ハイダー・アッカーマン率いるトム フォードの2026-27年秋冬ショーの翌朝、パリで目を覚ますと、従兄弟のマックスからメールが届いていた。ニューヨーク在住の24歳のフォトグラファーで、友人たちともどもトム・フォード時代のグッチに憧れている。
■引退後も揺るぎないトム・フォードの影響力
ファッションデザイナーを引退して久しいにもかかわらず、現在ローマで映画を撮影中のフォードはここ数シーズン、ファッション界で大きな存在感を放っている。例えばグッチでは、デムナがセクシーに肌にまとわりつくクラブウェアをフォード時代のアーカイブから解き放ち、快楽主義的なオーラを復活させた。トム・フォード的な官能性はほかのブランドのランウェイでも、レザーとスパンコールに溢れた様々なルックや、スリムでシャープなシルエットに表れている。
Z世代がトム・フォードが手がけたヴィンテージを買い求める理由はたくさんある。まずは比較的手頃な価格でありながら、パンチが効いている点。それらの服にはまた、彼らが経験することのなかったソーシャルメディア登場前の、スタイルがより正直で本能的であった時代のオーセンティックさが息づいている。
もちろん私の従兄弟も、アッカーマンが2024年に継承したメゾンの3回目のショーを観ていた。マックスの批評は実に簡潔だ。「トム フォードのショーはよかったね」。そして、彼はこう付け加えた。「あのジーンズがほしい」
■アッカーマンによるトム フォード初のデニム
あのジーンズといったら! 同時代のデザイナーのなかで、アッカーマンはフォードのレガシーを最も忠実に継承しているだけでなく、リズムとクレッシェンドを知り尽くした並外れた演出家でもある。パリの水曜日、クリーム色のカーペットに覆われたキャットウォークをすでに40名ほどのルックが歩き回ったところで、あのジーンズが登場した。チャンキーなブラックのタートルネックを着たニック・ケイヴ風の男性モデルが穿いていたハイウエストのブルージーンズに、思わず息を呑んだ。
トム フォードのクリエイティブ・ディレクターに就任して以来、アッカーマンはレザーのジョックストラップやベルベットをふんだんに使った服を発表してはきたが、これまでメンズウェアの定番であるジーンズを発表したことはなかった。それにしても、なんて魅力的なんだろう。
ショーでは観客の鼓動を高鳴らせるものがたくさんあった。トム フォードで、アッカーマンはほっそりしたジャケットにロングパンツ、先の尖ったレザーブーツという、独自のシルエットを作り上げてきた。マティーニがサーブされた後、眩い真っ白な光を浴びながら登場した男性モデルたちは、1サイズか2サイズは大きいのではと思えるパンツを穿き、官能的に肌を露出した腰にベルトを掛け、ランウェイを練り歩いた。ウォール街のビジネスマンを思わせる3人組は、変態的なレザーの襟の付いたバンカーストライプのシャツを、スリムなネクタイとともにゆったりとしたウールのスーツパンツにインしていた。
ジーンズは対照的にスリムフィットで、Y2K風のダークなウォッシュ、ヒップと膝に浮かび上がったヒゲが印象的だった。別のモデルはこれをタキシードジャケットと合わせていた。ラルフ・ローレンのルックをフォード流にアレンジしたものだ。3人目は、タイトな黒のニットベストにレザーグローブとともにスタイリングしていた。
アッカーマンはショーの後に報道陣の取材に応じることはなかった。どうやら、服に語らせることにしたようだ。私は満足して帰った。大げさかもしれないが、あのジーンズは私が今シーズンのファッションショーで見たなかで最もクールなアイテムだった。パトリック・ベイトマンがオフの日に穿きそうでもあり、90年代セレブの空港スタイルを思わせもする。
あるいは、生前のJFKジュニアがカルバン・クラインではなくグッチを愛好していたら、間違いなく穿いていたに違いないと思わされるものだ。フロントロウには、『ラブストーリー ジョン&キャロリン』でJFKジュニアを演じるポール・アンソニー・ケリーが他の観客に混じって大きな拍手と喝采を送っていた。ショーの前、ケリーは「ハイダーのやることはすべて素晴らしい」と語った。今回、特にそうだったのがあのジーンズだ。
From GQ.COM
By Samuel Hine
Translated and Adapted by Yuzuru Todayama
