今から40年前の1985年、日本では80年代を象徴するレーベル、CBS・ソニーとエピック・ソニーが新たなアーティストの新たな音楽を次々と送り出していた。その頃の〈新人〉は現在も人気を誇るアーティストばかりで、当時のサウンドはJ-POPの原点や礎、原風景と見ていいだろう。この時期の作品はCBS・ソニー信濃町および六本木スタジオの特徴的な音も魅力であり、さらにLPからCDへの転換期という技術的にも変化を迎えた時代でもあった。そんな1985年を彩ったCBS/エピック・ソニーの重要盤をピックアップして紹介しよう。 *Mikiki編集部
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尾崎豊『回帰線』(3月21日)
傑作『十七歳の地図』(1983年)に続く2ndアルバムにしてヒット作。高校退学からデビューライブを経た尾崎が1stツアー開催中に制作したといい、〈10代の代弁者〉〈若者の教祖〉と持ち上げられるようになる彼のイメージを決定づけた名盤だ。
アルバムはブルース・スプリングスティーンや佐野元春を思わせる、ストリート感とライブ感に溢れたドラマティックでパワフルなロック“Scrambling Rock‘n’Roll”で切り裂くように開幕する。〈自由っていったいなんだい〉と問いかける歌詞は実に尾崎節。続く“Bow!”も〈否が応でも社会に飲み込まれてしまうものさ〉〈あいつは言っていたね サラリーマンにはなりたかねえ/朝夕のラッシュアワー 酒びたりの中年達/ちっぽけな金にしがみつき ぶらさがってるだけじゃ NO NO/救われない これが俺達の明日ならば〉といった具合だ。“存在”にしろ、とにかく自身と聴き手の在り方を根本から問い、逡巡も躊躇いなく吐き出す歌、そして言葉が非常に強い。また1991年にシングルカットされた“I LOVE YOU”のカップリングに採用された名バラード“ダンスホール”や“シェリー”も、もちろん聴きどころだ。
最重要曲は当然B面の最後を飾る“卒業”だろう。この曲を含め全曲が社会や制度、常識や〈普通〉とされるものに対する違和感を抱えた人々(それは不良少年少女に限らない)のアンセムであり、時代を問わずこれからも〈若さにまかせ挑んでくドンキホーテ達〉のサウンドトラックでありつづけるはず。
PSY・S『Different View』(5月22日)
PSY・S(読み:サイズ)は、シンセサイザーやギターなどを操るマルチプレイヤー松浦雅也(後年、ゲーム「パラッパラッパー」シリーズの音楽でさらに知られるようになる)とボーカリストCHAKA(安則まみ)のニューウェーブバンド。前身PLAYTECHS名義の自主制作盤『NO DUPLICATIN’』が話題になったことが、PSY・Sとしてのデビューに結びついた。ちなみにデビュー後1年はライブ活動をせず、それ以降にバックバンド〈Live PSY・S〉との公演をおこなったという。録音物先行の戦略性はボカロ世代の米津玄師などの先駆に思える。
本作はムーンライダーズの故・岡田徹が共同プロデュースしたデビューアルバムで、演奏には白井良明、武川雅寛といったムーンライダーズのメンバーも参加。アルバム1曲目の“Teenage”もシングルとして同時発売された。松浦のトレードマークであるフェアライトCMIを駆使したテクノ/シンセポップサウンドとCHAKAのイノセントで少女的なあどけない歌唱の組み合わせは、のちの中田ヤスタカのCAPSULEやPerfumeを予見させ、現代にも繋がる要素が多分にある。なお英語詞の曲を日本語詞にしたのはハルメンズやパール兄弟での活動で知られる佐伯健三(サエキけんぞう)で、テクノポップコネクションが凝縮された作品でもある。そろそろリバイバルの波が来るのでは!?