結婚後、マリー・アントワネットはしばしば母へ手紙を書き送り、フランス宮廷での窮屈な暮らしを嘆いていたという。とりわけ、多くの人々が見守るなかでメイクを施す“儀式”にはうんざりしていたようで、ある手紙には「私は世界中の人の目の前で、ルージュを塗り、手を洗わなければなりません」と綴っている。彼女自身も想像していなかっただろうが、255年後のいま、その“ルージュ”が最新のバイラルメイク、「マリー・アントワネット風チーク」のインスピレーション源になっている。

「元祖インフルエンサー」へのオマージュ

このチークトレンドは、インフルエンサーの元祖としても知られるアントワネット王妃へのオマージュでもある。プレイフルで華やか、そしてソフィア・コッポラ作品を愛する人にとっては、キルスティン・ダンスト率いるキャンディカラーの世界に“軽くコスプレ気分で”入り込める楽しさもある。

さらに、政治的不安や経済の揺らぎが重なるタイミングで、このトレンドが再び脚光を浴びていることに気づく人も少なくない。偶然とはいえ、時代の空気を映すように広がっている点も興味深い。

マリー・アントワネット風チークが再熱! 王妃発想のロココな血色メイク徹底ガイド

©Sony Pictures/Courtesy Everett Collection

メイクアップ・アーティストで、自身の名を冠したメイクブランドの創設者としても知られるリサ・エルドリッジは、こうしたメイクのマキシマリズムやドラマティックなスタイルは、これからも常にSNSで支持され続けると語る。ただし、チークには現実の私たちが求める“逃避”と“楽しさ”が宿っている点が特別だと言う。「チークは、メイクの工程のなかでも“よろこびが最も湧き上がるパート”であり続けるでしょう」とエルドリッジ。

「美のリチュアルに喜びを見つけることです」と続けるのは、パット・マクグラス。「VOGUE WORLD」2025は、彼女はモデルたちをフランス革命期の貴婦人のような装いへと導き、その象徴として鮮やかなピンクの頬を欠かさずに仕上げた。「ミニマリズムのシーズンが続いたからこそ、人々は再び“表現の高揚感”を渇望しているのです」と彼女は語る。

ロマンと歴史の背景

ロココ様式の夢のような世界観も相まって、私たちはしばしばマリー・アントワネットのビューティールーティンを理想化してしまう。「ロココの美には深いロマンスが宿っています。それはファンタジーであり、フェミニニティ、そして反逆の象徴でもあるのです」と語るのは、パット・マクグラス。

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