
バンダイナムコスタジオのコンポーザー、Shogo Nomuraです。BITWIG Bitwig Studio連載、筆者担当の最終回は、『塊魂 Rolling LIVE』から「ステキナノカデパレード」の制作事例を紹介します。“チップチューン+オーケストラの曲を作ろう!”と意気込んで作り始めたこの曲ですが、フロー的にもサウンドのアプローチ面でも、Bitwig Studioの各機能が活躍してくれました。
解説:Shogo Nomura|第4回
個性ある響きを生み出すMultiband FXとConvolution
メインのリズム隊には、意図的に音質を劣化させてサンプリングしたシンセやパーカッションの音色を使用しています。往年のレトロ・ゲーム機を意識したキャラクターの強いチップチューンを作りたかったので、例えばXFER RECORDS Serumのようなパキッとしたシンセでも、あえてくすんだ音色にするなどの加工が必要でした。そこで活躍したのがBitwig Studioに搭載されているデバイスのMultiband FXです。
Multiband FXは、周波数を分けて任意のプラグインをインサートするためのデバイスです。Bitwig Studioには2バンドのMultiband FX-2と、3バンドのMultiband FX-3の2種類が備わっています。“高域だけ解像度を落として、定位をあいまいにして……”というような細かい処理が手軽にできるようになるため、直感的なアイディアが試しやすくなるデバイスです。次の画像のように、SerumにMultiband FX-2をインサートし、高域に対してSaturatorやGOODHERTZ Lossy 3、KORNEFF The Wow Thingを使いました。

XFER RECORDS SerumにインサートしたMultiband FX-2(画面左端)。1.8kHzを境にLowとHighが設定されており、HighにはSaturatorやGOODHERTZ Lossy 3、KORNEFF The Wow Thingをセットした
そのほか、空間を作り込むためにセンド・トラックへMultiband FXをインサートするという手法もよく行っています。
さらにレトロなニュアンスを出す方法として、シンプルに高域を切るのも効果的ですが、よりキャラクター性を高めるために本楽曲ではConvolutionを多用しています。

Convolutionはオーディオ・ファイルをIRデータとして読み込めるデバイス。デフォルトではリバーブとして使えるIRデータが多く搭載されているが、コードやパーカッションなどオーディオを使うことで独自の響きを生み出すこともできる
このデバイスはハードウェアやキャビネット、EQ、マイクの音響特性などをシミュレートするIRローダーとして使用が可能です。周波数特性を再現したIRを用いることで、デジタルEQのローパスではなかなか得られないキャラ付けが行えます。
Bitwig Studioにデフォルトで付属しているIRデータは空間系が中心ですが、IRの長さを極端に短くしてみたり、Tuneでピッチ変化を与えることで現実空間にはない面白い響きを作ることができるので、ぜひ試してみてください。ほかには、(カラー・ベース的な発想で)コードをサンプリングしてバウンスしたWAVや、さらにはパーカッション・ループを放り込んでみても面白いですよ。
Drum Machineでキー・スイッチをコントロール
オーケストラ・セクションも見ていきましょう。トラック・メイクの印象が強いBitwig Studioで意外と見落とされがちな機能がレイヤー編集モードです。これを使うことでストリングスなどの複数の声部が存在するセクションを一括で編集したり、マルチ音源を異なるノートごとに管理できるようになります。ピン留めアイコンを点灯させると任意のトラックのMIDIが反映され、各々の編集が可能な状態となります。

ストリングスなど、複数の声部にわたる打ち込みの場合はレイヤー編集モードが便利。一つのピアノロール画面上で複数トラックのMIDIノート同時に表示/編集が可能になる
特定の声部だけ編集したい場合は、鍵アイコンを点灯させることで編集したくないトラックが一時的に無効化されます。よく使う操作なので、ショートカットに割り当てておくのがお勧めです。
オーケストラ音源と切って離せないのが、キー・スイッチによるアーティキュレーションの切り替えです。音源によってまちまちですが、通常は鍵盤の最下部や最上部のキーに割り当てられている場合が多く、どのアーティキュレーションがどこにアサインされているのか把握するのが大変で、打ち込むのが少し億劫になってしまいますよね。そんなときの小ネタとして、Bitwig Studio側で無理やりエクスプレッション・マップを作る方法があります。
まずメイン音源の前段にDrum Machineを空の状態で立ち上げたら、アーティキュレーションに対応するセルを探して、何でもいいのでサンプルを読み込み、すぐに削除します。そうするとセルのリネームが可能になるので、“Sustain”や“Staccato”など、音源に対応するアーティキュレーション名を設定してください。ドラム・エディターを開いてみると、該当ノートにリネーム結果が反映され、簡単にアーティキュレーションが把握できるようになりました。

Drum Machineを使うことで、キー・スイッチによるアーティキュレーション変更を視覚的に分かりやすくできる。Drum Machineの各セルはリネームが可能で、そこにアーティキュレーション名を記載することでピアノロール上にも表示されるようになる
もちろん、そのセルがトリガーされるとアーティキュレーションが切り替わるので、あとは通常通り打ち込んでいくだけです。ノートとアーティキュレーションが混在するのが嫌な場合は、トラックを分けてNote ReceiverでMIDIを送ってあげてください。
全4回にわたりさまざまな視点からお気に入りの使用法を紹介してみましたが、いかがでしたでしょうか? もともと筆者はトラック・メイキングのためにBitwig Studioを導入しましたが、意外と生楽器音源を打ち込むときに便利な機能も充実しており、どのジャンルでも作れてしまうなと思った今日このごろです。まだまだ底の見えない超自由なDAWのBitwig Studio、ぜひ探求してみてください!
Shogo Nomura
【Profile】2021年にバンダイナムコスタジオ入社。コンポーザー、時には鍵盤奏者として、『塊魂 Rolling LIVE』『鉄拳8』『電音部』などのタイトルに参加。幅広いジャンルにおいて強い作家性を持つ。
『塊魂 Rolling LIVE』https://katamaridamacy-rolling-live.bn-ent.net/
※Apple Arcadeは、米国およびその他の国で登録されたApple Inc.の商標です。
【Recent work】
『塊魂 Rolling LIVE オリジナルサウンドトラック-ららまりだましい』
塊魂シリーズSOUND TEAM
(Bandai Namco Game Music)
©Bandai Namco Entertainment Inc.

LINE UP
Bitwig Studio
フル・バージョン:52,800円|エデュケーション版:35,200円|12カ月アップグレード版:22,000円
Bitwig Studio Producer:26,400円
Bitwig Studio Essentials:13,200円
Bitwig Studio 8-Track:無償、ダウンロードはこちら→https://www.bitwig.com/reg/
REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.15以降、INTEL CPU(64ビット)またはAPPLE Silicon CPU
Windows:Windows 10(64ビット)、Windows 11、Dual-Core AMDまたはINTEL CPUもしくはより高速なCPU(SSE4.1対応)
Linux:Ubuntu 22.04以降、64ビットDual-Core CPU以上の×86 CPU(SSE4.1対応)
共通:1,280×768以上のディスプレイ、4GB以上のRAM、12GB以上のディスク容量(コンテンツをすべてインストールする場合)、インター ネット環境(付属サウンド・コンテンツのダウンロードに必要)
