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2月14日、沼津市が開催した認知症のイベントに登壇した、にしおかすみこさん。

「認知症の母親とダウン症の姉を見守った経験を書き記したエッセイがベストセラーになったお笑い芸人のにしおかすみこさんが、自身の実体験を話しました」

と報じられていた、そのエッセイとは『ポンコツ一家』と『ポンコツ一家2年目』だ。

にしおかさんが母親の変化に気づいたのは2020年のこと。久々に家に帰るとゴミ屋敷のようになっていて、元看護師で家の大黒柱の母が大きく変わっていた。

それから、認知症の母、ダウン症の姉、酔っぱらいの父との暮らしを赤裸々につづってきた連載が「ポンコツ一家」なのである。

これまでに上記の2冊の書籍が刊行されたが、2025年11月には大きな変化があった。 
母親が84歳で突然天国に旅立ったのだ。

それまで連載では、1年前のことを赤裸々につづっていた。しかし母の死をなかったことにはとうていできない。

1年前のことと現代を行ったり来たりしながらの率直な連載を続けている。

認知症の母がいたとき、そして今……。

そんなにしおかさんの連載54回は、2024年末から2025年の2月の話。

認知症と老いと体調の悪さが

2024年の年末、父が風邪を引いた。

「ハックショイ!ワッッショイ!」と、どこの何祭りだというクシャミを連発させ、マスクもせず、口を覆わない。飛沫が予定通り家の中を縦横無尽に練り歩く。

年が明ける頃には、その神輿を母と姉がきっちり担いでいた。ふたりともゴホゴホと咳き込み、熱を出し、顔色も悪い。

それでもお節だけは律儀に、居間まで食べにくる。よくもまあ、毎年同じことを繰り返すものだ。

そして、認知症と老いと体調の悪さが折り重なり、母のネガティブキャンペーンが発動する。

「決めた。これを機に、お姉ちゃんは作業所行かせない。もういい。もう疲れた。一生家にいさせる」

どれを機に、だ。こんなことにも、こちとらとっくに慣れている。だから私はサッサと受け流す。

世の中が仕事始めになっても、風邪が治っても、母と姉は一向に動き出そうとしない。居間の座椅子に何をするわけでもなく、ただ座っている。田舎の博物館に行くと、昔の人の暮らしみたいな蝋人形の展示を見かけるが、それみたいだ……。

「あーあ」

1月も終わるころ。

相変わらず、座椅子で固まっている母が、「あーあ。お姉ちゃんは何のために生まれてきたんかねえ。このまま、どこにも行けず、なーんもせずにバカみたいに死んでいくだけかねえ」と嘆く。

横に並んで座る姉が「ハァァ~~」と効果音を添える。

ババア発信だろうが。……どうしたいんだ。

陰鬱ムードにウンザリしていた私は、言っても解決しないと知りながら、口に出す。「作業所行かせてないのは、他の誰でもない、ママだよ。ママがお姉ちゃんの行動範囲を狭めてるんだよ。億劫なら、私が連れて行くよ。どっか遊びに行きたいなら、それも私が連れて行くよ。自分の気分でお姉ちゃん振り回すのやめなよ」

「作業所」には就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所、共同作業所(小規模作業所)、地域活動センターの施設などがある Photo by iStock

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言い終わるや否や、母はあっという間にブチ切れた。

「あー! うるさい! 聞きたくない! 聞きたくない! いいんだよ! もう放っておいてくれよ。なんで、あんたがそんなことしなきゃいけない? 自分のことだけ考えてろって何百回、何千回言ってきたと思ってんだ。小さいころから、そうやって育ててきたろうが! まだ覚えないのか! あんたには迷惑かけない! 死ぬときはお姉ちゃん連れて行く。それを見たくないなら、今すぐ出てってくれ!」

……ため息が出る。

私は母を無視し、「お姉ちゃん、すみちゃんと遊びに行く?どこ行きたい?公園?動物園とか、水族館とか、どこでも行くよ」と声をかける。

姉が頭をクシャクシャとかき、下を向き、暫し間があって、パッと顔を上げ、こう言う。

「いつかね。 いつか3人でいこうね」。

一番ソフトで、大人な対応をみせた。

私と母は互いにソッポを向いて、しらけた。

やっと通常運転に

2月に入り、何がきっかけなのか、そもそもそんなものはないのか、母は姉を作業所に行かせるようになった。やっと通常運転に戻った。

すると、今度は別のネガティブキャンペーンが発動する。

母は、姉の前髪が目に入らないようピンで留めてやりながら、私に向かって、こんな話を始めた。

「ママもお姉ちゃんも髪が伸びたねえ。ママなんて、見て、この頭。真っ白。もう全部白髪でいいと思ってるのにさ。パーマ屋さんのおばちゃんが毎回、茶色が似合うからって説得してくるんだよ。クソババアみたいだとか、世捨て人もみたいだとか言って、染めたがるんだよ。そんな言い方あるかい?親しいからって、こっちは客でもあるんだよ。あ~、胸くそ悪い!よし、決めた!もうママもお姉ちゃんも、二度とパーマ屋に行かない。染めない、切らない、知~らない!」

ボランティアのような美容院

……長年、母と姉がお世話になっている、その美容室。

母の言う≪パーマ屋さんのおばちゃん≫は、私より年上で、母よりはずっと若い。品が良くてきさくな方だ。予約を入れると、何かのついでみたいな顔で、行きも帰りも、ウチまで車で送迎してくださる。ついでのわけがない。ボランティアの域だ。

私は「何でそんな言い方しかできないの?ウソばっかり。パーマ屋さんのおばちゃんは、毎回、ふたりの風呂に入ってない、きったない不潔だらけの頭を洗ってくれてるんでしょ?本来は髪をカットしに行くところだよ。ママも髪の色なんてどうでもいい。何が嫌なのか知らないけど、人の悪口しか言わない婆さん、私、大っ嫌い」と、声のボリュームこそ出さないが、棘のある言い方をする。

そして姉に、できるだけ棘を引っ込めながら、「お姉ちゃん。今から、すみちゃんとお風呂入って、髪洗ってから、お店開いてたらパーマ屋さんのおばちゃんとこ行こうか」と言ったら、姉がスッと目を逸らす。わかっている。風呂に入りたいくないのだ。……どいつもこいつも。チッ。

母が、すぐさま私に喰ってかかる。

「バカ言わないでちょうだい!なんで、あんたがそんなことしなきゃいけない?」

そう憤慨すると、姉のほうを向き、怒気が抜けないまま、「すみちゃんが、髪の毛切らないなら全部剃っちゃうぞってさ!怖いね!仕方ないね!パーマ屋さん行こうか!あんた、あそこのシャンプー台で髪の毛洗ってもらうの好きでしょ!」。

姉は「うん」と被害者面で頷き、ジワジワとニヤつく。≪シャンプー台≫という言葉にときめいているのだ。

母はようやく重い腰を上げ、携帯を取り出して予約を入れた。

……もっと早く、最初からそうしてくれよ。

◇地元にそんな風に寄り添ってくれる温かい美容院があるということ、そして西岡一家が地元で愛されていることも感じるエピソードだ。しかし予約を取ったということは「これから美容院に行く」ということでもある。果たしてふたりは無事に行けるのだろうか。

美容院に行った時のエピソードと、今改めて聞いたことは後編「にしおかすみこが認知症の母とダウン症の姉と通っていた美容院で聞いた「母の本音」」にて詳しくお伝えする。

 

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