VOGUE×GUESS AIファッションモデル広告が可視化する未来──“人情”なき美と、しまむら的日常性の対比 - イノベトピア - Moe Zine

Last Updated on 2025-07-31 19:00 by admin

2025年8月5日発売のファッション誌Vogue8月号で、GuessがAI生成女性モデルを起用した広告を掲載した。AIファッションモデルの生成と制作は欧州拠点(主にパリ)のSeraphinne Vallora(共同設立者Valentina GonzalezとAndreea Petrescu)が担当し、Guess共同創業者Paul Marcianoの依頼で計10案から金髪とブルネットのモデル2案を開発した。広告には「Produced by Seraphinne Vallora on AI」と明記され、AI画像生成に加えて複数のクリエイターが調整工程に関与した。SNS上では「非現実的な美の基準」「リアルモデルや多様性の否定」といった批判が相次いだ。Vogue編集部は「これは広告主の判断であり、編集記事ではない」としている。

【編集部解説】

Vogue 8月号に掲載されたGuessのAIファッションモデル広告は、多くの海外メディアでも詳細に報じられ、大きな議論を巻き起こしています。最大の焦点は、「現実に存在しない美」が公的媒体で提示されることが若年層や読者の認識、自己評価、社会的価値観に及ぼす影響です。

技術的にはAI画像生成には膨大なクリエイターの手作業や試行錯誤が存在し、Seraphinne Valloraは本案件でも多段階の人為的調整を施したと説明しています。AIは創造手法を拡張するだけでなく、新たな雇用やクリエイティブの可能性も生むとの指摘も出ています。

一方でリアルなモデル職や撮影スタッフの雇用減、既存の多様性・包摂性の流れへの逆行リスクも社会的課題として認識されています。AIファッションモデルは画一的な「理想の美」を再生産しやすい一方、現場の多様性表現やマイノリティ描写を推進する動きと対立する面もあります。また、「広告主の判断」として編集部が距離を置く態度も、メディアブランドがどこまで倫理的責任を負うかを考えるきっかけとなりました。

日本でもAIファッションモデルは活用されている

 - innovaTopia - (イノベトピア)ファッションセンターしまむら公式サイトより抜粋

日本では「ファッションセンターしまむら」(以後しまむら)がAIファッションモデルを起用した事例があります。

しまむらが2024年5月から起用したAIファッションモデル「瑠菜(るな)」に対しては、SNSやメディア・消費者の間で概ね好意的な反応が多く見られました。「かわいすぎる」「どう見ても人間」「親しみやすい」といった声がインスタグラムのフォロワーや若年層を中心に多く寄せられています。瑠菜は20歳の服飾専門学生という設定で、インスタ投稿でも「このコーデ可愛すぎ」「新しい服が嬉しい」といった身近なコメントを発信。親しみやすいキャラクターやSNSとの連動が“推せる”存在感を作り、ファンクラブが作られるほどの人気を得ています。

一方、「生身の人間も応援したい」「どこか違和感がある」「やっぱり実在モデルが好き」などの慎重・否定的な意見も少数ながら見られますが、VOGUEやGuessのAIファッションモデル事例のような「非現実的美の強調」や「多様性の否定」といった大規模な社会的反発や炎上は起こっていません。

起用理由についてしまむら側は「スピーディーな販促」「若年層ファンの拡大」「時間とコストの削減」と明確に説明し、ポスターやチラシのみならず、警察のサイバーセキュリティ広報大使に起用されるなど、企業イメージの刷新や話題性につなげる展開も行われています。全体として「等身大で親しみやすい」「便利だけでなく新しさも感じる」「生身のモデルと両立を期待」など、多様な感想は見られるものの、全体的には支持や興味が先行し、強い否定的反応や社会的な問題提起には発展していないのが特徴です。

導入背景・目的・表現手法・ブランドの違い

「しまむら」がAIファッションモデル「瑠菜(るな)」を起用した際、大きな社会的批判や炎上が起きなかった主な理由は、VOGUE×Guessのケースと比較して導入背景・目的・表現手法・ブランドの文脈が大きく異なるためです。

しまむらは「低価格・速攻型ファッション」ブランドとして、AIファッションモデル導入を「撮影やモデル手配の手間・コスト削減」「スピード感ある広告展開」「若い新規顧客の獲得」という現実的な目的で明確に説明しています。広告ビジュアルも“等身大”“日常的”なトーンで、理想美や社会的な美の基準を押し付ける要素が少ないのが特徴です。

AIファッションモデル「瑠菜」も「20歳・服飾専門学生」といった親しみやすいキャラクター設定になっていて、SNSの反応も「可愛い」「親しみやすい」「AIと気付かなかった」など好意的なものが多いです。一部で「着用感が伝わりにくい」といった課題は指摘されていますが、強い反発や炎上は起きていません。

一方でVOGUEやGuessは“高級ファッション”ד世界発信”ד理想美の押し付け”という文脈でAIファッションモデルを起用しているため、「リアルモデルや社会的多様性の無視」「社会全体の美基準の変化」といった構造批判や社会的責任への厳しい目が向けられました。

しまむらは人間モデル全廃ではなく「使い分け」方針も打ち出しており、「日常性」「実用性」「顧客に寄り添う姿勢」が消費者から批判されにくい土壌になっています。

つまり、AI導入の目的や表現手法が明確で身近、ブランドと顧客層の期待の間にギャップがない場合は強い社会的反発は起きにくいのに対し、高級ブランドや公的媒体でのAI起用は文化・社会規範へのインパクトが大きく、批判が強まるという違いがある、ということです。

本質を考える──AIと人間の温度

AIが社会に浸透するいま、多くの人がAIに対して違和感や不安、さらには反発を抱く理由には、表層的な技術リスクや経済的な懸念以上に、人間社会や文化の基盤に関わる深層的な要素があると思っています。

まず大きな要因は、「人間にしか持ち得ない“おもいやり”“気配り”=人情」が培ってきた社会や文化の営みに、AIという“異物”が急激に入り込むことで起きる「感情のギャップ」です。

現代までの私たちの文明や日常生活は、無意識のうちに“人と人”“心と心”が響きあい、支え合う“間”によって形づくられてきました。AIの合理性や効率重視は、こうした情緒や偶然、細やかな配慮を「省く」方向に働きがちです。その結果、暮らしや仕事、さらには社会そのものが“無機質”になっていく——この喪失感が、強い反発や懸念を生む根として、深く張られているのではないかと考えています。

さらに、AIが「効率化」「標準化」「最大公約数的な成功」の名のもとに、人間の創造や試行錯誤、失敗や再起といった豊かな営みさえも“最適化”しようとする時、そこに「個別性」「多様性」「人間くささ」すら薄れていきます。これが、クリエイティビティの喪失や雇用不安だけでなく、世界が“居場所のない均質な空間”へと変質していくような危機感を強くします。

加えて、社会変化のスピードが今までにないほど速くなっているため、人々の認識や感情が追いつかず、「説明できない違和感」「コントロールできない未来」に対する不安が高まっています。とりわけ“心”や“間”を重んじる文化圏や共同体では、この“無機質さ”や“異物感”をさらに敏感に察知し、AI活用に対する批判や警戒として表出しやすいのです。

つまり、AI批判の本質には

感情や人間らしさ、思いやりの排除=生活・社会の無機質化

急速な変化に対する認識・感情のギャップ

人情やコミュニティ、固有性の希薄化という根本的な不安
が連動し、それが技術懸念(雇用、創造性、倫理、バイアスなど)と重層的に絡み合っているという構図が浮かび上がります。

これらを見据えた上で、AIの社会実装を進めるには「便利さ」や「効率」だけでなく、「温度感」や「間」「多様性・偶然性」といった人間らしさをいかに守り、補完・強化していくかが肝ではないかと思います。

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