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菊池寛短編集より 由良之助役者・我鬼【朗読】白檀



菊池寛短編集より 由良之助役者・我鬼【朗読】白檀

菊間短編 集第1 話由の助 役者四国から中国筋へかけ て市川海老太郎の人気はかなり素晴らしい ものであっ た それも岡山とか広島とか四国へ渡っては 高松とか松山などいう地方のかなり大きい 都会における人気ではなかっ たが人口23000から1万に近い田舎の 町ことに比較的繁華な港町などでの海老 太郎の人気は全く盛んなものであっ た彼は住人たの少数の財しか持ってい なかったがその座員に対しては王者のよう な権力を振ってい た年はもう50をよほど出ているらしかっ たお咲という女房ともめかけともつかぬ女 が彼の唯一の家族であっ た彼は一体生まれながらの旅役者かそれと も相当の位置まで登っていた大阪役者か あるいは東京役者 か何かの原因から旅回りに身を落としたの か一座のものにも覚前とは分かってい なかっ たが老子の影がだんだん迫りかけている 海老太郎の身の回りのどこか に昔は大劇場の舞台を踏んだらしい争われ ない気品がかかに見えることがよくあっ た実際彼のゲは幾年という旅から旅への 放浪のために凄み切ってい た田舎の見物をあっと言わせるような 当て込みたくさんの方を奥目もなくやる ことが多かっ たが彼は時々思い出したようにいい方を 見せ て一座の誰彼を関心させた こんな時誰かが 親方今日の方は累と真手がありません なと褒めたてる といつもは濁りきっている顔をやや ほばしら ないような霊性を報いた がそれでもどこかに得意の影が見えてい た彼は自分の芸に大きい自信と誇りと思っ てい た彼がまちまちの衝撃場 で芝居に対して批判も理解もなくただ無知 な単勝しか持っていない見物を相手にして いる時 は田舎者目が見せてやるんだぞという 心持ちが常に動いているらしかっ たがそうした警部を受けているとは知らぬ 全量な田舎の見物に は大抵彼の崇拝者であっ

た彼らは よく海太郎おみ占領役者の顔じゃが なと簡単し たがこの簡単は決して理由のないものでは なかっ た実際エ太郎の顔は田舎回りの役者とし て普通一般の役者としてはひいなきまでに 立派な顔であっ たその正しく高い花と大きい 目しかもそれら全体を方眼してゆりのある 大まかな顔全体の輪郭 は世間に聞こえた明友の顔と言っても 決して恥ずかしいものではなかっ た彼が自分の芸についての自信 はやがて彼の強い自存心となってい たそれは田舎回りの役者としてはほとんど 国旗に近いほどの 強い一歩も譲らない自尊心であっ た一座のもの から彼は座としての十分な経緯を要求し たそして東京や大阪などの大劇場に行わ れるような役者同士の作法を 一座のものに厳しく敷いていっ た左方もクソもあるもんかこんな薄汚い 小屋の中 でと一座の者は影ではブツブツと小言を 言った が海太郎の前に出るとなんとなくけされる ような異言を感じ て麺と向かって反抗するようなものは1人 もいなかっ た彼は自分の芸の力をも十分に信じてい た全ての見物は自分の芸を見るためにのみ 来るものだと確信してい た従って彼は一座の役者の芸はほとんど 眼中に置いていなかったので あることに彼は由之助がお箱であっ たもしどこかの工業の中途で 少しでも客足が落ちるような様子が見える と彼はすぐ工業主を呼ん で1つ二の代わりに中心グを出そうじゃ ありません かご当地の見物方には中心ぐが一番早 ばかりがするようです からと皮肉な微傷を称えながら言っ たしかもその二の代わりの現は常に的確な 効果を収めて彼を息よよと次の工業地へ 送るのであっ た実際海老太郎の由之助といえば四国の 田舎などでは知らぬものがないほどの成果 を勝ち得てい た田舎の芝居好きはいく度もいく度もこれ を見 たそれにも関わら ずいく度もいく度もこれを見たがっ

た おいらの由之助で皆の鼻の下が動いている のだ ぞと海太郎はおりおり酔った時などに一座 のものを前にしながら記念を入っ た一座のものはそうした座頭 の一座を軽蔑しきった記念によって感情を 傷つけられた が皆は負傷部将にもそのを容しないわけに はいかなかったので ある二の代わりに中心ぐを 出し海太郎が由之助に粉さえすれ ば見物はただもうわけもなく押し寄せるの であった から今度は海太郎の由之助脱せという報道 が村から村へと伝わる と芝居好きは何かに引きつけられたように 集まってき た明友が自分の家の芸に対して持つような 誇りを海太郎は由之助役において持ってい たので ある本場の舞台で叩き込んだ役者でなけれ ば由之助はできっこは ない4段目の由之助ができても茶屋の 由之助はできっこがないん だ由之助ができれば役者も1人前 だ彼は口癖のようにこう行っ たが彼が叩き込まれたはずの本場というの は一体どこであるかについては一言も言わ なかっ た彼のこうした自慢話も彼の華やか なしかし何らかの陰影に包まれている らしい過去までは決して遡らなかっ た 海老太郎の市座はその年の秋から冬にかけ て四国の南岸をさきから井へと打って回っ てい た至るところに光景器が彼らを待ち受けて い た丸亀の過当な小屋で安い木戸線で 大当たりを取った 後市座は西に向かって多の港町をその次の 工業とし た劇場の名は陥落座と言っ たがその華やかな名似合わ ずほとんど立ちitselfれに近い劇場 の内部は見る影もなく荒れはててい たさに敷かれた畳は腐りかけ て一種むせるような周期を発散してい た舞台には傷がついたり穴が開いたりして い た吐いても吐いても吐ききれない誇りが 溜まってい た大道具というよりも大道具の破片といっ た方が良さそうなゴミゴミしたもの

が舞台の後ろに積み重ねられていっ たが一座のものはこんな情景に慣れている ので皆元気が良かっ た実際海太郎の地震までは行かなくても この一座の工業は今までにそれほど溢れを 送ったことがなかっ たくうに困ったり旅費に窮して楽屋に 老上海の工業の最初の表現はまずお決まり として壁島に断まりを置い た1番目は義常 千本桜仲間国には熊神夜を 置き2番目として野ざらし五助を選ん だ田舎回りの芝居の表現としてはかなり 巧妙な組み合わせであっ た無論組み合わせは この一座にとってはとっておきの並べ方の 1つであっ た彼らはこの表現の並べ方で町の人々の 思考にぴったりと沿ったと思ってい たが今度の工業に限って不思議に客足が 薄かっ たそれは無論年の暮れに近い12月の半ば で町の人々は生活の接を通り抜けるために 忙しかったため ともう1つはこの町の近所にある大きな 防石会社の景気がこの下半期は面白く なかったため に町全体の景気が賃貸していたためでも あっ たがこうまで客足の薄いこと はこの一座の経験には1度もなかったこと で ある初日に7くらいしか入らなかった客が 2日目からは5部以下に落ちてしまっ た海太郎一座の工業法は木戸線をできる だけ安くして数でこなすというのであった から客足の薄いことは一座にとって致命的 の打撃であっ た千本桜のたのと神夜の熊 とざしごとを務め て幕ごとに顔を出して別に奮闘している海 太郎はこの不入を侵害に思っ たこの不入が与える経済上の打撃よりも彼 の自尊心が傷つけられることが海太郎には 絶えがたい不会であっ た彼は自分の議に対し て当然わばならぬ経緯を払うことを忘れて いる町の人々を憎まずにはいられなかっ たやっぱり奴らには難しい表現はわから ねえん だ仕方がねえ荷の代わりに中心ぐを出して やろうと彼はこう言い出し た田舎回りの役者としては12分の人気と 収入があったののだ が天生の当時である彼には多くの蓄は

なかっ た1度の工業でも不入に終わることは多少 の打撃を与えないこともなかっ た東西屋は対抗を叩き ながらこの港町を橋から橋へ歩いて海太郎 一座の二の代わりの鏡原が中心ぐである ことを伝え たある駐車がある一定の病気に的確に走行 するよう に中心ぐは今度の工業不審を見事に一掃し た中心ぐ幕なし13段返しで一座は社人に 奮闘し たどこにあの元気があるかと思われるほど 海太郎の由之助は老年の体には不合な活気 を持って活躍し たことに城明け渡しで流行りきる諸子を 制するあたりの息が今までにも珍しい程度 を充実したものであっ た人気が素晴らしく沸き立ったのも当然で あっ た海老太郎の原の力は町の不景 主12月の生活ののせわしさをも制服して しまったような害があっ たが二の代わりになってから3日 目人気が沸き立ち始めた大切な時に海太郎 が急に発病し たどんなに元気だと言っても年は争われ なかっ たことに若い時代の大敗した生活が だんだん祟りかけてくる年頃であった その上に不入を侵害に思う意地から無理な 元気を出したこと が彼の体にまざまざと報うてきたので ある彼はその 朝彼が泊まっていた旅館の一室で目を 覚ますと頭が重いと言っ た彼の女房ともめかけともつかぬお咲が頭 へ手をみると熱は思いの他に高かっ た一座のものは驚いて医者を迎え た医者は丁寧に診断してしまうとちょっと 重苦しい顔をし ながら海太郎の病気がかなり渋滞である ことを宣言し た病名は救世肺炎であっ た一座はまず工業についての前後作を こうぜねばならなかっ た座としてほとんど1人芝居をやっていた 海太郎が発病した 以上工業を重視することはやを得ぬことで あっ た親方に患われちゃ我々ではどうにも しようがないひとまず中止する他仕方が ない と一座のものは言い合わしたように同じ 意見であった

がその意見をエ太郎に話すと彼は強く かぶりを振り ながら何心配することは ねえ50年舞台の上で鍛えた体 だ死んでも舞台だけは勤める からと元気よく言っ たがそれはどちらかと言えば上ごに近い ものであった 彼はそう言いながら立ち上がろうとしたが フラフラと力なく布団の上に倒れてしまっ た一座の者は首を集めてギギし たがもうそれはその日の12時頃近くで 見物席は早くから集まった見物でいっぱい であっ た彼らは口笛を吹いたり手を鳴らしなどし て 開幕の遅を責めて いるこの見物を前にして中止を報告する ことはほとんど不可能なことであっ たまたいつのことか定まらぬ海老太郎の 海遊を待っ てせっかく人気の立っている工業を中止 すること は劇場主にとっても非常に不利であっ た一座のものは余儀なく由之助をエビ史郎 という腕出車の役者に変わらせることを 考え たエ史郎は大阪生まれの男であったが極端 な悪出しであっ たその代わり彼は全ての雑役をいいとして 引き受け た皆はこの旧作をもたらして恐る恐る海老 太郎の枕元に集まった 海太郎は宣告からよほど高い発熱に苦しん でいた が彼はまだ自分の意識を失っていなかっ た一座のものが代わり代わりに事情を述べ てエビ史郎に変わらせることのやを得ない ことを解い たすると発熱のためにうめいていたエ太郎 はぎりとその大きい目を向きながら バカなことを言いなさんな よあの子せがれにゆのすができるか いキャツがやると言うならやらせてみるが いい見物が承知するかどう か痩せても枯れてもエ太郎の一座 だそう恥さらしをしねえように気をつけろ よと言ったまま またうつらうつらと昏睡状態に落ちて しまっ たが市座が工業を中止することはもう 受け取ってしまった給金を払い戻すことを も意味してい た病気にかかった座頭を抱えている 以上そんなことは思いも及ばぬことであっ

た彼らは親方の療病費として契約の日数を 打ち倒し 工業主からいくらかでも利益の不合を取る ことを考えねばならなかっ たがそうした相談のうちにも見物席の早場 は一刻一刻募っていっ た開幕の時をもう40分近く遅れてい た明日からのことはともかく 今日だけはゼガ日でも幕を開けねばなら なかった 海太郎が昏睡してしまったのを結局いい ことにしてエ郎はついに由之助にふして しまっ たが一座のものは無論のことエ史郎自身も 見物の大いなる失望を期待していたので あるが一座のものがその汚い部隊にいなん で座が病気のことを披露 し座なしに一座が奮闘する から一座の球場を哀れんで級のお引き立て を願うという向上を述べる と枠かと思った見物は帰って一斉に道場に 満ちた拍手を送ったので ある一座の活躍は平常に倍にしてい たことに余断目から顔を出したエの はただもう大車輪であっ た肩も何もなく目しほどに活躍し た見物にはエ史郎の由之助は1つの後期で あっ た見物はやんやと合殺し たその日打ち出してから一座の者はお互い に顔を見合わせてほっと安心した エビ史郎はもう大得意であっ た田舎の見物なんか甘いもん だ本場で叩き込まなくっても由之助なんか 世話は ねえと言いながらエビ太郎の病室の方を見 て首をすめながら下を出して見せ た一座のものは声を揃えて笑っ たエ太郎はの熱のために意識を失ったまま コンコンと眠っていっ たしかし一座は得意になっていたものの海 太郎の病気の噂が客足をぴったり止めて しまいはせぬかと恐れてい たがその翌日もその翌日も陥落座は満員で あっ た郎の之は1つのションをこの小さい港町 に巻き起こしたのであっ た海太郎は発病の翌日から町の病院に移っ ていっ た命を主脅かすほどの光熱が56日も続い た 後彼はようやく自分の意識を回復し た無論彼 は自分の病中に一座が工業を続けていよう などとは夢にも思わなかった

彼が正気づいたと聞くと工業主はすぐ彼の 病床を通っ た彼の頬は発熱のためにげっそりと削げて いっ たそしてその大きな目がさらに飛び出す ほどに大きく見え た彼はとの中で置き直し ながらどうも愛すみません飛んだ時に やみつきまして大変なご尊をかけたこと でしょうとエ太郎は日頃の豪快な彼に 似合わず小前として挨拶し たひえどういたしまし てと工業主は愛そ笑いを浮かべ ながら損どころではありませんエ史郎さん の代わり役が大当たりでこの7日というも は毎日起動を打ち続けまし たどうも意外の正教でありまし たと言っ た海太郎は目を見張っ たその切 なこの老友の顔には怒りと失望とを交えた 一種の名状しがたい表情が浮かん だ へえあいつの由之助があいつが由之助を へえと言ったまま濁りきってしまっ たこの老友の心 は自分の特約が他人の代理によって手も なく演説 られしかも見物が何らの不満を感受せず に毎日大入りであるということによって 致命的に傷つけられてしまったのである ご当地のご建物集はよく芝居がお分かりに なります からと吐き出すように言う とくるりと工業主の方に背を向けたまま 黙ってしまっ た自分1人の ゲ自分1人の魅力で見物を呼んでいると いう彼の自信 はもう見る影もなく打ち砕かれてしまった ので ある 旅回りに身を落としながら も名を持ち続けていた由之助役者の 誇りそんなものはもう見事に踏みにじられ てしまっ た彼の由之助を活殺したよう にエ史郎の由之助を喝采した見物が恨 しかっ たそれよりも彼の大役として彼と同じよう な合さを勝ち得たエしが恨みしかっ たその工業はめでたく先集落になっ たエ史郎の由之助の人気で一座は多額の 不合を得 た海太郎の幼生費用も無論それで綺麗に

済ますことができ たが座頭の代理を務めて見事に一座のを 成功に導いた郎 は一座が多を立って中国へ渡る船の中で底 よく波紋を言い渡され た一座のものは皆その原因を知るに苦しん だその後も海太郎は四国と中国の小さな 町まちで由之助を演じて いるが彼の之は昔ほどの制裁を持ってい なかっ た50年来持ち続けた芸術的な誇りを妙な 機械から傷つけられた彼 は今はただ移植のために のみ何らの感激も持たずに寂しく由之助に ふしていたのであっ た 第2 話 ガキ彼は毎日電車に乗らぬことは ない従って電車内の出来事によって神経を イライラさせられ たり些細なことからかなり大きい不会を 買ったりすることは毎度のことだっ たことに切符の切り方のわずかな間違い などから起こる車掌との不快な交渉 は勝っても負けても嫌であっ た車掌が乗客から高に言いこめられ て不快な感情を職業柄じっと抑制している ところなどを見る と彼は心から同情せずにはいられなかった がさて一旦自分と車掌との交渉になると とたえ自分の理由が不利であっても 大人しく負けているのが不快であっ たまたたえ自分が絶対に負けた時に も人間につきまとう負け惜しみ はきっと相手を不快にするような 捨てゼリフとなって現れずにはいなかっ たとにかく勝っても負けても不快だっ た 日常生活の他の方面で は胸をくわっとさせるほど分外したりする ことの稀な彼 も電車の中ではよくそうした 機械あるいはそれに近い機械に出くわす ことが多かっ たもう1つ電車に乗る時に厄介な問題は 座席についてであっ たいかなる場合に席を譲るべきかという こと は毎日電車に乗る彼にとってはちょっとし た実際問題であっ た彼は最初の心の中で一定の標準を決めて おい てそれに適合した人たちには直に咳を譲る ことにし

たその標準の中に は60前後の老人と か子供をっている人と か外国夫人だと か荷物を持っている人などが含まれてい たがそうした自分1人の内気を守って機械 的に席を譲って吊り革に捕まっている と彼は咳を譲ったことを後悔することが だんだん多くなってき たことに勤め先からの帰りなどでかなり 疲労を感じている時など はつり革に捕まっている苦痛の方が大きく て人に咳を譲ったという快感で相殺する ことができなかっ たそうしたことが旅重なるに つれ彼は自分自身の内気に囚われている ことがだんだん馬鹿らしくなっ たそれでこの頃では自分が本能的に席を 譲りたいと思った 時還元すれば相手を見た時に自然に 立ち上がれるような場合の他 は一切咳を譲らないことにし た従って彼はこの頃では心持ちよく腰を 下ろしている時など は年寄りに近い年配の夫人などが入ってき ても容易に咳を譲らない場合が多くなって き た次の話もやはり電車の中で咳を譲るか 譲らぬかということについて起こった 出来事で あるその 時彼は菅田町から品川行きの電車に乗って い た最も菅田町で乗ったのかそれとも上のひ 光寺ありで乗ったのかはっきりとは覚えて いない 何でも最初その電車に乗った 時入り口のところがバカに混んでい たまだ勤務についてから日が浅いと見える 車掌が声をからしながら乗客を中央部へ 送るように促してい たが乗客はこうした場合 に普通であるように平然と明々その釣りに 着ししてしまったように動か ないこんな 時彼は車掌の依頼に応じない乗客たちに つてとし て自分だけはぐぐん中央部へ突進するのが 好きであっ た最もそうすることによって周囲の乗客に 対し て警備な道徳的優越を感じたいというよう な子供らしい野心がいくらか含まれてい ないこともなかっ たその時も彼

は中央部が空き切っているのにも関わら ず入り口のところでゴタゴタ重なっている 乗客 をいくらか恋にぐんぐん押しのけ ながら中央部の方へ進ん だ進んでいるうちに彼はふと自分の 押し分けようとする乗客の中に1人の老婆 が混じっているのに気がつい た彼はその老婆にはなるべく衝動を与え ないように注意してそのそばをすり抜け たやっと乗客のまばらな中央へ来た彼 は一番真ん中のつり革を物色し て自分が車掌の指示をイ電車内の道徳を 最も正直に順法したであるという子供 らしい得意 が彼を少し愉快にしたのは事実であっ た彼は吊り革を手にし ながら自分が押し分けてきた乗客の 群れそれはある意味から言え ば電車内の道徳の関する限りで は確かに彼自身よりは劣等者である人々を 見返 たその時に彼 は45秒前のことをさっきと言えるなら ばさっきの老婆を初めて歴然と見たので ある彼女はよく見ると70に近かっ たあるいは腰ているかもしれないと思っ た腰こそまだ曲がっていなかった が目々の着物に包まれた腰の辺りには もう何らの支持力も残っているらしくは 見えなかっ た細表の顔立ちの よいしなびてしまって歯のないらしい口を 絶えずもぐもぐ動かしていっ たが彼女の存在が最も彼に衝動を与えた こと は彼女がその痩せしびた右の手を荒に 伸ばし てつり革によってようやく体を支えいる ことだっ た老年に近い夫人がつり革を持って立って いることなどにかなり無関心になっていた 彼に もこの老婆がつり革を持って立っている 光景 はどうにも辛抱ができなかっ た彼は前に 一度日本橋の交差点近く で反の老婆がりを持って揺られているのを 見て気分を感じたことがある がその場合は交差点へつくと老婆がすぐ 下ししてしまったの で後から考える と彼女は下しの用意として立ち上がってい たのかもしれないと思う

と彼の義父はあまりに先走りではなかった かと自分でおかしかっ たが今の場合 は下車の用意として立っているとは思え なかっ た今川橋の停留所について も老婆は入り口の方へ一歩も近づこうとは しなかっ た電車が動揺するごとに老婆の体は痛々し に揺れてい た石を譲るか譲らぬかは全く個人の自由で あっ て譲らぬことが必ずしも道徳的には罪悪で ないにして も70の老婆 がしなびきってつり革にすがる力さへ十分 ではないと思われるほどの老婆 が東京の大通りの電車の中 で咳を譲られずにいるということ はそれは決して愉快なる光景ではなかっ た彼の感情を少しく誇張していえ ばそれは文明の汚辱であっ た浅ましく思わずにはいられなかっ た彼 は老婆の前後左右一見ばかりの間 に天然として腰をかけている乗客を心から 癒しまずにはおられなかっ たこれほど浅ましいことが行われているに もかわら ず否自分たちが行っているのにも関わら ず老婆の存在にはほとんど気のつかぬよう に平然として収まり返っている乗客の一軍 を彼は心から憎み始めたので ある老婆の立っていることにして最も責任 のある乗客 は老婆がそれに面して立って いる運転手代に向かって右側の座席の乗客 でなければならなかっ た彼はかなり熱し目つきをし ながらその辺の乗客をいちいち点検し た老婆のすぐ前にいる3人は女連れの乗客 であった そして真ん中にいる女がちょうど物を言い 始めたくらいの女の子を膝の上に抱いて いるその女の子も右左から2人の女が 代わり代わり怪してい たこの女の3人連れに老婆に咳を譲らない 責任を追わせるのは少し酷であっ た中央にいる子供を抱いている女に咳を 譲ることを求めるのは元より無理であっ た子供を癒すという無邪気な仕事のために 老婆の存在に気のつかない左右の女を 咎めるわけにもいかなかっ た彼はこの3人の女を心のうで方面して女 たちの両側を点検した

彼に近いそばにいるのは相場市の手代 らしい245ばかりの男であっ た高きよりか何かの揃いを着て鳥打棒を 被って収まって いる位から言っても年配から言って もこの男が最初に老婆に対して咳を譲ら なければならないにもかかわら ず彼は老婆の存在などは天底眼中にない ごとく視線を固定したままで何やら考えて いる女たちの向こう側にいる男はもう50 に近い男だ が薄あたのある顔がその男の心のうちの 冷たさを示しているよう に老婆に咳を譲るべき屈強の位置にあるに 関わらず 両足をふんぞり伸ばしたまま平然と座って いる彼はこの2人の男を最も多く軽蔑した がこの2人の男の右と左とにも彼の軽蔑に 値する屈強なつり革に捕まって立つ能力の ある男がいく人も並んでいるの だまたたい婆が背けて立っていようと もその向こう側の座席の人たち も老婆に咳を譲るべき責任を拒否すべき はずのものではなかっ たしかも向こう側の席にいる乗客はどの男 もどの男も 皆つり革に捕まるには少しの故障も持って いない人たちばかりであっ た最も老婆の周囲には 乗客がゴタゴタと立ち込みでいるの で老婆の存在が彼らの全てに意識されて いるかどうかは疑問であった がが立っている彼にはとにかく咳を譲る 資格は絶対になかっ たその資格を持っている10人にある乗客 が1人もこの衰えた老年の夫人に咳を譲ら ないということ が彼の心をかなり痛々しく傷つけ た彼は自分が座席を持っていないことを どれほど残念に思ったか知れなかっ たこの老婆がもっと良いみなりをしていた なら ば彼女はとっくに咳を譲られていたのに そう言いなかっ たがもう11月の中旬であるのに薄汚れた 合せを着て羽織りも着ていない彼女 が周囲から相当の経緯を払われないのも 無理はなかっ たが彼女が貧してれば貧しい ほど咳を譲られないで立っていること は痛ましいことにそういなかっ た彼は老婆が不に立たされていることを 電車が菅田町から本国町辺りまで走る間 分外し続けていっ た夫人が立っている間は男子は1人も咳に

つかないという外国人の習慣なを思い出し ながら彼は老婆の付近に腰をかけている 乗客を思う存分下げんでい たことに245歳の手代風の男と50格好 の男と が彼の分外と軽蔑との第1の的であっ たそのうちに彼は分外に疲れたと 見え少しぼんやりした気持ちになりかけて い たその時であっ た電車は急に速度を緩めたかと思うと日本 の場に止まっ た電車が止まると車内が急に動揺し たふと気がついてみるとレイの女 Anotherは一斉に立ち上がって 降りようとして いる彼は咳が開いたなと思っ たそう思う と彼はそこへ腰かけたいと思っ て釣りを持っている手をしてその方へ 動こうとし たその時に彼は自分よりも先 にさっきの老婆が走行として飛びつくよう にその開いた座席にすがりついているのを 見たので あるそれを見ると彼は自分が作っておいた 音穴の中へ落ち込んだように絶望的な驚き を感じ た 彼はいつの間にか自分 自身老婆の存在を忘れていたので ある老婆に対する周囲の冷たさ無常さを 分外しているうち にその分外が元である老婆のこと はいつの間にかオルスになっていたので あるあれほど老婆のために咳がないことを 悲しんでいた彼は 老婆のために咳が作られる切 な老婆のことは全くいつの間にか忘れてい て自分がそこへ座ろうとしたので あるおそらく老婆が走行として席についた の は彼を競争者として座席を奪われることを 恐れたためであったかもしれなかっ たその時彼の両親は明らかにべそを返って いっ た彼は不快な症状たる気持ちにならずには いなかっ た彼の負け惜しみ は老婆のために分外していた方 が彼の心の第一義的な状態 で咳が開いた切な底へ座ろうとした心 はそれは発作的な出来心だとを下しようと し たがそうした解釈でもって彼の心は少しも

慰めなかっ た24後の手代風の男 や50格好の男が咳を譲らないことを分外 したの が彼らに対して愛すまぬように思われて 仕方がなかっ た老婆に対して咳を譲らないことを分外し たのも それはローバそのもののためではなくし て自分の道徳的意識 がその事実によって傷つけられたことに よっての分外であっ て全く利己的なものであるかも分からない と思っ た彼がつり革を持つ手を話して座席の方へ 近づこうとしたこと はただ心持ちだけの活動で 厳密に言えばまだ好意と名付けて良いか どうかさえわからなかっ たただ上半身だけをわずかにその方向へ 動かしたに過ぎなかったかもわからなかっ たがそのわずかの行動 も彼の心持ちを根底からかき乱すのに十分 であっ た彼はすっかりしげてしまっていた 彼の行動が誰に見されたわけで なく誰から避難されたわけでもなかった がそれはすました顔をし ながら何か悪事をしようとしたところを うまく尻尾をつまれた感じと少しも異なっ てはいなかっ た彼は思っ た人間は自分で意識し注意し警戒している うち はどんな道徳的な様子でもすることが できる が一旦その注意がなくなる と立ちまち利己的な尻尾を出してしまう もの だもしそうだとする とその尻尾を露出し てつり革に寄られている老婆を偶然と併行 しながらふんぞり返っている方がどれほど 男らしいかわからないと思っ たがそう考えてくる と彼は心のうにみってくる落たる心持ちに 耐えなかっ た彼はふとAという友人 がガキという配合をつけているのを 思い出し たエは配合の言われを聞かれるたび に死人はゴという意味をガキというの ださすがはシナ人だけあってうまくいって ある だろうといつでも得意になって説明し

た ガキ ガキエゴイストチック デモンそうした言葉 が彼のその時の心にひしひしと答えてくる のを覚え た あ

由良之助役者・我鬼
菊池寛

《章ごとのタイムスタンプ》
00:12 第一話 由良之助役者
29:02 第二話 我鬼

🌟菊池寛短編、シリーズでお楽しみください🌟

義勇・奥付の印

極楽・天の配剤

笑い・名君

盗者被盗者

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《原稿》菊池寛文学全集
     〜短編集〜

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#菊池寛
#女性朗読

菊池寛作 由良之助役者・我鬼

1 Comment

  1. 白檀さんこんばんは♪
    プライド高い舞台役者の陽が翳った瞬間だったのですね。
    なんとも言えない想いだったのでしょうね。
    分かっていても重く切ない気持ちです。

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