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“Jポップ”が世界中の映像制作に求められる理由 ~Audio Networkの最新ライブラリーから紐解く

アニソン、ボカロ、Jポップなど、世界から注目を集める日本の音楽。こと映像作品においてもその需要は高まっている。時流に合わせるように、英国発の音楽ライブラリー・サービスAudio Networkも日本の音楽を注視。彼らはその音楽の特徴をどう捉えていて、今後どのように展開していくのだろう? ここでは来春にライブラリーに追加予定のポップ・ナンバー「Kira Huwa Paradise」を制作したMayu Wakisakaとジョセフ・ローレンス、さらにはAudio Networkのジェネラル・マネージャーであるレベッカ・ホッジスの発言から、世界が求める“Jポップ像”を明らかにしていく。

Text:Daisuke Ito(Caminari INC) Translation:Tatsuhiko Oda

あらためてAudio Networkとは?

Audio Networkのロゴ。ライブラリー検索は英語や日本語はもちろん、さまざまな言語に対応する

Audio Networkのロゴ。ライブラリー検索は英語や日本語はもちろん、さまざまな言語に対応する

 英国を本拠地として、世界各国に支部を構える、映像制作のための音楽ライブラリー・サービス。本場の音楽を提供することをモットーに、あらゆるジャンルの音楽を28万曲以上そろえている。また、ジャンルごとにスペシャリストを起用し、アビイ・ロード・スタジオをはじめとする最高峰の環境で録音を行っている。

Mayu Wakisaka|外国人が“これは日本の音楽だ”と感じるには分かりやすく日本っぽいものがいい

Mayu Wakisaka

【Profile】大阪生まれ、京都大学法学部卒。大学卒業後に渡米、LAにて音楽を学ぶ。オリジナル曲「24hours」「Fall」がSONY Walkmanデフォルト曲に選ばれ、世界中でファンを獲得。シンガー・ソングライターとして活躍する傍ら、Miss A、TWICE、Cyndi Wangなどに楽曲を提供する。劇伴作家としても活動しており、海外のテレビ・ドラマや映画のサントラを手掛ける

雑多な町を歩きながら聴くテンポ感

 Audio Networkのライブラリーに新しく追加予定のJポップ・ナンバー「Kira Huwa Paradise」。後述するジョセフ・ローレンスとともに同楽曲のメロディを手掛けたのが日本人クリエイターのMayu Wakisakaだ。「Kira Huwa Paradise」は彼女にとって初となるAudio Networkからのオファー。制作に際して、海外から見たJポップのイメージを想定したという。

 「まず、日本で求められるJポップと、海外が求めるJポップを同じように考えちゃいけないなと思いました。他方、ジョセフさんは倖田來未さんやE-Girlsさんを手掛けてきた人で、その作品群に関してはJポップと言っても洋楽寄りのサウンド。だから、今回の共作者にばっちりだったんだと思います」

 Wakisakaは日本でシンガーとして活動しながら、作曲家を目指してアメリカの音楽大学に進み、在学中にトップ・ライナー(歌メロを書く作家)という仕事を知る。帰国後はソニー・ミュージックパブリッシングのトップ・ライナーとして、世界各国のクリエイターとコライトで作曲しており、TWICEやMiss A、NiziUなどに楽曲を提供するほか映像音楽も手掛ける。「Kira Huwa Paradise」のタイトルにも見られる日本独特の言葉遣いについて、彼女は“海外から見た分かりやすさを重視した”と言う。

 「日本で求められるJポップって、いわゆる日本的なものから逸脱するために洋楽を取り入れる感覚があります。例えるなら、英語のタイトルでダンサブルなJポップとか、少しKポップを意識したようなもの。でも、外国の視点で“これが日本の音楽だ”と感じてもらうには、分かりやすく日本っぽいほうがいいんです。渋谷の町ってパッと見て雑多じゃないですか。ちょっと歩けば109があって、カラオケもあるし大きなスターバックスもある。そんな雑多な町を歩きながら聴くのに、ちょうど良いペースのテンポであったりサウンドがいい。例えばピコピコしたサウンドだったり、言葉も日本語の特徴が出ている“キラキラ”とか“フワフワ”とか“カワイイ”っていう単語を使ったほうがいいなと思いました」

 日本人でありながらも海外目線でJポップを俯瞰(ふかん)できる彼女は、“海外から求められる日本の音楽”というAudio Networkが掲げるコンセプトともマッチする。Wakisakaは日本人とアメリカ人での音楽の好みの違いについて、興味深い話をしてくれた。

 「日本は足されたものが好き。カワイイにしても洋服、ヘア・スタイルからピアスまで全部を整えて、かつ盛ったものが好まれますよね。音楽もそれと似ていて、緻密に計算されていたり、転調も多いです。その一方で、アメリカはもっとシンプルです。着飾るよりも身体を鍛えてボディ・ラインを見せるみたいな感じ。音楽も同様にシンプルで、例えばサブキックが“ぼ~ん”と深く伸びる部分で陶酔させるような……ヒップホップで“ポケット”と言われるような感覚です。だから、日本みたいに細かい変化を分析するような感覚とはちょっと違う」

「Kira Huwa Paradise」でWakisakaが手掛けたボーカル・パートのセッション・ビュー。3つのリード・パートにバック・ボーカルなどを加え合計11trだ

「Kira Huwa Paradise」でWakisakaが手掛けたボーカル・パートのセッション・ビュー。3つのリード・パートにバック・ボーカルなどを加え合計11trだ

WAVES Vocal Benderは先述のメイン画面の最上段トラックに挿していたボーカルのピッチやフォルマントを調整するプラグイン。Wakisakaいわく“ボーカルに重みを足したいときに、オクターブ下の成分を作って加えられるのが楽で活用しています”とのこと

WAVES Vocal Benderは先述のメイン画面の最上段トラックに挿していたボーカルのピッチやフォルマントを調整するプラグイン。Wakisakaいわく“ボーカルに重みを足したいときに、オクターブ下の成分を作って加えられるのが楽で活用しています”とのこと

SYNCHROARTS VocalAlign Proは複数のボーカル・トラックのタイミングをそろえるプラグイン。Wakisakaはタイミングやピッチの補正に使用している

SYNCHROARTS VocalAlign Proは複数のボーカル・トラックのタイミングをそろえるプラグイン。Wakisakaはタイミングやピッチの補正に使用している

一聴してすぐに日本だと分からせること

 Wakisakaならではの視点が生かされることで、「Kira Huwa Paradise」はダンス系Jポップの要素と原宿のサブカル的なテイストが合わさり、ある意味では日本らしく、それでいて日本のチャートに存在しないような独特のサウンドになった。Wakisakaはメロディや歌詞に“日本らしさ”を持たせるための工夫をしたと言う。

 「歌詞の言葉数は、当初ジョセフさんが意図していたよりも増やしました。平歌の終わり方も音を伸ばさずに、リズミカルに切ってかわいらしくしたり。あと、最後は決め台詞で終わらせました。かわいいアイドル・グループが歌っていて、ラストにアップで終わるMVみたいなイメージ……そういう構造をメロディにも取り入れました。やっぱり日本のアイドル・カルチャーって、海外の人にとってもパッと見てイメージが湧くと思うので。もうひとつ大事にしたのは、一聴してすぐに日本だと分からせること。たとえメロディが良くても、それを理解するのに時間がかかってはダメ。耳に入ってすぐに日本の情景が浮かんだり、気持ちが伝わることがシンク(映像で使用する音楽)には必要ですね」

 曲作りの際、楽曲が使用される映像のシチュエーションに関しては一切考えなかったとWakisakaは言うが、制作が終わった今、この曲がマッチしそうなシチュエーションについて話してくれた。

 「例えば日本の恋愛リアリティ番組で少しストーリーが盛り上がってきたとき、日本のアイドルのヒット・ソングの代替になるものとして、“日本人のこの恋愛シチュエーションには、こういう雰囲気の楽曲が流れてきそうだ”を体現する楽曲であれば使われやすいと思います。あとはAudio Networkのサイトで日本っぽい音楽を検索したときに、キラキラとか、そういう言葉が入っていたほうが見つけやすいし、シーンにも当てやすいかなと思いました」

 こういったJポップのサウンドとは別に、Wakisakaはシンク音楽も好きで、その方面の作曲家としてキャリアも積んでいる。近年ではブラッド・ピットが主演する映画『ブレット・トレイン』のサウンドトラックにも参加しており、そこでも日本人がイメージするJポップとは異なるサウンドが取り入れられていたと説明してくれた。

 「カルメン・マキさんがフィーチャーされた曲も、シティポップより前の時代の歌謡ポップっぽい曲調だったり、奥田民生さんが歌うハードロックもありました。あとはただかわいい女の子が騒いでいるような感じの音楽とか。どれも今の日本のポップ・チャートに入るような直球感はなかったんですけど、外国から見た日本って、そんな感じなんだろうなって思います」

 最後にWakisakaが今後、Audio Networkで制作してみたい日本の音楽について語ってくれた。

 「アバンギャルドなサウンドにも需要があると思いますね。映画やドラマのストーリーで、日本に来たらトラブルに巻き込まれるっていうものが結構多いから、そういうときにちょっと破天荒でインディーっぽい日本のサウンドとか……例えるなら1990年代のチボ・マットのようなテンションのサウンドもウケるんじゃないかなと思います」

ジョセフ・ローレンス|Jポップは洋楽のトレンドに影響を受けながらもそれに縛られていないのが魅力です

ジョセフ・ローレンス

【Profile】UK在住のプロデューサー。10代のころより楽曲制作を開始。嵐、倖田來未などの日本人のほか、英国グループのUnion J、TWICEやOH MY GIRLなどKポップアーティストの楽曲を手掛ける

 ジョセフ・ローレンスは倖田來未やw-inds.、嵐などのJポップ・アーティストの楽曲を手掛けてきた英国人プロデューサーだ。彼はパブリッシャーを経由してAudio Networkを知り、その音楽の品質の高さに加えて、扱うジャンルへの深い理解を理由に、今回のJポップ・プロジェクトに参加することとなった。彼の活動拠点である英国は、アメリカと並ぶ音楽大国だが、なぜJポップに魅了されたのだろうか。

 「Jポップは洋楽のポップスよりメロディが複雑で、ジャズなどの拡張コードも見られます。また、洋楽のポップスでは省略されつつあるプリコーラスやブリッジも依然として健在です。Jポップは洋楽のトレンドに影響を受けながらも、それに縛られていないのが魅力です。例えば1枚のアルバムにいろんな音楽ジャンルが入っていることも珍しくない。それがJポップをプロデュースする楽しさの1つです。海外のポップスではできないいろいろなスタイルやサウンドを、Jポップでは自由に実験できます」

 彼はMayu Wakisakaとともに「Kira Huwa Paradise」に作曲/プロデュースで関わっており、Wakisakaのメロディの役割や同曲の聴きどころをこう説明する。

 「彼女が作ったボーカルのドラフトを聴いたとき、僕が求めていた“カワイイ”サウンドを完璧に捉えていて本当に驚きました。彼女の歌の周りをじっくりと構築して、勢いが持続するように制作しました。聴いてほしいのは2番のサビの後に起こる予想外のキー・チェンジとファンキーなシンセ・リフ、あとは2番のボーカルとリズムの絡みも良いです。こういったタイプのJポップは音のレイヤーが厚く、各パートが干渉せずにクリアに聴こえるように調整するのが難しいのですが、とてもやりがいがあります」

 「Jポップの未来はエキサイティングになるでしょう」とローレンスは言う。グローバルなトレンドを取り入れつつも独自の道を切り開いたAdoやYOASOBIのようなアーティストが海外で人気を獲得し、Jポップが世界の音楽シーンに影響を与えているとも説明してくれた。Jポップに心から魅了されているローレンスが、次にAudio NetworkでどんなJポップを聴かせてくれるのか楽しみだ。

Audio Networkジェネラル・マネージャー レベッカ・ホッジスに聞く

Audio Networkジェネラル・マネージャー レベッカ・ホッジス

 私たちが日本の音楽をフィーチャーしたのは、世界に影響を与える革新性とポテンシャルを確信したからです。弊社の本拠地の英国と日本のチームが協力し、現在進行形で発展するJポップという新鮮なジャンルを、世界中の映像クリエイターたちに提供するためにこのシリーズを作り上げました。

 日本の音楽の大胆なハーモニーやアレンジは洋楽のポップスとは明確な違いがあり、世界のリスナーにとって新鮮さを感じます。現在はアニメやゲーム、ファッション、ライフスタイル系のビデオ、国際的なテレビ番組や広告などで日本の音楽が使われています。またJポップの独特なメロディはストーリーをスタイリッシュに彩ることができるほか、心温まる物語や想像力にあふれる映像にも重宝されています。特に若い視聴者から人気が高いのも特徴です。この状況は日本の音楽に携わる作曲家/ミュージシャンが自身の音楽を世界に届けられるチャンスでもあります。私たちはミュージシャンと密接に関わりながら、彼らが世界へと羽ばたいていけるようにサポートをしていきたいと思っています。

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