当初、豊川は舞台化粧を含むすべてのメイクを一人で担当する予定だった。白塗りの経験はあったが、歌舞伎の舞台化粧は専門性が高いと判断し、日本舞踊のメイクアップを専門とする日比野に舞台化粧を委ねた。豊川は喜久雄をはじめキャラクターたちの50年もの歩みを担い、日比野は歌舞伎シーンを専任した。

Photo: Courtesy Everett Collection
歌舞伎の演目シーンでは、喜久雄を演じる吉沢亮と親友にしてライバルの俊介を演じる横浜流星のクローズアップが多用される。白塗りの化粧は本来、舞台と客席の距離感を考慮したものだが、映像での接写を意識して「対応を変える必要があった」と日比野は説明している。また、通常の演目では2〜3時間保てば良いが、撮影では10時間近く綺麗な状態をキープする必要があったのも苦労したという。

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ビルの屋上で喜久雄が崩れた化粧のまま踊るシーンでは、日比野が作った顔を豊川が乱して完成させた。かつらは3〜4キロ、重いものは5キロあり、撮影中のワンカットで20回近く着脱することもあったそうだ。豊川は、国宝になるまでの50年にわたる時間の流れを、特に髪型を通して表現し、メイクではキャラクターの表情を徐々に変化させていくことができたと語っている。クライマックスで喜久雄が「鷺娘」を踊る場面では、流れた年月を表現するために舞台化粧の下に特殊メイクがほどこしてある。
