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再犯を繰り返す受刑者と対話する『当事者研究』…服役7回目の60代「貧困、いじめ、性的虐待もあった」出所した40代男性は逃亡・再犯「捕まれば母親に会えると思った」ともに生きるために【シリーズ罪と償い】

特集はシリーズ「罪と償い」です。受刑者の半数以上が犯罪を繰り返してしまっている現在の刑務所。出所者と社会で共に生きていくために必要なものは何か、札幌刑務所で行われている対話の取り組みから考えます。

■服役7回目、60代受刑者の声に耳を傾ける

781人の受刑者を収容する札幌刑務所。

拘禁刑の導入から間もなく10か月。今、力を入れているのが受刑者との「対話」だ。

A受刑者(60代)
「今回初めて、全く行くところがない。眠れない、不安で」

出所後の不安について話す60代のA受刑者。窃盗などの罪を繰り返し、刑務所に入ったのは今回が7回目。

精神障害に加え、足腰が悪くて働けず、社会にいるときはグループホームなどで暮らしてきた。

しかし、今回は受け入れてくれる施設が見つからない。

A受刑者(60代)
「双極性感情障害と言う病名。(施設が)素直に受け入れてくれないのではないかという心配がある」
「怒鳴ったりわめいたり脅したり、いろいろやっていたので」

北海道医療大学 奥田かおり講師「それはかつて(A受刑者)が?」
A受刑者「私が」

北海道医療大学 向谷地生良特任教授
「こうしたらいいという答えは私たちも持っていないが、一緒に考えることはできる」

受刑者の話に耳を傾けているのは、北海道医療大学の教授らでつくる研究チームと刑務官だ。

■これまでの人生や不安について話し合い、うまくやっていけない理由を探る

A受刑者
「もしだめだったら死ぬしかない」
札幌刑務所の刑務官
「自暴自棄になったらダメ、やれることがまだ時間が少ないとはいえあるから」

「当事者研究」と呼ばれるこの取り組み。犯罪を繰り返してしまう受刑者とこれまでの人生や将来の不安について話し合い、社会でうまくやっていけない理由を探す。

去年4月から毎月1回行われてきた。

■60代受刑者「きょうは気分が悪い。精神が悪化、鬼みたいな」

去年11月。この日はA受刑者にとって8回目の「当事者研究」。だが、いつもと様子が違った。

北海道医療大学 鈴木和助教
「きょうの気分体調はいかがですか?」
A受刑者(60代)
「非常に悪いです」

グループホームに入居を断られた上、担当刑務官との面談もうまくいかず、腹を立てていた。

A受刑者(60代)
「悔しくて涙がぽろっと出て来たよ。悔し涙。それほどひどかったんだ」

北海道医療大学 橋本菊次郎教授
「いま腹が立っていると思うが、こういうことは今までもあった?」

A受刑者
「あるなんてもんじゃないよ。1回や2回じゃない」
「精神が悪化しちゃって、ニョキッと出てきた。鬼みたいな」

研究チームはこのやりとりに、A受刑者が犯罪を繰り返してしまう理由があるのではないかと考えた。

北海道医療大学 向谷地生良特任教授
「鬼になるということは時々やってくる?」

A受刑者(60代)
「貧困、いじめられっ子、父親からの暴力。性的虐待もあった。そしてこんなふうになった」

■手紙を持って現れた受刑者「犯罪はもう起こさない」

北海道医療大学 向谷地生良特任教授
「人への信頼や、自分に対する肯定感など基本的な土台がない。改めてつながりや関係の土台作りをしている」

翌月の当事者研究にA受刑者は、研究チームに宛てた手紙を持ってあらわれた。

大阪大学 村上靖彦教授
「今最後を読んだら、『今回は本当にラストにしようと強く思う。残り少ない人生静かに穏やかに暮らしていきたい。当事者研究の皆さんへ』って」

A受刑者(60代)
「犯罪はもう起こさないし、とにかく1人になりたい」

■二度と事件は起こしたくない。それでも…

二度と事件は起こしたくない。それでも繰り返してしまうのは、社会でうまく居場所を作れないからだ。

2024年、札幌刑務所を出所した40代のSさん。塀の中で当事者研究を経験した。

10代から刑務所に繰り返し入り、家族とも疎遠に。社会とのつながりは研究チームだけだった。

Sさん(40代)去年9月
「母親に今までさんざん苦労かけてきたから最後ぐらい、母親との約束を破らないようにしようと思って」

■逃亡・再犯…「捕まれば母親とまた会える」

しかし、出所から1年半後。身を寄せていた江別市内のグループホームを突然飛び出し、連絡を絶った。

2025年11月、Sさんのゆくえがわかった。静岡県磐田市だった。

駐車していた他人の車を傷つけ、自ら交番に出頭、逮捕・起訴された。

2026年1月の初公判でSさんはこう語った。

Sさん(1月初公判)
「しゃばでの生活に疲れた。母親が暮らす静岡で捕まれば、母親に連絡が行ってまた会えると思った」

Sさんが逮捕されたと知り、研究チームは手紙を送った。

■「もう関わらないで」拒絶の手紙

北海道医療大学 奥田かおり講師
「私たちの中ではずっとつながっていると思っているので手紙を書きます。というふうな感じで…」

Sさんからの手紙「もう関わらないでください」(Sさんからの手紙)

Sさんの返信は拒絶だった。

再び社会に出てきた後、共に生きるために何が必要か。研究チームはSさんに手紙を送り続けた。

北海道医療大学 向谷地生良特任教授
「私たちのわきまえとしては、Sさんを再犯させないように、どうアプローチするかという魂胆を脇に置くこと。今までは悪いことをしたら法律的な常に命令とか指示・管理をしてきた結果として再犯という一つの現実を生み出してきた背景がある」

罪を繰り返してしまう人と社会で共に生きるとは、「こうあるべき」という型にはめず、その人らしさを尊重して、関わりを続けること。

Sさんから届いた2通目の手紙にはこう書いてあった。

「また気が向いたら連絡します」。

■再犯させない…変わる刑務所

堀啓知キャスター)
Sさんが再犯してしまったことを研究チームはどう受け止めているのでしょうか。

世永聖奈キャスター)
Sさんの再犯について研究チームががっかりしている尋ねると「がっかりしない。
むしろ順調だ」という言葉が返ってきたそうです。
「失敗を否定するのではなく、ひとつの過程として捉え、なぜ失敗したのかを一緒に考えることが更生に必要だ」と話しています。

堀キャスター)
刑務所での対話の取り組みは、社会に出所者の居場所を作るだけでなく、彼らを立ち直らせて新しい被害者を生まないための取り組みでもあります。今後も新しい更生のあり方を継続的にお伝えしていきます。

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