スニーカーを中心とした高級ブランド「オニツカタイガー」。海外で高い評価が定着し、「日本で買うべきスニーカー」と買い物目当ての訪日客も増えている。ブランドの歴史と「いま」を紹介する。
世界売上高が急増
高級ブランドが立ち並ぶ東京・銀座に、客が途切れない店がある。オニツカタイガーの旗艦店である銀座店だ。棚にはスタイリッシュなスニーカーがずらりと並び、多くのインバウンド客が品定めをする。レジには商品の箱を抱えた人々が列をつくり、店の外には「Onitsuka Tiger」の紙袋を手にした満足げな顔があふれる。彼らがそれぞれの国へ戻り、オニツカタイガーの「伝道師」となるのだろう。

多くの訪日客が訪れる銀座店=2025年10月19日(佐藤隼秀撮影)
人気は数字に明確に表れている。オニツカタイガーは、スポーツメーカー・アシックスの社内で独立したカンパニーとして運営され、2024年12月期のグローバル売上高(全世界での売上高)は954億円。前年同期から58.3%増だった。11年の91億円、19年の455億円を経て、25年1~9月は前年同期比46%増の998億円となった。25年には1200億円に届く見込みとも報じられている。

パリ・シャンゼリゼ通りの旗艦店(アシックス提供)

パリ旗艦店の店内(アシックス提供)
店舗は国内48、海外はパリやロンドン、イタリア・ミラノ、スペイン・バルセロナなど14カ国185(25年3月末時点)に上る。12年に表参道店(東京都渋谷区)をオープンしたのを皮切りに、各国主要都市のファッション感度の高い場所に直営店を置き、ブランドの持つ世界観を来店客に体験させる戦略を続けてきた。

ロンドンにある欧州初のレッドコンセプトストア(アシックス提供)
都内の直営店に入ると、試着待ちの列に多くの外国人が並び、英語をはじめとした多言語での会話が飛び交う。アシックスの発表では、国内店舗における25年1〜9月のインバウンド売上高は前年同期比で2倍以上に増えた。なぜ海外の人々はオニツカタイガーに引きつけられるのだろうか。
SNS映えと機能性
第一の魅力は、「SNS映えするデザイン」だ。「『クリーンなデザイン』が魅力だと思う。すごくいいデザインですよね」。米オハイオ州から銀座店へ来た男性(24)は、こう話した。友人からプレゼントされたオニツカタイガーに魅了され、訪日するたびに店を訪れている。男性によると、「クリーンなデザイン」とはシンプルで無駄な要素がないデザインのことだという。

パリ旗艦店特別仕様の「MEXICO 66 NM」(アシックス提供)
色使いも独自性が際立つ。米フロリダ州マイアミから訪日した女性(18)は、クエンティン・タランティーノ監督による米映画『キル・ビル』に登場した黄色のスニーカー「TAI-CHI(タイチ)」を例に挙げ、「ロゴの色がユニークだと思う。米国ではあまり見ない」と語ってくれた。写真映えするデザインは、旅行先などをSNS上の情報で決めることが多い現代の若者に対して強い訴求力を持つ。

バルセロナ旗艦店特別仕様の「MEXICO 66TM NM」(アシックス提供)
機能性への評価は言うまでもない。米オレゴン州から来た女性は「東北へ旅行に行くために防水ブーツを買った。履き心地がよくて、防水機能が抜群」と絶賛した。デザインと機能性を両立させた高級ブランド。「古くて新しい」モノづくりが、海外の若者を引きつける。

ロンドンのレッドコンセプトストア特別仕様「MEXICO 66TM NM」(アシックス提供)
「買う」体験に価値
オニツカタイガーの魅力は、商品にだけあるのではない。もし商品だけが魅力的なのであれば、オンラインショッピングで間に合うだろう。人々は、「店舗でオニツカタイガーを買う」ことに高い体験価値を見いだしている。
カナダから訪れた30代の男性は、上質なレザーでスタイリッシュなシルエットが人気の「MEXICO 66」を手に取り、「すごく有名で、これを探していた」と感激を隠せなかった。「みんな『日本に来たらオニツカタイガーを買う』という感じだ」と熱っぽく語り、「オニツカラバー(愛好者)」にとって「店詣で」は大切なことだと言わんばかりだった。

東京・表参道にあるイエローコレクションのコンセプトストア(アシックス提供)
オニツカタイガーは、もちろんインターネット上の電子商取引(EC)も手掛けている。だが、なによりも「実店舗で靴を買う体験」をより重視してきた。商品を手に取り、試着し、見比べる……。実体験による購入の喜びを最大化させるため、店舗のデザイン、雰囲気づくりなど、来店客の満足向上に並々ならぬ力を注いでいるのだ。

イエローコレクションのコンセプトストアの店内(アシックス提供)
各店舗は、ブランドカラーである黄色を基調としつつ、日本的な意匠や日本の素材を組み込んだ印象的なつくがなされている。単に「商品を売る場所」ではなく、一つの「観光地」として海外の人に楽しんでもらいたい―という願いが込められているかのようだ。
ストーリーも魅力
「ブランドのストーリーや背景に興味がある」。先のオレゴンの女性が語るように、ブランドにまつわる「物語」が、オニツカタイガーの第三の魅力となっている。
オニツカタイガーは、1949年に鬼塚喜八郎氏が神戸市で鬼塚商会(現アシックス)を創業したことにさかのぼる。64年の東京オリンピックでは多くの選手が着用し、競技用シューズとして名を上げた。だが77年に合併でアシックスが発足するとブランドは休止され、約25年にわたって市場から姿を消した。

創業者・鬼塚喜八郎の生誕地である鳥取県に開設された初の専用生産拠点「オニツカイノベーティブファクトリー」(アシックス提供)
復活は2002年だった。米ナイキの「AIR MAX」シリーズなどに代表される1990年代のハイテクスニーカーブームが一段落し、レトロデザインが新鮮に見えた時期と重なった。往年のモデルを現代的にアップデートして再出発し、03年公開の『キル・ビル』の主人公が履いていたことで、海外での認知度が一挙に高まった。モノづくりの伝統とポップカルチャーを融合させてきた歴史はいかにも日本らしく、海外の人を引きつける「ストーリー」だ。
オニツカタイガーは、このストーリーを基盤に「強固なブランド価値」を生み出す戦略を展開してきた。復活後はスポーツブランドではなく、ファッションブランドとしての志向を強め、値引き販売をほとんど行わない戦略で高級感を向上させてきた。

アーティストの山下智久さんが、自らデザインしたオリジナルシューズ「MEXICO 66 NM L9」を発表した(アシックス提供)
オニツカタイガーの庄田良二カンパニー長(アシックス副社長執行役員)は、「(オニツカタイガーは)モノだけを売っているブランドではない」と語る。「モノ」だけでなくストーリーに裏打ちされた高いブランド価値を届けることにより、顧客の満足度を極大化させているという自負がのぞく。そこに若い人々は深く共鳴し、価値を認めているのだろう。
多角的な展開へ
これからのオニツカタイガーにも注目が集まる。2025年7月にパリのシャンゼリゼ通りで約1500平方メートルの直営店を開くなど、欧州の一等地に大型旗艦店を相次いで展開している。23年に直営店を撤退させた米国でも、人気の高まりを受けて27年に直営店の再開を予定している。

ブランドアンバサダーを務めるガールズグループ「TWICE」のMOMOさん(アシックス提供)

オニツカタイガーのファッションアイテムを着用するMOMOさん(アシックス提供)
取り扱う商品は、シューズだけでなくアパレルやバッグ、小物へと広げており、25年11月にはフレグランスを発売した。銀座や中国・上海ではカフェを併設する動きもあり、スニーカーに特別な刺しゅうを施すサービスやパーソナルオーダーなど、購入体験をさらに充実させる模索を続けている。

オニツカタイガーのブランドで初の香水「ONITSUKA TIGER ONE」(アシックス提供)
創業100年となる49年に向け、オニツカタイガーは「スニーカー屋」の域から脱皮し、「オニツカブランド」を展開する多角的企業を目指しているようだ。ナイキ、独アディダスなどスポーツブランドの巨人とは一線を画した路線である。多様で魅力的な商品群をどのようにブランディングしていくのか。そこにさらなる成功の成否がかかっている。

オニツカタイガーはミラノファッションウィークで2026年春夏コレクションを発表した(アシックス提供)
バナー写真:世界的な人気を博している「NIPPON MADE」シリーズの「MEXICO 66 DELUXE」(アシックス提供)
