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資生堂のメイクアップブランド「マキアージュ(MAQUILLAGE)」が、今年20周年を機に大幅なリブランディングに踏み切った。2005年の誕生以来、働く女性を中心に支持を広げてきたが、購入者の年齢層が上がる中、再び若年層の心をつかむべく“ブランドの若返り”に挑む。コアターゲットは、30歳前後のZ世代。長年ブランドを支えてきた40代の既存顧客への配慮を残しながら、次世代の共感を取り込み、ブランドの成長エンジンを再点火する。

ブランドの若返り急務
PROFILE: 榊原萌々/資生堂ジャパン メイクアップマーケティング部 マキアージュ ブランドディベロップメントG ブランドマネージャー榊原萌々/資生堂ジャパン メイクアップマーケティング部 マキアージュ ブランドディベロップメントG ブランドマネージャー

PROFILE: (さかきばら・もも)2016年、新卒で資生堂に入社。ブランドマーケティング職でキャリアをスタート。日本ローカルブランド・グローバルブランドおよびメイクアップ・スキンケアブランドのマーケティング職を経験し、25年に「マキアージュ」のブランドマネージャーに就任 PHOTO:SHUHEI SHINE

リブランディングの背景にあるのは、顧客層の変化だ。「一度立ち止まり、メイクアップ市場全体を見渡したときに、ブランドとして生き延びるには若返りが不可欠だった」と語るのは、資生堂ジャパンで「マキアージュ」のブランドマネージャーを務める榊原萌々氏だ。16年に入社し、9年間マーケティング部門を経験。今年からブランドの舵取り役に抜擢された。

同ブランドは、これまで30代の働く女性を主要ユーザーに想定してきたが、現在の購買層は40代が中心。リピーターの存在は頼もしい一方、次世代に訴求できなければブランドの将来は描けない。しかし、リブランディングには既存顧客の離反というリスクがつきまとう。

そこで新製品の開発では、Z世代の感性に響く仕上がりやメッセージを取り入れる一方で、長年の愛用者も違和感なく使える水準を追求。使用テストを重ね、製品の設計思想から丁寧にすり合わせた。

“らしさの鳥かご”からの解放

リブランディングに際しては、Z世代に関する独自の定点調査を実施。榊原ブランドマネージャーが注目したのは、若年層を取り巻く「自分らしさ」のジレンマだ。個性を尊重する教育を受けてきたからこそ、「自分らしさを見つけないといけない」側面があるという。

今は、パーソナルカラーや骨格診断、MBTIなど、見た目から性格に至るまで、「“あなたはこれ”と、手軽に自分らしさが見つけられる。Z世代はその“らしさの鳥かご”の中で揺れている」。その中でSNS上では、主に20代を中心にメイクの悩みを相談し合い、互いに肯定し高め合う相互交流が活発だという。

だからこそ、「みんながお互いを高めあうこの時代を共に歩み、未来へと踏み出すことを応援する」ブランドとして、「きれいは、みんなで進んでく。」というメッセージをブランドの核に据えた。「個性を尊重されてきた世代だからこそ、自分らしさを常に意識せざるを得ない。その揺らぎに寄り添いたい」と話す。

その思いを乗せたリブランディング後の手応えも着実に表れている。25年上期(1~6月)の売り上げは、前年同期比で1ケタ台後半の成長。特に、“ファンデ美容液”で親しまれる“ドラマティックエッセンスリキッド”を刷新した“エッセンスリキッド EX”(全5色、各24mL、各3740円/レフィル各3520円※編集部調べ、以下同)は2月の発売以降、20代の購入者が前年1〜5月比で約8割増と大きく慎重した。

“エッセンスリキッド EX”(全5色、各24mL、各3740円/レフィル各3520円※編集部調べ)

“カスタマイズアイカラー”(シングル、各1100円/アソート、各3850円)

化粧下地“エッセンスベース EX”[SPF50+・PA++++](3300円※編集部調べ)

フェイスパウダー“エッセンスグロウキープパウダー”(本体、3850円/リフィル、3080円※編集部調べ)

“ドラマティックエッセンスルージュ”(各3300円※編集部調べ)

“PK700 飾らない主張”

“PK700 飾らない主張”

“RD500 ココロ躍る方へ”

“RD500 ココロ躍る方へ”

“BR300 マイルール”

“BR300 マイルール”

“ドラマティックエッセンスルージュ”(各3300円※編集部調べ)は全10色をそろえる

同製品は、若年層の「肌負担を軽減したい」「ナチュラルな仕上がりにしたい」といったニーズを捉え、美容液効果と艶を持続するメイク効果の両方を強化した。4月には、定番のカスタマイズ型アイシャドウ“ドラマティックアイカラー”をリニューアルした“カスタマイズアイカラー”(シングル、各1100円/アソート、各3850円)を発売。20代の新規購入者が増加し、若年層への訴求力の高さを裏付ける結果となった。

8月には、美容液仕立てのフェイスパウダー“エッセンスグロウキープパウダー”(本体3850円/リフィル、3080円)と、化粧下地“エッセンスベース EX”[SPF50+・PA++++](3300円)の発売を控える。榊原ブランドマネージャー自身が仕様や色味選定など開発に深く関与し、「『マキアージュ』らしい一歩先のビューティ」を具現化した。

リブランディングに合わせて、販促手法も柔軟にアップデートしている。6月に発売した“ドラマティックエッセンスルージュ”のくすみカラー新3色(各3300円)は、ANAとコラボレーション。実際にCAに使用してもらい、その感想をSNSで発信するなど、リアルな声を基点としたプロモーションを展開し話題を呼んだ。

選択肢があふれる市場で
“信頼”が武器に

榊原萌々「マキアージュ」ブランドマネージャー PHOTO:SHUHEI SHINE

国内のメイク市場では、韓国コスメなどの台頭により競争が激しさを増している。特に「マキアージュ」が主戦場とするドラッグストアでは、店頭での選択肢が年々広がっている。そうした中で、20年というブランドの蓄積は大きな武器だ。榊原ブランドマネージャーは、「製品の一貫性や信頼感は、他ブランドにはない資産。一度使えばリピートにつながる品質こそが『マキアージュ』の強みだ」と語る。

ブランドの売上構成はベースメイクが6割、カラーメイクが4割。特にベースメイクは、“仕上がりの美しさ”と“肌への配慮”の両立を追求し、ブランドの信頼性を下支えしている。

05年の誕生当初は、俳優の栗山千明や篠原涼子、伊東美咲、蛯原友里をイメージモデルに起用し、20〜30代の働く女性をターゲットにしていた。08年にはファッションデザイナーのクリストファー・ケイン(CHRISTOPHER KANE)とコラボし、当時“イットモデル”として人気を集めていた杏やアギネス・ディーン(Agyness Deyn)を起用、翌09年にはアレキサンダー・ワン(Alexander Wang)とのコラボを展開するなど、ファッション性でも話題を集めた。

14年には初のリブランディングを実施。「レディにしあがれ。」のキャッチコピーのもと、モデルの長谷川潤や水原希子を広告モデルに起用し、より自立した女性像を打ち出した。そして25年、2度目の転換点を迎える。「自分の代でブランドを縮小させるわけにはいかない」と語り、その言葉には強い覚悟がにじむ。

“一歩先”の再定義へ

「マキアージュ」はこれまで、「時代の一歩先を行くビューティ」を掲げ、トレンドを先取りしつつ、女性たちの価値観の変化に寄り添ってきた。その価値観は今、再び問い直されている。

ブランドの再定義では、流行を追うだけでなく消費者一人ひとりの“自分らしさ”を肯定し、個性を尊重する姿勢が重視されている。「『マキアージュ』もポジティブに、お客さまに『これが使いたい』と選んでいただけるような一歩先のビューティを、これからも提案し続けていきたい」。ブランドの新章は、すでに始まっている。

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