魔暦紀元前14年(1985年)9月21日に発布(リリース)された聖飢魔IIの第一大教典『聖飢魔II~悪魔が来たりてヘヴィメタる』。地球デビューを果たした記念すべき本作が40周年を迎える。今回は、初期の音楽性から彼らがなぜ特異なバンドであるのか、また彼らの音楽的達成について「現代メタルガイドブック」を監修した和田信一郎(s.h.i.)に論じてもらった。 *Mikiki編集部

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聖飢魔IIはメタルの拡張をやってのけた最高級のバンドである

本稿の主旨は次のようなものだ。聖飢魔IIは、メタルの越境・拡張をそれが一般化する何十年も前にやってのけた最高級のバンドである。史上初のオルタナティブメタルのひとつと言ってもいい。そして、そういう音楽遍歴が実現した背景には、デビュー作である『聖飢魔II~悪魔が来たりてヘヴィメタる』の評価(特に、悪名高い〈0点〉レビュー)が少なからず関わっていたのではないか。

こうした経緯も含め、聖飢魔IIの凄さはメタル領域の内外を問わず十分に知られてこなかったが、残された作品に衝撃を受け惹き込まれる人は時を経るほどに増え続けている。今年の8月30日と31日に開催された〈悪魔が来たりてベビメタる〉(聖飢魔IIとBABYMETALの対決ライブ)は、以上のような流れを総括し、今の歴史観や感覚で再評価するものだった。

というわけで、〈名盤アニバーサリー〉と言いつつその名盤自体(この〈名〉に伴うニュアンスがまた複雑)に言及するまでが長くなる。ご了承いただけるとありがたい。

なお、聖飢魔IIには悪魔用語と言われる諸々の言い回しが存在するが、本稿はそれに慣れていない読者を想定し、できるかぎり一般的な言葉で言い換えている。年月日は魔暦※1でなく西暦で統一して〈1985年〉〈2025年〉などと表記し、構成員(メンバー)の名称も加入当初ではなく現在の名義を表記する。また、大教典(フルアルバムのようなもの)については、公式のナンバリングとは別に、オリジナル作としての順番を英語の序数で表記する。例えば、1999年に発表された第十七大教典『LIVING LEGEND』は、オリジナルアルバム的な作品としては12作目となるために〈12th〉と表記している。

 

時代の先をゆく達成を繰り返してきた〈音楽的放蕩〉

読者の皆様は、聖飢魔IIと言われてどんな音楽をイメージするだろうか(そもそも音楽をやる集団という認識があるだろうか)? キッス? クラウザーさん? そうでなくとも、〈ヘビメタ〉の様式美に徹する悪魔系バンド? 一般的な印象はだいたいそんなところで、いずれにせよコミックバンドみたいなものと見なし、音楽的な評価の対象になると考えたことのない人も多いのではないだろうか。

しかし、実情はまったく異なる。聖飢魔IIの構成員はみなシーン屈指の凄腕であり、音楽的なバックグラウンドも多岐にわたる※2。創設者のダミアン浜田陛下(結成当時は殿下)はHR/HM=ハードロック/ヘヴィメタルのコアなファンであり※3、その様式美を踏襲した名曲を数多く生み出してきたのだが、他の構成員はどちらかといえば他ジャンルの超一流であり、多彩な素養を活かし作品ごとに全く違う音楽性に取り組んできた。

例えば、1988年発表の5th『THE OUTER MISSION』では、ジャーニーを想起させる煌びやかなハードロックサウンドと、フランク・ザッパやU.K.に通ずるプログレッシブロック〜ジャズ的な奥行きが、Pファンク的な足腰の強さと洗練されたポップセンスのもと融合している。

また、1997年発表の10th『NEWS』は、HR/HM側からLUNA SEAなどのJ-ROCKへ接近した感じの作風なのだが、独特のエモ感が21世紀のポストハードコアを先取りしたような味を生んでいて(リンキン・パークやブリング・ミー・ザ・ホライズン、明日の叙景などと似た感覚で聴くこともできる)、それが極上のリードメロディで彩られることにより、稀有の歌謡ロック作品ができている。

その一方で、1992年発表の7th『恐怖のレストラン』は、当時台頭してきたグランジやグルーヴメタルを意識しつつ、初期デスメタルやグラインドコアとは異なる視点から激しいメタルの表現を探求している。7拍子のギター&ベースと6拍子のシンセサイザーによるポリメーターが美しい“人間狩り”(ヴォイヴォドやシニックにも通ずる)、高速スラッシュメタルの上でオペラティックなグロウルが炸裂する“ギロチン男爵の謎の愛人”など、この時期の聖飢魔IIだからこそ生み出せた名曲も多い。

以上の3作は、21世紀に本格化したメタルの越境・拡張傾向を大幅に先取りするものである。メタルは〈メタリック〉な質感さえあれば何でもそう呼んでしまえる柔軟な括りでもあるため、様々なジャンルとの混淆が起こりやすく、実験的なことをやってもそうした質感の機能的快感で納得させてしまえる音楽スタイルだ。こうした在り方についての認識は2020年代になって一気に広まってきた感があるが、聖飢魔IIは1980年代後半から作品ごとに大きくスタイルを変える上記のような活動、いわば音楽的放蕩に取り組み、時代の先をゆく達成を繰り返してきたのだった。

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