ビューティ賢者が
最新の業界ニュースを斬る
ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN.com」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。今週は、世界に市場が広がるJビューティの商機を考える。(この記事は「WWDJAPAN」2025年5月26日号からの抜粋です)
PROFILE: 渡邉弘幸/ウカ代表取締役CEO
PROFILE: (わたなべ・ひろゆき):東京都出身。明治大学卒業後、博報堂に入社。2009年の退社後、夫人でありネイリストとして活躍する渡邉季穂(わたなべ・きほ)の祖父が創業した向原(現・ウカ)に取締役副社長として入社。美容室「エクセル」からトータルビューティサロン「ウカ」へのリブランディングのほか、教育機関「ウカデミー」、オリジナルプロダクト・サロンメニューの開発を担うR&D、「ウカフェ」の立ち上げ、海外展開にも尽力。14年から現職
【賢者が選んだ注目ニュース】
スペインのテーマ型ファンド、アイリス・ベンチャーズが成分や原料に投資する背景には“ロンジェビティ(健康的に長生きすること)”があるという。日本ではKビューティが席巻する中、アメリカのZ世代は消費において65%が長期的な健康効果に焦点を当てたダイエットや食品選択を好むというから驚きだ。
記事の中で挙げられているロンジェビティにおける栄養戦略の中心になっている成分の一つ、クルクミンに目が留まった。クルクミンはウコンに含まれる黄色い成分で、われわれウカはヘナカラーでの色表現を増やすために開発を進めている。そんなことから、ここ数年力を入れている石垣島の原料が投資対象になることもあるのではと胸が膨らんだのだった。
先月のこの連載では、成分解析までしてくれる韓国発の口コミアプリ「ファヘ」がグローバル化にかじを切ったことで、消費者の関心が増し、原料や成分への投資が加速するだろうと考えた。加えてロンジェビティへの関心増によって、間違いなく原料や成分、また製品の背景が消費者の選択肢に影響すると実感したのだった。われわれは製品開発をするにあたり、石垣のヘナや下田のクロモジを取り入れ、リジェネラティブグッドなモノ作りに注力している。数年かけて取り組んできたことが、世界的な投資や消費の潮流と一致してきたと感じてうれしく思う。
また栄養を取ることとサプリメントを取ることの境界線はどんどん曖昧になっている。当然食への関心が高まる中で、コスメでも同様のことが起きるのは時間の問題だ。口から取り入れるものへの関心が高まれば、肌につけるものへの関心も高まる。インバウンド観光客は日本にはロンジェビティに対応する商品があまりにも多く、細分化されていることに驚くという。こういった商品はきっと海外でも人気を集めるに違いないし、大きなビジネスチャンスが潜んでいる。目の前の短期的な美しさではなく、中長期的で持続的なものを重んじるJビューティの姿勢が世界で認められているということは、メード・イン・ジャパンのコスメ企業にとっての応援歌でもあるだろう。
しかし世界を席巻するKビューティと異なり、日本企業が海外に進出しようとしても政府のサポートが薄く、突破力が弱い。例えばアメリカは訴訟が多い国で、企業やブランドはコンプライアンスを徹底している。消費者もブランドに対して、なぜ情報を開示しないのかと投げかける文化がある。日本とはあまりにも文化が異なり、マインドセットができずに頓挫してしまいがちだ。ウカはアメリカでのビジネスに着手し始めたところで、身をもって感じている。US版のホームページでは、ウカなりの解釈でアメリカの市場に寄り添い、消費者が求める情報を開示する姿勢を示している。日本が得意とする分野に世界が目を向け始めている。この商機を逃さないようにするには、民間では埋められない文化的なギャップを政府が埋める未来に期待したい。
ブランドの世界観を丁寧に伝える店作り
「ルメール」の恵比寿の住宅街にある直営店が好きだ。記事の中で「喧騒から少し離れて、ゆっくりと自分自身に向き合い、再接続できるような場所。この(恵比寿の)店もまた、そんな静かな贅沢を体験できる場所でありたい」と語られている。そんな店舗作りに共感する部分がたくさんあった。
ウカはこの秋、東京・高輪ゲートウェイシティに「uka store/Care&Share」をオープンする。妻である渡邉季穂は、30年以上にわたり気持ちよく爪をケアすることを軸とし、サロン技術と製品開発、教育や取材を通して技術のシェアに向き合ってきた。そんな彼女の集大成として、ウカのディープケアメソッドを基盤としたサロンとストア、ワークショップ機能のある店舗作りをしている。
「ルメール」は一貫してラグジュアリーブランドに対する批判的な視点を持っている。「実用性のあるものに、どれだけ美意識を込められるかをずっと考えてきた」という。ウカもサロン発のモノ作りや店舗作りにおいて、その点を大切にしている。高輪の店舗はクリフトフ・ルメールが考えるように人の心をほんの少しだけ変えられるような、サロンやコミュニティーとしてうれしいがあふれる場にしていきたいと考えている。
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