記事のポイント
生成AIの進化によって、美容ブランドは「売り方」ではなく、消費者との関係性そのものをどう設計するかが競争力を左右する時代に入った。
ロレアルはBeauty Geniusなどのビューティーテックを通じ、AIを購買促進ではなく、判断を支え信頼を育てる存在として位置づけている。
AI時代のマーケターには、短期の最適化に流されず、変化への機敏さと長期的な価値創出を両立させる責任ある姿勢が求められる。
生成AIの進化によって、ブランドと消費者の距離は急速に縮まりつつある。オンラインとオフラインの境界は曖昧になり、バーチャルな体験も含め、ブランドはもはや「どう売るか」だけでなく、どのような関係性を設計するかを問われる時代に入った。効率化やデジタル化の先に、テクノロジーをどう価値創出へと結びつけるのか。その思想そのものが、ブランドの競争力を左右し始めている。
こうした潮流を象徴する存在として注目を集めているのが、フランス・パリ発祥のビューティー企業ロレアルグループだ。日本では1963年から事業を展開し、国内に現在3000人超の従業員と200人近くの研究者を擁する。同社はビューティーテックとオープンイノベーションを前面に押し出し、生活者体験の未来像を提示してきた。
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その取り組みをグローバルでけん引している1人が、グローバル ビューティーテック サービス&オープンイノベーション ディレクターを務めるベアトリス・ダウツェンバーグ氏だ。12月2日に開催された「DIGIDAY BRAND LEADERS 2025」にビデオ出演した同氏は、現在の美容市場を「いくつもの関連トレンドが重なり合う、大きな変革期にある」と語った。その中心にあるのが、デジタル化の加速と、消費者が求める超パーソナライゼーションだ。
その市場においてロレアルは、生成AIやビューティーテックを通じて、消費者との関係性をどこまで深く、どのように設計し直そうとしているのか。その具体像が、Beauty GeniusやNoliへの取り組みから見えてきた。
美容市場は「デジタル化」と「スーパーパーソナライゼーション」で変わり始めた
世界の美容市場はいま、「いくつもの関連トレンドが重なり合う、大きな変革期にある」。その起点としてダウツェンバーグ氏が挙げたのが、デジタル化の加速だ。同氏はこれを「O+O(オンライン・プラス・オフライン)」として捉え、そこにバーチャル領域まで含めた体験設計が必要になっていると指摘する。「ブランドは、オンラインやオフラインだけでなく、成長中のバーチャルな世界においても、より没入感のある体験を提供する必要がある」。
生活者が触れる体験の領域が広がり、選択肢があふれる現代の市場で求められているのは、「スーパー・パーソナライゼーション」だという。「消費者は、自分のニーズにぴったりと合った商品を求めており、これは、我々にとって不可欠なことだ」。この期待に応える土台がビューティーテックだ。「ビューティーテックによって、よりパーソナライズされ包摂的な美を、責任ある形で実現することができる」といい、美容体験の前提そのものが、テクノロジーによって更新されつつあることを示した。

AIは競争優位性を高める中核的な存在
もうひとつの潮流がAIだ。「私たちはいま、その大きな変革期にいる」とし、AIがインフルエンサーなどオンラインマーケティングのあり方に加え、「エージェンティック・コマース」によってコマースの形も変え始めていると語った。
ロレアルの目標は、「この新しい世界で消費者に優れた体験を提供し、信頼を築きつづけること」にある。その基盤となっているのが、ロレアルが持つ高品質なデータと高効率な製品であり、AIはその力を引き上げる存在として位置づけられている。
「ロレアルではAIが中核的な役割を果たしている。多くの企業が『AIがもっとも価値を発揮できる領域』を考えている時期であるが、ロレアルにとってそれは明確だ」。
その出発点が「研究とイノベーション」だという。ロレアルは世界で4000人以上、日本でも200人近くの研究者を擁し、AIとデジタル技術が美のコンシューマー・ジャーニーに与える影響は革命的で、私たちはこの変化が研究開発のあらゆる領域で起きていると捉えている。より精緻で、効果的、かつサステナブルな製品の開発を加速させているのだ。
ビューティーテックは「診断」から「関係性」へ広がっていく
ビューティーテックの具体例として、消費者が求めるパーソナライズの形が紹介された。購入前に化粧品をバーチャル体験できるVTO(バーチャル試着)や、自分に合う色を見つけるシェードファインダー。スマホの自撮り画像を使ったヘア・スキンケア診断、店頭で美容師やアドバイザーのサポートを受ける診断ツールなどだ。たとえば、ロレアル グループ傘下の日本発スキンケアブランドTAKAMI(タカミ)では、角質指標に基づいた肌診断ツールを開発中だ。
ビューティーテックの目標として掲げたのは、「より包摂的で、パーソナライズされ、かつ責任のある美しさを創り出すこと」。最高のビューティー体験を届ける未来を実現したいと同氏は語った。
会話を起点にしたAI美容部員「Beauty Genius」
このビジョンを象徴する取り組みが、米国で立ち上げた生成AIのビューティーアシスタント「Beauty Genius」だ。コンシューマープロダクト部門の目標として、「AIを活用して24時間365日、すべての消費者にサービスを提供できるようにすること」を掲げており、その一手として約1年前に開始した。
Beauty Geniusのコンセプトは、「掌に収まる、あなた専用の生成AIビューティーアシスタント」。これまでに100万件超の会話が行われ、消費者の高い関心が示されている。支持される理由として挙げたのが、「評価されずに本音で話せる、その親密さ」だという。

Beauty Geniusでは、会話だけでなく、AIが勧めたリップをその場でバーチャル体験でき、肌診断の結果から購入画面に進むこともできる。ロレアル パリの製品750点以上が組み込まれ、多くの特許技術によってロレアル グループの美の知識が「AI美容部員」に搭載されている。今後はブランドボイスもサービス全体に取り入れていく予定だという。
生成AIは「売るため」ではなく、ファネルを広げるためにある
AIの世界におけるビューティーサービスは、人間らしく進化している。生成AIによって会話の幅が広がり、ユーザーとのやりとりがより自然になっているからだ。
重要なのは、これが単に購入を促す広告ではない点だという。生成AIはマーケティングファネルの中間に位置し、会話を通じてより多くのコミュニケーションを生み出すことで、ファネルそのものを広げる役割を果たしているという。
同社はBeauty Geniusに加え、英国で先行展開する「Noli」も紹介した。Noliは、肌や髪の状態、嗜好、ライフスタイルといった複数の美容データを統合し、1人ひとりの美容ニーズやケアの方向性を導き出すAI搭載のマルチブランド・マーケットプレイスであり診断プラットフォームだ。
同氏は、Noliをロレアルが創設・支援するマルチブランド型のAIビューティーマーケットプレイスと位置づけ、ユーザーの属性や好みに基づいて商品との出会いを導く「AIビューティーマッチメーカー」として機能していると説明した。消費者が自分に合った選択を自ら判断できるように支援し、購入前後を通じた長期的な関係構築を視野に入れた取り組みだという。
さらに、ベアトリス氏は、「美しさとは、常に新しさとの出会いから生まれるものだ」と述べ、美の市場は感情だけでなく、関係性と機能性の両面で動いていると語る。
そのため、次の課題は、「よりパーソナライズされた体験をどう届けるか」にある。これはCRM、広告戦略の両者で共通している。消費者の期待に応える商品やサービスを継続的に開発・提供するため、フィードバックを還流させる仕組みも整え、望みや期待を直接伝えられる場を作っている。
ビューティーテックのサービスや体験は、パーソナライズされた美容体験への入口であり、ブランドへのロイヤルティや親近感を高めるだけでなく、ブランド価値の向上にもつながっているという。
AI時代に求められる「スーパーマーケター」の条件
最後に同氏は、AI時代のマーケター像について触れた。
「スーパーマーケターとは、長期的な視点でブランドの未来を描く戦略性と、変化の速い時代に柔軟に対応できる機敏さの両方を持つ存在だ」。
毎日のように新しい生成AIモデルが登場するいま、変化に素早く対応していく必要がある。求められるのは技術的なビジョンだけではなく、技術と人間のスキルを組み合わせること、協働する力、そしてAIに伴う責任を自覚する姿勢だという。
最後に同氏はマーケターに向けたメッセージでセッションを締めくくった。
「今ほどマーケティングの仕事がワクワクする時代はない。多くの技術を駆使しながら、消費者を中心に、より意味のある体験を創造できる大きなチャンスが広がっている。AIが前提となる環境で、データを読み解く数学(math)と、ストーリーを生む魔法(magic)の両方を携えたスーパーマーケターになろう」。

文/藏西隆介、写真/合田和弘
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