【罪と償い】双極性障害の60代受刑者、対話を重ねて生きづらさと向き合う…対話しても再犯の40代「自分で全部決めることが異常、刑務所のほうが安心」当事者研究の今
拘禁刑導入で始まった刑務所での「対話」の取り組みと、それでもなお罪を繰り返してしまう人。社会で居場所を作るためにはどうしたらいいのか、模索をつづける現場です。
■双極性障害の60代受刑者 出所後の居場所づくり
札幌刑務所に北海道医療大学などでつくる研究チームと刑務官が集まった。
札幌刑務所の刑務官
「当事者研究をこれまでやっていて対象者が出所した」
この日は出所した受刑者について、ふりかえりが行われていた。
■札幌刑務所で始まった受刑者との対話「当事者研究」
拘禁刑の導入をきっかけに札幌刑務所で始まった「当事者研究」と呼ばれる受刑者との対話の取り組み。
Aさん(60代)
「過去のことは全部清算しなくてはいけない。前科が9〜10あるから」
窃盗などで繰り返し刑務所に入る60代のAさん。
要因のひとつに双極性感情障害という気分の浮き沈みが激しくなる病気があった。
北海道医療大学 向谷地生良 特任教授
「気分の病気がありますよね。これは自分でわかるんですか?ちょっと調子が変わってきたとか」
Aさん(60代)
「わかります。朝起きたときには(気分が)上がっているとかきょうはだめだとか」
塀の外ではグループホームなどで支援を受けていた。しかし、自分の怒りをコントロールできないため職員に暴言を吐くなどのトラブルが絶えず、気づけば居場所を失って塀の中に戻ってきてしまう。
■「単純計算ができない。足し算、掛け算…できない」
出所を1週間後に控えたこの日。ある試みが行われた。
ギルドグループ 三木麻子 代表
「こんにちは。お元気でしたか?」
Aさん(60代)
「三木さん?ギルドの人?」
出所後にAさんを受け入れる施設の職員。これまでは手紙でやりとりしていたが、直接話をしてもらうため、当事者研究に招いた。
Aさん(60代)
「単純計算ができない。足し算、掛け算、引き算、割り算、できない」
北海道医療大学 鈴木和 助教
「どうしよう、買い物のとき。買い物をどうすればいいか聞いておいたら?」
Aさん(60代)
「買い物はどうすればいい?」
ギルドグループ 三木麻子 代表
「必要なときというか、何曜日は買い物の日と決めて行くことはできる、一緒に」
Aさんの性格を出所前に知ることで、社会での居場所作りに役立ててもらうのがねらいだ。
■出所者250人を受け入れる施設 向き合う職員
ギルドグループ 三木麻子 代表
「もう絶対刑務所には戻らない。戻らないためにどうやって生活しようと考えてますか」
Aさん(60代)
「静かに穏やかに。悪いことしない」
Aさんを受け入れるのは札幌市を拠点にグループホームなどを運営する「ギルドグループ」。
住む場所がない出所者や生活困窮者に住居や医療を提供している。
ギルドグループ 三木麻子 代表
「刑務所を出所して行くところがなくてそれが再犯につながってしまう。出所後に手を差し伸べることはできないかというところから始めた」
高齢者向けの訪問介護を行っていたが、現在では札幌市内を中心に250人以上の出所者を受け入れている。
■生きづらさは様々「僕はギャンブル中毒。すっからかんになるまで」
ギルドグループ 輪島有人さん
「こんにちは、体調はどうですか?これが薬、これがお弁当」
利用者の部屋を1日2回訪問し、薬を渡したり、買い物を手伝ったりする。
生きづらさは様々だ。
利用者の男性(60代)
「僕はギャンブル中毒。すっからかんになるまで」
ギャンブルで金が尽き、路頭に迷ってギルドを頼った。今は独り立ちを目指して就職活動に勤しんでいる。
利用者の男性(60代)
「会社から電話があって、『あすまた面接をいたします』と」
ギルドグループ 輪島有人さん
「よかったですね」
利用者の男性(60代)
「過去に何回か落ちているから。トラウマ的になっている」
ギルドグループ 輪島有人さん
「うまくお互い支え合って克服して…」
■“対話”しても再犯した出所者「自分で全部決めることが異常」
当事者研究を経て、社会で歩み始めた人もいれば、再び塀の中に戻ってきてしまう人もいる。
札幌刑務所で当事者研究を受けて出所した40代のSさん。2025年11月、実家のある静岡で駐車中の他人の車を傷つけて逮捕・起訴された。
勾留されていたSさんに記者が面会すると…
Sさん
「自分の思うようにいかないときに、社会での生活に嫌気がさしてしまう。刑務所のほうが安心できる場所になってしまった」
3月19日、Sさんには拘禁刑2年6か月の実刑判決が下った。
Sさんの国選弁護人 大久保実哲 弁護士
「自由が怖いという形。自分で全部決めなければいけない状態のほうが彼の中で異常になっていた。その認識を変えなければいけないというのをずっと言っていたが、どうやったら変えられるのかはこの短い3ヶ月では見つけられなかった」
どうすれば社会に居場所を作れるのか、答えは簡単に見つからない。
■更生に特効薬も即効薬もない
札幌刑務所の刑務官
「結局また再犯で、刑務所に入ってしまうという結果になったのであれば、いい意味での変化があったらいいなと思う。人に何か話ができてそれ(不満)が解消されて」
北海道医療大学 向谷地生良 特任教授
「今までだったらもうがっかりされて、『なんだこんな人』って。そういうことじゃない、そういうつながり方っていうのはこれからちゃんと生きていくると思う」
更生に特効薬も即効薬もない。生きづらさの種類も大きさも人それぞれだから。刑務所と研究チームはこれからもひとり一人と向き合い続ける。
■刑務所で“対話”出所したA氏の施設での暮らしぶりは?
堀啓知キャスター:
当事者研究というのは全国的にもまだまだ珍しい取り組みということですが、なかなかすぐに結果が出るわけではなく、刑務所も試行錯誤を続けながら取り組んでいます。竹部さんどうご覧になられますか。
コメンテーター(整理収納アドバイザー) 竹部礼子さん:
今回の方は障がいがあることで世の中に生きづらさを感じて、それが罪を重ねることにつながったと思います。そういう方との対話や事例の研究が、世の中に生きづらさを抱える人の暮らしやすさにつながっていくといいですね。民間だけではない研究機関も入ることでより研究を積み重ねることができると思います。
堀啓知キャスター:
研究チームが橋渡し役になって、受刑者と出所後に受け入れる施設をつなぐというのも新しい取り組みです。
コメンテーター(HBC野球解説者) 鶴岡慎也さん:
個々によって原因は違うため、色んな人や色んなことにかかわることによって『自分は一人ではない』という感覚をもってもらうことができれば、再犯率の低下や世の中の治安につながっていくと思います。
世永聖奈キャスター:
Aさんを受け入れたギルドグループによりますと「Aさんは少しずつ職員にわがままを言うことも増えてきたが、話し合えば職員ができることと、できないことをわかってくれる。暴れることもなく、穏やかに暮らしている」ということです。
堀キャスター:
今後も様々な更生のあり方と、社会での居場所作りに取り組む人たちの姿を伝えていきます。
