8月15日、終戦記念日。今年は戦後80年という節目の年です。そんな日にご紹介したいのが、広島に届く折り鶴から生まれた再生紙で作られるデザイン扇「FANO(ファーノ)」。手掛けているのは、株式会社カミーノの取締役・鍵本政彦さんです。
そもそも広島には、世界中から毎年たくさんの折り鶴が届きます。この習慣のきっかけは、原爆投下から10年後に白血病で亡くなった佐々木禎子さん。入院中、彼女は健康を願って千羽鶴を折り続けました。禎子さんの死をきっかけに、同級生たちが「二度とこんな戦争を繰り返さない」という平和運動を始め、1958年には「原爆の子の像」が建立されます。この物語は世界中に広まり、広島へ折り鶴を送る文化として受け継がれてきました。
しかし、全てを保存し続けることは難しく、広島市ではおよそ10年で100トンもの折り鶴が保管されることに。そこで「平和の思いを循環させよう」と、再生紙として活用する取り組みが始まります。カミーノがFANOを作ることになったのも、この流れからでした。
FANOの原型は少し不思議な縁で見つかりました。プロデューサーの田辺三千代さんの友人が、フランス・アルルで手に入れたアンティークの長机から、100年前に日本から渡ったと思われる丸型のデザインうちわを発見。それが2014年8月15日――まさに終戦記念日だったのです。この偶然をきっかけに、360度開く珍しい丸型のデザイン扇を再現しようという構想が生まれました。
FANOは「平和を身近に語るきっかけになる扇子」です。普通に平和の話を切り出すのは難しいけれど、「その扇子、変わった形だね」と興味を持たれたら、「広島の折り鶴からできているんだよ」と伝えられる。そんな小さな会話から、平和の物語が広がっていくのです。
今年は終戦80年という節目にふさわしい特別モデルも登場しました。広島の老舗箔紙メーカー・歴清社とのコラボです。被爆建物の倉庫や当時の煙突を今も使い続けるこの会社と共に、金箔をあしらった限定40本を製作。金箔は門外不出の技術で接着し、ランダムな線模様として浮かび上がります。箱までこだわった、まさに“作品”と呼べる扇子です。
さらに、広島市への贈呈用には特別な出会いがありました。東京五輪・パラリンピックのエンブレムデザインで知られる野老朝雄さんがデザインを担当。近くではぼんやりとしか見えないのに、一定の距離を取るとはっきり「PEACE」と読めるデザインです。「平和って、近くにいると気づきにくいけれど、少し離れた時にそのありがたみを実感できる」という思いを込めています。
この扇子は、8月6日の平和記念式典で来賓や各国代表に配られました。真夏の広島で、手にした人が少しでも涼をとりながら、折り鶴の物語や平和の意味を感じてもらえる――FANOは、そんな“風”を届けています。