「セヴシグ」2026年春夏コレクションから PHOTO:KAITO CHIBA

「セヴシグ(SEVESKIG)」というメンズブランドを知っているだろうか。2012年にスタートし、ストリートやアニメ、バイカーなど様々なカルチャーを落とし込みながら、遊び心のある“ありそうでない”デザインやパターンのアイテムを多数発表してきた。デニムやレザー製品を得意としており、特に害獣駆除や食肉のために捕獲された動物の余り革を有効活用し、環境に配慮した手法で染色・なめしたリアルレザーがブランドの看板の一つ。国内では約25、海外では約10の卸先を持ち、原宿には直営店を1軒構える。

ブランドの担い手は長野剛識(たかのり)デザイナーだ。「ノリさん」と皆から慕われる、朗らかで優しい笑顔が印象的な人物で、18年には若手の登竜門として知られた「Tokyo新人デザイナーファッション大賞」(19年度に終了)のプロ部門で入賞。「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」に精力的に参加してコレクションを発表し続けてきた。

ブランドの特徴は、長野デザイナーの“楽しい”と“好き”を存分にちりばめている点にある。ショーではバンドの生演奏を用意したり、QRコードを読み込むとAR技術によるビジュアルエフェクトが見える仕掛けを施したり、洋服では「新世紀エヴァンゲリオン」や映画「パーフェクトブルー」、「機動戦士ガンダム」シリーズなどの著名な作品とのコラボを企画したりと、ファンを飽きさせない。ショーには10〜20代のファッション好きの若者も多く訪れるのが常で、彼らにとって長野デザイナーは、「こんなモノ・コトを知っておくとさらに楽しいんじゃない?」と教えてくれる頼もしい先輩のように思える。

日本から韓国へ、「セヴシグ」の輪を広げる

左が長野剛識「セヴシグ」デザイナー。右隣が日本人ラッパーのT-STONE PHOTO:KAITO CHIBA

オープニングアクトを務めたB.I

ランウエイを歩くX:INのノバ PHOTO:KAITO CHIBA

B.I PHOTO:KAITO CHIBA

ガールズグループのEVERGROW PHOTO:KAITO CHIBA

韓国人インフルエンサーのOn Oppa PHOTO:KAITO CHIBA

ガールズグループのCandy Shop PHOTO:KAITO CHIBA

ガールズグループのKANDIS PHOTO:KAITO CHIBA

ボーイズグループのTIOT PHOTO:KAITO CHIBA

「楽しいことをできる仲間を増やしたい」。長野デザイナーが、2025-26年秋冬コレクションのランウエイショーが終わった後にそう言って教えてくれたのは、次のコレクションからは実験的に発表の拠点を韓国に移すということだった。「セヴシグ」が元々主力とする海外販路の1つが同国にあったことや、K-popアイドルグループ「iKON」の元リーダーB.I(ビーアイ)がツアー衣装で着用したこと、今季からソウル・梨泰院のセレクトショップ「スカルプストア(SCULPSTORE)」とエクスクルーシブ契約を結んだなどが理由だ。近年、韓国ではストリートファッションが若者の間で支持を集めており、とあるファッション業界人からは「エリアによっては1990年代の裏原宿のような雰囲気を感じる」と聞いたこともある。日本のサブカルチャーが染み込んだ骨太のストリートブランドとして、引き合いが高まっているのも頷けよう。

満を持して7月に実施したファッションショーは、「新しいことに挑戦する」と宣言したように、以前にも増してファッションとエンターテインメントの共演だった。ポップスターB.Iによるオープニングアクトに始まり、ランウエイモデルとしてガールズグループのX:IN(エキシン)のメンバーがウォーキングし、日本人Z世代ラッパーのT-STONEと韓国人ヒップホップスターのNSW yoonによる一夜限りのライブパフォーマンスのフィナーレ。「ちょっと盛り盛り過ぎたかな」と長野デザイナーもはにかむほど、エンターテインメント大国である韓国に敬意を見せた構成だ。来場ゲストとしてアイドルグループEVERGLOW(エヴァーグロー)やKANDIS(カンディス)らも登場し、会場を彩った。

10代の記憶を詰め込んで“原点回帰”

「セヴシグ」2026年春夏コレクションから PHOTO:KAITO CHIBA

「セヴシグ」2026年春夏コレクションから PHOTO:KAITO CHIBA

「セヴシグ」2026年春夏コレクションから PHOTO:KAITO CHIBA

「セヴシグ」2026年春夏コレクションから PHOTO:KAITO CHIBA

「セヴシグ」2026年春夏コレクションから PHOTO:KAITO CHIBA

「セヴシグ」2026年春夏コレクションから PHOTO:KAITO CHIBA

「セヴシグ」2026年春夏コレクションから PHOTO:KAITO CHIBA

「セヴシグ」2026年春夏コレクションから PHOTO:KAITO CHIBA

「セヴシグ」2026年春夏コレクションから PHOTO:KAITO CHIBA

「セヴシグ」2026年春夏コレクションから PHOTO:KAITO CHIBA

「セヴシグ」2026年春夏コレクションから PHOTO:KAITO CHIBA

一方のコレクションはいつも通り、「セヴシグ」らしいカルチャーミックス仕様。原点回帰の意味を込めて、“メモリーズ”をテーマに、長野デザイナーが出身地の大分県で過ごした10代の頃の記憶や当時好きだったものをディテールに詰め込んだ。「アメリカのカルチャーやスケーターカルチャー、映画にハマり、家にも全く帰らずいろんな人に迷惑をかけていた。大分にいたら自分はダメになってしまうかもしれないと思い、一念発起して上京して東京モード学園に入った」。

大分のガレリア竹町商店街で夜に友人と缶蹴りをした情景を描いたアロハシャツやパンツ、お気に入りの映画である「スワロウテイル」(岩井俊二監督、1996年)に着想して一万円札のイラストをプリントしたジャケット、スケートボードのパーツを収納できる大ぶりのポケットがユニークなベスト、アメリカ製のバンダナをパッチワークしたブルゾンなど、ルックそれぞれに同人の思い出を染み込ませる。中でも、最も好きなアニメである「大砲の街」(大友克洋総監督)の主人公がまとうミリタリースタイルをオマージュしたダック地のセットアップは、正式なコラボの末に完成したものだ。

近年はスタイリストの百瀬豪と二人三脚でクリエイションを作り上げているといい、多感なティーンエイジャーの精神性を垣間見せるようなパンキッシュなヘッドピースや、ショー前日の晩までカスタムし続けたスニーカーもDIY感たっぷりで、思い思いのファッションを楽しんでいた長野デザイナーの少年期を彷彿とさせる。

茶目っ気たっぷりに演出を重ねているとはいえ、日本の産地と協業したモノづくりは変わらない。オリジナルの糸から開発したパステルカラーのチェックシャツは静岡県で仕立て、熊革のユーティリティーベストは兵庫県で加工し、「KEEP OUT MEMORIES(思い出に立ち入るな)」と世間への反発心をにじませるレタリングがインパクト大のサッカーマフラーは愛媛県と、長年かけて築いた職人や工場との結びつきが背景にはある。

13年という月日の中で、長野デザイナーがたどりついたのは好奇心に忠実であること。韓国に本格進出しつつも、己のモノづくりのスタンスはぶらさず、それに賛同してくれる心許せる仲間を見つけていきたいのだという。「パリでも単独展示会を実施したり、合間にパーティーを開催したり。今後はアメリカ・ロサンゼルスでもイベントを開こうと思っている。これまでランウエイショーは年に2回行ってきたが、1回に減らしてでも、そういった方面に資金投入していきたい」。いい意味でマイペースを貫く長野デザイナーが作り出すポジティブな雰囲気は、笑顔や冗談が絶えないショーの舞台裏が証明しているようだった。

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