記事のポイント
インビューティープロジェクトはセフォラの市場分析から「ホワイトスペース」を見出し、価格帯の中間領域で差別化に成功した。
セフォラとの関係構築では、厳しいフィードバックを恐れず受け入れ、「成果を超える成果」を出す姿勢を貫いている。
イベントやサンプリングを通じて店頭での存在感を高め、「セフォラにある」と積極的に発信するマーケティングを展開している。
アリサ・メッツガー氏とジェン・シェーン氏は2019年、高性能なスキンケア製品を一般的な消費者でも手に取りやすくすることを念頭に置いて、「インビューティープロジェクト(InnBeauty Project)」を立ち上げた。その実現の鍵になったのは、米国でも最大級のビューティ小売である「セフォラ(Sephora)」に参入することだった。2021年までに同ブランドは、セフォラの「ネクスト・ビッグ・シング(Next Big Thing)」セクションでデビューを果たし、まさにその目標を達成していた。その後、同ブランドの主力製品である「エクストリームクリーム(Extreme Cream)」は、セフォラにおけるモイスチャライザー部門のトップ5に入るまでに成長し、さらに7月には英国のセフォラ店舗にも展開するに至った。
しかし、セフォラに入ること――そしてそこにとどまり続けること――は決して容易ではない。ニューポートビーチで開催されたGlossyの「ビューティ&ウェルネス・サミット(Beauty & Wellness Summit)」2日目のセッションで、インビューティープロジェクトの共同創業者であるアリサ・メッツガー氏は、同ブランドがこの小売パートナーで成功を収めた要因を示すワーキンググループを主導した。以下に、メッツガー氏のセッションから得られたインサイトを紹介する。
Advertisement
1. セフォラ内のホワイトスペースをマッピングする
私たちは競合を徹底的に調べ、こう理解した。――「セフォラのスキンケア市場はどのような構造なのか?」「彼らのトップブランドはどこか?」「なぜ成功していて、何が欠けているのか?」と。そして、セフォラがまだ持っていない「ホワイトスペース(未開拓領域)」を明確にし、セフォラが現時点で必ずしも解決策を持っていないスキンケア消費者の課題に対して、私たちがどのように応えられるのかを言語化することができたのだ。
私たちは文字どおりそれを図に描き出して分析した。すると、10〜30ドル台の価格帯にはブランドが密集しており、また60〜100ドル台にもブランドの集まりがあることがわかった。そしてその間には「ノーマンズランド(誰もいない空白地帯)」が存在していた。私たちは、こここそが他では得られない価値のあるゾーンであり、その価値を競合にも顧客にも納得させることができると確信したのだ。
2. セフォラの「キッチンに入る」フィードバックを受け止める
小売パートナーとの関係を築くということは、相手との信頼関係を構築するということだ。だからこそ、良いパートナーである必要がある。
セフォラが有名なのは、「キッチンに入りたがる」という点だ。彼らが言う「キッチンに入る」とは、つまり細部にまで踏み込みたいという意味である。とりわけ新しいブランドに対しては、細かな部分まで関わりたがる。しかしそれは、ブランドが成長するにつれても続く。実際、今では彼らはこれまで以上に私たちの「キッチン」に入り込んでいる。なぜなら、リスクも賭ける金額も大きくなっているからだ。セフォラは私たちにより多くの棚を与え、あらゆる製品やイノベーションに対してますます大きな賭けをしている。毎年、彼らは予算を組むが、そのなかで私たちが占める割合はどんどん大きくなっている。だから私たちは、成果を出すだけでなく、その期待を超える成果を出さなければならないのだ。
自分のブランドを細部まで分解され、「このパッケージは好きだ」「この色は気に入らない」「この部分はいい」「この説明は違うと思う」などと、一つひとつ評価されるのは、本当に恐ろしいことだと思う。同時に、それは非常に謙虚な気持ちにさせられる経験でもある。けれども、ここで問うべきは「正しさを取りたいのか、それとも成功を取りたいのか」ということだ。セフォラはあらゆるブランドを見てきている。成功したブランドも、失敗したブランドも、瞬く間に上がっては落ちていったブランドも。だからといって、彼らのフィードバックをすべて鵜呑みにして実行する必要はない。だが、反発的に受け止めてはいけないのだ。
3. コア以外には広げすぎない(トリフェクタに集中する)
最近、私たちが「ノー」と言ったことのひとつは、自分たちが核(コア)だと考える品揃えの範囲を超えてまで、ラインを拡大することだった。私たちはフェイシャルスキンケアが得意分野だ。いわば「トリフェクタ(三位一体)」と呼んでいて、勝ちたい領域はフェイスモイスチャライザー、アイクリーム、そしてセラムの3つである。この3カテゴリで――チェック、チェック、チェック――すべてのSKUが上位に入れば、それが私たちにとってのホームランなのだ。もちろん、スキンケア市場には他にもさまざまなカテゴリがある。たとえば、いまリップケア市場は爆発的に盛り上がっている。誰もがそれを知っているし、誰もがその製品を買っている。だが私たちはこう考えた――「リップ分野では私たちよりもずっと上手にやっているブランドがいくつもある。彼らにとってリップはブランドの核であり、象徴でもある。だから私たちはそこで競おうとはしない」と。戦略的に、ホリデーギフトなどの場面で一時的に成功することはできるかもしれないが、それは私たちのブランドの中核にはならないのだ。
4. 実店舗でアクティベーションして数字で証明する
セフォラは実店舗を主体とする企業であり、店舗は彼らにとって非常に、非常に重要な存在だ。単なるオンラインプレイヤーではない。だからこそ、どの市場で動くかを見極めることが必要だ。たとえば、自分が住んでいる地域でもいいし、強力な営業担当がいる地域でもいい。そうした場所で「アクティベート(実践)」するのだ。来店客の多い曜日――木曜、金曜、あるいは土曜――を選び、イベントを実施する。そして、顧客が自社ブランドとどのように関わっているのかを実際に理解する。それは1店舗、あるいは数店舗で起こることでも構わない。大切なのは、月に1回、もしくは2週に1回といった具合に、継続的に行うことだ。そうしてブランドとしての価値を「証明」する。なぜなら、セフォラ側が「このブランドは木曜にアクティベーションを行って、通常1日300ドル(約4万8000円)の売上が1500ドル(約24万円)に跳ね上がった」と見れば、それは確実に評価につながるからだ。
私たちは、主要地域に常勤のアカウントエグゼクティブを採用した。セフォラにしっかりと尋ねるのだ――「ニューヨーク、ロサンゼルス、南フロリダ、テキサス州ダラスなどで、最も成果を上げている店舗はどこか?」と。そうして、トップ店舗がどの地域にあるのかを理解し、正社員であれフリーランスであれ、店舗内に人を配置する方法を考える。ブランドについて教育できる人材を現場に置くのだ。さらに、その店舗で働くビューティアドバイザーたちに製品やサンプルを提供する。そうすることで、自分たちが店舗にいないときでも、彼女たちがブランドの「代弁者」として顧客に薦めてくれるようになるのだ。
5. SNSとサンプリングで「セフォラで買える」を徹底して見せる
当たり前のことのように聞こえるかもしれないが、自分たちがセフォラで販売されているという事実を、オーディエンスにきちんと知らせなければならない。セフォラのショッピングバッグでフィードを埋め尽くすくらいの気持ちで発信するのだ。コンテンツクリエイターやマイクロインフルエンサー、自社チーム、そして自分自身がセフォラで買い物をしている様子を投稿し、それを広告としてブースト(拡散)する。
私たちはあるとき気づいた。インスタグラムのフィードはとても美しく、ブランドらしさにあふれ、製品や教育的な内容ばかりだったが、「セフォラで販売している」ということをまったく伝えていなかったのだ。プロフィール欄に書いてあるからといって、人々がそれを見ているとは限らない。なぜなら、ユーザーはフィードをスクロールしているとき、プロフィール欄まで目を通さないからだ。そこで私たちは、ある時点でこんなルールを設けた――「少なくとも6投稿のうち1投稿は、セフォラのショッピングバッグをフィードの中心に配置すること」。
セフォラのサンプリングキャンペーンにどう参加できるかを考え、そこを通じてマーケティング予算や認知の機会をどう獲得できるかを探ることも重要だ。チェックアウトエリアにある「ビューティ・オン・ザ・フライ(Beauty on the Fly)」は、非常に戦略的な場所だと思う。もし「一度使えば誰もが虜になる」と確信できる製品があり、十分な棚スペースを持っていないなら、このエリアに製品を置いてもらうよう交渉すべきだ。ミニサイズやトラベルサイズの商品をそのボックスに入れてもらうために、できる限りのことをすべきなのだ。
[原文:‘We have to deliver and over-deliver’: InnBeauty Project’s Alisa Metzger on how to succeed at Sephora]
Emily Jensen(翻訳・編集:戸田美子)
![「ホワイトスペースを制す者が セフォラ を制す」 急成長ブランド・インビューティーが実践した5つの施策 | DIGIDAY[日本版] 「ホワイトスペースを制す者が セフォラ を制す」 急成長ブランド・インビューティーが実践した5つの施策](https://www.moezine.com/wp-content/uploads/2025/11/iNNBeauty-project-2-eye.jpg)