今、世界を席巻する美容の「燃え尽き症候群」【シリーズ:20 年後の私たちの外見はどう変わるか Vol.2】 | Vogue Japan - Moe Zine

「2020年のコロナ禍の年は、人々が美に“異常なほど執着”した年でした」と語るのは、ポッドキャスト「The Naked Beauty」のMCのブルック・デヴァードだ。パンデミックの最中に彼女の番組のリスナー数は爆発的に増え、Zoomでの長時間のやり取りはボトックスブームを巻き起こし、美容整形の施術率はその後2年間で19%上昇したと続ける。

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リンジー・ローハンは、“気づかれない美”という美学トレンドを体現するセレブのひとりとして称えられている。

Photo: (Left) Courtesy of Kena Betancur/AFP via Getty Images) and (Right) Swan Gallet/WWD via Getty Images)

さらに2022年にアメリカの最高裁が「ロー対ウェイド」判決を覆したことで、それまで連邦法の下に認められていた人工妊娠中絶の権利が保障されなくなると、アメリカ女性の中で女性とは“軽く扱われるもの”と受け止める風潮が出てきたことから、皮肉をこめたベースメイク「グレイズド・ドーナツ・スキン」(=うわべだけ美しく輝く薄っぺらいもの)がトレンドとなった。

そして2023年に12以上の州でほぼ全面的に中絶禁止法が制定されると、人は“自分の体は自分のもの”という意識をギリギリ保ちながらも、わかりやすい美の象徴であるバービー人形のスタイルに憧れ、手っ取り早く適応外処方のオゼンピックを注射し、複数の州で発生したトランスジェンダーへの迫害は、「今、少女たちの間でピンクのグロスやリボンバレッタがブームとなっている」というニュースと並ぶほど軽いものになっていった。

それを裏付けるように、2024年にトランプ大統領が再選したとき、ある女性は『テレグラフ』紙に対し、セフォラのセールで大金を使ったのは「ただストレスを発散するため」だったと語っている。つまり、前述の2025年を特徴づける膨大なルーティンは、政治的混乱が起きている“にもか関わらず”存在するのではなく、政治的混乱が起きている“からこそ”存在するのだ。

2022年に最高裁判所が「ロー対ウェイド判決」を覆したという事実は、アメリカ人女性に“自分はただのモノ”であるという意識を植え付け、その反骨精神は甘いシロップでコーティングした安っぽいドーナツのような「グレイズド・ドーナツ・スキン」のトレンドへと姿を変えた。

このように、今後ますます美容業界も「燃え尽き症候群」の大きな煽りを受けることは間違いない。気候変動は日焼け止めや大気汚染対策スキンケア、制汗スプレーの需要を促進し、所得格差は富裕層と経済的余裕のない「今買って後で払う」システムを利用する層に二極化し、“美容格差”を生む。デジタルアバターでパラレルワールドを生きることで、不自然な美しさを病的に追求する人は増え、機能不全の医療制度は美容と健康を“自己治療”へと変えてしまう。そして「外見が魅力的な人は就職にも有利」という研究結果は、美容を“就職戦線を生き残るため鍵”というポジションに押し上げてしまう。

美容における「燃え尽き症候群」の正体

このような状況に対し、ティルマンは「燃え尽き症候群は、抜け毛やニキビ、肌のくすみ、早期老化といったストレスに起因する問題を悪化させる可能性が高く、身体的症状として現れることもあります。そのため、(今後の美容は)こうした表面的な問題への“解決策”(として製品)を売り込む絶好の機会となることは想像に難くありません。そして消費者は、こうしたソリューションに疲れを感じるというより、利用しないことにますます不安を抱くようになると思います」と語る。

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