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【朗読】林芙美子「女優記」   朗読・あべよしみ

林文子 作女優 鬼 1私は世間一般のいわゆる女優志願の若い 迷え娘さんたちにこの小説を読んでもらい たいと 思う今をときめく有名な映画女優の釘宮か さんに会いじみとこの人自身から私は彼女 の身の上話を聞いたの だ筋を運ぶとか面白おかしく書くという ことは私にはでき ない釘宮さんは稀に見る率直な明るい女優 さんだし私は最近ふとした機会でこの人を 知ってから私自身の気持ちの上にも色々な 暗示や刺激を受けたのだ 私はこの1年ほど体具合が悪かったので 東京近くの色々な温泉地を時々旅行してい た釘宮さんに会ったのはこうした旅の続き で私が熱海の宿屋に1ヶ月ばかり滞在して いた時のことで ある晩Discの頃ではあったけれど割合 に泊まり客も少なくのんびりしたいく日か が続いていた 女中さんの話では紅葉の頃になると箱根 あたりの方へ旅客が行ってしまうのでこの 辺は割合に静かなのですということであっ たこの宿は宴会上のような広間がないので 泊まり客はみんな静かな人たちで古い 馴染み客が多いらしく山の上のこの宿の 玄関には稀にしか自動車が上がってこ なかっ 私の部屋からは熱海の停車場が目の下に 見えたし海の景色は朝ゆう私を慰めてくれ たこうした静かな平凡な宿屋住まいのある 日釘宮さんは釘宮さんと同じ年配ぐらいの 女友達と2人でこの宿へ着いたの だ何でも今度撮影する影に染む山々という 映画を取るその前のちょっとした休暇を 利用してここへ友達と遊びに来たのだと 言ってい た私が釘宮さんを初めて知ったのは45年 くらい前からだと思うけれど もその間に会っているのはほんの34旅 ぐらいのもので あろう京都のご服ど屋の正体で1度とB春 住者の文芸祭で1度それからずっと以前 釘宮さんがまだ映画女優にならない前新宿 のレビュー小屋で踊り子だった頃の 12度そんな雪釣り程度の浅い知り合いな ので ある文芸祭の夜の彼女は青竹色に金銀UM の入ったようなゴシな羽織りを着てい たご服どやの正体の時には濃いあずき色の レースのような要素姿で2度とも目も 覚めるようないわゆる美しい女優の釘宮 さんであっ た熱海であった釘宮さんは宿の浴衣の上に 気八畳の反転を引っかけていたがコールド クリームで拭いた顔には何の色彩も施して なかったのでびっくりするほどふけた顔で あった 考えてみればご服どやの正体の時も文芸祭 の夜ももう4年以前のくみさんでありあれ から若い女としてのくみさんにはかなり 記念すべき歳月が過ぎているはずで あるだが私はこの晩の釘宮さんのふけた 素顔が非常に好きであったし本当の女優 さんを眺めた思いでもあったのだ 釘宮さんと私はそんな浅い知り合いであっ たにもかわらず私の部屋へ遊びに来てくれ て何の拒食もなく色々な話をしてくれたの ださて私はこの人の映画を1度も見たこと がなく時々雑誌の口へなんかで見るぐらい のものであった けれど私はこの人の気取らないサクサクと した声には非常な魅力を持った 西洋人のように凹凸のある顔で皮膚は 浅黒く鼻は痩せているけれど私はこの人の 目の美しさや唇の形のいいのにじっと見れ てい た笑うと口元にはちょっと品がなくなる けれど目だけは笑っても怒っても美しい 表情なのだろうと 思える釘宮さんは激しくタバコを吸い ながら ねえもう28の今夜は再び私には戻ってこ ないのよもう時期29そして30ああ嫌に なるわ私は結婚もしなくちゃならないし 子供も産みたいし ああ今日という日はもうないのよこのまま ではどうしてもいられないと思うのと両手 をホールドアップのようにあげていやいや と首を振って見せるのであっ た 2鹿児島の新聞社の屋上でぶっ倒れそうな 空腹を抱えてかこは45人の女優たちと 従業みへの写真を撮ってい た宮崎での工業が思わしくなくて鹿児島 までの記者賃をやっとの思いで座長の宮が どこから合をしてきたのであっ た次の工業先であるこの鹿児島へ着いた時 には朝飯抜き昼飯抜きのありさで嘘寒い 12月の風の服新聞社の屋上ではさすが 呑気なかこもそぞろ東京の両親が恋しく なっていて記者賃だけでもあればとんでも 帰りたい思いであっ たその三市座の女優の中にあつ子という かこの親友があったつ子はかこより2つ上 の21だったけれどかこの陽気な性格とは 反対に非常に大人しくて何事にも我慢強い ところのある女であっ た風の吹く屋上で2人は列の端の方に手を 握り合って震えながら立っていた 新聞車の屋上からは桜島がよく見えてい たねえうどんの暑いのが食べたいわねうん あんたいくら持っているの よいくらって3戦しきゃないわなんだ それっ ぽっちじゃあカボはいくら持ってるのよ 私私か1戦も持ってはしない かこは寒くて鼻をすすっ たやっと写真を移し終わると一向は海花へ 降りていったけれど宮と主役女優の串雅子 だけが人力者に乗って宿へ帰って行きかこ たちは芝居小屋の方へぞろぞろ歩いていっ た町を歩いているとやたらに食べ物店が目 につきかこは下の上に生の湧くような 悲しい思いで ある私ねかこさん本当は宮崎で帰るつもり だったのよ東京から20円送ってもらった んだけど私のルスに為せが来たものだから 宮さんに借りられちゃったのだから今度の 乗り込みの時の支度だって私の20円が とても役に立っていると思うんだ わつ子はいかにも残念そうに言うのであっ たがかこは急に立ち止まって怒ったよう になんだそれじゃカボを置いてつたちゃん は自分1人で東京へ帰るところだったのと いかにも恨めしそうにツコを見つめて いる貧しい従業が長く続いたので記者を 見る度に一座の誰も彼も東京へは帰り たがっていたのだ その中でもかことつ子はこうした地方周り の女優になったばかりの時だったせいか いかに好き好んでこの道に入ったとは以上 つづく後悔の気持ちが起こり開けてもくれ ても東京へ戻りたいことばかり考えている ので あるさて鹿児島の工業も思わしくなかっ た鹿児島の工業の後は宮女とかいうところ へ買われているということだった けれどかこたちはなんとかして東京へ帰り たくて仕方がなかったの だ夕べは雪が降ってたのよ南国のこっちで さえこんなのだから東京は随分寒いん でしょう ねかこは楽屋の薄い布団につ子とくるまり 寝ながら懐かしい東京の噂話をしていた ねえカボ私の指輪と羽織りや肩かけを売っ たら旅費くらいにはならない かしらうんだけど指輪って言っても2つ 寄せて10円も難しくないか ね東京まで30円はどうしてもかかると 思う わ2人はどんなに手回りのものを寄せて やりくりをしてみても20円の金もできる 見込みがないと思うと腹の底からつくづく ああっとため息が出るのであっ たいよいよ鹿児島も行き詰まってしまって 明日は宮城へ行くという夜のこと だかこは東京の家から送ってもらった為替 を芝居小屋の近所の本屋で金に変えて もらってツコの指輪や羽織りと自分の一切 合細を七に置いてしまって 2人は一座のものに隠れて文字行きの記者 に乗っていたので あるいかにもお寒い2人の姿ではあった けれども女優という商売をさらりと捨てて しまった2人にはこの記者旅はいかにも 思い出の深い楽しい規制のアルト ハイデルベルクでもあろう か東京へ帰ったらしばらく私は考えるのよ そうね私だっておごを頂戴するんだけど これも運命なんだから仕方がない わ2人は記者に揺られながら心のうちでは 東京での刺激の強い生活がうずうずと 楽しみに考えられるのであっ たアトラクションに雇われることだの昔の ような大きなレビューの一座に入ることも 2人は話し合っていた 記者が文字についたのは朝であったが文字 は雨が降ってい たかこは45ヶ月も前の暑い頃についた この文字の景色が今は寒い冬の雨に 振り込められているのを見て感慨無料な 気持ちで ある2人は気心矢のごとき気持ちではあっ たが雨の関門海峡を白い船で下関へ渡って みとなぜともなく急に気が変わって一記者 伸ばして下関の街が見たくなってい た別に大した荷物もなかったので2人は こめの降る中を家いえののきを拾って造り のままでびしょびしょ町を歩いてみ た野菜市場のある広い通りでは売り出しの 楽体が鳴ってい たねえ歩いたって仕方がないわ金もないの だし停車場へ帰りましょう よかこはちり紙を出して泥の跳ねた汚れた 雑を吹きながら背の高いツコを呼ん だ 3東京へ戻ってからかこは映画館の アトラクションなんかにつ子と2人で時々 雇われていってい つ子はあぶに家があり女ばかりの4人姉妹 で母と一番上の姉2人で小屋を経営してい たつ子は3番目の娘で小さい時から長歌や 踊りの下地があり姉妹のうちでも一番美人 で あるかこは北海道の生まれで小さい時に 東京へ幼女にもらわれてきたのであった けれど もらわれたよかはオグの小さい郵便局長の 家であっ た義の両親はかを女学校にもやってくれて まるで実の子のように可愛がってくれてい た女学校を出てレビューガールになると 言っても法認して叱りもしなかったし無断 でレビューを飛び出して三市座に入って からも両親は責めもしなかったただホボを 巡業に出るようになってからはなんとなく 両親もかを頼りにはできないと思い始めた のであろうか寂しい諦めに似たものをかこ は時々両親の表情から察してい たかこがアトラクションに出ていた頃で あるかこの両親は郵便局の仕事も重荷に なり始めていたし地人の借金の保証が たたったりして公人物の両親は郵便局を 人手に渡してどこか町裏へでも一息し なければならなくなってしまってい たその頃かこはまた東京へ戻ってきていた 三一座に加わり市座に新しく入っていた 俳優の青字と淡い恋を語り合っていたの だその頃かこの父たちは大森の海近いとこ に小さい新立の家を見つけて引っ越してい たしかこはまた三市座と証こりもなく大阪 へ従業していたりし たつ子ももちろん一緒だっ た九州工業から戻って少しばかり盛り返し ていた宮は市座を大阪へ連れて行くとすぐ 千日前近くの裏町に宿代わりの家を1軒 借りて女優たたには水字がかりを命じてい た2階が見絵花が夜間ばかりの家だった けれどどの部屋も狭くてしかも痛風の悪い 暗い家だったので病人が耐えなかっ た占い師だのブリキ屋だのうどん屋なんか が近所にゴタゴタ並んでいてそこは路地の 奥の行き詰まりの家で あるかこはこの家で初めて青字と淡い約束 をかわしたのだ晩春の頃で芝居が跳ねて かこが早く戻ってくると青字も決まって 急いで戻ってきたそしていつとはなしに かこは女になるということはこんなもの だったのかという風な気の抜けたつまらな さでずるずると青字といつか同棲するよう になってい た東京へ戻ってからもかこは平気で青字を 自分の家へ連れて帰っ た両親は娘の乱暴さを叱るでもなく青字の 気の弱そうなところが気に入ったものなの か大きな息子が1人できたくらいに考えて かこの父も母も青字とはだんだん親しく なっていってくれ た青字ができてからかこはまもなく三一座 をやめてしまい その頃とても評判であった新宿のソネット 劇場の踊り子に雇われていってい たたくさんの女優の中でかこはぐんぐんぐ を抜き野生味のあるゲを発揮して自分の ファンを作っていっ た春芝居のセリフで覚えたミュッセのフル チニの歌ではないけれど も私が誰に惚れてるか私が言うと思いか国 をお前がくれるとてなんで私が言い ましょう誰に私が惚れてるか異にあまり 惚れすぎ た誰に惚れたと言わないでその人のために 死にたや な若いかこは恋愛というものをこの歌の ように素晴らしいものに空想していたのだ けれど舞台の上の恋い物語もたいデコラ チーブなものではあるにせよ現実の恋の味 もまたもっとどうにか美味しいものでは ないかと思っていたのだ けれどそれにしても青字との恋愛は何と いう寂しい現実の詫びしさであったろう かかこは青字と同棲はしていてももう青字 との恋には目もくれなくなり一生懸命な 審査で舞台を励んでい たペーソスのある衝撃や衣装の貧しい レビューだけのソネット劇場ではあった けれどもソネット劇場は山の手のインテリ 階級に愛されて小屋は連日満員続きの 有り様でありその頃の文化人の流れの中に はソネット派という言葉も流れの上に漂う ているくらいであっ たパリテ 気取りのない衝撃や歌や踊りが文化人には 受けたので あろうかこはやっと自分の舞台生活が 面白くなりかけてきてい た新聞の演芸乱にも思いがけなく自分の芸 が認められている時があるそしてだんだん かこはユニークな存在にもなりかけてきた の だこうしてかこがだんだんに舞台に熱心に なり始めた頃映画の方に入っていた青字は いつか同じ映画会社の大女優である千葉ヒ と噂をされるようになってい た青字の映画会社が京都にあったので青字 はかこの家を出て京都へ行っていたので あるある日8月の暑い日だっ た徹夜の舞台稽古が住んでかこが昼頃大森 の家へ帰ってくると父は6号へ釣りに行き 母は玄関で洗濯物のシを伸ばしてい たただいまああおかりご飯まだだろ市場で うなぎを焼いていたんで一口買ってきて あるよガスであっためてお 上がり母は切り吹きでかこの派手な浴衣の のりを伸ばしながらふっと思い出しように あのねさっき青字が来たんだよと言った服 を脱いでシュミーズ1枚になったかこは 兄弟の前で汗でネトネトした髪に ブラッシュを当てていたがへえ ロケーションにでも来たのかしらと尋ねる のであっ たほら千葉さんって女優さんがいるだろう あの人と2人でね 23日東京に来たからよっ たってあんたが留守だもんだから2人で 海水浴をして帰っていったところなんだ よするとやっぱり千葉ヒとの問題は本当の ことだったのかと思いかこは青字との色々 な思い出がぐるぐる頭の中を駆け巡って くるのであっ たそれにしても相手は大女優なのだから 青地ごきはどうせお刺身の妻ぐらいの愛さ れ方なのだろうと心のうちではふふんと あざ笑ってやりたいような哀れさを青字に 感じてもい たそれにしてもこんなしがない少女優の 詫びによくも千葉ヒカルが青字に連れられ てきたものだと思いかこは浜風の服縁側へ 何気なく出ていったがふっ目の前にある 物干竿にぶら下がっている2つの海水義が 目に止まっ た2人は海水浴をして帰って行ったと母が 言っていた けれど人のいい田舎者の母親は2人の捨て ていった海水にを洗ってやりわざわざ並べ て干してやっているの だかこは腕組みをして風に吹かれている 海水義をじっと眺めてい た青の海水義は今の毛織の洒落たもので あったが千葉ヒカルの海水義は見るからに 安物のもめ出で昔風なひが腰の辺りに3つ もビラビラ下がって いる大女優の千葉ヒカルがあんな海水義を 着ていてシレ物の青字とはいえワンさ どころの貧しい青字が毛織の海水に着て いるかこはこのうちにこれじゃ女の方が よっぽど惚れているなと思うのであっ た青字の得意さや幸福さが目に見えるよう だったしなんとない一松の寂しさはあった けれども青字は千葉ヒカのような女と修正 を共にしてこそ幸福だなとかこは男との 別れを思いしみじみと自分の将来を考える ところがあっ た 4かこはそれから間もなく2度目の恋人が できていたその恋人もまたかこの両親たち と一緒に住むようになってい た青字をもっと弱くしたような男だった けれどかこの両親を至り全てにおいて 控えめがちなぼっちゃん家の抜けない親切 な男であっ たかこの人気も高まり大森の家は貧しい ながらも楽しい我が家でありかこの両親は かこの今の出世を幸福に思い何かにつけて かこかこと喜んでい たその頃かこは大阪で化粧品貿易をして いる広川製造商店の化粧品のモデル写真に 使われるようになってい た舞台の他の内食としてはこれも大切な 収入で あるかこはふとした機会で広川製造が東京 の店にやってきた時ひよたくさんの女たち と一緒に招待を受けたことがあっ たその夜は一流どころの芸者も遠石へ たくさん集まってき たこうした女の多い席ではすることもなく 製造の正面に座り持ち前のほがらかさから 一座の者たちを笑わせてはみんなから 面白い女優さんだと行為を持たれてい た歯にキきせずに人の用意はないことまで サバサバと言ってのけ た長年芸者ばかりを相手にして芸者たちの 決まり文句しか知らない川は自由活の若い の魅力になぜともなくぐんぐん心を 締めつけられてい た芸者たちといえば昔からの決まり文句の ように山といえば川という1枚裏返せばつ もそっけもない女の世界と違い死士の ごとく道場のごとく豊島にもなれば霊場に も変わるという瞬時として止まるところの ない殺そとしたくどもつきる流れを持った かこの魅力に50歳の広川はまるで青年の ような恋を感じ始めていたので あるかこは広川に進められるオールドパー に酔いが回ってくるとカールブセの山の あなたの空と奥を小歌もどきにいい声で 歌うのであっ た山のあなたの空と 幸住むと人の言うああ我人とゆきて涙 さしみ帰りきぬ山のあなたに名を 遠く幸い住むと人の 言うねこんな歌知らないでしょう川さんは 学生の時にこんな歌は流行ってませんでし た か広川は慶王大学の放課を出た男だったが 誰が作った歌か知らないけれど山のあなた の空遠くという文句は遠い以前耳にした ような気もするのであっ たその世席を変えて大川端の待ち合いで 酔ったかと広川とたった2人で食卓に 向かい合っていた 一度大阪へ遊びにいらっしゃいえそのうち 従業でもすることがあっ たらあんたは舞台なんかやめてしまえば いいのにあらどうしてだって私親もあれば 恋人もあるんですものこれで大変なの よあんたは面白い人だなどれ手を貸して ごらんどうして かこは光った大きい目でじっと広川の目を 覗き込みながら素直に両手を出し た広川は指輪1つはめていないかこの つましい手の上に大きい封筒を乗せた封筒 は風がしてないのでかこはなあにと言って 風の中を覗いたけれどし1つない100円 札が5枚きちんと入っていた これ私にくださるの ああどうして何のつもりでいや何のつもり でもないさ気が向いたらそれで関西へ遊び に いらっしゃいまあそれだけでこんなに たくさんくださる のかこは製造の顔を見てニヤニヤ笑ってい た製造は小柄なかのの肩の肉づきを眺めて いたが今までの女にない新鮮な香りが製造 の興味を沿っ たかこは立って生子を開け暗い川の上を 眺めていたけれど両親のことも現在同棲し ている男のこともまた今自分の前に座って いる製造のこともみんなどれもこれも自分 に何の関わりもない生活のように思えかこ は暗い川の上に拍手を送ってくくれる たくさんの監修の顔がむくむくと 浮かび上がってくるような気持ちだっ た製造が自分に興味を持ち始めていること もよく分かっているけれどもかこは製造が いくらたくさんの金をくれたところで退屈 至極な気持ちであっ たその世かこは家へ帰ってからの100円 札を恋人に見せたそうして5枚の100円 札も23ヶ月のうちにうやむやに使い 果たしかこはそのまま関西へは行かなかっ たので ある12月も押せまってからかこは風を 引いたのがもで過労から救世肺炎を起こし て正月を寝たきりで迎え たそうした病床のある日広川製造のの使い のものだと言って自動車の運転手が立派な かおりとふさ包みを置いて帰って行っ たおやおや関西へ行きもしない私を怒りも しないでこんな見舞なんかもらっていい かしらかこは枕本の母親にかおりを開けて もらい自分も腹ばいになってネズミ色の ふさ包を開けてみた の封筒の中にはし1つない綺麗な10円札 が白い帯をして100枚きちんと入って いるまあお母さんどうしたん だろうなんだよお金が入っているのよお金 がまあたくさん入ってるわどうしたん だろう ねかこは急に激しく同機が打ち始め手が 震えて仕方がなかった白い帯から分厚い札 を抜いてかこは1枚2枚3枚と新しい札を 数えてみ た1000円よ お母さん母親もびっくりして呆れたように かこの枕本の綺麗な札をじっと眺めてい た5 2月に入って病気の治ったかこは製造の ところへお礼方々関西へ遊びに行っ た500円をくれた時の製造へ対しては こしなといった反感もあったけれどもそう してたったこれだけの金で負けるものかと いった気持ちもありそんなちょっとした 嬉しがらせなんか23日で忘れてしまえる 自分の強さにいっていられた は2度目の病床見舞の1000円の金には ドキッとした気持ちだっ たこれがいわゆる世間のパトロンという ものなのだろうか危ないぞ危ないぞと心で 自問自として いる綺麗なさ束を眺めているとどうした ことか恋人の顔もだんだん育児のないもの に思え家の中の全てのもみすぼらしくなっ てきて いる1000円の金にかこは魅力を感じて い た満たされなかった様々な装飾品が自分の 頭の中を渦のように流れていくの だそうした危ない心になっている場合に 製造を大阪へ訪問するということは危険な ことだとは100も承知でいながらかこは ある日大阪へ立っ た大阪駅には製造の自用者が迎えに来て くれてい たかこはすぐ行きな宿屋へ案内されていっ た製造からの言いつかりと見えて細かい ところに心の行き届くふけた女中がかこの 面倒を何かれと見てくれるのであっ た部屋の中にはこがくじていたし 床の間には製造から届けられた白いバラの 花がたくさん生けて あるかこは美しい部屋にいて少しも 落ち着かない気持ちを旅先の黄昏れのせい にしてい たいやお腹が空いた でしょう製造がニコニコして入ってき た女中は部屋の隅のガスストーブの火を 大きくして製造に布団を進めて いる製造は半白の発を綺麗にくし削ってい たズボンをつまむようにして床を背にして 座ると女中の持ってきた茶を年寄りらしく 茶碗を両手に持ってすすっ たその説は色々とありがとうございました おかげ様ですっかり良くなりましたのよ 少し太ったりして 元気になって何よりだな何日くらいい られる の何日ってちょっとお礼に伺ったんです もの明日にでも帰ろうかと思っているん ですけど明日そんなバカなことはいけない な1週間くらいいらっしゃい色々なところ を見物していったらいい だろう えでも舞台の方があるんであんまり休んっ たんですもの勝手に来ちまって私叱られて しまいます わ雨が降っているのか時々丸窓の新しい 表示に雨のしきが降りかかって いる部屋の中はばむほど温かだっ た製造は赤い箱の切味の風を切りながら 思い出したように女優なんかやめなさいと 言った風を切った赤い箱の中には白い チョークのようなタバコが盛り上がるよう にたくさん入って いるかこは自分の人生はこれからが本当の ような変な錯覚にとらわれて製造を いたずらっ子らしくじろじろ眺めてい たその世2人きりの食事が住んでから製造 はかに手をてごと言ってかこが手を出すと 真面目な顔でかこの指へ何からっともある ような大きなダイヤの指輪をはめてくれ た電気の光でダイヤはブドのように紫に 光ったり七色の梅雨のようだったり炎の ようだったりギラギラと美しい光を放って いるかこは長い間さと不安と暴の世界に のみ生きていたせいか芸者の世界のように ダイヤモンドの尊さというものをあまり 知らないの だ自分の指に刺された大粒のダイヤに対し ても若いかこは何の魅力も感じられなかっ たし感謝の気持ちも湧かなかっ たこれ 何あなたにあげるんだよまあそう私に地味 じゃない かしら白いプラチナの台に青く光っている ダイヤをかこは指を縮めたり伸ばしたりし てじっと眺めてい た製造はだいぶ酒の酔いも回ったのか子供 らしく指輪を眺めているかこの美しい横顔 を満足そうに眺めていたがふと激しい思い に駆られたのか 立ち上がってかこの方へよろよろとしてき たおややっぱりそうだったのかとかこは ドキリとしてきたけれどなんだかこんな 指輪をもらったくらいで甘くなっている 自分が情けなくなってしまいギリギリの ところまでは誘惑を知りとけるぞと考えて いる女の変な物干しさをかこは背中に冷水 を浴びたように感じくるりと後ろへ 振り返ったのと指輪を抜いたのと一緒だっ たそんなこと嫌よそう言ってかこは激しい 勢いで指輪を火鉢の中へ投げ込むと さっさと立ち上がって廊下へ出てしまった ので ある玄関へ出て誰もいないのでそこにある 高下を勝手につっかけて宿の甘さをさして 外へ出てっ た大阪駅から乗ってきた見覚えのある製造 の自動車が宿の光子際のところで雨に濡れ てい たコートも肩かけもしないで派手な羽織り 姿のかこは宿の重い番がさを刺したまま雨 の町を歩いてい た大きなホテルだの新聞車だのある暗い 川沿いを口笛を歩い たどういうところを歩いているのか まるきり様子を知らなかったけれど歩いて いると気持ちが良かっ た広い電車通りへ出てかこは自動車を頼ん で昔三市座と芝居をしていた頃の先日前で の生活を思い出して千日前の方へ自動車を 走らせてみ たダイヤの指輪なんか体何だっていうの だろう芸者なんかだったらありがたがって 頂戴するかもわからない けれどかこは指輪を火鉢の中へ捨ててきた ことが少しばかり失礼だとは思ったけれど もあの時の吐き捨てるばかりの嫌な気持ち はどうしようもなかったのだと自分で自分 を至って いる千日前の明るい日の町で自動車を 降りるとかこは映画館へ入ってみ たガルボの大内師がスクリーンの中で哀愁 のあるまなざしをしてかこを迎えて いるかこは何ということなく自分も映画 女優になってみたいと思っ た今までにもちょいちょい映画会社から 誘いはあったけれどもかこは舞台を離れて 映画へ入る気持ちははみもなかったの だだけど目の前に見るガルボの美しい姿は なぜかかこの心をそっ たその世かこは宿へは遅く帰って行った 女中が出てきてあれからさっきまで火鉢の 配布類で大変だったのですよと言って呆れ たようにかこを見つめて いるダイヤの指輪が見つからなくて 女中2人がかりで肺を振ってやっとさっき 指輪が出てきたところだと欲のないか女中 は悔しがるのであっ た 6その日からまた23ヶ月は夢のように 過ぎ た5月近い晩春のある世のこと上京して いる製造からソネット劇場のかへ電話が かかってきたの だコサックの騎兵姿でかこは電話口に立っ てい た怒っていらっしゃるかと思ってたの よかこは誰もいないので首をすめて下を 出した製造とは大阪以来音信不通だったの に今頃になってまた思い出したように電話 をくれる男の未練にかこは足踏みをしたい ほど 嬉しいものを感じ た若い男だったらとっくに忘れはてている ところを年を取った男の情熱は埋もれに 生けた日のように程よく長く続きこうした 思いがけない時に女の心をそる術もえて いるものなのだろう かえあの時は私が悪かったのよごめん なさいねえ行きますわお迎えくださるの じゃあ参り ますかこは舞台が住むとおしいを落とさ ないで楽屋に来ている製造の迎えの自動車 に乗って築地の宿へ行った芸者が45人来 ていた中にはいつかの見覚えの顔もある その世またかこは製造と2人きりになった 私はどうしてもあんたが忘れられないの だ製造は若い男の言うようなことを酔って 言うのであっ たかこは何ということもなくこの頃舞台 生活での飽和状態を感じていたせいか しかもこうした年を取った男の長い歳月を かけての愛情を感じてくると率直に製造に 持たれていきたい気持ちもあっ ただって私には恋人があるのよあなたと どうにかなったら手切れのお金でも出さ なくっちゃ肩がつかないと思う わかこは冗談のように本心を言っ た製造の情愛は身にしみるほど感じてい ながら製造の体には何の魅力も感じられ ない若いかこは製造の前では恥も外分も なく何でも率直にものが言えたの だかこは製造と別れて23日経ってから 恋人とたった2人になった時に製造との話 を持ち出して冗談のように別れてくれるか と言ってみ た殴るか蹴るかしてくれれば思い直しの 気持ちもあったのだけれども恋人はかから 手切れの金をもらったらハワイへ働きに 行きたいと平気な顔をして言うので あるかこの心のうちに寒い風の吹きすぎて 行くような寒々としたものを感じてい た女よりも金を得たいと考えている恋人に かこは100年の恋も冷めはててしまった ような詫びしさを感じ心はいつか製造の方 へへ傾いていってしまっている自分であっ たそれから間もなくであるかこは製造から あぶに家を買ってもらい両親と女中2人と の機能に変わる強者な生活に入っ たかこの恋人はかこに約束の手切れの金を もらうと1人でハワイへ旅立っていって しまっ たかはもやめて今は思い通りに撮影所にも 入ることができ た八早にかこ主人公でスクリーンに浮かぶ 自分の顔をかこはいつかのガルボのように 眺めることができたの だ映画女優になってからかこの美貌は ますます輝きを増してき た製造に対する愛情これはもう若いかこに は何とも言いよのない複雑なものであっ た老親士としては製造は足並みのいい清潔 な男ではあったけれども若さを失った男の 体はかこには希望のない後悔のようなもの であっ た青字のことやハワイへ行った恋人のこと が時々懐かしく思い出されたけれどもその 悲しさを紛らすためには蔵は様々なものを かに買い与えてついをしてくれ た月のうち死後編は京都の古代丸からゴシ な帯や着物が届けられて くるあぶの家のファニチャーだの様々の 調度も素晴らしいものが求められ た月の仕送りも過分なものだったので いくらかずつでも貯金をしようとすると 製造はそんな少しばかりの金なんか貯め なくてもいいと不機嫌なので あるかこはいつの間にか昔の久房時代を 忘れてしまいぬくぬくとした気持ちでその 日その日を求めるものは即座に与えられる 贅沢な環境に寝そべっていたの だしわくちゃな獣円札の1枚も5章大事に 使っていた頃の素朴さの亡くなった自分に かは時々寂しい思いを感じ何かに責め られるような反省をする折りもあるので あっ た製造にはかこの他にも2人も京都大阪に 女を囲ってい た2人とも京都や大阪の芸者だった女で この頃製造がかこばかりを可いがっている のが2人の女たちには妬ましい思いなので ある かこが製造と京都に行き山花の相屋へご飯 を食べに行った時製造の囲っている洋子と いう女も一緒だったけれど火龍海特有の 古風な義人情に生きてきた洋子はただ じっと様々な思いを胸に称えているだけで 何事もないかのように平然とした姿でかこ に対して いるかこは大な金で若い女を自由にして その女たちに小前と孤独を守らせている男 の階級に腹を立ててい た女も女だけれどこのような男も男だと 思うのだっ た洋子は今年26だそうだけれども年を 取った製造とつり合うような地味な作りを して いるこうした女の着金やひげした思いやり を見るにつけてもかこは自分もまたこの女 たちと同じように製造に買いならされる 将来の危険を感じてくるのであっ た自分だけは心から製造の自由になるもの かといった激しい気持ちでギリギリの ところまではわがまま勝手な風舞をして 見せて いるその世も夕飯が住むとは1人でホテル へ帰ると言い始め たかこの気持ちとしては久々に製造にあっ たらしい洋子に対してなんとない女同士の 至りを感じていたし自分1人だだこねて席 を外したならばあは製造と洋子の水いらず な世界が残ると思っていたので あるかこが該当を着て立ち上がると製造も 送っていこうと言って立ち上がって いるあらいよ今夜はいいのよ残ってておよ さんとご飯をゆっっくり召し上がってよ私 どうしても用事があるんだから今日は1人 で大丈夫 よかこは玄関に出て行き釣り橋を走って 製造の自動車のところへ行っ た扉を開けてかこがクッションに落ち着く か落ち着かないかの境に製造はもう運転手 を呼びながら狭い釣り橋を大股に渡ってき ている製造の後からはよこと女中が走って きてい たいやよどうして残ってあげないの よかこは小さい声で自分の横に乗ってきた 製造を叱った製造は黙ったまま女中から ステッキを受け取って いる1人残された洋子は寒そうに両袖を胸 で合わせて心の外で笑って いるまるでお化けのような寂しい笑い方を してい た自動車のガラス窓からかこはじっと洋子 を見つめていたけれど白い顔が暗い中に 浮き出て下半の街灯の明かりで洋子の首が 人形芝居のお園のような気な売を見せてい た残ってあげてちょうだい あんなに寂しそうなおよさんの顔が見え ないのあなたは女をあんまり馬鹿にする ものじゃなくってよ今にひどい目に会う からやがて自動車は動き始めた川沿いを 自動者がシュクシュクと柔らかい振動で 走っている は洋子のしみるような寂しい笑いの表情が 忘れられず急に激しい感情が込み上げてき てかこは子供のように泣き出してしまっ た目をつぶっていた製造はびっくりした ようにかこの方をしばらく眺めていたが 感情の気腹の激しい女心に呆れ不思議な 魅力を感じても いるどんなつのの表情もよたちのように 隠してはおかないかこの性格を製造は今 までの女にない珍しさで眺めてい たかこは洋子がかわいそうでみじめだと 言って鼻をすすって泣いているの だホテルへ戻ってからもかこは製造へ今 からでもよこの家へ戻っていってよこを 愛してきてくれと泣くのであった こんな気持ちであなたと今夜一緒にいるの は嫌なの よよこさんのところへ行ってよこさんを 慰めてきてくれるんだったら私は晴ればれ するんだ けど私はねあんたなんかちっとも愛してる んじゃなくてよお金をもらったから愛して いると思ったら大きな間違いだわ若い女は 色々な夢や希望があるのよその夢や希望を 耐え 体をお金で売ってしまったのだ から私はおよさんのあんな姿を見てはい られないの よ 7かこは製造の世話になってから2年目の 夏の終わりに製造と2人で世界万遊の旅へ 出 た娘の頃の通俗な空想がわけもなく実現さ れ それも考えたこともない素晴らしい旅行な のがかこには夢のようであっ た世間はいろんな風評をし合ったけれど一 女優と1パトロンとの旅行はさして不思議 なことでもないと見えてかこたちが船出し ていくのと一緒に風評もいつか消えて しまってい た太平洋の海を眺めたら少しは慰めが得 られるかと思ったけれども若いかこの心は 何1つ満たされる思いもなく船は ニューヨークに着い たニューヨークは秋も終わりで毛皮の街灯 や高価な香水や飛行機の旅やかこにとって は旅中や反省を感じる暇もないほどの目し 旅であっ たかこのような女優のメカであるハウにも かこたちは案内人を頼んでいっ た秋過ぎてクリスマスの頃になると気まま なかたちはもう寒いパリに来ていて町の ホテルに落ち着いてい た中央市場に近いウスター主人院の見える 生な贅沢なホテルに泊まりかこは時々は 1人で様々な街を自動車で見物したりして いた 黒い帽子に黒い毛皮の街灯黒い靴そして 赤い頬部にそんな未亡人の服装のような 地味な作りをするかと思えば明るい ブルターニュの海辺の娘のような主と紫の ダンダラジャケツを着てサンミッシェルの 街を散歩してみたりパリの雰囲気はかこに は一番楽しい土地であっ た息を吸う全てが若い女を楽しませる甘い 空気であり花と香水と可愛いシャンディー のある パリ金を設けることばかり考えている老神 士の製造もパリの空気は気に入ったと見え てなんとなく居心地が良さそうだっ たかと製造との生涯の思い出を尽くすよう な楽しさといえばまずパリの生活だったと 言えるのではないだろう かかこはパリの次には冬のフレンツも好き であっ たアノ川の暗い流れの見える美しい旅館の 1週間の生活ここではかこはひどい旅中に とらわれて製造と度々つまらない喧嘩をし たりし た3ミニ跡の丘の上までかこはひどい風に 吹かれて彷徨い歩きまるでライオのようだ と製造を困らせてしまったことも あるかこに言わせれば辻personに 乗っても自動車に乗っても記者に乗っても 半額の白髪を綺麗にくし削った製造の顔が いつも自分から離れてはいないということ が不服だったしかこは道行皮膚の白い青年 の姿に時々ぼんやりと見れている時がある の だ時たま行き合う雪釣りの青年たちも黄色 の皮膚をしている美しい娘姿のかこを 振り返る時があっ たかこは青年の目を見つめかしながら体を 焼くような愛や清らかさが欲しくてたまら なかっ た2人の旅のスケジュールは3月の終わり でひとまず終わりになりナポリの港から 2人は帰国の戸に着いたのだ けれどかこはこの船の中で若い新聞記者の 小木を知っ たナポリを出て船が地中海へ入った夜だっ たあんまり月が大きく美しいので一等の デッキではダンスの貝があっ た華やかな女優であるかこはダンスの相手 にみんなからプロポーズされいたけれども かこは船の中の一等の生活が嫌だったし 一等の階級に住む人間がどれもこれも製造 のような男に思われて仕方がなかっ たかこは早く帰って寂しく暮らしている 両親を慰めたかっ た月を見ていると苦しかった昔を思い出し て くる苦しかったけれどあの頃は楽しかっ たつ子と2人で3戦しかなかった鹿児島で のさいの日が 懐かしくかこはフェニックスの大きな八上 のある影のデッキチェアに腰をかけて小声 で歌を歌っていた製造は酒場でアメリカ人 の老人たちとさっきからポーカーをして いる様子だっ たどうしてダンスの方へ行かないんです皆 あなたを待っているようです よ小木がタバコをくらしながら散歩に来た ついでにフェニックスの影に歌っている かこを見つけて尋ね た私ダンスなんかたくさんですわ年寄りの 柔らかい手を握るくらいだったらここで海 を見て歌った方が気持ちがいい わどうしたんです広川さんと喧嘩でもした んです か船の中でも広川製造とかこの関係は みんな知っているようであっ た部屋は別々に取っていたけれど誰も彼も 広川の女だということを知っていると思え ばかこは何かしらイライラして仕方がない の だあなたは私を軽蔑していらっしゃるん でしょかこはそう言って小木のそばへ行っ た 小木は新聞社の若い特発者でベルリンへ2 年ばかりいて今日本へ帰るところだという ことで ある背が高くて弱そうな体つきだった けれど濃い眉毛には青年らしいパトスが 漂い目は子供のように明るい表情をしてい た 軽蔑僕はそんな人を軽蔑するような ふてぶてしさはまだあり よ勘で吐き捨てるように言って小木は黙っ て海を眺めて いるビロードのように熱苦しい暗い海 そして海の上のどんよりした大きい 月かこは夕方食堂でたくさんの外国紳士が 白いタキシードを着ている中で今のセビロ 姿の小木が達しなドイツ号でテーブル スピーチをしたのを惚れ惚れと眺めていた もの だ変なことを言ってごめんなさい私は広川 のことを言われると急に自分が汚くなって しまってついひがんでしまうんです もの若い女がこうした生活をしていること て私この頃になって寂しいと思い始めて いるの よしわくちゃなお札を大切にしていた頃が やっぱり一等いい生活だったと思ってい ます のかこはまるで昔の友達にでも巡り合った ように小木に親しい気持ちでい た 8船がインド洋を後悔しているある深夜 だった小木とかこは2等のデッキに降りて 誰もいない看板で海を眺めてい た私日本へ帰ったらすぐ広川と別れる つもりそしてもりもり働いてあなたにいい 生活を認めてもらう の今だってあなたの気質を認めていますよ だけど僕はあなたを幸福にしてあげるだけ の財産もないし東京へ帰ればまた元の安い 月球のサラリーマンですからね それに僕には美心な妹もあれば父も母もい ますしかこさんを幸福にすることができる かとただそれだけが心配だ なそんなことを言って私とこんな約束を するの不安になったの でしょかこが冗談のつもりで言ったのだ けれど小木はふっと黙ってしまって暗い カパの上をを1人で行ったり来たりしてい たかこはたまらない気持ちになって小木の 前に立ちふさがったがよろめくような 蒸し暑い風が吹いたと思うと湯を立てる ような猛烈なスコールが襲ってき た2人は急に寄り添いお互いの複雑な 気持ちを払いのけるような勢いで激しく 見つめあっ た死のつくような雨が嫁にも白くカパを 叩きつけて いる2人はずぶ濡れになってカパに 立ちすくんでい た雨インド洋の 雨かこは頭からずぶ濡れに濡れながら小木 も一緒にこの強い雨を浴びていてくれるの かと思うと2人とも神の清めを受け洗礼が 済んだような晴ればれしたものを感じた スコールは78分くらいでケロリと晴れて しまい遠くの暗い水平線では花火のような 稲光が弾けて いる夜明け近くになって2人は各自分たち の部屋へ戻っていっ たかこは濡れた服を脱いでタオルで頭を 吹いていると兄弟の上に置いてある広川の パイプがふっと目に止まっ た広川がやってきてここでしばらく自分を 待っていたのかもしれ ないかこは同気がしていたかこは製造と 別れることや今までのクソな贅沢から 離れることを恐れているのではなかった けれども製造から離れた後自分の新しい 生活に対してこの不自のない現在から自分 はどのように飛躍できるものかが妙に不安 であったの だ製造は1日1日と自分から離れたって いくかをよく知っていたそして女の気持ち が今では完全に自分から離れたっていった のを知ると自分もまた自分のような男に 残された唯一の復讐を考えてもいたの だ若い女が どんなに老人を嫌っているかもよく知って いる知っているだけに製造はかを至り今 までの女にかつて見せなかった様々の至り をかこに与えたつもりであったの だしかもかこへの愛情は製造にとっては 真面目なものであり時には妻も子供も遠く へやってしまってかこと2人だけの世界に なりたいと思うこともしばしばだったので ある若い男たちのような率直な表現はでき なかったけれども製造は自分の挑みを忘れ て人生最後の青春をかに傾け尽くしたとも 言えるので ある別に外国遍歴をしなければならぬと いうほどの熱情もなかったのだけれど もひたすらかこの若さに報いたいためで あり かこのためであったならばどんな方法でも 無理を叶えてやりたいと思ってしたいわの 旅行でもあっ たかこはかこで製造のこの気持ちをよく 知っていたのだし船手の時は感謝の気持ち もあったのだけれどギリギリのところまで は自分の我がままが通り無理なことも製造 は笑って受け流してくれるやすさにかこは ぬくぬくとエゴイスティックに温まってい たとも言えるで あろう製造の目の届くところで人もげな 振る舞いを演じている自分をとめる気持ち もないではないのだ けれどかこは神人へのギリギリまでの わがままを上手にセブしていくよなれた ことができなかっ た製造はかこと小木の様子を近くでながら かこに対しては100年の恋も覚めはてた ような気持ちで ある100年の恋が覚めてしまえば大阪 商人である製造に何の容赦があろう か日本へ戻ってくると同時にかこは製造に 離れられてしまいせっかく買ってもらった 家も裁判沙汰にまでなってしまっ たかこは弁護士を頼んだけれ 幾度か裁判所に無駄に呼び出されて 落ち着かない不愉快な日が1年ばかりも 過ぎたで あろう最後の裁判がある日にかこは裁判所 で45人の弁護士を連れている製造を遠く からちらと眺め た船で日本へ帰ってくる日までかこは製造 とこんな裁判なんかで争うだろうとは思い もよらなかった 今更離れてみればかこはなんとなく製造が 懐かしかったし自分のわがままを住まない と思うのであったけれど も若い女を自由にしておいて最後の別れは いかにも感情高い大阪人らしく何もかも 剥ぎ取って行こうとしている製造にかこは 爪を立ててやりたいほど腹を立てていたの だ 裁判はかこの負けになって家は半年以内に 移らねばならなくなっ た黄昏れの薄ら寒い裁判所の廊下をかこは 2人の弁護士とコツコツ階段を降りていっ たかこはパリで作った黒い街灯にベールの ついた帽子をかぶって いる1段1段と階段を降りて行きながら かこは人生の寒さを骨に徹するような孤独 を感じてい たコツコツと廊下を踏む自分の靴音を聞き ながらかこはこしがい自分に向かってくる 険しい運命を見つめて いる遠くの方でもコツコツと45人で歩む 靴の音がしてい た階段を降りて暗くなったホールを抜けて 入り口の方へ行こうとすると向こうの階段 から降りてきて入り口が閉まってでもいた のかぼそぼそと何か喋りながら来ている 製造たちにかこはホールの真ん中で ばったり引き合ってしまっ た暗くて製造の表情は伺えなかったけれど 製造の気配はすぐ察しることができかこは りと振り返るとさっさと大股に裏玄関の方 に歩いていっ た 9製造とのゴタゴタした別れや撮影の せわしい仕事に紛れて半年は流れるように 過ぎかこは四谷坂町にさやかな家を見つけ て引っ越してしまっ たその夏はちょうど日が始まり狭い家に 引っ越しをすることもくではなかった けれど小木はかこと会う暇もなく従軍記者 として下北へ旅立って行きかこは心の支え を失ったような寂しさだったの だその頃かこはまた偶然につ子と会うよう になってい たつ子はまだ結婚はしていなかったけれど 銀座に姉たちと小さ料理店を出して元気に 働いてい た長らく離れて会うこともなかった友達 だったけれどもかこはつ子には何もかも 打ち明けて今は真味になってもらいたい 気持ちだっ た私もいい勉強したわこれから何もかも やり直しなの よ今のところは映画の仕事があるからいい ようなものの今までは若さにいて むちゃくちゃだったのね今こそ思い知った の よでも小木さんとはどうするつもりなの そりゃ愛している わ結婚するんでしょ えまだ何も言う暇もなく戦争へ行っちゃっ たんだけれど帰ってきたら私小木の仲の いいお友達に度になってもらってつましい 結婚式をしたいと思ってるの かこは製造とも別れ小木とも別れてからは 一生懸命に仕事に熱中してい た女優として一生を終わるには色々な矛盾 や疑問もあったけれどかこは一生懸命に 仕事に熱中していくより現在の道はないと 思ってい た若いことを誇っていた時代はいつの間に か秋風が吹くように吹きすぎて行きかこは 今は28歳になってしまって いる自分たちの先輩としては年を取った 女優の末路も数々眺めてい た華やかに騒がれていた人たち地味だった 人たちどの人もそれぞれの道をたどっては いるけれども遠くから眺めていてどの人が 一番幸福な道をたどっているとは言いきれ ない一松の果てを見るので ある一時左翼女優で有名だった中安カルコ にしても現在は大富豪の世話を受ける女と なって何の屈さも感じないで得意前と 暮らしているようだっ た金が物を言う世の中とはいえ影では みんな中安カルコを上昇していたしかこも またかつてはそんな世界を自分も特々とし て歩いていたのかと背筋の寒くなる思いを 密かに感じるので あるたくさんの女優の中でもそんな人が わずかに幸福と言えば言えるくらいのもの で立派な女優として名なすには日本の映画 女優の歴史はあまりに貧弱なものであっ た年を取った顔は写真の上でごまかせなく なってきているし年を取れば自然に撮影所 にもよのなくなる女優になってしまって くるの だ後から後からかつてのかこたちのような 若い映画女優が生まれてきて いるまるで流れの ごとくこうした慌ただしい歳月が尽きる ことなく過ぎていくので あるかこは自分が働ける間だけは一生懸命 に働いて悔いなく女優としての最後を飾り 小木が戻ってきたらつましい結婚生活に 入りたいと思うのであっ た撮影所でのかこはどの人にも人気が良く みんなに可いがられてい た正直で率直でまた非常に美しかったから だ製造との記憶も薄れやっと自分の働く金 で生活できるまでこぎつけたこの 夏かこは23日の休暇を利用してつ子と 2人で山中湖へ遊びに行っ た女同士の着金のない旅行で自分で働いた 金で旅行する気持ちはかこにとっては まさに天下を取ったような晴ればれした ものであっ た夏雲の浮き立っているご飯のホテルで 2人は茶飲みなながら2人だけに共通な昔 の思い出話をし合ってい たサロンには1人の紳士がさっきから熱心 に新聞を読んで いるかこは見つめるともなく新聞を広げて 読んでいる紳士の足を遠くから見つめてい た足を組み合わせていつもせわしそうに膝 をゆっている癖の製造をかこは新聞をいる 紳士の上に眺めてすっと立ち上がってい た何のつもりで立ち上がったのかは分から ないけれどただ夢中な気持ちでかこは新聞 を読んでいる紳士の前へ立つと紳士も新聞 に影を作った人の気配にふっと手を下ろし て首を上げたの だあんなに日や恨んだり懐かしがったりし ていた製造のなだな顔がそこに あるかこは製造に作ってもらった服を着て いなくてよかったと思っ た女優だと思われたくないためにかこは 学生のような清楚な服を着ていたの だ今かなと子供が来ている製造はそんな ことを言ってさっと青ざめてい たかこは別にゆすりがましい気持ちでそこ へ立ったのではなく何かしらお礼の言葉を 言いたい懐かしさを上手に言い出せない もどかしさでかこはペコリと辞儀をして つ子のとろへ戻ってき た奥さんと子供が来ているって製造ったら 顔色変えてるの よあなたが急に立っていっちまったんで私 びっくりしてしまったわ あらあっちへ行ってしまったわよあんなに 顔色を変えるところはやっぱり私が好き だったの ねかこは冷たい紅茶をしばらくストローで かき回していたがたまらなくなったのか こぼれ落ちる涙をかこは子供のように手の 甲でごって いるグールモンという詩人が言っている 女のいらしさはいつどこでどこから降って くるかもしれないところの見たことも聞い たこともない未来の夫を定宿に慎ましく 待っていることだ と戦争へ従軍していく 前日小木がかこにこんなことを言っ た製造から離れたかこの今後の立ち直りを 楽しみにししていると出かけていく時 真っ白ぐに自分を愛してくれと小木は言う のであっ た定宿につつましく待っていてほしいと 言った言葉をかこはどうして忘れていい だろう山中湖のホテルでの涙は製造を 恋しいと思う涙なんかではなくしみじみと 感謝する涙だったのですと釘かこは必死の 私に言うので ある女の幸福は定宿につつましく夫を選ぶ ことにありその夫ととに平和な家庭を建設 することが女の最大の幸福というのでは ないかと釘宮かこさんは言うのであっ たOG

『林芙美子全集』(文泉堂出版)より朗読させていただきました。

【もくじ】
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林芙美子作品リスト

林 芙美子
(はやし ふみこ、1903年〈明治36年〉12月31日 – 1951年〈昭和26年〉6月28日)は、日本の小説家。本名フミコ。山口県生まれ。尾道市立高等女学校卒。複雑な生い立ち、様々な職業を経験した後、『放浪記』がベストセラーとなり、詩集『蒼馬を見たり』や、『風琴と魚の町』『清貧の書』などの自伝的作品で文名を高めた。その後、『牡蠣』などの客観小説に転じ、戦中は大陸や南方に従軍して短編を書き継いだ。戦後、新聞小説で成功を収め、短編『晩菊』や長編『浮雲』『めし』(絶筆)などを旺盛に発表。貧しい現実を描写しながらも、夢や明るさを失わない独特の作風で人気を得たが、心臓麻痺により急逝。
その生涯は、「文壇に登場したころは『貧乏を売り物にする素人小説家』、その次は『たった半年間のパリ滞在を売り物にする成り上がり小説家』、そして、日中戦争から太平洋戦争にかけては『軍国主義を太鼓と笛で囃し立てた政府お抱え小説家』など、いつも批判の的になってきました。しかし、戦後の六年間はちがいました。それは、戦さに打ちのめされた、わたしたち普通の日本人の悲しみを、ただひたすらに書きつづけた六年間でした」と言われるように波瀾万丈だった。
(ウィキペディアより)

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