5月2日の「金曜ロードショー」(日本テレビ系)で『君たちはどう生きるか』が初放送される。エンタメに詳しいライターの村瀬まりもさんは「声のキャストに菅田将暉、あいみょんらが起用されたのは、宮﨑監督が徹底的にプロの声優を避けたからではないか」という――。
不気味でグロい「サギ男」が菅田将暉なのかという衝撃
「どうやら、長い間、待ち続けたお方が現われたようだ。いざ、母君の元へご案内しましょうぞ」
青サギの長いくちばしからのぞく人間のような歯と目。赤くはれた巨大な鼻。屋敷の池に降り立った青サギは、人間の言葉を話し、主人公の少年の死んだ母が生きているという嘘かまことか分からないことを言って、彼を異世界に誘おうとする。
『君たちはどう生きるか』の物語が大きく転換するシーン。なんの情報もなしに見たら、不気味な青サギの声が俳優の菅田将暉だと分かる人はいるだろうか。
『君生き』こと『君たちはどう生きるか』は、『風の谷のナウシカ』などオリジナル長編映画10作を手がけてきた宮﨑駿監督がいったん引退を宣言した後の復活作として、スタジオジブリが7年の歳月をかけて制作し、2023年7月に公開された。日本での興行収入は94億円。海外でも公開され高評価を受け、米アカデミー賞長編アニメーション映画賞に選ばれた(『千と千尋の神隠し』以来、2度目)。
『君たちはどう生きるか』© 2023 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli
2年前の劇場公開時、声のキャストは事前に明かされなかった
この映画がそれまでのジブリ作品と違ったのは、劇場公開前の宣伝をほとんどしなかったこと。大ヒットが見込まれる東宝配給の夏休み映画なのに、ストーリーも時代設定も、主人公たちの声を誰が演じるのかも極秘情報として伏せられていた。予告編も流れず、試写会やボイスキャストが勢揃いしての記者会見も行われなかった。
筆者も映画館で初めて『君たちはどう生きるか』を見た。「吉野源三郎の同名小説を基にしている」というぐらいしか事前情報はなかったが、実際にはタイトルを借りただけのまったく別の物語だった。公開初日に見た人たちが、菅田将暉やあいみょんがキャラクターの声を当てているとSNSなどで発信。さらにテーマ曲「地球儀」を作ったのは“主題歌職人”の米津玄師だという。公開時、宮﨑駿監督は82歳だったが、かなり若者に寄せてきた人選だと思った。
菅田将暉が出演していると聞けば、ほとんどの人が、主人公の少年・眞人の役だと思うだろう。しかし、映画が始まって眞人の声を聞いていると、どうもそうではない(眞人役は公開時18歳の山時聡真さんときそうま)。その父・勝一しょういちの声は木村拓哉で、これも冒頭の東京での緊迫したシーンでは分かりにくいが、舞台が疎開先の地方になってからは、さすがに分かる。