ゴスペラーズの黒沢 薫と乃木坂46の中西アルノがMCを務めるCS放送TBSチャンネル1で放送中の音楽番組『Spicy Sessions』(スパイシーセッションズ)。10月24日に神奈川・KT Zepp Yokohamaで番組初のイベント『Spicy Sessions -THE LIVE-』が開催された。

満員の客席。開演前のざわめきは、この日のライブへの期待を表していた。この期待は、『Spicy Sessions』という音楽番組が積み重ねてきた、音楽リスナーからの信頼の証だ。『Spicy Sessions』の歴史が、そのまま熱量として会場に漂っていた。2023年冬、“ちょっと刺激的”な音楽番組としてスタートした『Spicy Sessions』は、毎回ゲストを迎え、譜面を囲み、歌割りを決め、その場限りのセッションを披露し、間違ったり納得できなかったらやり直す……そんなスタンスで音楽と向き合い、目の前で音楽が出来上がるさまを届けてきた。曲が完成する“直前”の緊張と“直後”の興奮が、この日、ついに“本物のライブ”で表現された。

客席がスッと暗くなる。薄闇に沈むステージ上で、バンドメンバーがスタンバイする。ステージバックに設置された巨大なスクリーンに、番組の名場面が映し出されていく。映像の最後を飾ったのはこの文字だった。

「Spicy Sessions –THE LIVE–」。

Spicy Sessions_「獣ゆく細道」(黒沢、中西)

大きな拍手の中、MCの黒沢 薫(ゴスペラーズ)と中西アルノ(乃木坂46)がステージに。オープニングを飾ったのは「獣ゆく細道」だった。本曲は、黒沢がソロデビュー20周年を記念してリリースしたEP『Singaholic』に、中西をゲストボーカルに迎え、収録されている。『Spicy Sessions』が生んだコラボレーションだ。黒沢と中西が、低音域から高音域をすれ違うように行き来する。観客がふたりの歌に集中していくのが分かる。最後の<狭き道をゆけ>のワンフレーズは、最後の一音のクレッシェンドのかけ方までぴったりとタイミングが合っていて、まさにふたりの呼吸で聴かせる仕上がりになっていた。

観客の大歓声を受けて笑顔になるふたり。「さあ始まりました!『Spicy Sessions –THE LIVE–』!」と第一声をあげたのは黒沢。中西は「ライブはスタッフさんやMC、バンドメンバーの夢だったので、多くの人に音楽っていいなと思っていただけるように」と想いを告げる。黒沢に「獣ゆく細道」の感想を求められると「私たちらしい『獣ゆく細道』にできたんじゃないかと思います」とコメント。この日のリハーサルに話題が移ると、「皆(ゲスト)の声がでかいよね」と黒沢。「感化されて、どんどん私も力んでいくっていう(笑)」と中西。MCふたりのトークに、観客も笑い、リラックスしていく。

Spicy Sessions_「我愛你」(浪岡、大島)

最初のゲストはPenthouseの浪岡真太郎と大島真帆。大島の「私たちの代表曲を。よければ一緒に手を振って聴いていただけたら」という言葉から、アップチューンの「我愛你」へ。ふたりに合わせて、観客も、舞台の端から見つめる黒沢と中西も、楽しそうに大きく手を振っていた。第3回(2024年3月放送)のゲストだった浪岡と大島。リバイバルセッションとして、そのとき披露した「Layla」と「やさしいキスをして」を、放送時からアレンジを加えた形で歌唱する。さらにここで、ゲストとしてPenthouseの矢野慎太郎が呼び込まれた。矢野は第3回の収録を客席から観覧し、それ以降ファンとして番組の感想などをSNSで発信。スパ民(黒沢が考案した『Spicy Sessions』のファンネーム)の中でお馴染みの存在になった矢野の登場に、会場が沸く。

Spicy Sessions_「Layla」(浪岡、黒沢/矢野)

「Layla」では、浪岡、黒沢というハイトーンが武器のボーカルふたりが、声音とアプローチの違いで、それぞれの個性をぶつけ合う。浪岡は少しハスキーな濁音が混じったようなトーン、黒沢はクリアなトーンでこぶしを回すなど、高音域のロングトーンだけでも聴かせ所が次々に繰り出されていく。続いて、大島と中西で「やさしいキスをして」を。今回ライブで歌唱されるリバイバルセッション曲は“ひとスパイスを加える”がテーマ。黒沢から「前回は『やさしいキスをして』で真帆さんが全部コーラスをしてくれた。今回は(ひとスパイスとして)アルノさんもコーラスを」と任された中西は、“師匠”黒沢からのリクエストをしっかり形にしていた。後半のロングトーンでは、大島の歌声に合わせるように、クレッシェンドのかけ方までぴったり。この2年間での中西の成長が顕著に表れた1曲だった。

Spicy Sessions_「やさしいキスをして」(大島、中西)

歌い終えた後「パワー感が揃った感じ」という黒沢のコメントに、うれしそうにする中西。リバイバルセッション曲について、浪岡は「楽しいですね。こういう曲をやっている時が一番いい」と。音楽ファースト、ゲストファーストを貫いてきた番組とMCにとって、最大の褒め言葉だったのではなかろうか。

Penthouseの3人が一旦ステージから降りた後、ソロデビュー20周年を迎えた黒沢が「今まで応援してくれた方への感謝の曲。皆さんへの感謝の気持ちを込めたいと思います」と、ソロのオリジナル曲「夢みる頃を過ぎても」を歌う。終わると中西が「(観客の)皆さんの顔を見ていたら、どんどん黒沢さんに吸引されていくような。歌に力がある方なんだな、師匠は」と興奮気味に感想を述べた。

Spicy Sessions_「夢みる頃を過ぎても」(黒沢)

Spicy Sessions_歌いながら登場する根本 要

続いて登場したのは、スターダスト☆レビューの根本 要。ギターを肩からさげ「本日はお招きありがとう!」と歌いながら挨拶をした後、根本が披露する曲を告げると、会場から大歓声が起こった。その曲は「今夜だけきっと」。黒沢と中西もコーラスで参加。間奏では、この日、バンドメンバーとして参加していた本間将人のサックスがブロウする。最後は根本が超ロングトーンを響かせ、観客を圧倒した。

第7回(2024年7月放送)にゲスト出演した根本。「ミュージシャンが集まって、何かを創ろうという気持ちが前面に出る。予測されたものじゃない楽しさがあった」と振り返る。中西は根本の「調子が良くなくても、その時の声を大事にすれば良い」という言葉が忘れられないと回想。黒沢が「あの時(=第7回)より、3人ともアドリブがうまくできるんじゃないかな。アルノさんは特に」と言うと、根本が「悪い子になってきたね」と中西を見て、会場の笑いを誘う。こんな会話を受け「Bring It On Home to Me」、「ハナミズキ」を続けて披露することに。「Bring It On Home to Me」では、間奏でバンドメンバーが順番にソロ演奏。それぞれのソロが終わるたびに、MCふたりと観客から拍手が起こる。締めは根本のギターソロ。ギターで弾いたメロディーと同じメロディーを、オクターブを変えて歌うという根本の信じられない技も飛び出した。「ハナミズキ」は、根本と中西のボーカルのコントラストが楽曲を彩る。そのコントラストを活かしながらも、時にコントラストの間を埋めるように、黒沢がスキルの引き出しをバンバン開けていく。この曲で見せた、黒沢のファルセットのコーラスからハイトーンにつなぐシーンは、間違いなくボーカリスト・黒沢の真骨頂のひとつだ。

Spicy Sessions_「ハナミズキ」(根本、黒沢、中西)

再びPenthouseの浪岡、大島、矢野の3人をステージに呼び込む。黒沢の選曲で「ラブ・ストーリーは突然に」を、根本、Penthouseの3人、黒沢、中西、バンドメンバーでセッション。黒沢は「小田(和正)さんは、クリアテナーじゃないですか。だから、声がガラガラしている人に歌ってほしかった」と、根本と浪岡に視線を向ける。そして「僕は佐藤竹善さんの(コーラス)パートをやりたい!」と語尾強めで主張。コーラス、そして主張。ゴスペラーズの黒沢がちょっとだけ顔を出した。

ゲストの矢野とバンドメンバーたちが打ち合わせに入る。その間、ボーカル陣も打ち合わせをしながら「サビの下ハモがいいんですよー」と、黒沢がリスナーに戻ったような言葉を独り言のように呟く様子に、ついつい爆笑してしまった。「ラブ・ストーリーは突然に」は、イントロのギターのカッティングが楽曲を象徴する重要なファクター。ステージ上には、根本、矢野、そしてバンドメンバーの三沢崇篤と、ギターが3人。イントロ誰がやる? どうぞ、いやそちらがどうぞ、みたいなやりとりに大爆笑してしまった。

Spicy Sessions_「ラブ・ストーリーは突然に」歌唱前の打ち合わせ

楽しい。本当に観ているだけで、音を聴いているだけで楽しい。フラットな状態で、感覚すべてを解放してライブを楽しんでいる、ひとりの観客になっている自分がいた。根本が試しで弾くことに。最初のカッティングギターを鳴らすと、まだ半分打ち合わせ中だったバンドが、演奏に入ってきた。「カウント無しってこと?」と慌てながらも、どこか楽しそうな黒沢。不意打ちでチャカチャーン、バンド入る。根本喜ぶ。根本、マイクスタンドの前に立つ。ボーカル陣もスタンバイしようとする中、またチャカチャーン!楽器陣たちが反射的に演奏を始める。相手の出す音に反応して自分が音を鳴らす、これぞセッションだ。ものすごく楽しい遊びを見つけちゃった!みたいな根本を黒沢が制し、「ラブ・ストーリーは突然に」を披露した。

ライブが終わった後、「恐怖におののいていたフェイクやアドリブに、今回は楽しく飛び込んでいけた」と中西。黒沢は「ゲストが素晴らしいので、毎回僕も全力でぶつかっている。だから良いものを出せているのかな」と感想を述べた。

「Spicy Sessions –THE LIVE–」。
音が生まれる瞬間の尊さと、誰かと声や音を共有する歓び。
この日、この時、この場所で、そのすべてが確かに形になっていた。

<公演概要>
『Spicy Sessions -THE LIVE-』
2025年10月24日 神奈川・KT Zepp Yokohama

<番組情報>
■放送チャンネル
CS放送TBSチャンネル1
『Spicy Sessions』

■放送日時
『Spicy Sessions -THE LIVE- 第1部』
11月29日(土)23時30分〜深夜0時40分
※『Spicy Sessions -THE LIVE- 第2部』の放送日時は後日発表

<配信情報>
『スカパー!番組配信』にてPC、スマートフォン、タブレットでも視聴可能
詳細:https://www.skyperfectv.co.jp/service/ott-guide/

Spicy Sessions_MC の黒沢 薫(左)、中西アルノ(右)

『Spicy Sessions』オフィシャサイト:

https://www.tbs.co.jp/tbs-ch/series/yRNA2/

Write A Comment