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【朗読】林芙美子「心」  朗読・あべよしみ

林文子咲 心 1肖像が咳をしたので春は目を覚まし た咲夜からの風がまだ止まないのかにの ざわざわと揺れる音がして いる春はもう何時頃かしらと思っ た肖像は自分の席で目を覚ますと枕元の タバコ本を探している様子で ある明りをつけましょう か妻が起きているので肖像は枕元を探って いた片手を引っ込めて両手で顔を洗うよう な格好で暗い中でしばらく枕に顔を 突っ伏してい た時計はならないけれど長の鉄瓶がとなっ て いるまだ1時をちょっと回った頃ではない かと春は思っ た暗闇の部屋の隅で住んだ寝の鉄瓶のたっ ている音がして いる春は何ということもなく口紅に微傷が 湧いてき たまだ早いんでしょう ね春はそう言って夫の方へ寝りを打ったが なんとなく鉄の音に耳をそば立てる気持ち であっ た肖像と結婚してちょうど10年になる じっと考えていると肖像と連れ添ったのは ほんの去年のようにも思えてくるのであっ た上の娘がここのつ次の男の子が7 つとにかく2人とも大した病気もさせない で でのびのびと育ててきて いる春は暗い中でしみじみと将来のような 鉄瓶の音を聞きながら何の関係もないよう なことをうつらうつらと考えてい たもう23日うちには長日の肺も振って 難度へ火鉢をしまい込んばなら ない鉄瓶もよく乾かしてのキれで包んで おこう春は火鉢や鉄瓶をしまい込むことを 考えているとふっ遠い昔のことを思い出す のであっ た春が肖像と書体を持って初めて女中を 雇った時にふさ子という娘が雇われてき たまだ16で真州の田舎から来たばかりで 全てが素朴な娘であった ちょうどこうした晩春の頃ふさ子は春の家 へ来たのであった けれど都会の生活を何も知らないふさ子は 春が火鉢の肺を振るうようにと言いつける と一生懸命火鉢をゆっていたもので あるまた鉄瓶を乾かすのだと言えばそれが 分からなくて日に干すのかと春に聞きに来 たものであったけれども あのふさ子も今頃はもう256になって いるはず だいつだったか妹のしずが新橋の迎車屋町 でふさ子にあった話をしていた けれどふさ子は白いかぽ木姿でしずの前を 小走に走っていってしまったのだそう だいかにも女中女中とした姿で はまだふさ子が未だに女中をしているのか と詫びし気持ちであったと話してい た春はその頃上の娘のきみ子が生まれる頃 で1ヶ月も病院にいたけれど家へ帰って からのふさ子の態度が妙におどおどしてい て何かしら女同士感じ合うあのいやらしい ものが春をなんとなく不快にしていた ふさ子が祖して人への裾を汚していたり すると肖像がおいおい ふさ子あっちへ行って着物を着替えてき なさいと注意してやったりしてい た春はそんな場面が嫌であっ たそんな時目元では夫と一緒になって ニヤニヤ笑っていたけれども心のうでは 女中のにまで気のつく夫が嫌で嫌でたまら なかったの だどんなに密もなく汚れていてもそれは それでそっと自分に注意をしてくれれば 良いとも 思える妹のしずが兄さんはふさ子を可愛 がっているのじゃないのちょっと私そんな ところを見た からそう言ってその頃わざわざ注意をして たこともあった けれど春は肖像と不作を一緒にして考え たくはなかっ た自分とは恋愛結婚であったし肖像も仕事 に油の乗っている頃であっ たなんとしても肖像とふさ子を一緒にして 考えることは辛いことで あるふさ子は2年ほどして暇を取って田舎 へ帰って行ったけれども ふさ子が田舎へ帰って間もなくふさ子の 父親から肖像へあって必進展の熱い風船が 来たことがあっ た春は何かしら鼻先をかめるような一松の 不安をその手紙に感じて肖像には黙って その手を開いたのだけれど もその手紙は春にとっては意外ことばかり が書いてあっ た肖像のために娘を台無しにされたのだ から150円子宮送ってくれといった文面 を眺めて春は体中ガタガタ震え たちょうどお腹には長男の嘉一がいた頃で 春は不安や寂しさや悲しさ恐ろしさ苦しさ がふざけをした後の大度のようにううっと 胸元までこみ上げてき た23日は肖像が心配するほど悶々と考え 続けていたものだ けれど結局はこんな不快なことは自分1人 で畳んでおくべきだと春は実家の父から 100円ばかり借りてふさ子の父親へ送っ ておい た文面には何も書かないでふさもよろしく と書いておいたきりであっ たその手紙の問題があってから春はそれと なく檻に触れては肖像へふさ子のことを 尋ねてみたもので あるあなたはふさ子が好きだったのだから とかふさ子はバカな子だったけれどあんな 白地的な子は男の人は好きなのでしょねと かそんな思わせぶりで肖像の両親をついて みようと思ったのだ けれどふさ子の話をしていると自分が惨め になり下がり遠征的になってくるので春は 肖像よりも先にすぐその話を自分の方から 打ち切って引っ込めてしまうので あるそうしたぐずぐずな気持ちでもはや こうして10年は経ったのだけれど も春は新しく女中が来るたびになんとなく 肖像を監視している気持ちになり自分で 自分が妙に落ちぶれた思いになるのであっ た 2間一の先生は女の人なのか い肖像がドスンと寝りを打ってこんなこと を言っ た春はうつらうつらしていた気持ちから ふっと冷めてラマの方へ目をやっ た月光のような淡い光がラマへ刺して いる古いの風はなかなか止まないええ女の 先生です よなかなかいい先生らしいねへお会いに なったのああこないだ嘉一を連れて駅へ 行ったら嘉一が僕の先生だと言うんで挨拶 をした よそうですかだから坊やが先生も散歩し てらしたって話してました わ春は起き上がって明りをつけ長日のそば へ行って茶を入れる支度をし た部屋の中が急に明るくなったせか目に チカチカと光線が染みて くるキスに茶を入れて湯をさしていると 肖像はむっくりと腹ばいになっ て明日ちょっと静岡まで出張だと何気ない 風で言っ たあら急にいやどうせ明日の夜なん だ まあだってなんだか急ですね何日くらい 行っていらっしゃる の3日ばかりだ帰り沼でも寄ってどこかへ 1日行ってこようかとも思って いる春はさっきから昔のことを考えていた ので急にむっとした気持ちになってき た自分ばっかり楽しんで女房というものは 子供を産む道具で台所をする道具 であなたがそんなのならば私にだって何か できるんだ から春は茶を継ぎながら急にバカバカしい 気持ちになってきてい た伝法打つからお前も来たらいいじゃない か ええなんだか息抜きでもせんことには体が 参って しまう出張出張であなたは月のうち半分は 記者に乗って息抜きをしていらっしゃるの にうちのものはアセアセして息抜きどころ の騒ぎじゃないんですもの ね春は茶王肖像の枕元へ持って行ってあっ た茶のみ茶碗の底ではゆらゆらと茶柱が 立ち上がって いる春はその茶柱になんとなく小らしい ものを感じてい た男というものは勝手なものだそう思って くるとなんだか自分が一番貧乏くじを引い ているようで子供のように悔し涙が溢れて くる子供が2人もいれば今更別れるわけに もいか ない別れたところでもう自分は30歳にも なっているのだ中途半端なさ歳という女の 年齢は社会に出てみればどうにもこうにも 行場がないことも分かって いる男っていいわ ね何がいいん だだって何でも勝手なことができてそして いって歩けるんです ものや気持ちかいまあやだ私焼きもち なんか焼きませんよ 大きな子供があって今更そんなおやだ わどうだいしず女子に来てもらって1つ 久しぶりに夫婦で旅行するのもいいじゃ ない かあなたと旅行なんかまっぴら 景色なんか見るんじゃなくて女中役に行く ようなもんですもの ね妙なことを言うんだ ねたまにはいいじゃないかもうみんな学校 へ行っとるんだし隣の奥さんだって見て くれる よまた隣の奥さんです かあなたは何とか言うと隣の奥さんって おっしゃるけど私あんなデレデレした奥 さん大嫌い あなたに物を言ってる時の奥さんの目つ きったらとても変 ねそうかね別に俺は何とも思わないけど なそう かしらでもあなただってとても嬉しそうに 話していらっしゃる わ昔の私にだってあなたはあんな目つきは なさらないこと よ私なんだか嫌な気持ちであなたや奥さん の目つきをじっと見ていること度々ある わおいおい冗談言っちゃ困るよ 冗談じゃありませんよあなたはふさ子の時 だって知らばれてる方だから隣の奥さんと だってどんな風になってるか分かったもん じゃないおいそんな冗談言うもんじゃない よそうかしら冗談だといい けど私はふさ子のこと以来しみじみと あなたを信頼して眺めるって気持ちはが なくなっている の茶立ちしてもう子供ができませんよう にって拝んでるの よちょっと乱暴かなと思ったけれどもう きこの勢いで春は黙っていることができ なかったの だ100円で後始末をしたふさ子の問題も ぶちまけて話し たそしてその時からすでに肖像へはある 意味での失望を持って向い合っていたと いうことも話し た 3へえそうかね驚いた ねそれにしちゃ随分長い間黙っていたもん だなそれが本当とすれ ば関心なもの でしょうん こんなことを言うのは嫌だったの よ言っておきますがねうちの中のもの なんかに手をつつけるのだけは良して ください新橋でもどこでもようござんす からそういうところへ行ってくださりゃ いいのよあなたと来たらまるっきり薄汚い んだ からお隣の奥さんだってご主人が いらっしゃるんですからあなただって むやみなことはなさらないでしょうけれど 本当にそんなことを考えると私 くしゃくしゃしちまうの よバカなやだなそんな俺じゃない よだってどうだか いやふさ子の問題にしても別に何でも ありゃしないよ別に傷つけるようなことは しない そりゃあなたの言い訳というもんです よもう住んでしまったことだ けれど私それでも時々ふさ子のことを 思い出すと嫌な気持ちになる のふさ子にその後お会いになら ないバカだな会うもん かそうかしらでも東京にいるんですって しずさんが新橋の車屋町で偶然あったんで すって へえおかしいわねふさ子はあなたのお勤め 先も知っているんだしなんとか言ってき そうなものだと思う わもうあの子は25ろ かしらまだ女中らしい様子だっって言う けどなんだか私たちのしこりみたいで嫌だ わ信じられないわね男の人って 男がみんな女をこんなに疑い深くしていく の よよく悪場はあっても悪字はないって言う けど男はしたいだけのことをしてさらりと 鼻歌歌っていられるんですもの良いおじい さんにもなれようじゃありません か女はサザご亭主に苦労をして疑い深く 成長していくんですもの悪いおばあさんに なるのも無理がないと思う わそりゃふさ子の問題だってあなたは一生 隠せるものなら隠して大きになりたかった でしょうけれども案外なところに尻尾を 出して大きになるんです ものおかしいじゃない の春はふっと涙がこみ上げてきそうだった けれどわざと手荒く根巻きの胸をかき あわせてああとあびをしてとかのスイッチ をひねって消し たまあ隣の奥さんのことなんか冗談にも そんなことを考えない方がいい よご主人公だって友人なんだから ねだって女房の私が考えているようにお隣 のご主人だっって何かは考えて いらっしゃると思う けどあこんなに遊びに来ていらした方が この頃少しも遊びに見えないじゃありませ んかそれに隣の奥さんは不思議にあなたの 主張のことなんかよく知っていらっしゃる こと よそりゃ君子だの間1に聞くから だろうそうとばかりは言えないこともある でしょこないだも私が子供たちを連れて 買い物に行ったことがあるでしょその時隣 の奥さんが電気の傘を見にいらして2階 上がっていらしたって女中が言ってました よあああれかいあれはお前の作った電気の 傘を真似をしたいからってこられたんで俺 が2階へ取りに上がると奥さんもどんどん 2階へ上がってくるんだものしょうがない じゃないかただ電気の傘を見て戻っていっ ただけだ ぜまなんででもいいことよでも私がお隣の 奥さんだったらご主人1人だけ いらっしゃるところへ行って2階上がって いくってことなんかししない わ私がそんなことをしたらあなたは変にお 思いにならない かしらそれに女中の口もうるさいんです からこないだやの小僧が来てお隣で夫婦 喧嘩をしていらした話を耳に挟んのです けどなんだかとても嫌だっ たもう俺も隣へ出かけていかない よまそんなに急に行かなくなるのも変 でしょう けれどそうねもういらっしゃらない方が いいかもしれませんね間違いのないうちに 胸に畳んでもらっておくこともいい でしょうしああ行かないよ 4肖像が静岡へ立っていって23日して から春へすぐ来ないかという伝法が肖像 から来 た春はその前方を眺めるとまるで娘の頃に 帰ったようなそわそわした気持ちであっ た女中も子供たちも行っていらっしゃいと 言ってくれるのがありがたい思いでもあっ たし旅先の知らない宿で昔の嫌なことは さらりと水に流してしまうこともいいこと ではないかと思われるのであっ たお母さんが留守でもお隣へご会をかける んじゃありませんよ うんきみこさんもちゃんとしてオルス番を してちょうだいおみ買ってきますから ねちょうど明日は日曜なので勤めに出て いる妹のしずにも来てもらって女中と子供 をしずに頼んで春は10年ぶりぐらいで駅 へ行っ た5月に近い温かい酔いで ある春は高田の馬場から新橋行きのバスに 乗って明りの突き詰めた町の景色を眺めて い た子供2人がいつでもそばにいた生活から 離れて 急に軽々と独りぼっちになってしまうと裸 になって歩いているようなそんな不安な ものを感じて仕方が ないたった今家を出てきたばかりだのに もう子供たちが怪我をしているようにも 思えたり病気をしているようにも思えたり する自分の子供たちくらいの幼いものが目 について仕方が ない春はこんな思いまでして旅行に出るの は嫌だと思っ た何も今更10年も連れ添っている夫婦の 仲直りを遠い旅先でするほどのことも あるいとも思われてくるので ある新橋の駅近くになるといつかしずが この辺りで女中姿のふさ子にあった話をし ていたのを思い出してまたムカムカと肖像 へ腹が立ってきたりもする ああ女の心というものはどうしてこうも サバサバと物事が忘れられないものかと 何事につけても踏切りのいい肖像の生活が 今ではニニしく考えられて仕方がないの だっ た家を出たばかりで自分なぞはもう子供の 心配をしてうろうろしているのに肖像は 平気で旅ばかり続け 全く偉いものだと思わずにはいられ ない春は沼行きの汽車に乗っ た2等車はいっぱいだったのでしばらく 入り口近いところで立っていると右の窓の 向こうの方でニコニコ笑っている海軍の 商工がい た見たような人だけれど誰だった かしら春はしばらく考えてい た記者が動き出すとその商工の人は春の そばへ大またに歩いてき て上ささんじゃありませんかと実家の名前 を言って春を呼ん だまあ小泉さんじゃございません か軍服姿の凛々しい小泉の姿を見て春は急 に同機が打ち始めて いる小泉は少しばかり吹けているけれど相 変わらず美しい白い歯をしていて いたずらっ子らしい目も昔のままであっ た春はジクの時に小泉に別れた霧であった のでなんだかまるで夢を見ているような 気持ちであっ たどちらへ沼津まで参りますあそうですか 僕たちは箱根行くんですがあなたは相 変わらず若いですねいくつ30になられた のか なまあ嫌ですわ人の年なんか覚えていら しって私子供が2人ありますのよ ああ結婚されてからもうよほどになるもの な一度新宿の通りでちらとあなたをお 見かけしたんですよ僕も今は結婚して 女の子が去年の秋生まれましてね今女房も 子供も一緒ですよどうです私の席へ いらっしゃいません か小泉はそう言って春を自分たちの席へ 連れて行っ た白レースのシルをした小柄な太った奥 さんが赤ちゃんを抱いてい た春は丁寧に挨拶をして奥さんの前へ腰を たけれなんとなく気持ちは重たかっ た春は娘の頃小泉とは隣同で小泉の妹の ふき子とは同じ女学校であっ た春はふき子のこの兄が好きでほとんど 親類同士のように付き合っていたもので あったけれども春が女学校3年の時に歯間 だった小泉一家は横浜から東京へ転任して 行ってしまった それ以来春は学校卒業するまで小泉の家族 に会う機会はなかったけれど一度東京の 地人の家近くで春は小泉にあっ た先頭から出てきた小泉と地人の家を出た ハルトは市場の近くのゴミゴミしたところ であっ たその頃春はもう女学校を出ていて ちょうど肖像と知り合っていた 小泉は非常に懐かしがってよかったらその 辺りでお茶でも飲もうと言ってくれた けれども春は肖像と会う約束の時間があっ たのでざとの町でそのまますげなく小泉に は分かれてしまったけれども春はその時の 小泉の寂しそうな顔を肖像と結婚してから も時々思い出すのであっ たついのような淡い思い出の人であるだけ に春は小泉の姿を懐かしく眺めてい た奥さんは245くらいのまだ若い人で あった けれどいかにも素朴な田舎風な女の人で ある奥さんの膝の子供は小泉によく似てい て目と耳が大きかっ たあれから随分になりますね母なんかも 時々はる子さんたちのお噂をしております よ小泉がタバコを出していっ た私も時々小泉さんのオタクの方たち元気 かしらなんて妹たちと話していますのです よお母様お丈夫でいらっしゃいます か 5小田原で小泉夫妻は降りていっ 暗い山々が車窓を覗き込んでいる春の目に 魔物のように怖く見えて くるどの人もこの人も生きてさえいたなら ばこうして楽しく会えるの だ春はうまい空気を吸ったように窓を少し 開けて涼しい風に当たっ た子供のように暗い窓の外を覗いていると 小泉のニコニコした症候姿がまぶに浮かん で くる頭を振ってそのおかげを払いのけよと しても妙に小泉の姿はこびりついてしまっ てまぶから離れ ない箱根行きのバスへ乗って山の宿屋へ ついてどてら姿になっているところや 小さい奥さんが赤ん坊を寝かしつけている ところがひょいひょいと浮かんでくる 人の生活というものは面白いものであり また怖いものでもあるものだと春は ぼんやり自分の心の移り変わりを考えてい た肖像だっって記者に乗って静岡へ行くの にこの東海道線を通っていったのだろう けれども自分と言い争ったあの晩のことを 今の自分のようにこうしてうつらうつら 考えていったのかもしれないと思うので あっ た肖像のまぶの中に故郷のような数々の女 のおかが浮かんでこないとは誰が一体保証 できる だろう肖像は女中姿のういういしい不作を 思い出してほんの少しばかり愛しさや悔い や連NATの思いを持つことで あろうちょうど自分が今を懐かしく思って いるくらいの程度に は春は肖像とふさ子の昔のことを考えて くるとまた胸がムカムカとしてくるので あっ たこれが女の狭い心根とでも言うのか 何かしら夫が頼りなく思われ夫のふらちな 行為が今頃になってきて一歩もちっとも 許せないようなイライラしたもに変化して きて いる沼へついてそれからバスに乗って春が 江の浦の肖像の宿へ着いたのは8時頃で あろう肖像は海の見える部屋で1人で食事 をしてい た春が部屋へ入っていくと肖像は酔った 顔色でニヤニヤ笑ってい た縁側のガラス戸を開けると 暗いみさの家に明りがキラキラ光っていて 波の音がピチピチ石がけに寄せている 入り江になった宿の裏には小さな漁船が たくさんもやってい た静かなところです ねいいところだろうここは魚がうまい よそうでしょう ねうちはし女子に頼んできたのかい えでもなんだか気にかかってしようがない の よひょっとしたら私明日帰ろうと思ってる んです けど春は肖像の前の前に座って女中が持っ てきたぬるい茶をすすっ た八畳の部屋には箱火鉢とラック塗りの 茶台がある きりなんだか春にはその部屋に収まって 楽しそうに酒を飲んでいる夫の姿が変に 思えるので ある疲れたヤッサラリーマンのような夫の 姿に呆れて見れて いる子供のいるあんなに楽しい我が家が ありながらどうして私の夫はこんなところ に息抜きだなんて来るの だろううちにいる時の肖像は安い月給取り ではあけれどもなんとなく立派に見えた いかにも課長らしい取りもあるし2人の この父親として申し分のない人であり ながらこうした旅空で見る夫の姿は全く 呆れてしまうほどひどい疲れを見せて猫背 で老人臭く宿屋のまずい料理をついて いる春は新しい発見でもしたように じろじろと夫の酒を飲む姿を眺めてい た肖像もニヤニヤしながら春の姿を眺めて いる何笑っていらっしゃる のうんなかなかいい奥さんだから さ まあこの着物少し派手なのでしょいや なかなかよく映るよそんなのをいつの間に 作ったんだ 嫌な方ね私何年にも着物なんか作ったこと ありませんよ昔のが今頃ちょうど良くなっ てこれは千田さんのところでお祝いに くだすったものですわほうそうかね俺は また慎重かと思っ た 6夜ふけて隣の部屋へどやと23人の人が 入ってきたようであったが春はまるで戦争 から戻ってきた兵隊さんのようにぐっすり 寝込んでしまって いる遠い旅を来た人のように春はコンコン と眠っ た何年にもないようなのびのびとした 気持ちであったけれど深い眠りの中にも 時々きみこや間一の顔が浮かんでき たを歌っているところや走りっこしている ところなんかが夢の中へ入って くる春は夢の中で自分が大きな大黒3にで もなったような福袋とした豊かなものを 感じてい た翌日春が目を覚ましたのは7時頃であっ た隣の部屋で子供が消化を歌っていた おやと隣のお客様は子供連れなの ね春が聞き耳を立てると肖像はうーっと 布団の中で伸びをしながら ああ船員の家族が止まっているんだそうだ 一家族で旅先にいるのはいいもんだろうと 考えていたところ さまそうですか女将さんも一緒なのですか ああ 女将さんも赤ん坊もいるんだここへ船の 修理にでも来ているんじゃないか な春は起きて縁側へ出てみ た晴れ渡った青い海がギラギラ朝日に光っ て いる入り江にはたくさん船がもやっている し宿の下の海には灰色に塗った豆潜水艦が 浮いてい た給油でもしているのか大きなエンジンの 音がしていてその潜水艦の周りを子供たち が小舟をこぎ寄せて眺めてい た海の上はまるで針を散りばめたように日 がギラギラと光って いる春は子供たちを連れてきてやれば よかったと思っ たねえどうしてあなたはこんなところをご 存知でしたのここかい え隣のご主人がよくここのことを話してい たから さああそうそうお隣の奥様ご実家が我入道 なんですってねそうかいそうかいって あなたは知っていらっしゃるはずよよくお 魚なんか頂いたじゃありません か春は肖像がまだなんだか嘘を言っている ようで嫌な気持ちだっ たお隣の奥さんとは何でもないとは考える けれどもまた色々なことが思い出されて くる東京へ帰ったら一層引っ越して しまおうかしらとも春は思った肖像を真 から愛しているからこんなに何でもない ことに妬みを持ち1人で神経衰弱になって いるのかしら だ けど春はふさ子の問題以来夫を心から愛し ているとはどうしても思いたくなかっ た何かで夫に女の心とはこういうものです よと思い知らしてありたいような憎しみも 根強く持っているので あるこれから見え出て手前ジでも回ってみ ないか 肖像が縁側へ出てきて春のそばへ寄ってき た春はタバコ臭い夫の大衆を感じると まるで女学生のようにさっさと部屋へ 引っ込んでしまい自分の布団だけは丁寧に 畳んで部屋の隅へきちんと積んでおい たJA

『林芙美子全集』(文泉堂出版)より朗読させていただきました。

【もくじ】
00:00 1.
08:44 2.
15:36 3.
21:28 4.
29:20 5.
35:18 6.

林芙美子作品リスト

林 芙美子
(はやし ふみこ、1903年〈明治36年〉12月31日 – 1951年〈昭和26年〉6月28日)は、日本の小説家。本名フミコ。山口県生まれ。尾道市立高等女学校卒。複雑な生い立ち、様々な職業を経験した後、『放浪記』がベストセラーとなり、詩集『蒼馬を見たり』や、『風琴と魚の町』『清貧の書』などの自伝的作品で文名を高めた。その後、『牡蠣』などの客観小説に転じ、戦中は大陸や南方に従軍して短編を書き継いだ。戦後、新聞小説で成功を収め、短編『晩菊』や長編『浮雲』『めし』(絶筆)などを旺盛に発表。貧しい現実を描写しながらも、夢や明るさを失わない独特の作風で人気を得たが、心臓麻痺により急逝。
その生涯は、「文壇に登場したころは『貧乏を売り物にする素人小説家』、その次は『たった半年間のパリ滞在を売り物にする成り上がり小説家』、そして、日中戦争から太平洋戦争にかけては『軍国主義を太鼓と笛で囃し立てた政府お抱え小説家』など、いつも批判の的になってきました。しかし、戦後の六年間はちがいました。それは、戦さに打ちのめされた、わたしたち普通の日本人の悲しみを、ただひたすらに書きつづけた六年間でした」と言われるように波瀾万丈だった。
(ウィキペディアより)

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