ドイツ・ベルリンのショッピングモール内のAI女性 Photo: Stefano Guidi / Getty Images
米マサチューセッツ工科大学のウェブサイト記事によると、ニューヨークの有名デザイナー、ノーマ・カマリ(80)は、自身のレガシー(遺産)を守り、さらに発展させるためにAI(人工知能)を採用しているという。AIがファッション業界にもたらすメリット、そして現状の問題点とは? マリ・クレール インターナショナルのフランス版デジタル記事よりお届け。
創造性の加速、美学の大変動、環境問題など、深刻な危機に直面するプレタポルテ(既製服)業界において、AI(人工知能)はファッションの枠組みを少しずつ変えつつある。洋服、デザイン、想像力と私たちの関係を問い直す、静かな革命だ。
未来のクリエイターたちは、針と糸を使いこなすことができるのだろうか? この疑問が投げかけられたのは、昨年6月、MJMグラフィックデザインスクールが、これまでにないファッションショーを開催したときだった。このショーでは、型紙もミシンも一切使用されておらず、最初から最後までAIによって生成されていた。
それぞれのシルエットは手描きスケッチから生まれたが、すべてのデザインは画像生成AIサービス「Midjourney」で精緻(せいち)化され、プロンプト(AIへの指示文)、テクスチャ(質感など表現の調整)、ライティング、そしてレンダリング(最終的な画像や映像を生成するプロセス)を管理するStéphanie Arki(ステファニー・アルキ)のようなAIアーティストによってブラッシュアップされた。「より完成度が高く、ファッション企業のニーズを考慮した提案をもっと行えるよう、彼らに教えていく」と教育ディレクターのJacques Huyghues Despointes(ジャック・ヒューグ・デスポワント)氏は仏ニュース専門チャンネル『BFM Business』の記者たちに語った。彼は、このハイブリッド化によって時間、精度、俊敏性が向上すると考えている。
なぜなら、大衆向けのブランドから一流のファッションハウスまで、アートディレクションとテクノロジーを融合した、新しいタイプのスキルに対する需要が高まっているからだ。近年、ブランドは現実と非現実の境界線を越える創造的な取り組みを次々と展開している。
ファストファッションからハイエンドファッションまでへの衝撃波
2024年9月、仏メンズブランドJULESは、カスタム生成AIの設計と開発を専門とするスタートアップ企業IMKIとコラボレーションし、生成AIによって再構築したアーカイブを基にデザインした11点のアイテムからなる、カプセルコレクションを発表した。また、仏ブランドThe Kooplesは、米ラスベガスで開催された「CES 2024」(世界最大級のテクノロジー見本市)で、独自のAIを活用したカプセルコレクションを発表し、アイコニックなレザージャケットやドレスを未来的な美学で再解釈した。
その1年前、米ブランド、トミー・ヒルフィガーもこのジャンルに参入し、英ファッション・イノベーション・エージェンシーと共同で、2023年「メタバース・ファッションウィーク」(メタバースプラットフォームDecentralandが開催するメタバース内のファッションの祭典)に顧客を招き、バーチャルで自分だけのアイテムを作成できる体験を提供した。
翌2024年の同イベントでは、モンクレールがAIクリエイティブスタジオ「メゾン・メタ(Maison Meta)」と提携。アルゴリズムデザインとテキスタイルの革新を融合させ、究極のパフォーマンスを追求した「Verone AI Jacket」を制作した。この進化はEニューヨークのAIファッションウィークで発表された作品を250〜1600ドルの価格帯で販売したECサイト「Revolve」によって、さらに加速した。
クリエイターにとっての新時代
デザイナーや独立系ブランドもこの流れにのっている。ニューヨーク・ファッション界の重鎮、ノーマ・カマリは、57年にわたるアーカイブを基にAIモデルに学習させ、これまでになかったスケッチや未来的なデザインを生み出すと同時に、自身のブランドに新たな創造的刺激をもたらした。「AIの『幻覚』といった、しばしばエラーと見なされるものさえも、インスピレーションの源となっています」と、彼女はMITが発表した記事で述べている。
同様のアプローチは、ニューヨーク発サステナブルブランド、コリーナ ストラーダでも採用されている。同ブランドのアーティスティックディレクター、Hillary Taymour(ヒラリー・テイモア)氏は、自社のアーカイブを生成AIに投入して、数週間にわたって出力を精緻化し、実際に2024年春コレクションとして形にした。
デザイン以外でも、AIは従来とは異なるデザイナー層にもファッション業界への門戸を開くことに貢献する可能性がある。「これらのツールは、さまざまなバックグラウンドを持つ人々がこの業界に参入することを可能にします」と、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションのイノベーション・エージェンシーのディレクター、Matthew Drinkwater(マシュー・ドリンクウォーター)氏は説明する。彼は、ほとんどのファッションコースがエリート主義的で極めて高額な授業料であることを指摘している。一方、大手ラグジュアリーブランドで、芸術的プロセスの中核にAIが実際、どの程度活用されているかはまだ定量化が難しい。これらのブランドではいまなお、創造は伝統と職人技と同等とみなしており、このテーマは比較的タブー視されているからだ。
創造性の向上、生産性の最適化
より迅速に視覚化し、カットを洗練させ、テクスチャをテストし、トレンドを予測する……。クリエイティブな人材がAIを採用する理由は、明白かつ魅力的だ。「AIはスタジオにとって素晴らしいチャンスです」と、The KooplesのCEO、Anne-Laure Couplet(アンヌ=ローラ・クプレ)氏はプレスリリースで熱く語っている。「AIは創造性を倍増させ、数百もの異なるテーマに関するアイデアを提供してくれるので、当社のデザインチームは製品の仕上げやフィッティングに集中することができます。これは、時間の大幅な節約となり、アイデアの宝庫です!」
この所見は、韓国・蔚山(ウルサン)科学技術院(Ulsan National Institute of Science and Technology)などの複数の学術研究でも確認されており、同研究は「生成AIツールは、多様で迅速な視覚的刺激を提供することで、ファッションデザインの初期段階を大幅に充実させている」と強調している。具体的には、2024年6月に発表されたこの研究で、デザイナーは主にテキストプロンプトを通じてこれらのツール(AI)とやりとりし、手書きのスケッチを洗練させたり、デジタルスケッチを改良したりすることで、「創造性が刺激され、意思決定プロセスが容易になった」と報告されている。
アパレル業界の危機の矢面に立つ既製服ブランドにとって、記録的な速さで複数のデザインを生成できる能力は、生産性に恩恵をもたらすものであり、無視することは難しい。「私たちは、サプライヤーが提案のベースとして使えるように、トレンド画像を生成する『Midjourney』を導入しました」と、仏子ども服ブランドKiabi のデザインリーダー、Lindsay Wattrelos(リンジー・ワトレロス)氏は、2025年4月にパリで開催された、フランス婦人服プレタポルテ連盟主催のイベント「L’IA PROMPTE LA MODE」で説明した。
仏サイト『FashionNetwork.com』によると、このKiabiはよりターゲットを絞ったデザインを生成し、サプライヤーを指導するため、IMKIも試しているという。その結果は? やりとりの回数が減り、自律性が高まり、意思決定が迅速化されるが、一方で創造プロセスの本質である「時間」をさらに圧縮してしまうリスクもある。
(非常に)問題のあるファッションへの移行なのか?
この創造性あふれる状況は、魅力的ではあるものの、提案されるデザインの画一化という問題を引き起こしている。実際、AIが限定的または偏ったデータベースに依存している場合、反復的な美的表現を生成する可能性があり、スタイルの革新よりもむしろ均一化に傾き、通常は支配的なグループ(AIの学習データやアルゴリズムに強い影響力を持つ存在)に利益をもたらすことになる。
もう一つの問題とは? AIは生産面における無駄の削減を約束している一方、クラウド、膨大な計算処理、AIモデル自体の影響は、環境面でも法的な観点でもいまだ十分には評価されていない。なぜなら今日、プロンプトから生成された創作物の知的財産権を実質的に規制する法的な枠組みは存在しないからだ。
これはAIで生成した自社のデザインが競合他社のデザインに表れたとしても、何の手立てもないというリスクにつながる可能性を意味している。「ブランドは、自社のデザインをオープンソリューションに提供することで、競合他社のリソースを強化していることになるのです。外部モデルの活用には注意が必要です」と、弁護士のAlexandra Bensamoun(アレクサンドラ・ベンサモン)氏は、先述のイベント「L’IA PROMPTE LA MODE」で警告している。
したがって、データを保護するために、内部または自社専用のソリューションを構築することが推奨されている。AIは、それを利用する人々の生産性を高めることができる。しかし、それでもなお利用者のニーズ、要望、そして何よりも創造性を支えるための道具であり続けなければならない。
※( )内編集部注
translation & adaptation: Akiko Eguchi
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