文化服装学院は11月2〜4日の文化祭期間中、ファッションショーを開催した。文化服装学院の伝統の一つである同ショーは、コンセプト立案からデザイン、縫製、モデル演出、ヘアメイク、映像表現、音響、照明、舞台設営、会場運営、PRに至るまで、約700人の在学生が主体となって創り上げるものだ。

今年のショーテーマは「Un:」。 “無題(untitled)“を意味するこのテーマには、文化服装学院がこれまで培ってきた熱意やエネルギーを託した。学生ならではの尖った感性や無限の可能性を重ね、その力を余すことなく表現したい。そして観客それぞれが、このショーに自らの「タイトル(解釈)」を見出してほしいという思いが込められている。

ショーは6つのシーンで構成される。1つ目の「ICONIQ STAR」では、在校生のコンテスト選出作品や各学科と企業とのコラボレーション作品を紹介。「エドウィン(EDWIN)」「アークテリクス(ARC’TERYX)」などとの共同制作ルックが登場した。

2つ目は、レースなど繊細な素材を中心に用い、どこかゴシックなムードが漂う「Porcelain」。崩れゆく時間や夢と現実の狭間に存在する美を描き、シーンタイトルの通り、強さと脆さを併せ持つ陶磁器の儚さを表現した。

3つ目の「Pepu Bes」は、アフリカ言語の民族(Pepu)と宇宙(Bes)を題材にしたシーン。現代における画一的な宇宙像に疑問を投げかけ、自然とともに生きる人々が抱く宇宙への憧れを物語として紡いだ。民族柄を思わせるプリントやニット生地を多用し、独創的なシルエットを構成。エイリアンや民族を思わせるヘッドギアも目を引いた。

4つ目の「This is all square.」では、服のパターンを“四角形“のみで構成。リアルクローズの“Daily”、ボリューム感のある“Voluminous”、装飾性の高い“Decorative”の3軸で展開し、シンプルな四角形から多様な衣服を生み出す「四角形の可能性」を提示した。

5つ目は、人間の心の絡まりを表現した「21917193」。ポケベルで「絡まる」と読まれる数列から名付けられ、悩みや共鳴、他者とのズレといった心の揺らぎを造形に落とし込んだ。同シーンは服飾副資材メーカーのSHINDOとの産学連携プロジェクトでもあり、学生たちはSHINDOのリボンやレース、ブレードなどを自由に活用した。

ラストを飾ったのは、戦争のない未来を想像した「happy warriors」。 「ジャンスポーツ(JANSPORTS)」とのアップサイクルプロジェクトとして、同ブランド商品を再構築し、蝶やカメレオン、植物などを思わせる新たなデザインへと昇華。遊び心に富んだ10ルックが登場した。

ショー会場に隣接するギャラリーでは「Un:」にちなむ企画展示を実施。企業や団体から提供されたテキスタイルを各シーンのコンセプトに沿って展示し、シュールレアリズムの視点を取り入れた構成で、ショーの世界観を凝縮した。テキスタイルの専門性を活かし、服飾資材やパターンを造形的要素として再構成することで、非現実的なイメージを現代的に再解釈したインスタレーションとなった。

また、来年創刊90周年を迎える「装苑」とのコラボレーションによるスペシャルブック(1700円)も制作・販売。SUMIRE(佐藤菫)を表紙に起用し、学生が手掛けたルックやビジュアルを収録した。内容は文化服装学院公式サイトでも公開されている。ルックブックの内容、及びショーの全貌は文化服装学院特設サイトでも公開中だ。

ショー会場前には、ショップ「RE:TENT(リテント)」もオープン。文化服装学院ファッション流通科2年リテールプランニングコースの学生が企画・仕入れ・運営・販売を担うもので、8ブランドが並んだ。オリジナルアイテムを展開する学生ブランドから個人クリエイションまで多様なラインアップで、11月4日昼時点でほぼ完売となる盛況ぶりだった。

文化服装学院文化祭Ⅰ部(昼間部)ファッションショー担当教員の安井涼子氏、森本慧氏は「本年度は学年・コースを越えた協働作品が多く、コンテスト形式の個人作品では個性が際立ち、ショー全体に強いコントラストが生まれた。文化服装学院が築いてきた総合力を感じていただけたのではないか。『Un:』というテーマが象徴するように、今を生きる学生が考える多様性が体現されていた」と振り返る。

3日間の学園祭にはレセプションを含め、1万500人以上が来場。2月下旬には学びの集大成となる卒業制作作品発表が予定されている。

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