【写真を見る】“メタモルフォーゼ”をテーマに制作された「AYAKA Oshita」の新作衣装を一挙に公開

■世界各国から独創的なデザイナーが集結
毎回、独創的なアイデアを取り入れ、多方面から注目されている「Global Fashion Collective × Rakuten Fashion Week Tokyo」だが、今回は世界各国から9ブランドが参加。アヴァンギャルドファッションとサウンドが融合する「A-JANE」、自然、地球、そして人間という3つの要素が融合したデザインをファッションへと発展させてきた「CHARINYEH」、そして日本からは、2022年に第96回装苑賞を受賞した「AYAKA Oshita」といった新進気鋭のデザイナーが集結。
いずれの新作も好評を博していたが、ウォーカープラスではショーの終了後、「AYAKA Oshita」の大下彩楓さんに単独インタビューを実施。デザインに対する思いや、今回のショーへの参加に至った経緯などを聞いた。

■「AYAKA Oshita」のインスピレーションの源泉とは?
――どのようなきっかけで、今回のコレクションのテーマを「メタモルフォーゼ」にされたのでしょうか?

【大下彩楓】「メタモルフォーゼ」とは、変身とか進化とか、そういう意味合いなんですが、私は普段から、パーソナルな部分といいますか、自分の内面を言葉や表情で伝えるのが苦手で…。逆に、それ以外の表現のほうが性に合っていて、いちばんうまく自己表現できるのが服の制作なんです。そこに向き合って、表現の仕方をより進化させる。そうして新しい何かを生み出す。そういった想いを込めて、こちらをテーマに掲げさせていただきました。

――今回のショーで発表された衣装でこだわった部分はどこでしょうか?

【大下彩楓】こだわったところは、「メタモルフォーゼ」というテーマをいかにして表現するか…という点につきます。例えば、破れた布の隙間からお花が生えていたり、背中から翼みたいなディテールが生えていたり。そういう、ちょっと人外めいた感じを取り入れることで、テーマに込めた“殻を突き破るイメージ”を表現しました。

――ショーを拝見していて、鳥かごのようなデザインのバッグが印象的でした。

【大下彩楓】あれは中にドールが入っているのですが、そのドールが檻(殻)を突き破ろうとしている瞬間を表現したものになります。とはいえ、普通の鳥かごだとただのオブジェになってしまっておもしろくないので。せっかく作るからには機能面とアートを融合させたかったので、ファスナーを取り付けたりして。バッグとしても使えるように仕上げました。

――ファッションショーと聞くと、前衛的なデザインが多そうという先入観がありましたが、大下さんのデザインは普段着としても着られそうでかわいかったです。その辺りも意識されたポイントですか?

【大下彩楓】そうですね。普段から服を作るうえで意識していることなんですが、前衛的なデザインを取り入れるにしても、服なら服としての機能を失ってはいけないと思っています。デザインにこだわりすぎた結果、「服の形をしている意味はあるのか?」「そもそも人が着る意味はあるのか?」となってしまっては本末転倒ですから。個人的な意見ですが、服の定義は「人が着ているときがいちばん美しい状態」だと考えています。

――大下さんの作品は、“ゆらゆら揺らぐ素材感”が印象的だと個人的に感じました。大下さんの得意とする表現はありますか?

【大下彩楓】まさにおっしゃる通りで、“ゆらゆら揺らいでいる”というのは、先ほどお話した「服は“人が着ているとき”がいちばん美しい状態」という考えの表れで、意図して取り入れている要素になります。人の動きに合わせて“ひらっ”とするときこそ、いちばん服が美しく見える瞬間だと思います。

――大下さんの作品では、岐阜の素材を生地によく使われている印象です。

【大下彩楓】自分自身が岐阜県出身で、地元だから…というのもありますが、愛知から岐阜にかけての尾州という地域は、世界三大ウールの産地の一つで、海外の有名ブランドにもウールを卸しているんです。私も服飾について勉強していた学生時代から何度も通っていて、地元の職人さんとコミュニケーションを取りながら作品づくりをしてきたので、今回もそちらから生地を仕入れて衣装を制作しました。ショーで発表した衣装はすべて、どこかしらには岐阜の生地を使用しています。

――岐阜の素材にこだわることは、ご自身のデザイナーとしてのルーツにも繋がっているわけですね。

【大下彩楓】それもありますし、尾州では現在、ウールの生産に携わっている職人さんの高齢化が進み、だんだん人数が減ってきていて。自分の活動を通して、何か地元の活性化に貢献できれば…という思いもあって、毎回、尾州のウールを使わせてもらっています。

――あらためてお伺いします。大下さんがファッションデザイナーを志すことになったきっかけはなんでしょうか?

【大下彩楓】本格的にデザイナーとして活動するようになったのは、やはり装苑賞を受賞して、大勢の方に名前を知っていただいたことが大きいです。ファッションに興味を持つようになったのは、小学生の頃に祖母からお裁縫を教えてもらったことに原点があります。夏休みの自由研究で、祖母に教わりながらミシンを使って服を作ったのですが、そこで洋裁のおもしろさを知って。どんどんのめり込んでいった結果、今に至る…という感じです。

――これまでのデザイナー活動のなかで、印象に残っている出来事はありますか?

【大下彩楓】デザイナーとして活動するようになってから、本当に多くの方々に自分の作品を見ていただけるようになって。それに合わせて、感想を聞かせていただく機会も増えました。直接お会いしたことのない、作品を通して私のことを知っていただいた方からも「心に響きました」「感動しました」というお言葉をいただいたときはうれしかったです。そしてあらためて、芸術の持つ力といいますか、可能性ってすごいんだな…ということを思い知りました。

――衣装のデザインを考えるうえで、影響を受けているものはありますか?

【大下彩楓】私はけっこう「唯一無二のものを作りたい」という思いが強いのですが、そうなるともう、今の世の中ってもので溢れているといいますか。“存在しないもの”なんて、この世にもうないんじゃないか?といった感覚になることもあったんです。そこで気づいたのが「“感情”って唯一無二のものなのでは?」ということです。

――どんな経験からそれに気づいたのでしょうか?

【大下彩楓】例えば、同じ小説を読んでも、人によって抱く感情は千差万別ですよね。自分とは全然違う感想を持っている人がいて、話を聞いて驚いた…という経験がある方は少なくないと思うんです。でもそれが個性なのかなって。物事に対して抱く感情は、この世で唯一無二のものなので、そこに注目するのはおもしろいなと思いまして。私自身もよく小説を読むので、そこで生じた感情だったり、読み進めるなかで思ったこと、考えたことなどはメモを取って。後から見返して、インスピレーションを受けたりしています。人間の些細な日常や感情の機微が読み取れる作品を好んで読みますね。

――最後に、大下さんの目標や今後挑戦したいことを教えてください。

【大下彩楓】これまでの衣装制作は、まずお客様がいて、その方の要望に沿ったものを作る…という形が大半で、“自分のオリジナリティを出す”といったことはほとんどせずに活動してきました。ですが今回のショーでは、学生時代以来、本当にひさしぶりに自分の個性を前面に出した作品を制作することができて、「私が得意なのって、こっちかも」という新たな気づきもありました。もちろん、人と関わりながら、その方が求められるものを導き出して形にする…という衣装制作も楽しいので、そちらも引き続き取り組ませていただきますが、今後は自分のオリジナルのアイテムを作ったり、そういったものを発表させていただく機会も、少しずつですが設けていけたらいいなと思っています。

■「Global Fashion Collective × Rakuten Fashion Week Tokyo S/Sʻ26」レポート
A-JANE
アリス・ジェーン・チャン(マレーシア)が、ドイツでノイエ・ムジーク(新音楽)の作曲を学んだ後、独学でファッションデザイナーに転身し、2018 年に「ファッション作曲家」として立ち上げたアバンギャルドなレーベル。
今回のコレクションのテーマは「KLANGKANTE」。ヘルムート・ラッヘンマンの『プレッション』から深いインスピレーションを得て、音の実験をシャープで構造的なシルエットに変換した。黒と白のパレットが支配的なこのコレクションは、大胆なアクセントと芸術的な歪みを取り入れ、個々の強さとアバンギャルドな明晰さを語るウェアラブルなサウンド・スカルプチャーを創造している。

CHARINYEH
台湾を拠点に活動するCha-Rin Yeh(葉珈伶)は、CHARINYEHの創設者兼クリエイティブ・ディレクター。Yehの作品は、彼女が育った静かな川辺の町の文化的景観に深く根差しており、1985年のブランド設立以来、台湾の伝統を、彫刻的で物語性のあるファッションへと昇華させてきた。
今回のコレクションのテーマは「The Healing Lineage」。古代東洋哲学と現代のウェルビーイングの交差点を探求している。自然繊維で作られ、五行思想に基づいたパレットを使用した各ピースは、着る人をより穏やかでゆっくりとしたリズムへと誘い、服が静かなケアの行為となることを提案する。

AYAKA Oshita
今回のコレクションのテーマは「メタモルフォーゼ」。伸ばしかけた翼を、芽吹いた蕾を、滾る感情の大波を、溢れ出る衝動や希望を抑圧しては飲み下し、腹の中で燻らせてはいないか。そんな衝動がついに溢れ出し決壊する、変身、解放の瞬間を表現したコレクションだ。
服とは自己表現のツールでもある一方で、自分の真の姿を隠すことができるものでもある。多様性の現代でも、本当の自分の姿を受け入れてもらえるのか、軽蔑されてしまうのではないか…恐れや不安からさまざまな理由で自分を偽っている人が少なからずいるだろう。だが、そんなふうに恐れや不安を感じられる優しい人が心の内に隠しているものは、きっと美しいはず。もっと生き物らしく、感情的になってみよう――そんなメッセージが込められている。

コレクションのテーマや込められたメッセージを踏まえてショーを見ると、その服たちから物語を読み解くことができる。物言わずとも心のうちを雄弁に語るAYAKA Oshitaのデザインにこれからも注目したい。

取材・文=ソムタム田井

Write A Comment