TikTok 発の美容習慣「プロジェクト・パン」が米国で再燃 関心572%増となった過剰消費見直しの実態 | DIGIDAY[日本版] - Moe Zine

記事のポイント

美容消費の見直しが進みプロジェクト・パンへの関心が急増している。

香水まで広がった使い切り行動が消費習慣の変化を示している。

使い切り投稿の増加がレビューや再購入につながりブランドにも影響している。

多くの美容消費者にとって、ホリデーシーズンの訪れは新しいコスメを買う時期を意味する。しかし2025年は、手持ちのビューティー製品を増やすのではなく、減らそうとする人々もいる。

持っているコスメを使い切るという目標を達成するため、多くのソーシャルメディアユーザーが「プロジェクト・パン(Project Pan)」への取り組みを投稿して記録している。

「フェイスパウダーの底が見えたとき、本当に自分を誇りに思った。意識して取り組む以前は、底を見た製品なんて一度もなかったと思う。いつも新しいものを買っていたから」と話すのは、西オーストラリア在住のコンテンツクリエイター、ローレン・ライル氏である。

「我々は『収集家マインド』になっていて、製品を使い切ること自体が普通ではなくなっている。でも本来、コスメは使い切るためにある」。

ライル氏は2015年ごろ、美容系YouTubeの台頭とともにコスメ収集をはじめた。10年にわたる美容消費の結果、手持ちの量が使い切れないほど膨らんだため、インスタグラムやTikTokで自身の「プロジェクト・パン」への参加を発信するようになった。

プロジェクト・パンとは、コスメを使い切る、あるいは「パン(底)」を見せることに意識的に取り組む活動を指す美容コミュニティの用語である。

「投稿すると、より責任を持たざるを得なくなる」と同氏は言う。

2025年に再燃したプロジェクト・パンと急拡大する関心

「この活動をしているのに『新しいアイシャドウパレットを2つ買っちゃった』なんて言ったら、すぐに突っ込まれる」。

プロジェクト・パンは新しい現象ではない。YouTuberたちは2014年ごろからコスメを使い切る取り組みを記録しており、Redditの「Project Pan」コミュニティも2015年から継続している。

しかし、過剰消費を見直す美容ファンが増え、香水カテゴリーも流れに加わったことで、2025年にプロジェクト・パンは再び大きな盛り上がりを見せている。

Google検索、TikTok視聴、インスタグラム投稿数などを測定したスペイト(Spate)の人気指数によれば、プロジェクト・パンへの関心は2024年から572.9%増加している。「使い切り動画(Empties video)」も前年比17.5%増加した。

プロジェクト・パン人気の再燃は、消費者の経済的不安が高まる時期と重なる。11月のデータによると、米国の消費者信頼感指数は4月以来の最低を記録した。

「この2〜3年、不確実性が非常に大きかった。しかし美容の消費は比較的安定していた」と、消費者分析企業スペイトのシニア・インサイト&マーケティングリード、アディソン・ケイン氏は言う。

「ただ、そろそろ消費者も財布の紐を締めはじめたのかもしれない。新しいものを買わずに美容コンテンツや会話に参加するもっともよい方法のひとつが、『過去に買ったものを使い切る』という行動だ」。

責任ある消費への関心と香水カテゴリーへの拡大

プロジェクト・パンの議論は、責任ある消費や過剰消費の問題と密接に関連している。

既存のコスメを使い切るまで「買わない(No Buy)」を掲げる参加者も多い。プロジェクト・パンに参加することで、流行の商品ではなく「手持ちを使い切る」行動を促すことができる。

「人々が製品を使い切るのはよいことだと思う。特に美容カテゴリーは、セフォラ(Sephora)の大規模セールなどに影響されて、すでに持っている製品を過剰に買いがちだから」と語るのは、ニューヨーク在住の香水系コンテンツクリエイター、ツナ(@ttunasmells)氏だ。

「私自身は、使い切った製品を見せることで『これだけ使い切りました』と伝えられる。それが習慣になった」。

2025年、香水消費が引き続き増えていることから、香水ファンもプロジェクト・パンを取り入れている。しかし、香水・美容の過剰消費について語るなかでツナ氏は、買う量だけでなく「どこから買うか」も考えるべきだと強調する。

「パン(底)が見えることよりも大事なのは、小規模ブランドやインディー系の香水ブランドから買うことだ」と同氏は語る。

買い物ゼロではない新しい参加方法と使い切りの満足感

プロジェクト・パンは「消費を減らす」活動が中心だが、それが必ずしも「買い物を完全にやめる」ことを意味するわけではない。

メリーランド州在住の香水コンテンツクリエイター、アンジー・ビジンテイナー氏は、手持ちのコレクションが膨れ過ぎたため、香水をデカント販売しはじめたという。この方法により、コレクションが増えすぎることなく、新しい香水を手に入れることもできる。

「今は200本ほど持っているが、私には十分管理できる量だ。香水をたくさん使うし、1日のなかで付け替えることも多いので、200本すべてを実際に使っている」と同氏は言う。

「しかも、多くの人とシェアしているので無駄にならない」。

ビジンテイナー氏はプロジェクト・パン動画を定期的にTikTokで投稿しており、購入品紹介動画では支出額の詳細も共有する。香水を使い切る行為は、自身の消費習慣を測る指標にもなるという。

「香水のボトルを使い切ると、とても満足感がある。それは自分がその香水を買ってよかったという証になる。もし使わない香水があれば、私はためらいなく手放す」と同氏は語る。

「過剰消費して無駄を生み、2年間も棚に置かれたままの香水を増やしたくはない」。

デブランディングから詰め替えバイラルまで、ブランドにとっても追い風に

プロジェクト・パンが進化するなかで、参加者たちは製品を使い切るための独自の工夫も取り入れるようになった。

ほかのクリエイターの影響を受け、ライル氏は商品ラベルやロゴを剥がす「デブランディング」をはじめたという。ブランドイメージに左右されず、純粋に製品を見るためだ。

「余計な情報がなくなって製品そのものが見えるから、すごくスッキリする」と同氏は言う。

「パウダーは結局パウダーだし、チークはチーク。ブランドが与える印象に惑わされなくなる」。

ただし、プロジェクト・パンが「消費を抑える考え」を促す一方で、ブランド側もこの流行を活用する方法を見つけている。

2025年5月、エルフ・コスメティクス(E.l.f. Cosmetics)は、ユーザーが空になった「ヘイローグロー(Halo Glow)」のボトルにリップグロスを詰め替えるバイラル動画に便乗した。

「多くの場合、使い切り動画やプロジェクト・パン投稿には、レビューや『リピ買いする』というコメントが添えられる」とケイン氏は言う。

「そこにブランドが利益を得られる余地がある」。

購入行動は依然活発

プロジェクト・パンが盛り上がる一方、ブラックフライデー初期のデータでは、消費者が買い物を控えているわけではないことが示された。米国消費者はブラックフライデーにオンラインで118億ドル(約1兆8300億円)という過去最高額を支出し、サイバーマンデーのセールもその数字を押し上げた。

しかし2026年の新年が近づいている。新年の目標としてプロジェクト・パンをはじめるには、ちょうどよいタイミングだという人もいるだろう。

「気が重くなる話だけど、買い物依存の人は実際にいる。そして美容はたくさん買うことが普通になっているから、依存しやすい」とライル氏は話す。

「でも、どんなタイミングでも遅くはない。『そろそろ変える時期だ』と思えたら、それでいい」。

[原文:Beauty Briefing: Beauty sales are booming. And so is Project Pan]

Emily Jensen(翻訳、編集:藏西隆介)

Write A Comment

Exit mobile version