PROFILE: 尾澤聡/ユナイテッドアローズBY本部メンズ商品部部長
PROFILE: (おざわ・そう)2002年ユナイテッドアローズへ入社。企画生産担当としてメンズカジュアル商品部門に在籍、その後メンズ生産課長など経て、現在はBY本部メンズ商品部長。PHOTO:SHUHEI SHINE
循環型ファッションに向けては課題がいくつもあるが、中でも難題のひとつは「適量生産」だ。需要が不確実で変動要因の多いなか、ビジネスを成長させながら、同時にサステナビリティの目標達成に向けてかじ取りをするのは容易ではない。ユナイテッドアローズの尾澤聡ビューティー&ユース(以下BY)本部メンズ商品部部長は、年間約5600品番を扱いながら、適量生産の実現や環境配慮素材の導入、廃棄率の低減など多面的な課題に取り組んでいる。「数字の達成にこだわることではなく、一つひとつの案件で正しい選択を積み重ねていくことが大切だ」と言う。
部員33人を統括。年間取り扱いは約5600品番
WWD:現在の担当と、部門のスコープを教えてほしい。
尾澤聡ユナイテッドアローズ BY本部メンズ商品部部長(以下、尾澤): 商品部には企画やバイイング、MD、生産管理などいくつもの課があり、オリジナルと仕入れの両輪で回っている。私はその全体を横断的に見て、部員33名が力を発揮できるように調整とサポートをしている。デザイナーを中心としたクリエイティブな領域から、MDや生産管理といった実務領域まで、縦割りにならないよう「車輪がスムーズに回る」ことを意識している。
WWD:どれくらいのスケールで商品を動かしているのか。
尾澤:年間の取り扱いはトータルで約5600品番。内訳は期により変動するが、オリジナルで約1000品番前後、残りが仕入れ・別注などになる。
WWD:企画から調達のサイクルは。
尾澤:会社の経営方針→各事業本部の事業計画→メンズ商品部の「調達方針」へと年に2回落とし込む。同時期に各ブランドのディレクターが「シーズン・ディレクション」を作成し、発表。商品部は両者を踏まえ、MDチームがシーズン仕入れ計画を立てる。同時に生産に携わるチームが生産戦略として次のシーズンに向けて、カントリーリスクやコスト、為替などを常に変化する状況を踏まえて、国別生産配分などを考える。いずれの立場も、待ちの姿勢ではなく、担当が自走して常時ものづくりを進める体制だ。
「必需品」と「必潤品」のバランスがカギ
WWD:調達方針のコアは?
尾澤:われわれのミッションは売上・粗利・在庫を適正に運用すること。そのうえで“必需品(生活のスタンダード)”と“必潤品(その時代の気分を反映するワクワク要素)”のバランスを重視する。必需だけでも退屈になるし、必潤だけでも疲れる。セレクトショップとしての独自性を担保しつつ、生活スタンダードも提供する、この両輪のバランスが鍵。必潤品は、ディレクターがよく用いる言葉だ。
WWD:2021年に立ち上げたサステナビリティ戦略「サローズ(SARROWS)」では3つの柱、適量生産、環境配慮商品の拡大、素材選定と循環)」を掲げているが、KPIの進捗を教えてほしい。
尾澤:廃棄率は全商品ベースで2024年度で0.1%となり、目標を達成。繊維製品に限って言えば0.01%だ。2030年目標は0.0%(実質ゼロを目指す考え方)で靴などの非繊維製品が課題。環境配慮商品の比率は22年に2.0%だったのに対して、現状8.8%で、30年に50%が目標。環境配慮商品の定義は本体素材・副資材・加工プロセスのいずれかで第3者の環境配慮基準を満たすことだ。
WWD:商品部としてサローズが設けた基準や目標を最初に聞いたときどう思った?
尾澤:やるべきだと思っていたので違和感はなかったが、品番より生産数量で見る必要があるなとは思っている。ただ、わかりにくいのでまずは品番で、と理解して進めている。環境配慮商品の比率を30年に50%を目指すと、年間40品番ずつくらい足してゆく目安。24年の時点ではその計算だと20%を達成している必要があったが、蓋をあけると15%。このままのペースだと届かない。さらにトライしようと考えている。
22年はコロナ禍でさまざまな前提が変化し、同時にSDGsという言葉が広く浸透し始めたタイミングだった。商品部としても“商品調達のあり方”を強く意識するようになり、リサイクルや生分解性、オーガニックといったキーワードが常に頭に置くようになった。工場を訪問する際も、まず環境配慮の視点を持って臨むようになったのはこの頃から。以前からうっすらとした意識はあったが、22年を境に一気に加速した感覚がある。実際、当時の環境配慮商品の比率は全社で約2%、BYメンズに限ると約6%だった。
WWD:“意識の高い”部署だったと言えそうだ。
尾澤:環境配慮については早くから気にしている部署だったと自負している。特に当時から、東レや帝人といった合成繊維メーカーとの取り引きが多かったことも大きい。彼らがリサイクルや新素材開発に着手していたので、こちらも「大事だよね」と同調し、積極的に取り入れてきた。
WWD:まずはポリエステルをバージンからリサイクルへ置き換えるところから始めたと。
尾澤:加えて実行してよかったのが冬のアウターのメインアイテムであるリサイクルダウンだ。アメリカまで実際に生産工程を自分の目で見に行き、「これだ」と確信し、多少コストが上がることは分かっていたが、思い切って導入した。初めての取り組みだったが、非常に意義があったと思う。
素材選びのジレンマは常にある
WWD:進める中で難しい点は?
尾澤:一つはコスト。バージンポリエステルなどのレギュラー素材に比べ、リサイクル素材は基本的に生地単価が高い。その分、上代(販売価格)に反映する必要がある点は大きな課題だった。
もう一つは、素材選びのジレンマだ。ある素材を「いいね」と評価しても、それがリサイクル繊維でなければ採用できないのか?無理に置き換えるべきなのか?そこは常に迷う。たとえば本来は撥水性を持たせたい商品なのに、環境配慮素材に切り替えることでその機能を失ってしまうこともある。でも、お客様がその服を選ぶ理由は「撥水性」にあるかもしれない。そこを無視してまで環境配慮を選ぶべきなのか、サステナブル・ファーストにすることが本当に正しいのか、悩ましい。
実際にアンケートや調査で「サステナブルを重視する」と答えるお客さまの割合は高いが、店頭で接客してみると、最終的にお客様が価値を置くのは「洗いやすさ」や「着心地」といった日常的な利便性。そこをないがしろにしてまでサステナブルを優先するべきかどうかは、常に議論になるポイントだ。
WWD:そういう時は、どうやって最終的に判断するのか?
尾澤:基本的にはリードタイムを重視する。素材を置き換えた結果、予定していたタイミングに商品を投入できなくなるのであれば、本来の「適時適品」の考え方から外れてしまう。それではお客様が欲しいと思ったときに商品が店頭にない、という事態になってしまう。だからこそ、いくら環境配慮素材であっても、リードタイムに大きな影響が出るなら採用を見送る判断も必要になる。
何より大切なのは「商・販・宣」の連携
WWD:もう一つの柱である廃棄率について部署としてのロードマップは?
尾澤:廃棄率は比較的堅調に推移している。商品部門には売上・粗利・在庫率の適正化が課されているが、幸い当社にはアウトレット店舗があるため、シーズンエンド以降も商品を販売できる機能がある。ただし「アウトレットがあるから大丈夫」という考えではない。我々が目指すのは、あくまでプロパー(正価販売)での消化率だ。
そのためには調達方針からの一貫した設計が重要。UA全体では商品を「独自性商品」「時代性商品」「先駆性商品」という3つに分類している。近年は特に独自性と時代性、この2つの比重が大きい。どのくらい積み込んで、どのくらい売り上げを取りたいのか。その“奥行きの付け方”が、適時適量適品の実現につながる。
昨今はトレンドが分散し、嗜好思考も細分化している。その中で「独自性商品」は常に店頭に置くべき定番と位置付けているが、それ以上に「時代性商品」、つまり“今欲しい”と感じる商品へのニーズがコロナ禍以降ますます大きくなっている
WWD:確かに「夏から秋物が欲しい」のではなく、「今すぐ欲しいものが欲しい」という声は大きい。
尾澤:もちろん秋物を先取りしたいお客さまにも応える必要はあるが、それ以上に“今”に響く商品を用意しなければならない。
WWD:ベーシック商品と時代性商品の比率は、どのように考えるか。
尾澤:ベーシック商品は、いつ来ても必ずある安心感をつくるために欠かせない。一方で、近年はお客様の嗜好が細分化し、「今すぐ欲しい」という時代性商品の存在感が非常に大きくなっている。どちらか一方に偏るのではなく、両者のバランスをどう取るかが鍵。特にセレクトショップとしては、ベーシックに加えて“今”の気分を感じさせる商品を用意しないと存在意義が弱まってしまう。特に外に見えるジャケットやアウターは「UAで買いたい」と思っていただける期待は大きい。だからこそわれわれは時代性商品に注力している。
そして何より大切なのは「商・販・宣」の連携だ。「いいものをつくった、この商品を売り切る」と決めたときには、商品部・販売部・PRが一体となってサイクルを回す。商品部は積み込む量を決めて仕掛け、販売部はどの店舗でどう展開するかを設計し、PRは外部への発信で期待感をつくる。三者が同じ方向を向いて動くことで、お客様の目に届くタイミングと売場での鮮度が噛み合い、しっかり売り切ることができる。その流れを確実にまわすことが廃棄率低下にも直結している。
投入のタイムラインも重要だ。大きなシーズン(春夏・秋冬)の中でさらに4回程度の波を設けて商品を投入する。投入後はおおよそ8週間で売り切るのを目安にし、前面に出した商品は数週間で入れ替え、次の注目商品を展開する。そうすることで、常に店頭の鮮度を保ち、来店のたびに「新しい発見がある」状態を作ることができる。結果的に、在庫を抱え込むリスクを抑えつつ、プロパー消化率という目標に近づける。これは単に数字の管理ではなく、店頭に「健全な枯渇感」を演出し、購買意欲を高めるための重要な仕組みでもある。
高い消化率の商品の一例。「ビューティー&ユース ユナイテッドアローズ」の商品特性でもあるキレイ目カジュアルを体現し、オンオフどちらでも対応でき、家庭洗濯できるカジュアルさが人気の理由。小松マテーレに別注しているポリエステル100%の素材は上品なワッシャー感が特徴。ジャケット2万2000円、同素材のパンツは1万4960円 PHOTO:SHUHEI SHINE
WWD:QR(クイックレスポンス)型の運用とはどう違うのか。
尾澤:QR型は「売れ筋を見ながら追加生産していく」方式だが、メンズの場合はサイズレンジも大きく、国内生産のキャパシティも限られているため、QR一辺倒では回らない。そこで我々は「積み込み型」とのハイブリッドで運営している。シーズン前にしっかり積み込み、仕掛けのタイミングを計画。そのうえで、需要を見極めながら部分的に追加や修正を行う。
最初から「積み込む量」を前年実績や現場の声から算出し、敢えて希望値より1割程度抑えて発注することもある。結果的に「足りない」と感じる場面も出るが、それはむしろ健全な状態。過剰在庫のリスクを避けつつ、店頭に“欲しいのに少し足りない”という健全な枯渇感を演出することができる。
消化率で言えば、プロパー消化率を基準にしています。なかには90%を超えるヒット商品もあるが、それに依存しすぎると全体のバランスが崩れるので注意が必要。売上の柱となる定番やカジュアルセットアップのようなアイテムは高い消化率を狙いつつ、その他の商品で変化や新鮮さを提供する。この組み合わせで全体の最適化を図っています。
WWD:店頭で鮮度を維持するためには、どのような工夫をされているのか。
尾澤:商品の配置を動かしながら鮮度を保つことを徹底している。新商品が入荷したらまず店頭の最前列に出して「告知」。数週間経つとその位置を空け、次の注目商品を前列に投入。先の商品は中列へ移動し、さらに時間が経てば後列に下げる。こうしたサイクルでお客様の視線を循環させる。
一方で、ベストセラーや定番品については、必ずどこかの場所に置いておくようにしている。最前列ではないにせよ、「あのアイテムはいつ来ても買える」という安心感は重要。
WWD:単に商品を入れ替えるのではなく、店内で“動かす”ことが鮮度維持につながると。
尾澤:そう。ファッションは生き物のようなもの。データだけで動かすのではなく、実際にお客様の動きや反応を見ながら、商品を“生き物として扱う”感覚で調整している。商・販・宣が一体となってその動きをつくることで、常に店頭に新しい発見や購買動機を与えることができる。
環境配慮素材への取り組みの実務への影響
WWD:環境配慮素材への取り組みは、商品部の実務にどのような影響を与えたか。
尾澤:スタート当初は「とにかく環境配慮素材に置き換えなければ」という意識が強く、逆にものづくりの幅を狭めてしまうこともあった。しかし現在は、良い生地を選んだ結果、それがたまたまリサイクルやオーガニック素材であればベスト、という考え方に変わっている。環境配慮素材が“前提”としてラインナップされるようになったことが大きい。
また、工場や素材メーカーとの関係性も変化した。展示会に行くと、昨年は難しかったものが今年は改良され採用できるようになっているなど、進化が非常に早い。そうした新しい素材を積極的にキャッチアップし、どのアイテムに活かすかを考えるのも商品部の重要な役割になっている。
一方で課題もある。リードタイムはコロナ以降さらに長くなり、中国依存度の見直しも相まって早期の意思決定が不可欠になった。より計画的な調達が求められています。
「思いがけない素材の再利用」も一つの解決策
WWD:循環やリユースの取り組みについて、具体的に考えているアイデアはある?
PHOTO:SHUHEI SHINE
尾澤:コロナ禍前に、スウェーデンで見たプロジェクトが印象に残っている。ホテルで廃棄予定だったベッドリネンを回収し、トートバッグにリメイクしていた。生地は厚みがあり張りコシ腰も強く、繰り返し洗っても十分に使える素材。これを廃棄してしまうのは非常にもったいないと感じた。
当時はコロナの影響でホテルとの連携が進まず実現できなかったが、今であれば再び挑戦できる余地があるかもしれない。クリーニング業者やホテルと組めば、品質を確保した上で再利用できる仕組みをつくれるはず。
アパレルの循環といえば、どうしても新品の生産や回収ルートに目が行きがちだが、こうした「思いがけない素材の再利用」も一つの解決策になるだろう。ベッドリネンに限らず、日常で廃棄されるはずの高品質な布を回収し、新しい価値に変える。そうした発想が、これからのアパレルのサステナビリティに必要だと思っている。
WWD:アパレル業界におけるサステナビリティのビジョンとは。
尾澤:アパレルは衣・食・住の一角を担う大きな産業。最低限の生活必需品であると同時に、自己表現や承認欲求を満たす手段でもある。だからこそ幅広い消費のあり方が存在する。ファストファッションも、ラグジュアリーも、古着も、オーダーメイドも、それぞれに意味があると考えている。
その上で、環境に配慮したものづくりが必要であることは変わらない。ただし大切なのは、数字の達成だけにとらわれることではなく、一つひとつの案件で正しい選択を積み重ねていくこと。目標の数値に届かなくても、全社的に環境意識が高まり、スタッフ一人ひとりが自走できるようになっていれば、それは大きな成果だと思う。