介護の現場で「高齢者がネイルやマッサージで笑顔になる」と聞くと、実情とかけ離れた夢物語に思えるかもしれない。しかし今、この「介護美容」を学ぶ人が増えている。さらには介護美容によって、現場の人材不足の解消や、孤立する高齢者の「見回り」につながることが期待されている。実際に取り入れている施設で、何がどう役に立っているのか、取材した。
【写真を見る】ネイルの施術を受け、笑顔を見せる
■「嫌なことをする」嫌悪感をあらわにしていた入所者が笑顔に
Aさん(98)
「嫌なことすんね。私は分からないよ」
5月、東京都内の介護付き有料老人ホーム「アライブ」に箱石志保さんの姿があった。毎月この施設を訪れ、入所者の“ケア”をしている箱石さんに対し、Aさんは警戒感・嫌悪感をあらわにしていた。
Aさんは日によって気分に浮き沈みがあるといい、この日は“不機嫌”だった。
しかし、箱石さんが声をかけながらフットマッサージを始めると、表情がゆるみ、だんだんと笑顔に変わっていく。
Aさん(98)
「何人も(施術)するなら大変でしょう」
施術が進むと、最初は「嫌なことをする」と口にしていたAさんも、箱石さんの手が痛まないかと気にかけるようになり、本来の優しい人柄を感じることができた。
■なかなか会いに行けない…子の思いも
箱石さんはこうした施設や個人宅を訪問し、高齢者のメイクの補助やネイル、フット・ハンドマッサージなどを行う介護美容を提供する「ケアビューティスト」の仕事をしている。
箱石さんによると、「なかなか施設に面会に行けない分、ケアをしてあげたい」「少しでも体を楽にしてあげたい」といった思いを持つ入所者の子どもから依頼されるケースが多いという。
料金は施術する内容(数)によって異なる。利用者本人が嫌がっている場合は無理に施術せず、取りやめることもあるそうだ。
ケアビューティスト 箱石志保さん
「施設のスタッフも丁寧なコミュニケーションを心がけていると思いますが、複数の入所者がいる施設においては、たとえ数十分であっても1対1でコミュニケーションができる時間は大事だと思います。ケアを楽しんでもらうだけでなく、お話しをしつつ、けがなどの異変がないかもしっかり見ています」