Sound Horizon『ハロウィンと朝の物語』がつなぐ過去作と今 - Real Sound|リアルサウンド - Moe Zine

 そもそも物語を通じてRevoが発信する、その根幹の一つに自己肯定がある。活動初期からRevoは、自ら選んだ道によって次々と分岐していく人生を描きながら、選択肢に優劣はなく、自らの選択を受容することを推奨してきた。それはアイデンティティ確立の第一歩でもあるが、ただRevoは「みんな違ってみんなイイ!」とは打ち出しても、「そのままの君でいい」とは説かない。90年代以降、J-POPでは自己啓発、自己肯定が歌詞の主流の一つとなり、多くの応援歌が生み出されたが、それは受け取り手が求める快楽を提供するベンディングマシン的役割も大きく、それによって音楽市場が肥大化した部分もあった。だが、Revoは「物語」の形で提供する上で、「解釈の自由」の旗印のもと、聴く者が自己を振り返る機会を与える。『絵馬に願ひを!』 (Prologue Edition)では媒体としてBlu-rayを選び、映像作品としてリリース(続いてリリースされた「Full Edition」も同様)。その真意は選んだ分岐点によってストーリー展開や再生される楽曲が変わるボリュームの実現であり、それによって「リスナー」を「プレイヤー」へと変換させた。CDブックレットを手に取っても《》で括られた歌詞にルビは振られず、読みは明かされず、だがだからこそ物語世界はより拡大展開されていく。例えるならば、「強敵」を「とも」と、「宇宙」を「そら」と読ませることで単語は広がりを増し、物語は深みを増すように。和歌の掛け詞や戯作の駄洒落、西洋でも詩作上多く用いられたダブルミーニングのようなものだ。言わば、作り手であるRevoは物語を提供し、聴き手/読み手の我々は物語を咀嚼し、消化し、自らの血肉とする。それは美しい形だ。だからこそ、Sound Horizonの物語は結末らしき結末を有さず、その先に想いを馳せずにはいられない。

 今回CDリリースされた『ハロ朝』は、2024年11月13日に先行配信リリースされた同作から一曲、「約束の夜」がその第三楽章【夜明けに皐き月を背負ひて】に加えられている。その曲中には、Story Maxi『聖戦のイベリア』に登場したシャイターンとライラの名を耳にできる。あるいは、7th Story CD『Märchen』の「宵闇の唄」で謳われた「此の物語は虚構である。然し、其の総てが虚偽であるとは限らない。」の文言に対し、今作『ハロ朝』のブックレットに記された「此の物語は真実である。然し、其の総てが現実であるとは限らない。」が何を意味するのか。Sound Horizonと言えば、深く階層化された物語、すなわち物語の読解が容易ではないとイメージする者も多い。確かにSound Horizonは各作品を深く読み解くほどに楽しめるギミックや仕掛けが多く隠されているのは事実だが、自責の念を込める意味でも、“ガワ”にばかり目を向けることから離れようと唱えたい。前述のBlu-rayにしても、Sound Horizonを愛好する者への様々な仕掛けも、あくまでもサブ的なエンターテインメント要素に過ぎない。言わずもがなであるが、Sound Horizonの本質は、Revoが贈り出す類稀なメロディと、決死の覚悟で構築させた物語にある。しかも、Linked Horizonの活動を経たことでRevoのストーリーテラーとしての能力はエンターテインメント性が飛躍的に向上している。『ハロ朝』に接した瞬間、この物語を味わってほしいという気持ちが強く湧いてくる。20周年を迎え、青々とした果実が成熟するようにSound Horizonは洗練されてきた。青林檎を好む人もいるだろうが、次代へと命を紡がんとするRevoが生み出す物語を楽しんでほしい。

 ただ、Revoは常に「物語」をパッケージングする。音楽や歌詞だけではなく、ジャケットやブックレット、装丁に至るまで、ギミックに富み、一要素一要素がアートとして目の前に降り立ち、総ての要素が物語を着飾っている。これまでリリースの度に感じていたことではあるが、CDリリース版の『ハロ朝』を手にすると、配信よりも遥かに広く深い世界に接せられたことを実感する。音楽に乗せて物語を生み出し、多数の表現者を巻き込んで、自らの世界を表現するために創意工夫を凝らして制作に臨んでいるRevo。その圧倒的な個によって生み出される総合芸術がSound Horizonであり、その最新作にして、1枚で美術展が如き作品が『ハロウィンと朝の物語』である。

■リリース情報
Beyond Story Maxi『ハロウィンと朝の物語』
発売中

<収録内容> ※特装盤/通常盤 共通
1. 物語
2. 小生の地獄
3. あずさ55号
4. 《光冠状感染症狂詩曲》
5. あの日の決断が奔る道
6. 皐月の箱庭
7. Halloween ジャパネスク ’24
8. 約束の夜

【特装版】(PCSC受注生産限定)
CD+Blu-ray
価格:¥13,000(税込)
品番:BRCA.00156
仕様:
・「Halloween ジャパネスク ’24」MV収録Blu-ray Disc付き
・「12通の伝言」
・歌詞ブックレット
・トールケースサイズ豪華装丁

【通常版】
CD Only
価格:¥2,500(税込)
品番:PCCA.06372
仕様:歌詞ブックレット

<ショップ別オリジナル特典>
『ハロウィンと朝の物語』〈通常盤〉を対象店舗にてご予約/ご購入いただいた方に先着で、販売店舗別オリジナル特典をプレゼントいたします。

・全国アニメイト(通販含む):登場人物たちからのグリーティングカードA+レターセットA
・Amazon.co.jp:登場人物たちからのグリーティングカードB+レターセットB
・楽天ブックス:登場人物たちからのグリーティングカードC+レターセットC
・全国HMV/HMV&BOOKS online:登場人物たちからのグリーティングカードD+レターセットD
・セブンネットショッピング:登場人物たちからのグリーティングカードE+レターセットE
・タワーレコードおよびTOWER mini全店、タワーレコードオンライン:登場人物たちからのグリーティングカードF+レターセットF
・ポニーキャニオンショッピングクラブでご予約の〈通常盤〉:登場人物たちからのグリーティングカードG+レターセットG

清水耕司

清水耕司
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編集・文章作成。出版企画として、『子供ができて知ったこと』(扶桑社)、『サイバーフォーミュラ 25周年デザインワークス』(MdN)。脚本執筆として、『うたわれるもの 二人の白皇』(13・26話)。他に、編集・執筆に、『宇宙よりも遠い場所』(BD-BOXブックレット)、『劇場版 Gのレコンギスタ』(BD-BOXブックレット)、『Animelo Summer Live』(公式パンフレット、2018-)。他に『魔夜峰央トークイベント“魔夜会”』台本作成、クイズ問題作成(『PEANUTS』『鬼滅の刃』『大相撲』『WINS(JRA場外勝馬投票券発売所)』『Fate/ Grand Order』他)など。

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