたくさん残せたのに……もったいないですね。

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現代らしさを感じられる「NICE AGE」

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