老舗テーラーで研鑽を積んだ桑田は、その確かな腕前で、服の形や構造の可能性を追求し続けている。そして彼の特徴的な、イギリスのテーラーリングと日本の革新性を融合させた“遊び心のある機能的なスタイル”は、シーズンを追うごとに進化している。「いくつものピースを揃えた、幅広いラインナップを作ることにはあまり興味がありません。自分がずっとやってきたことを、ただ突き詰めているだけです」。今回もサヴィル・ロウの精緻なテーラーリングを、折り紙のように折りたためる軽やかなデザインに再解釈したピースが土台となっている。だが、以前から打ち出しているものとは違い、今季はプロポーション全体が小さめだ。「ピッコロ・オリガミ(小さな折り紙)」と名づけられた折り目付きのジェンダーレスなジャケットなどは、腰ばきのノーサイズパンツと合わせられ、対照的なサイズ感が見事にマッチしていた。
Photo: Isidore Montag / Gorunway.com
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ほかにも今季は、暖色のカラーパレットが新たに披露された。ジンバブエの夜明けと夕焼け、ヴィクトリアフォールにかかる幻想的な虹にインスパイアされたというそれを、桑田はハンドペイントした繊細なシルクシフォンのドレスとして表現。旅行と釣りの際はファッション性と着心地の両方を重視するという彼らしい、ファスナーを開けば布がほどけ、スカーフに変身するシャツとパーカのハイブリッドピース、襟にハンドルを仕込み、たためばトートバッグのように提げられるサファリジャケットといった機能的なアイテムも展開された。
Photo: Launchmetrics.com/spotlight
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そして桑田はユーモアを忘れず、今シーズンは魚をもデザインに落とし込んだ。あるルックはガーメントバッグからできており、首や裾の引きひもを締めることで形を自由に操れるチュニックとなっていた。その首もとやウエスト部分には小さな黒い鯉があしらわれ、それは単なる装飾ではなく、留め具の役割も果たしている。「タイガーフィッシュにインスパイアされました」と桑田は説明。「タイガーフィッシュは雑魚などを食べる捕食者です。そして小さい魚は攻撃されるとパニックに陥り、逃げようとします。水中で繰り広げられるその狩猟劇を表現したかったんです」。ベジタリアンの人にとってはやや刺激が強いコンセプトかもしれない。ルック自体は気に入っても、着るのをためらうのではないのか、と問われた桑田は、間髪入れずにこう答えた。「魚なしのタイプも買えます。でも、魚が付いているからこそ、より遊び心があるんです」
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Text: Adaptation: Anzu Kawano
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