記事のポイント
Qoo10は実購買データ・UGC・専門家評価を統合した独自アワードを通じ、Z世代中心の巨大プラットフォームとしての強みを可視化した。
SNS発の「推しコスメ文化」をアイテム単位の指標体系へ再構築し、受賞と販促支援メニューを連動させ、ブランドの評価と売上両方を伸ばす仕組みを構築した。
ビューティーを“自信を与えるもの”と捉え、インナーケアや美容家電など新領域へ拡張を図ることで、Qoo10は若年層との関係性を再設計し始めている。
Qoo10(運営:eBay Japan合同会社)は12月8日、年間を通じて支持を集めたビューティーアイテムを表彰する「Qoo10 MEGA BEAUTY AWARDS 2025」を都内で初開催した。2万8000点超の対象商品から、実購買データ・360万件のレビュー・61万票のユーザー投票、そして専門家審査を掛け合わせて選出する、同社独自のアワードだ。
Z世代比率7割という巨大なユーザー基盤、メガ割やライブショッピングで形成されたUGCドリブンの成長構造といった、Qoo10がこれまで積み上げてきたプラットフォームの強みを可視化し、同社のビューティー領域の拡張を示す場ともなった。
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SNS発の「推しコスメ文化」をデータで読み替え、インナーケアや美容家電へとビューティー領域を拡張する構想。アワードを広告商品としても活用し、ブランドがユーザーと出会う文脈を再設計する。リアルな購買データを基点に、ブランドと生活者の関係を再編集するフェーズに入った。
Qoo10の描くアワード設計は「国内最大級の販売データ×顧客の声」
主催者挨拶に立ったeBay Japanバイスプレジデントのグ・ジャヒョン氏は、2018年にQoo10がeBayグループ入りして以降、11事業に注力し、7年間で取扱高を10倍以上に伸ばしてきたことを報告。そのうえで、今回のアワードの特徴を「国内最大級の販売データ」「61万件を超える顧客の声」「美容専門家の評価」という3つの視点で選考する点に置いた。
審査対象期間は2024年9月〜2025年9月。Qoo10の購買データを起点に、2万8211アイテム・360万件超のレビューを基準としてノミネートを行い、10月1〜14日の一般投票では約52万人から61万票が集まった。その後、雑誌編集長や美容家、Z世代に影響力を持つビューティクリエイターによる最終審査を経て、総合賞・カテゴリー賞・特別賞を合わせた137のアワードを決定した。
受賞アイテムには、Z世代に人気の韓国発コスメが圧倒的に多かったのも特徴だ。総合大賞に選ばれた3Dボリューミンググロス(fwee/3位)、グルタチオントナー(SKIN&LAB/2位)、レチノール0.3ナイアシンリニューイングセラム(Anua/1位)は、いずれも韓国勢が占めた。
また授賞式には、Qoo10のCM出演7年目を迎える俳優・川口春奈さんが特別ゲストとして登場。アワードのテーマでもある「Grow up(成長)」を続けるために意識していることは?」という問いに対して、川口さんは、「人にも自分にも素直であること」「誠実であること」。さらに「楽しむこと」「挑戦すること」「向上心を持つこと」「好奇心を持つこと」など、日々の仕事や人間関係に通じるスタンスを挙げた。
特別ゲストとして登壇した川口春奈さん
SNS発「推しコスメ文化」を再構築
今回のアワードは、メディアの主観によるランキングやシンプルな人気投票ではなく、Qoo10での実購買データとユーザー行動に基づき設計した点が特徴だ。授賞式後に開かれたメディア向け説明会で、eBay Japanマーケティング室部長のモラーノ絢香氏が、アワード開催の狙いやそれを支えるQoo10の強みなどについて話した。
アワード開催の背景には、SNSでの「推しコスメ」投稿の増加があったという。XやTikTok、Instagramでは、投稿者が自主的に「上半期のベストコスメ」をまとめるなど、ブランド単位ではなくアイテム単位での評価・共有が定着。こうしたインサイトをアワード形式に再構築したのが、今回の試みだった。
アワード開催に伴い、Qoo10はアイテム単位の投票型アワードをアプリ内で新規開発した。数タップで投票が完結する導線やXへのシェア機能を実装したことなども奏功し、2週間で初期目標を大きく超える投票数を達成したという。
ここからさらに、売上(GMV)や購入者数・リピート率、レビュー、外部審査員の視点を掛け合わせた多層的な指標で構成され、総合賞はこれらを統合した総合スコアで決定した。「売れた」「話題になった」だけでは受賞できない仕組みだ。
一方、カテゴリー賞や特別賞では指標ごとの特徴を前面に出した。たとえば特別賞は、発売3カ月のGMVを基準にした「ルーキー」、新成分や新技術による革新性を評価する「ブレイクスルー」など、継続購入に基づく「リピート」、環境配慮を軸にした「サステナビリティ」などがある。さらに、SNS露出を捉える「バズ」、タイパ重視の「秒で垢抜け」など、Qoo10が強みとするZ世代女性の消費トレンドを映し出した賞も用意した。
ブランドの「評価と売上」を同時に伸ばす
アワードは、ブランドやセラーにとってどんなメリットを持つのか。
今回の受賞商品に対して、Qoo10上での無償サポートを提供する。トップページでは受賞商品をまとめて紹介し、各商品ページには受賞エンブレムを掲載。さらに、1月1日からは「受賞記念セット」の販売も予定しており、アワードをフックにした販売企画を仕込んでいる。
一方で、エンブレムをサイト外で使いたいブランド向けには、有償プランも用意した。受賞ロゴをパッケージや広告素材に使える権利を「1面20万円」で販売する。価格設定は「他アワードより10万円ほど安い」水準で、初年度は利用状況を見ながらボリュームディスカウントなども検討するという。
アワード以外にも、Qoo10はセラー向けの販促支援パッケージを3つ用意している。サンプルマーケットは、新商品のサンプルを抽選で配布し、実際に使ったユーザーのレビューや投稿を集めるプログラム。店舗がないECでも、「試す」「ほかのユーザーの声を見る」という体験を増やす狙いがある。
メガデビューは、毎週火曜日に新ブランドを4つ紹介する「定例枠」。ブランドストーリーや特典とセットで発信することで、初めてQoo10に登場するブランドでも、ユーザーに覚えてもらいやすくするものだ。
そしてメガプッシュは、新商品を3カ月間集中的にプロモーションするメニュー。ライブショッピング、アプリ起動画面、外部の雑誌広告枠などを組み合わせ、Qoo10側が「推したい商品」にスポットライトを当てる。
アワード受賞と、これらのプログラムを組み合わせることによって、ブランド側は「評価」と「売上」を同時に伸ばすことを期待すことができる構造だ。
審査員として、ヘアメイクアップアーティストのGENSEIさんや美容特化YouTuberのサラさん、美容クリエイターのスプスプさんなども参加した
Z世代中心の巨大プラットフォームへ
こうしたアワード設計を実現した背景には、Qoo10のプラットフォームを支えるZ世代の厚いユーザー基盤と、UGCを起点とした成長構造がある。
最新データを見ると、Qoo10はすでに若年層中心の大規模プラットフォームへと成長している。認知率は8割超、ユーザーの約7割は10〜30代。1日の来場者は609万人、購入者は約30万人、流通アイテム数は45万点、日次の取引総額は500億円(前年比25%増)に到達している。
この拡大を支えているのがライブショッピングとメガセール「メガ割」だ。ライブはピーク時で時速73万ビュー、1時間の取引額は3月時点で4億円を突破し、現在はそれを上回る水準で推移する。メガ割ではUGCが爆発的に増え、TikTokの「#メガ割」は12.9億回(3月)から7月には23億回へと跳ね上がった。eBay Japanマーケティング室部長のモラーノ絢香氏は、「『メガ割の時期が来るのが楽しみ』という声をいただくほど、メガ割は集客力に繋がるプロモーションになっている」と話す。
「後発」ならではの独自ポジション
ECモール市場には巨大な先行プレイヤーが存在し、物流網や会員基盤でシェアを握っている。そのなかでQoo10は、「Z世代に強く、ビューティーとファッションに尖ったモール」という独自のポジションを築こうとしている。「お客様の7割は10〜30代。若い層が多いことに加え、後発であることも一つの強みだと思っている。スポーツ協賛やフェス、学園祭など試せることはすべてやる、という姿勢だ」(モラーノ氏)。
eBay Japanマーケティング室部長のモラーノ絢香氏
2024〜2025年には、サマーソニックやROCK IN JAPANといった大型フェスに加え、大学の学園祭にも出展し、8大学・延べ50万人規模の来場者にビューティー商材を中心とした体験ブースを提供した。メガ割やライブコマースと連動し、Z世代の生活動線の中にQoo10を自然に組み込むための施策だ。
ビューティーは自信を与えるもの 次の拡張領域
ビューティーに注力する理由について、モラーノ氏は、「Qoo10は当初、『コスパモール』としてスタートしたが、それは結果的に、手が届く価格帯で良質なビューティーを提供することに繋がった。高機能な化粧品が特定の層だけのものだった時代から、ビューティーは誰の日常にもあるものになった。だからこそ、自分を肯定できるアイテムを、届く価格で提供することに意味があると考えている」。
モラーノ氏は、「ビューティーが自信を奪うものではなく、自信を与えるものとして届けたい」とも話した。
健康食品やサプリメントといったインナービューティー領域も拡張すべきカテゴリーとして位置づけており、来年以降のアワードでも対象に含めるかを検討したいという。また、美顔器のノミネートに象徴されるように、家電領域もビューティーとの親和性が高く、今後さらに商品カテゴリーを広げていく方針を示した。
取材・文・写真/戸田美子
