PROFILE: 比見幸平/「エイド(aid)」代表
PROFILE: (ひみ・こうへい)1993年6月14日生まれ。2014年3月に国際文化理容美容専門学校渋谷校を卒業後、同年4月にリップスに入社。20年7月に独立し、美容室「aid」を恵比寿に出店。22年11月に渋谷に2店目を出店。25年12月に渋谷に旗艦店をつくるにあたり、恵比寿店を閉め、都内で2店を経営する PHOTO:YOHEI KICHIRAKU
渋谷に2店舗を構えるメンズヘアサロン「エイド(aid)」代表の比見幸平さんは、SNSで総再生回数3億回以上のカウンセリング動画を強みに、これまで美容室に縁の薄かった男性層を取り込んでいる。「垢抜けとは言わない」「実は女性が連れてくる」など、現場で常に顧客と向き合う比見さんの視点から、メンズビューティの現在地を紐解く。
動画集客の最適解を見つけるまで
WWD:カウンセリング動画を投稿し始めた経緯は?
比見幸平「エイド(aid)」代表(以下、比見):5年前に独立したタイミングで、動画投稿を始めました。もともと、SNS自体は運用していましたが、前職の退職とともにアカウントを刷新する必要があり、1からの集客で「どう伸ばすか」を真剣に模索していました。
1週間〜1カ月、同じフォーマットタイプの動画を投稿し、伸び方を観察し、伸び悩んだら切り替える。このサイクルを繰り返した中で、施術前後の変化を見せる約30秒の動画がポンと伸び、このフォーマットに決めました。正直、「これが自分のやりたい分野か」と言われると少し違いますが、僕にとっての最適解はこれだったと腑に落ちています。
とはいえ、すごく特殊なフォーマットでもないですし、変化率が高いお客さまが毎日来店するわけでもない。どこかで伸びづらくなると感じていたので、現在も続けているカウンセリング動画に切り替えました。
WWD:現在は再生回数が多い動画で700万回以上も再生されている。
比見:カウンセリング動画が支持される理由は2つに集約されると思っています。
1つは安心感です。ヘアスタイルの写真投稿は多数ありますが、それはお客さまにとっては技術力や提案としての認識。当たり前ですが、実際に来店すると人柄はまちまちで、「技術はあるけど自分と相性が合わない」というケースも少なくない。お客さまは、技術が高いとしても「どんな美容師か」というと緊張感が常にある。美容師の話している様子が把握できるカウンセリング動画は、そこから得られる情報が多いので安心して来店しやすい。予約のハードルが下がるのだと思います。
もう1つは、成功体験を擬似的に体験できるという点。自分自身が当事者にならずとも、なんとなく体験した気分を味わえる。この2つが要因だと考えています。
Instagramで投稿するリール動画
Instagramで投稿するリール動画
同業者もまだ気づいていない
ブルーオーシャン
WWD:動画を見た男性が来店する流れになっている?
比見:実は僕のSNSのフォロワーの約7割は女性です。
新規来店の多くも、カウンセリング動画を女性が見て、女性が男性を連れてきてくれる。パートナーや家族のほか、職場の女性が連れてきてくださるケースもあります。
WWD:当事者の男性はどのような反応をする?
比見:最初は主体的でなくても、変化を実感すると通い続けてくれる方が多いです。
男性は、一度定着すると同じ場所・同じメニューが楽になる傾向が強く、「前回と一緒で」という注文がおよそ8割。単価は女性より低いですが、来店頻度が高く、安定したボリュームゾーンになります。
WWD:ビジネスとしてもメリットがある。
比見:そうですね。特に、今までメンズヘアサロンの顧客ではなかった、美容室に通っていなかった層を取れているので、メンズヘアを専門とする他店と競合しにくい。結果として差別化になり、売り上げにもつながっています。
正直、同業のメンズヘア美容師も気づいていないブルーオーシャンだと捉えています。
メンズビューティは3割と7割
WWD:美容室に通う男性は多数派ではない?
比見:
あくまで僕の体感値ですが、「美容室に行く」「スキンケアをする」といった女性と同等の外見意識を持つ男性は、全体の3割程度ではないでしょうか。
メディアでうたわれるメンズメイクなども、この層が追求しているだけで、全体として外見意識が向上しているというわけではないと思っています。
7割の人にとって、美容を通した悩み解決は想像外であることが多いと思います。自分ごととして捉えていないからこそ、「もっとこうなりたい」という欲自体がそもそも湧き出ない。だからこそ、自分から踏み込むケースが少ないと感じます。
「垢抜け」とは言わない
WWD:動画のコメント欄では「垢抜けている」として支持が高まっている様子が見られる。
比見:実は僕自身が「垢抜け」と表現したことは1回もなくて。お客さまがおっしゃる分には構わないのですが、僕自身は言わないようにしています。僕が担当する中でお客さまに対して「垢抜け」と表現すると「悪かったものを良くする」という意味になる気がするのです。それは信頼が崩れそうで。
自分をカテコライズするとすれば、「お悩み特化型美容師」ですね。カウンセリングや悩み解決を軸にしていて、動画の影響もあり、お客さまからも「ここに行けば悩みが解決するかも」という期待を感じています。
WWD:メンズビューティは今後どうなると予測する?
比見:美容にあまり興味を持つ人が増えたらうれしいので、僕はそういった人に向けて美容師を続けたいです。ただ、美容に関心がある男性は、急激に増えるとは考えにくく、緩やかな変化だと思います。女性とは前提が違う部分もあるので、美容だけが急に成長することは起きにくい。それでも、結果的に素敵な男性が増えれば、ひいては社会も明るくなると思っています。
WWD:ご自身の今後の目標は?
比見:僕は、自分をキラキラした美容師像ではないと思っています。業界ではアーティスティックで派手な美容師像がフォーカスされやすい。でも、僕は目の前のお客さまのニーズに応えて喜ばせたい方です。こちらは目立たないけれど、実は業界全体で見たらこちらの美容師の方が多いと思っています。
そういう美容師も結果を残す様子を見せたいという気持ちがあります。店舗の拡大より、いい美容師を育てたい。時間はかかりますが、その積み重ねの先に結果がある。
美容に携わる仕事は、悪いことが1つもないと僕は思っています。自分の好きなことで誰かを喜ばせてお金をいただけて、また来てもらえる。もちろん技術があってこそですが、自分のできることで人を喜ばせることができるありがたさをと感じています。
